片麻痺とは左右のどちらかに麻痺がある状態のことです。片麻痺があると、ADLが大きく低下しますので、看護師はADLを拡大させるような看護を行う必要があります。
片麻痺の基礎知識や看護問題、観察ポイント、看護計画、ケアの留意点やポイントをまとめました。片麻痺の患者の看護をする時の参考にしてください。
1、片麻痺とは
片麻痺とは、体の左右どちらかが麻痺する状態のことです。片麻痺は脳出血や脳梗塞、クモ膜下出血などにより、大脳皮質運動野や内包に障害が起こることで、脳から筋肉への神経経路に障害が生じ、筋の収縮力が弱くなって、随意運動ができなくなるのです。
運動神経は延髄の椎体交叉で左右が交叉しますので、右側の脳に病変があると左片麻痺が生じ、左側の脳に病変があると右片麻痺が生じます。
片麻痺の麻痺の程度や性質で4種類に分けられます。
・完全麻痺=完全に随意運動ができず、運動機能を失った状態
・不完全麻痺=麻痺はあるものの、運動機能の一部が残っている状態
・痙性麻痺=筋緊張が亢進して、運動機能を失った状態
・弛緩性麻痺=筋緊張が緩んで、運動機能を失った状態
片麻痺の患者は、体の片側が麻痺するだけではありません。脳の障害が起こった部位によっては、感覚障害や構音障害、失語症、空間無視、注意障害などの症状も一緒に起こることが多いのです。
特に、感覚神経は運動神経とほとんど並行して通っていますので、運動神経が障害されて片麻痺が生じる場合、一緒に感覚神経も障害されて、感覚障害が起こることが多くなっています。
2、片麻痺の看護問題
片麻痺の患者は麻痺の程度にもよりますが、次の4つの看護問題が出てきます。
・ADLが低下し、セルフケア不足になる→セルフケア不足
・拘縮が起こりやすい→身体可動性障害
・褥創発生のリスクが高い→皮膚統合性障害
・転倒転落のリスクがある→転倒リスク状態
■ADLが低下し、セルフケア不足になる
片麻痺があることで、ADLが低下していることが大きな問題になります。ADLが低下することで、自立した日常生活を送ることが困難になりますので、看護師はADLをアップさせるような援助を行わなければいけません。
麻痺の程度によって、摂食、入浴・清潔、更衣・整容、排泄のセルフケアの中で、どれに介入すべきかは変わってきます。
■拘縮が起こりやすい
片麻痺の中でも、随意運動が全くできない完全麻痺の場合、麻痺側は自動運動ができませんので、関節拘縮が起こりやすいという問題があります。
関節拘縮が起こることで、さらにADLが低下する可能性がありますし、怪我などのリスクも高くなりますので、拘縮が起こらないように、看護介入をしていく必要があります。
■褥創発生のリスクが高い
片麻痺の患者は麻痺があることでADLの低下がある上、感覚障害が合併している可能性が高いため、褥創発生のリスクが高くなります。
■転倒転落のリスクがある
片麻痺の患者は自力での立位保持や座位保持が困難なことがあるため、転倒しやすいので注意が必要です。患者の安全を確保しながら、リハビリを進めていくために、転倒リスク状態の看護問題を挙げて、看護介入をしていかなければいけません。
3、片麻痺の看護観察ポイント
片麻痺の看護をする時には、患者の合併症を観察しておく必要があります。最初にも説明しましたが、片麻痺は体の片側の麻痺が出るだけではありません。感覚障害なども一緒に生じることがあります。
どんな合併症があるかによって、看護計画の内容やケアをする時にの留意点などが変わってきます。
片麻痺の患者の看護をする時には、片麻痺のほかにどんな合併症・症状があるのかを観察して、それを看護に活かしていくようにしましょう。
■右麻痺の患者に多い合併症
右麻痺の患者は次のような症状が現れることが多くなっています。
・感覚障害
・構音障害
・失語症
右麻痺の患者は、コミュニケーションを取るのが難しいことが多いですので、コミュニケーション方法を工夫して、密にコミュニケーションを取り、患者のストレスを減らすようにしましょう。
■左麻痺の患者に多い合併症
左麻痺の患者に多い合併症は、以下のようなものです。
・感覚障害
・構音障害
・病態失認
・注意障害
・左半側空間無視
・身体失認
左麻痺の患者は「左麻痺がある」という現状がわからなかったり、左側の手足に注意を払えず、左側の空間を認識できませんので、転倒転落のリスクが大きいので、看護師は安全に配慮して看護を行わなければいけません。
また、注意障害があり、集中力が続かないなどの症状が見られることがありますので、リハビリは長時間行わず、短時間に集中して行うようにするなどの工夫が必要になります。
4、片麻痺の看護計画・ケア
片麻痺の看護計画やケアを先ほどの看護問題ごとに一例をご紹介していきます。
■片麻痺に関連したセルフケア不足
看護目標 | 個々の状況に応じて、リハビリを進められ、積極的にADLの拡大を図ることができる |
OP(観察項目) | ・ADLの程度を把握する
・リハビリ中のバイタルサインの変化 ・顔色や疼痛の有無 ・歩行状態や姿勢 ・リハビリへの意欲 |
TP(ケア項目) | ・医師の指示に従って、自分で健側を使って、麻痺側の運動を行うよう促す
・座位保持や起立練習の援助 ・食事、排泄、移動、更衣、整容などのADLの援助 |
EP(教育項目) | ・患者と家族にリハビリの必要性を説明する
・不必要な介助は行わないように家族に伝える ・リハビリを自分で行われるように指導する |
■身体可動性障害
看護目標 | 良肢位を保持できて、関節拘縮が起こらない |
OP(観察項目) | ・四肢の関節拘縮の有無や程度
・リハビリ時の疼痛の有無 |
TP(ケア項目) | ・枕やクッション、シーネなどを用いて良肢位を保つ
・他動運動を実施する |
EP(教育項目) | ・健側を使って麻痺側を動かすように指導する
・患者や家族に拘縮のリスクとリハビリの必要性を説明する |
<良肢位>
・肩関節=屈曲30°、外転40~60°
・肘関節=屈曲90°
・前腕=回内回外中間位
・手関節=背屈10~20°
・股関節=屈曲15~30°、外転0~10°、外旋0~10°
・膝関節=屈曲10°
・足関節=背屈0°
他動運動をする時には、疼痛の有無や表情の変化を観察しながら、関節・腱・筋膜の損傷や脱臼をしないように注意しなければいけません。
拘縮の看護の詳細は、「拘縮の看護|原因と種類ごとの特徴および介助者が可能な援助」を参考にしてください。
■皮膚統合性障害
看護目標 | 褥創の発生を予防できる |
OP(観察項目) | ・褥創好発部位の皮膚の状態、発赤の有無
・疼痛の有無 ・麻痺側の感覚障害の有無 ・循環障害の有無 ・栄養状態(TP、Albなど) |
TP(ケア項目) | ・必要に応じての体位変換
・麻痺側を長時間下にすることは避ける ・エアマットの使用 ・皮膚の清潔を保つ |
EP(教育項目) | ・長時間同じ姿勢でいることのリスクを伝える
・自分で麻痺側を動かすように伝える |
■転倒リスク状態
看護目標 | 転倒せずに安全を確保できる |
OP(観察項目) | ・麻痺の状態
・ADLの状況 ・行動の観察 ・補助具の使用状況 ・ベッドの高さや環境 ・衣服や履物 |
TP(ケア項目) | ・ベッド周りの環境整備
・ベッドの高さの調整 ・ポータブルトイレの位置確認 ・ナースコールを常に手元に置いておく ・必要時は離床センサーを利用する ・歩行器の位置確認 ・必要時の見守りや介助 ・病衣や履物は安全性に配慮したものにする |
EP(教育項目) | ・離床時はナースコールを押してもらうように説明する
・転倒時のリスクを伝える |
5、片麻痺の患者への看護の留意点やポイント
片麻痺の患者の看護をする時には、セルフケアの日常生活援助をリハビリにつなげていくようにしましょう。ただ、セルフケアの介助をするだけではなく、介助をしながら、ADLを拡大できるように関わっていくことが大切です。
■移動・移乗の介助
車イスへの移乗の介助をする時には、車イスを健側に用意します。健側に用意することで、患者は自分の健側を使って移乗しやすくなりますし、介助する看護師の負担を減らすことができます。
また、移乗する時には、そのまま車イスに移動させるのではなく、一度しっかり立位をとらせるようにしましょう。両足底を床にしっかりつけて、脚を伸ばして立位を長くとることがリハビリにつながります。
■食事の介助
食事の際には、健側に食事をセッティングします。半側空間無視がある片麻痺の患者は、麻痺側に食事を置いても、食事があることを認識することができません。
また、滑り止め用のマットを使って片手で食事ができるようにしたり、、座位を保持できるようにクッションなどを使用するなど、セッティングをすれば、1人で食事ができるような援助をしましょう。
■更衣の介助
更衣をする時には、麻痺側から着衣して、健側から脱衣します。この時に麻痺側は肩の脱臼をしやすいので、無理な姿勢を取らせないように気を付けてください。
また、更衣の介助をする時には、ただ着脱を手伝うだけでなく、その時に麻痺側の曲げ伸ばしをすると、それだけでもリハビリになります。
また、病衣はボタンではなくマジックテープのように片手でも自分で着脱できるタイプのものを家族に用意してもらうと、ADLを拡大することができます。
まとめ
片麻痺の基礎知識や看護問題、観察ポイント、看護計画、ケアの留意点やポイントをまとめました。片麻痺の患者の看護は、ADLをアップさせることが最も大切になります。
片麻痺の患者の看護をする時には、ついつい全て介助してしまうことがありますが、それではADLのアップにつながりませんので、できることは自分でやってもらうように気をつけながら援助するようにしましょう。