無気肺とは気管支が痰などで閉塞することで、その先の肺胞に空気が入らなくなってしまった状態です。無気肺が起こると、呼吸状態が悪化したり、肺炎を起こしやすくなります。
無気肺の基礎知識や原因、看護問題、看護目標と看護計画、看護のポイントをまとめました。無気肺のリスクがある患者の看護をする時の参考にしてください。
1、無気肺とは
無気肺とは何らかの原因で気管支が狭窄、または閉塞することで、それより先の部分の肺胞に空気が入らなくなってしまった状態のことです。
出典:羊土社:臨床医学系書籍|Dr.ブランチのケースカンファレンスLIVE case5 Occam’s razor and Hickham’s dictum
無気肺が起こると、閉塞した気管支より先にある肺胞に空気が入らない、つまりその部分の肺胞が使われないことになります。そのため、ガス交換ができる肺胞が少なくなり、呼吸障害が起こるのです。
無気肺が起こった部位や範囲にもよりますが、胸部X線では発見が難しいような微小無気肺など小さな範囲での無気肺は、自覚症状がほとんどないこともあります。
ただ、広範囲にわたって無気肺が起こると、肺の大部分でガス交換ができなくなるわけですから、SpO2の低下や呼吸困難、胸痛などの症状が現れます。また、喘鳴や咳嗽、喀痰などの症状が現れることも多くなります。
2、無気肺の原因
無気肺は、気管支が閉塞することで起こります。気管支が閉塞する原因は、気管支に異物が入って詰まることもありますが、気管からの分泌物、つまり痰が詰まって起こることがほとんどです。
ただ、痰の分泌が増加しても、きちんと痰を喀出できていれば、気管支に痰が詰まって無気肺を起こすことはありません。
無気肺を起こしやすいのは、次のようなケースです。
・長期臥床
・人工呼吸器の使用
・手術後
この3つのケースでは、無気肺を起こすリスクが高くなります。
■長期臥床
長期臥床をしている患者は、無気肺を起こしやすくなります。同一体位を長時間続けてると、体を動かすことができないので、気道分泌物が動かずに貯留し、気管支を閉塞させてしまうのです。
特に、長期臥床の場合は、背側に無気肺が起こりやすくなります。仰臥位で寝ていると、重力の関係で、背側に気道分泌物が移動していき、そこで気管支を詰まらせてしまいます。
また、長期臥床をしていると横隔膜の動きが制限されますので、下葉へのエア入りが悪くなるため、無気肺を起こすリスクが高くなります。
■人工呼吸器の使用
人工呼吸器を使用している患者も無気肺を起こすリスクが高くなります。普通に呼吸をしている時は陰圧換気ですので、横隔膜が動いて、肺の隅々まで空気を入れることができます。
でも、人工呼吸器は陽圧換気になりますので、横隔膜はほとんど動きません。そうすると、肺の上葉部分は空気が入ってしっかり膨らむのですが、下葉部分は横隔膜が動かないため、あまり空気が入らず、無気肺を起こしやすいのです。
また、人工呼吸器を使用する時には、挿管チューブや気管カニューレを挿入しなければいけません。つまり、気管に異物を挿入することになります。
気管に異物を挿入すると、気管の繊毛運動が妨げられますし、気管の粘膜が刺激されて気道分泌物が増加しますので、気管支に痰が貯留しやすく、無気肺のリスクが高くなります。
■手術後
全身麻酔による手術は、麻酔によって咳嗽反射を抑えていますので、呼吸抑制が起こっています。そうすると気管支内に気道分泌物が貯留してしまうので、無気肺を起こしやすいのです。
また、術中・術後はADLが制限され長期臥床を強いられることがありますし、人工呼吸器を使用して呼吸管理をすることも多いので、さらに無気肺のリスクが上がります。
手術後の疼痛で、咳嗽ができずに痰が喀出できないこともあるので、貯留した痰が気管支を塞いでしまうこともあります。
そのため、手術後は無気肺のリスクが非常に高いと言えるでしょう。
長期臥床、人工呼吸器の使用、手術後の3つのケースに加えて、喫煙歴があると、さらに無気肺のリスクは高くなります。喫煙していた患者は肺機能が低下しているため、痰を喀出する力が低下しているので、無気肺になりやすいのです。
無気肺は呼吸困難などの症状が現れますが、無気肺の状態が長く続くと肺炎を合併するようになります。気道分泌物が気管支内に長時間貯留することで、細菌が繁殖して、肺炎を発症するのです。
手術後の無気肺は術後3日以内に発症し、肺炎はそれから少し遅れて術後1週間以内に発症しやすいとされています。
3、無気肺の看護問題
無気肺を発症すると、無気肺を起こした部分の肺はガス交換に使えないことになります。そのため、看護介入をして、無気肺を改善させる必要があります。
無気肺の原因の多くは、気道分泌物を排出できないことで気管支が閉塞することですので、そのことを看護問題として、看護計画を立案します。
術後の問題として立案する時には、術後の合併症の潜在的な問題として共同問題で立案する時もありますし、非効果的気道浄化を看護問題として立案することもあります。
4、無気肺の看護目標と看護計画
無気肺の看護目標と看護計画の一例を紹介します。
看護目標 | ・痰を排出し、無気肺を解消できる
・SpO2を維持できる |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン(SpO2、呼吸回数)
・呼吸状態(肺雑音、喘鳴、咳嗽、異常呼吸、胸郭の動き) ・痰の喀出状態 ・痰の性状、量 ・呼吸困難感の有無 ・チアノーゼの有無 ・検査データ(血液ガス、血液、胸部X-P) ・In/Outバランス(脱水症状、皮膚や粘膜の乾燥の有無) ・室内の環境 ・麻酔からの覚醒状況 ・疼痛の有無 |
TP(ケア項目) | ・痰の喀出を促す
・必要時、痰の吸引を行う ・呼吸理学療法 ・腹式呼吸を促す ・気道の湿潤化を行う ・適切な除痛を行う ・安静度に応じて早期離床を促す |
EP(教育項目) | ・呼吸困難感や胸痛がある時には、すぐに知らせるように伝える
・痰の喀出の重要性を説明する ・咳嗽のコントロール方法を指導する ・痰を喀出しやすくするために水分摂取を促す |
5、無気肺の看護のポイント
無気肺の患者の看護は、痰の排出を促すことと肺の隅々にまで空気を入れて肺を膨らませることがポイントになります。
■呼吸理学療法
無気肺の患者には、呼吸理学療法で痰の排出を促しましょう。特に、体位ドレナージは有効です。通常の除圧目的の体位交換は20~30度の側臥位をとりますが、体位ドレナージの場合は、20~30度ではあまり意味がありません。
最低でも45度以上、できれば90度に近い角度で側臥位をとります。また、腹臥位や半腹臥位(シムス位)も有効です。
また、胸郭の運動を他動的に介助する呼吸介助法(スクイージング)も痰の喀出のためには有効な方法です。
■腹式呼吸
腹式呼吸を促すことで、肺全体に空気を取り入れることができるので、無気肺の予防・改善につながります。
手術前からトリフローなどを用いて、肺を十分に膨らませる練習をしておくようにしましょう。術後は創部に手を当てて腹式呼吸をすることで、疼痛を軽減しながら肺を膨らませることができます。
■疼痛コントロール
手術後の患者さんは、創部の疼痛があることで、呼吸が浅くなったり、咳嗽による痰の喀出ができなくなり、無気肺を起こしやすくなります。
そのため、術後は疼痛コントロールをして、患者の苦痛を軽減し、腹式呼吸や痰の喀出を促していく必要があります。
■早期離床を促す
横隔膜の動きを促進するためにも、早期離床を促すようにしましょう。安静度の指示のため、離床ができない場合は、指示の範囲内でできるだけギャッジアップをするだけでも、横隔膜が下がり、肺が広がりやすくなります。
まとめ
無気肺の基礎知識と原因、看護問題、看護目標・計画、看護のポイントをまとめました。無気肺は術後や人工呼吸器管理中に頻繁に起こる合併症ですが、看護の力で予防・改善できるものですので、しっかりアセスメントして、ケアに活かすようにしましょう。