虫垂炎(アッペ)は一般的に盲腸と呼ばれることもあり、突然の腹痛により発覚することが多い病気です。老若男女関係なく誰にでも起こりうる可能性があり、近年の生活習慣の乱れから症例は上昇傾向にあります。ここではその虫垂炎について詳しく説明していきたいと思います。
1、虫垂炎(アッペ)とは
小腸から大腸へ変わる部分の辺りに盲腸があります。その盲腸の後ろ内側から垂れ下がっている管です。虫垂には、個人差があり形や長さ、位置などが違いますが、一般的に長さは6~8cm前後で径は6mm前後です。その虫垂が何らかの影響で炎症し化膿した状態であると虫垂炎といいます。おなかが急に痛くなり、緊急手術となる頻度の最も高い病気の1つです。
2、虫垂炎の原因
原因は、不明なことが多いです。何らかの異物(便、食物など)が虫垂に溜まることで延焼して起きると言われています。疫学上も年齢や男女の比率も変わらなく、20~30代で若干、発症率が上がりますが小児から高齢者まで幅広いのが特徴です。
3、虫垂炎の痛み
虫垂炎の痛みは、変化していきます。初期の段階では、50%程度の方に心窩部痛がでると言われています。のちに痛みの場所が虫垂のある右下腹部に移っていきます。これは、細菌感染した虫垂に炎症が起きることで腸管の内腔圧があがり関連痛として心窩部痛が出てきます。徐々に炎症が強くなることで虫垂の痛みが強くなるために右下腹部の方に痛みが変化してきます。右下腹部を押すと圧痛が起き鈍痛が発生します。そして、さらに炎症が強くなり虫垂以外の場所に波及すると腹部全体が痛む状態になる腹膜炎になります。
4、虫垂炎で用いる検査法(圧痛点)
■マックバーニー点:感度50-94%、特異度70-86%
右上前腸骨棘と臍を結ぶ線を3等分し、右から3分の1にある点に圧痛があるか調べる。もっとも一般的な方法です。
■ランツ点
左上前腸骨棘(ちょうこつきょく)と右上前腸骨棘(左右の腰骨)を結ぶ線を3等分し、3等分したうち右から1つ目の点の辺りに存在します。臍がわかりづらい場合や、極度の肥満、妊婦に用いられやすい方法です。
このほかにもキュンメル点、モンロー点などがあります。最後に腹部に炎症が波及していないか調べるための反跳痛も確認する必要があります。
4-1、虫垂炎の看護観察項目
虫垂炎の炎症の程度により観察項目が変化していきます。
■カタル性(粘膜層の軽い炎症)
症状:感冒症状や悪心・嘔吐、食思低下、心窩部痛
看護:虫垂炎の症状か不明の場合が多く対症的な対応となることが多い。 →軽度の炎症のために内服薬の選択も視野に入りますが何度も繰り返している場合は、手術も考えられます。しかし、この段階は、他の疾患の方が強く疑われるので発見しにくいです。 |
熱型観察、疼痛コントロール、嘔吐による誤嚥防止、悪心に対する薬剤の使用の検討や安楽な体位(膝を曲げて腹部周囲の筋緊張を和らげる)への調整、食事形態の変更などで経過をみることがほとんどです。この時に発見された場合は抗生剤の内服にて保存治療することが多いですが、20~30%は再発するといわれています。
■蜂窩織炎性(全層の化膿性炎症)
症状:腹痛(マックバーニー、ランツ点などの部位で疼痛が強くなっています)、悪心、嘔吐、発熱、全身倦怠感、排ガス・排便の消失傾向
看護:腹痛が強くなり疼痛コントロールが必要な状態です。 →抗菌薬の点滴での管理になりますが炎症が広くなっている場合や、体力の低下など進行が止められない状態の場合は、手術も考えられます。 |
他にも、炎症があるために欠食対応になることが多いですが重症度が低いために食事の許可があったとしても無理に食事摂取はさせないほうがいいです。悪心・嘔吐を助長させるだけではなく、穿孔した場合に腹膜炎になるリスクが高まります。また、この時期に受診される方がほとんどの場合が多いです。症状によって軽症と思われ内服薬の抗菌薬のみで帰ることもありますが基本的には抗生剤の点滴投与となります。抗生剤は、広範囲に効果がある抗菌薬が使用されます。
■壊疽性(虫垂壁全層の壊死)
症状:腹部全体の痛み、悪心、嘔吐、グル音の低下、排ガス・排便の消失、発熱
看護:対症療法が基本として、グル音の確認、排ガスや排便があるかの確認が必須となります。また、とてもきつい疼痛もともうために傾聴や精神状態の観察も大切です。 穿孔性:最終的に虫垂が破れると腹膜炎になることもあります。穿孔してしまうと便汁や食物が腹腔内に広がるために手術が基本となります。 症状:腹部緊満、腹痛、悪心、嘔吐、発熱、食欲不振 看護:疼痛が和らぐ体位調整、悪心や嘔吐に対しての薬剤や鎮痛薬目的での薬剤管理や手術が基本となる為に手術への不安を和らげることが必要です。 |
この穿孔するまでの期間は、最短で2日間で進行してしまいます。虫垂炎は進行が早いので注意が必要です。
4-2、虫垂炎の検査
主に三種類の検査方法があります。
■触診:腹部触診で虫垂、回盲部の位置を圧迫した時や、直腸触診で直腸の右周辺を圧迫した時に腹痛を生じます(圧痛)。
■X線検査:盲腸の拡張や虫垂内にガス像が見られます。 ■腹部超音波検査:腫れて大きくなった虫垂の像、虫垂壁が肥厚、糞石などがみられます。 |
CT検査により他疾患との鑑別ができます。虫垂炎の重症度判定には、腹部エコーや腹部CTが有効です。これらの所見は、虫垂壁肥厚、腫大、周囲脂肪組織濃度の上昇、膿瘍形成、腹水、糞石などが確認することができます。
4-3、虫垂の重症度スコア
重症度を測るためには以下の項目をチェックするといいでしょう。
■RLQへの疼痛移動:1点、
■食欲不振:1点、 ■吐き気嘔吐:1点、 ■RLQ圧痛:2点、 ■反跳痛:1点、 ■発熱:1点、 ■白血球増加:2点、 ■左方移動:1点 →4点未満では虫垂炎は考えにくいために画像診断不要 |
5、虫垂炎の手術後看護
虫垂炎の手術療法には主に2種類あります。
■開腹手術
腹部全体に炎症がおきているもの、広範囲に膿瘍形成があり取り除く必要がある場合や癒着がひどい場合の選択肢となります。
術後:腹部を切開しているために疼痛コントロールが必要です。また、麻酔は全身麻酔を行うことになりますので、イレウス、悪心・嘔吐。安静度制限が守れるかが大切となります。ほかにも、出血状況やドレーンが挿入されていた場合は、排液の性状や色、固定されているかを注意深く観察していく必要があります。血栓症が起きていないか、鎮静が強くなりすぎていないかを注意して観察します。
入院期間は、大体7~10日程度になることが多いです。
■腹腔鏡下
虫垂を切除、観察するための穴を複数あけます。そこに、ガスを注入し腹部を膨満させて視野を確保します。麻酔は、腰椎麻酔を使用します。腰椎麻酔の範囲によっては、横隔膜まで麻酔がかかる場合もあり注意が必要です。腹腔内にガスを充満させるのでその塞栓症も注意が必要です。
開腹手術に比べて重症の場合は、術後感染する可能性が高くなります。術後の輸液管理をしっかりと行い、早期離床、食事再開時の栄養管理に注意が必要です。しかし、腹腔鏡下内視鏡の場合は、早い場合は5日程度のところもあるために指導を行うことができないまま退院することもあり得ます。しっかりと退院後の生活に影響を最小限にするために退院時まで指導をしっかりとおこなうことが大切です。
まとめ
虫垂は免疫細胞の供給を担う器官です。小腸・大腸の組織は非常に薄いために栄養分を吸収するのに非常に適していますが、それと引き換えに細菌が入りやすい環境にもなっています。この細菌を除去する能力を持つのが虫垂ということが判明したため安易な虫垂切除が減少する可能性があります。しかし、虫垂が原因と考えられる潰瘍性大腸炎の場合は、虫垂切除がこれから行われていくものと考えられます。
参考文献
東戸塚記念病院|虫垂炎手術を受けられる方へ
病気がみえる|vol.1 消化器 改訂第5版 2015年3月出版