腹水が貯留する疾患は多々あります。腹水の貯留は、呼吸苦や見た目の悩みといった、ADL、QOLの低下を招きます。腹水穿刺は腹腔内にたまった腹水を排出する処置で、排出後は患者さんの苦痛の軽減が期待できますが、同時に、さまざま合併症の危険にさらされることが少なくありません。ときに危険な状況になりうる腹水穿刺について、その処置と留意すべき合併症についてまとめました。
1、腹水穿刺とは
腹水穿刺とは、腹腔内にカテーテルを挿入して腹水を排出する処置です。腹水を排出する目的としては、病理検査や腹水貯留による苦痛の軽減があげられます。
1-1、病理検査の検体取得
腹水内の細胞を培養して治療方針決定にその結果を使用します。
1-2、腹水排出による苦痛の軽減
腹水を排出するとこれまで圧迫されていた腹囲が小さくなり、横隔膜も動きやすくなるため呼吸が楽になります。腹水は血管を圧迫することもあるため、血管への負担も軽くなることで下肢のむくみの改善になる場合もあります。
2、腹水穿刺の方法と看護介助の基本
<必要機器類>
腹腔穿刺針、注射器、注射針(18G、23G) 、滅菌手袋、滅菌ガウン、滅菌ガーゼ、マスク、キャップ、消毒綿球(イソジン・ハイポアルコール)、局所麻酔薬、三方活栓、延長チューブ、攝子、膿盆、処置用シーツ、輸液セット、滅菌ドレープ、固定用テープ、保護フィルム、マーカーペン、腹帯、排液バック、滅菌スピッツ(検体を提出する場合)、メジャー(腹水穿刺前後の腹囲を測定する際に使用)、薬剤(腹腔内に治療目的の抗生物質や抗がん剤を使用する場合)
包交車と腹腔穿刺キットが備えられていれば、こうした必要なものはほぼそろっていると思います。
2-1、患者さんの事前準備
穿刺の処置中は動けなくなりますので、事前にトイレを済ませてもらいましょう。
時間がかかる場合もありますから、楽な体位で痛みが最小限で処置を受けられるように、クッション等を使用して体位を調整します。
2-2、穿刺部位の消毒
穿刺部位の消毒は、イソジンの後にハイポアルコールを使用するのが一般的ですが、ヨードアレルギーがある場合はヒビテンを使用するケースもあります。事前に医師に確認しておくとよいでしょう。消毒のために、医師に鑷子とイソジン綿球を手渡します。
2-3、穿刺部位の滅菌操作
穿刺する医師は、滅菌ガウン、滅菌手袋等を着用し、腹水穿刺キット内にあるドレープを使用して穿刺部位を清潔に保ちます。滅菌手袋は、医師によって使用する素材やサイズが異なりますので、これも事前に確認しておきます。
渡す順番は以下の通りです。
・十分な消毒が行われたら医師に滅菌ゴム手袋を手渡す
・医師が滅菌ゴム手袋を着用したら穴あき滅菌シーツを手渡す ・医師が穿刺部を穴の中心にして穴あき滅菌シーツで身体を覆う ・ドレープが落下しないようテープで隅を固定する場合は滅菌操作が無効にならないよう留意する ・滅菌操作した穿刺部に患者さんが触れないよう必要に応じて説明、声掛けする |
2-4、穿刺部位の局所麻酔
滅菌操作では18Gの注射針を使用するので、注射器とともに医師に渡し、バイアルから局所麻酔剤を吸い上げた後、穿刺用23Gの針を渡します。局所麻酔の処方は医師により処方内容が異なりますので、必ず事前に確認しておきます。
2-5、腹腔穿刺の介助
医師が腹腔穿刺を行ったら、穿刺針を抜針する前に圧迫用の滅菌ガーゼを手渡しておき、すぐに圧迫できるようにします。数分間手圧迫した後、排液バックと接続します。
2-6、穿刺部位の固定
廃液バッグとの接続に際して、まず穿刺部位を滅菌操作で固定して抜けないように確認します。穿刺部からの漏出がないときは、穿刺部を観察しやすい透明なフォルムドレッシング(滅菌済み)を使うのが良いかと思われます。穿刺部から漏出や出血がある場合は、滅菌ガーゼで固定して、定期的にガーゼの交換、穿刺部の観察を行います。
2-7、実施後の観察
看護師の役割としては実施後の観察が重要です。
バイタルサイン、腹痛、出血、穿刺部からの漏出の有無、腹水の量、性状等の観察を行い、医師の指示に従い排液量をクレンメで調整します。感染症の兆候となりうる穿刺部位の膿や出血、腹痛や発熱などには十分な注意が必要で、これらの兆候が出たらただちに医師に報告します。
2-8、患者さんへの応対
チューブを引っ張らないことを十分気をつけてもらいます。そして腹痛や気分が不快な時などは、すぐにナースコールをするように伝えます。初めて腹水穿刺を受けた患者さんは、当然ですが慣れていませんので、排液中にトイレに行くときは付き添うほうが良いでしょう。
3、腹水穿刺のリスク
腹水穿刺のリスクとしては、出血、感染、電解質異常、急激な血圧低下(ショック状態)などがあります。
穿刺しますので、処置の際に出血や感染してしまうことがあります。腹水を排出することでアルブミンが失われた結果、電解質異常や血管が広がることにより血流が良くなり血圧が低下し、ひどいときにはショック状態となります。
このようなリスクを回避するために、バイタルサインや排液の性状や量、腹部症状などの観察が重要になります。
4、腹水穿刺後の看護計画
腹水が貯留している患者さんは、肝硬変や悪性腫瘍など、重篤な疾患を持つケースが多いといえます。そうした背景からも、前項のリスクに記した事項については、常に注意深く観察していく必要があります。これら異常の早期発見ができないと、命にかかわることになりかねません。具体的な看護計画は以下の通りです。
・排液量・排液の性状を観察する
・急激なドレナージは血圧低下を起こしやすいため、医師の指示通りの速さで排液する ・異常が認められた場合は、速やかに医師に報告し指示を仰ぐ ・腹水の排液時間は1時間以上の長時間になることも多く、安楽な体位がとれるように介助して腹部症状の有無について観察する ・穿刺部からの腹水の漏出や皮下出血の有無について観察する |
まとめ
腹水穿刺を受けられる患者さんは、腹水貯留による呼吸苦や倦怠感など、さまざまな苦痛に苦しんでいます。そうした苦痛を軽減するために腹水穿刺を行うわけですが、この処置により血圧低下、電解質異常といった合併症を引き起こすリスクの高い処置でもあります。
看護にあたって最も大事なことは、処置後も注意深く観察して、合併症の早期発見に努めることだといえるでしょう。