大動脈弁狭窄症は大動脈弁が狭窄することで、左心室肥大が起こり、さらに狭心症状や心不全の症状が現れますので、死に至るとても危険な病気です。
大動脈弁狭窄症の基礎知識や手術、看護の観察項目や看護計画、術後の看護のポイントをまとめました。今後の看護の参考にしてください。
1、大動脈弁狭窄症とは
大動脈弁狭窄症とは心臓の大動脈弁の開放が制限されて、狭くなってしまった状態のことです。大動脈弁が狭くなることで、左心室から血液が十分に送り出すことができなくなってしまうのです。
大動脈弁狭窄症を発症すると、左心室から血液を十分に送り出すことができないため、大動脈弁を血液が通り抜ける時に乱流(ジェット)が起こるために、心雑音が聴取されます。
また、左心室から大動脈弁を血液が通り抜ける時に抵抗が生じますので、左心室に負荷がかかり、左心室肥大が生じるようになります。
ただ、発症当初は明らかな自覚症状はなく、病状が進行して、自覚症状が出てから初めて発見されることが多いのです。
<大動脈弁狭窄症の自覚症状>
・狭心症
・失神やめまい
・両足のむくみ(心不全症状)
狭心症は左心室肥大によって心筋が増加したことによる相対的な心筋虚血や心拍出量の低下などによって起こります。
失神やめまいは、心拍出量が低下したことや左心室圧が上昇したことでの末梢動脈拡張によって、脳血流量が低下して起こります。両足のむくみは心拍出量の低下による心不全から起こる症状です。
これらの症状が現れるまで病状が進行すると、大動脈弁が石灰化して癒着を起こし、弁尖の動きが制限され、左心室から大動脈へ血液が送られにくくなってしまいます。
1-1、大動脈弁狭窄症の原因
大動脈弁狭窄症の原因は、先天性のもの、リウマチ熱によるもの加齢によるものの3つがあります。
先天性の大動脈弁狭窄症は、本来なら3枚あるはずの大動脈弁が2枚しかない先天性2尖弁がほとんどになります。
また、リウマチ熱(β‐溶血性レンサ球菌感染症)の後遺症で大動脈弁狭窄症になることもあります。ただ、このリウマチ性大動脈弁狭窄症は頻度は少なく、さらに近年はリウマチ熱自体が少なくなってきていますので、大動脈弁狭窄症の原因の中では珍しものになっています。
3つ目の原因が加齢によるものです。加齢によって動脈硬化が進み、弁が狭くなったり、石灰化することで、大動脈弁狭窄症を発症します。この加齢による大動脈弁狭窄症は、大動脈弁狭窄症の80%以上を占めています。
2、大動脈弁狭窄症の手術
大動脈弁狭窄症の治療は、基本的に手術を行います。現在の時点で自覚症状がなくても、数年以内に症状が出てくる可能性が高いため、主治医と手術の時期を検討してくことになります。
大動脈弁狭窄症の手術は、大動脈弁置換術です。開胸して、人工心肺装置を使用して心停止をさせた状態で、狭窄している大動脈弁を切り取って、人工の大動脈弁を縫い付ける手術になります。
出典:大動脈弁の手術 – 診療科・部門案内 – 藤沢市民病院
大動脈弁置換術は、大動脈弁狭窄症の根本的な治療法になりますが、開胸をして、人工心肺装置を使うという大がかりな手術になり、患者の体力が必要になります。
そのため、高齢の患者や合併症がある患者などは、大動脈弁置換術後に死亡したり、重大な合併症が起こるリスクがあるため、手術ができないことがあるのです。
そのような現状を打破するために、TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)という治療法が開発され、日本では2013年から保険適用となっています。
TAVIは経カテーテル大動脈弁植込み術のことで、開胸せずに、また心停止させずに大動脈弁を人工のものに取り替えることができるという治療法です。開胸せずに、鼠径や胸壁から心臓に直接人工の弁を挿入して、バルンを膨らませて植込みを行います。
そのため、大動脈弁置換術を行えない高齢や合併症がある患者でも治療が可能になっています。
3、大動脈弁狭窄症の看護観察項目
大動脈弁狭窄症の患者を看護する時には、次の3つの症状が出ているか、悪化していないかを観察する必要があります。
・心不全症状
・狭心症の症状
・失神発作
この3つの症状は、大動脈弁狭窄症の代表的な症状ですので、患者の看護をする時には、この3つの症状を観察するようにしましょう。具体的な観察項目をご紹介します。
■心不全症状
・バイタルサイン(血圧、心拍数、SpO2)
・頸静脈の怒張の有無
・呼吸困難感の有無
・起坐呼吸の有無
・嘔気、嘔吐
・食欲不振
・倦怠感
・尿量やIn/Outバランス
・体重
・浮腫
・肝腫大
・腹水
■狭心症の症状
・バイタルサイン
・胸部症状(圧迫感、疼痛、灼熱感、締め付けられる感じ)
・意識レベル
・症状が出た時の心電図の変化
■失神発作
・意識レベル
・瞳孔不同の有無
・四肢冷感の有無
・チアノーゼの有無
・末梢動脈の触知
・めまいやふらつきの有無
4、大動脈弁狭窄症の看護計画
手術が適応となる大動脈弁狭窄症の患者の術前は、状態が不安定ですので、心負荷を軽減しながら、症状が悪化しないような看護計画を立案する必要があります。
看護目標 | 大動脈狭窄症の症状が軽減できる |
OP(観察項目) | 上記を参照 |
TP(ケア項目) | ・狭心症状が出た時は、速やかに12誘導心電図を測定する
・安静度に合わせた日常生活援助を行う ・安楽な体位の工夫 ・指示された薬剤を確実に投与する ・指示された酸素投与を確実に行う ・不安の傾聴 |
EP(教育項目) | ・心負荷軽減のために安静度を守ることを説明する
・水分や塩分制限、薬剤投与の必要性などを説明する ・自覚症状が現れた時には、すぐに報告するように伝える |
5、大動脈弁狭窄症の手術後の看護
大動脈弁狭窄症の手術後は、狭窄した大動脈弁を人工弁に取り換えていますので、大動脈弁への抵抗は正常に戻ります。ただ、左心室肥大はすぐには戻らずに残った状態になっています。
そのため、左心室の内腔が小さくなり、またきちんと伸展しにくい状態(コンプランスの低下)が続いていますので、十分な前負荷と心拍出量を維持しなければいけません。
このことを念頭に置いて、大動脈弁狭窄症の手術後の合併症と術後の看護をする時の観察項目を確認していきましょう。
■心拍出量の低下
大動脈弁狭窄症の手術後は、心拍出量が低下する危険がありますので、次のことを観察するようにしましょう。
・血圧
・肺動脈楔入圧(PAWP)
・中心動脈圧(CVP)
・ショック症状の有無
ショック症状は、体温低下や皮膚の湿潤、末梢冷感、頻脈、チアノーゼ、尿量低下などがあります。
また、大動脈弁狭窄症の術後は十分な前負荷を維持する必要がありますので、PAWPとCVPは高めに保つ必要があります。そのため、PAWPやCVPは正常値にこだわらず、医師の指示どおりの値を保つようにしてください。
■不整脈
大動脈弁置換術の術後は、手術による刺激伝導系の損傷や人工心肺使用による心筋浮腫、電解質異常などで、不整脈が起こるリスクが高くなります。
そのため、継時的に心電図モニターをチェックし、血液データで電解質の異常がないか、また不整脈が出現したことでの血圧の低下、尿量減少、胸部症状などがないかを観察してください。
■血栓
大動脈弁狭窄症の術後は、人工弁を入れたことや術中に人工心肺を使用したことで、血栓が発生しやすくなっています。
血栓ができると脳梗塞を引き起こすリスクがありますので、次のことを観察してください。
・意識レベル
・麻酔からの覚醒状況
・四肢のしびれ
・知覚の変化
・頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔吐、血圧上昇)
・末梢動脈の触知
・浮腫
・末梢の冷感
これらの中で異常が見られた場合は、すぐに医師に報告をしましょう。
■出血
大動脈弁狭窄症の手術では、人工心肺を使いますので、ヘパリンを使用しますし、血液が異物に触れることで、凝固系に異常が生じることがあります。
そのため、術後は出血しやすいですので、看護師は出血が起こっていないかどうかを観察しなければいけません。
特に、血圧が高くなると、出血のリスクが高くなりますので、血圧は低め(100mmHg前後)に維持することが基本になります。そのため、継時的に血圧を測定し、血圧を医師の指示通りに維持するようにしてください。術後に痛みがある場合は、痛みが血圧を上げることもありますので注意が必要です。
また、ドレーンからの排液量や性状も観察して、出血があった場合は、いち早く気づけるようにしましょう。
■術後感染
大動脈弁狭窄症の術後は、異物である人工弁を体内に入れますし、手術の負担が大きいため免疫力が下がりますので、感染するリスクが高くなります。
血液データでのWBCやCRPをチェックするだけでなく、ドレーンの排液量や性状、挿入部の感染兆候などを観察して、感染予防に努めてください。
まとめ
大動脈弁狭窄症の基礎知識や手術、看護の観察項目や看護計画、術後の看護のポイントをまとめました。
大動脈弁狭窄症は、手術が適応になる場合、全身状態が不安定で、突然心停止に至る可能性もありますので、大動脈弁狭窄症の患者の看護をする時には、異常の早期発見に努めるようにしましょう。