閉塞性動脈硬化症は喫煙などの生活習慣、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が主な原因で動脈硬化を引き起こし発症する疾患です。徐々に進行していきますが、小さな傷がきっかけで感染し疾患が悪化することもあり、壊疽を生じた場合は患肢切断という判断がされる場合もあります。命を守るための判断ではありますが患者にとって体の一部を切除するということは非常に大きな喪失です。ですから疾患の悪化予防、患者のQOL維持という点から患者へのセルフケア指導、家族や介護を行う人へのケア指導は閉塞性動脈硬化症においてとても大切です。看護師には患肢をケアするフットケア技術やセルフケア指導を行う技術が求められます。以下に書いてある内容を参考にして患者やその家族への指導に役立てて下さい。
1、閉塞性動脈硬化症(ASO)とは
動脈硬化が原因となり、四肢(主に下肢)の血管内腔が少しずつ狭窄・閉塞していき末梢組織に虚血変化をきたしてしまう疾患です。四肢に循環障害をきたす末梢動脈疾患(PAD)に分類されますが、安静時でも疼痛が出現すると重症下肢虚血(CLI)と呼ばれます。患者は中高年が多く、男女比は9:1で主に50~60才以降の男性が発症します。罹患部位は上肢よりも下肢に多く、下肢の大~中動脈に発症します。閉塞性動脈硬化自体は下肢の動脈硬化が原因で足の血流が不足して起こる病気ですが、これを発症した患者は全身の合併症を持っていることが多く、高血圧や糖尿病、高脂血症があげられます。また、下肢だけでなく、全身の動脈硬化が進んでいることも多いので、心筋梗塞、脳血管障害などを合併していることもあります。
閉塞性動脈硬化症は以下のように段階的に症状が進行していきます。
初期 | 進行していくとみられる症状 |
・間欠性跛行 (以下は進行の仕方の一例) 始めは休憩していれば症状が回復 ↓ 休憩しても症状が回復しなくなる ↓ 足が痛くて歩けなくなる というように段階的に症状が進行
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・患肢の萎縮 ・皮膚の温度低下 ・安静時の疼痛 ・虚血の進行による下肢の潰瘍・壊疽 ・患肢の脈拍減弱・消失 |
■間欠性跛行とは
運動すると末梢への血流が不足し、足に痛みや倦怠感など筋肉の虚血症状が出現しますが、休憩するとそれらが軽減・消失することです。高齢者はその症状が老化による肉体変化だと思っていたり、痛みで歩けなくなるまで周りが気付かなかったりと発見が遅れることもあります。普段からADLや歩行状態の把握が大切です。
Fontaine分類を使用することで閉塞性動脈硬化症の重症度を把握できます。(図1参照)
図1 Fontaine分類
分類 | 症状 | |
Ⅰ 軽度虚血 | 無症状、あるいは冷感、しびれ | |
Ⅱa | 中等度虚血 | 軽度跛行 |
Ⅱb | 中等度~重度跛行 | |
Ⅲ 高度虚血 | 安静時疼痛 | |
Ⅳ 重度虚血 | 虚血性潰瘍・壊死 |
2、閉塞性動脈硬化症(ASO)の原因
加齢、喫煙、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、その他慢性腎不全などが原因となります。
3、閉塞性動脈硬化症の診断に行われる検査
よく診断に使用されものはABI(上腕足関節血圧比)とPWV(脈波伝播速度)が用いられます。このABIとPWVの数値を総合的に判断することで動脈硬化度を診断します。ABIは足関節の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧で割った数値です。
ABI= | 足関節の収縮期血圧 |
上腕の収縮期血圧 |
正常者を臥位の状態で下肢と上肢の血圧を測ると、下肢の血圧の方が若干高くなります。ですから、通常は上記計算式でABIを計算すると値は1.0を超えます。ですが、動脈に狭窄や閉塞があるとその部分から下の血圧は低下するため、ABIが小さく出てしまうのです。ABIが0.9未満は動脈狭窄・閉塞の疑いがあるとされています。
その他、血管の状態を評価するための検査として以下のようなものがあります。
・運動負荷試験
・血管エコー ・SPP(皮膚還流圧) |
※SPP(皮膚還流圧)とは皮膚の微小循環を測定して、潰瘍の治癒見込み、切断の必要性の評価、薬物の効果評価などを行うことです。
4、閉塞性動脈硬化症の治療
①治療はまずは薬物療法が行われ、抗血小板薬、血管拡張薬などが投与されます。
②薬物療法での治療が難しい場合、血行再建術が用いられます。
・短い閉塞(10㎝未満)には経皮的血管形成術(PTA)
・長い閉塞(10㎝以上)には人工血管バイパス術や血栓内膜摘除術
・自家静脈移植術などの他、壊疽が生じてしまっている場合には患肢切断術
5、閉塞性動脈硬化症の看護
この疾患は小さな足の傷やトラブル、白癬が原因となり感染をおこして下肢の状態が急速に悪化してしまうことがあるため、フットケアはとても重要です。また、病状悪化につながる傷や皮膚変化がないか普段の行うケアの時から注意深く観察を行うことが大切です。
①下肢の観察
観察項目 | 内容 |
下肢の状態 |
①自覚症状(しびれ、冷感、熱感、疼痛の有無) ②足背動脈、膝窩動脈の蝕知の有無、拍動の強さ、左右差 ③間欠性跛行の有無、症状の程度 ④潰瘍・壊死の有無、感染徴候、傷はないか、傷があれば治癒の程度 ⑤糖尿病性神経障害の有無 ⑦足趾の形や爪の肥厚や変形の有無。胼胝、鶏眼、白癬などのトラブルの有無 ⑧皮膚色の観察。皮膚色調の左右差はないか、皮膚温、皮膚状態
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疼痛 |
①痛みの出現部位、種類、出現頻度、性状、増強因子 ②痛みに対し薬物療法の効果は出ているか ③痛みが楽になるのはどんな時か、姿勢や動作 ④夜間の睡眠状況、食欲 ⑤痛みの影響でADLはどのように変化しているか
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上記観察項目は、看護師だけでなく、セルフケアが可能な患者に対して、セルフケアの一つとして在宅で観察を続けていくよう指導する必要があります。セルフケアとして爪切りや巻き爪のケアは重要ですが、自己にて爪切りをした結果、深爪や創傷を作ってしまいそこから感染を起こしてしまう危険もあります。ですから、患者自身が自己にて爪切りが難しそうな場合は通院の際、医師の指示のもとで看護師が爪切りを行います。
②足浴
閉塞性動脈硬化症患者の足浴は、温熱効果により代謝が亢進し虚血を助長することもあるため、低温(CLIでは体温より低い温度)で実施することが望ましいとされています。高濃度炭酸泉浴であれば35~37℃でも温かいと感じ、血管新生が促進されます。ただ、感染徴候や深い潰瘍が生じている場合は、足浴することによって逆に感染を広げる危険があります。そういった状態の時は足浴の実施に関して医師へ確認してから行うようにしてください。
③社会復帰に向けての支援
入院中の時点で退院後の患者の生活を見据え、患者のADLについてアセスメントしておくことは大切です。患者が以前の生活場所(自宅や入所施設)で生活を送っていけるよう、患者に適した方法、必要な社会支援を抽出し看護介入していくのは看護師の大きな役割だからです。以下のような情報を収集し、アセスメントに組み込むことで退院後に必要な社会支援が抽出でき、患者のQOL維持に向けた看護介入が行えます。また、必要な社会支援提供のためにソーシャルワーカーやケアマネージャーとの早期連携が可能になります。
情報収集項目 | 内容 |
合併症、既往歴の有無
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・脳血管疾患や冠動脈疾患や腎疾患などの合併症 ・高血圧糖尿病、脂質異常症などの既往歴
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合併症・既往歴のコントロール状況 |
①服薬状況 ・服薬管理は誰が行っているのか (服薬状況把握のため、可能なら残薬チェックも行う) ②通院状況 ・通院時、一人で来院していたのか介助者がいたのか ・通院方法(徒歩、車、介護タクシー利用など) ・定期受診できていたのか
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生活状況 |
①飲酒、喫煙などの嗜好 ・喫煙歴 ・飲酒量、飲酒頻度 ②食事 ・食事管理は誰が行っていたか ・食事内容 ・買い物などはどうしていたか ③入浴などの日常生活 ・入浴やシャワーを一人で行えていたのか ・トイレはどうしていたか(オムツ、Pトイレ使用など)
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家族状況 |
・同居家族はいるのか ・支援してくれる家族はいるのか ・同居もしくは近隣に家族がいる場合、患者の介護が可能か
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まとめ
閉塞性動脈硬化症の患者にとって、自己でフットケアを行う、感染を起こさないために気を付ける、などのセルフケアはとても重要です。なぜなら、それらを行うことは閉塞性動脈硬化症を悪化させず、疾患のコントロールにつながるからです。疾患のコントロールが行えることは、病状の悪化や痛みの憎悪も防げ、患者のQOL維持につながります。今までと同じように生活を送りながらもしっかりセルフケア行動を行い、疾患を上手くコントロールしながら生活していけるよう、入院中から退位後の生活を見据えて患者指導を行っていくことが私達看護師には求められます。
参考文献
病気がみえるvol.2 循環器 第2版(メディックメディア医療情報科学研究|2008年)
オールカラーまるごと図解循環器疾患(照林社|大八木秀和|2013/09/10)
高齢者看護すぐに実践トータルナビ(メディカ出版|岡本充子、西山みどり|2013/03)