普段の生活では、排尿についてあまり意識したことがないかもしれません。健常であれば、ある程度武功に尿がたまると自然と尿意を感じます。そして自らトイレに行き排尿することができます。しかし、病気などが原因で排尿が困難になったり、尿が排泄できなくなったりすることがあります。手術や薬物療法など、その治療方法は排尿障害の程度により異なりますが、尿の排泄を助ける方法のひとつとして、膀胱瘻を造設する方法があります。
ここでは、膀胱瘻造設患者の看護について説明していきます。実際のケアに生かせるよう膀胱瘻についてしっかりと理解を深めていきましょう。
1、膀胱瘻とは
膀胱瘻とは、恥骨上部から腹壁を通して膀胱との瘻孔を作り、膀胱内にかけてカテーテルを挿入し尿を排泄する方法で、下部の尿路通過障害が見られる場合に膀胱瘻の造設が検討されます。下部の尿路通過障害には、前立腺肥大症、前立腺がん、神経因性膀胱などがあります。
■前立腺肥大症
前立腺は、膀胱下部にあるクルミ大の臓器で、男性生殖器のひとつです。前立腺肥大症は、前立腺の内部が腫大する疾患で、それにより尿道が圧迫され、尿の勢いが悪くなったり、最悪の場合は尿が出なくなる尿閉が出現します。
尿閉となった場合は手術や導尿が必要となり、手術や間欠的自己導尿(自分や介護者による導尿)が困難な場合は、膀胱瘻の造設が必要となります。
■前立腺がん
前立腺がんは前立腺に腫瘍ができる疾患で、腫瘍が小さいうちは無症状で経過することが多く、
腫瘍が大きくなるにつれ、排尿障害や残尿感、頻尿などの症状を呈するようになります。がんが進行すると、さらに排尿困難や尿閉などの症状が出現します。
がんの浸潤や炎症性変化などにより尿路に通過障害が起きた場合は、膀胱瘻の造設など尿路変更術が必要となる場合があります。
■神経因性膀胱
膀胱に一定量の尿がたまると、膀胱から脳に信号が送られ尿意を感じ、脳から脊髄の神経を介して排尿の指令が伝達されます。通常、その指令を基に排尿行為が行われますが、その伝達経路が障害されることにより排尿障害が引き起こされることがあります。それが神経因性膀胱です。
神経因性膀胱は、脳や脊髄、末梢神経のいずれかの障害が原因となり引き起こされます。排尿障害の症状には個人差があり、無症状の場合もありますが、頻尿や尿意切迫、排尿困難や尿閉などの症状を呈することもあります。排尿障害や膀胱機能の障害の程度により、膀胱瘻の造設が必要となる場合があります。
2、膀胱瘻造設術
膀胱瘻造設術は尿路変更術のひとつです。
膀胱瘻の造設には侵襲的処置が必要で、造設後の外観的問題などのデメリットがありますが、経尿道カテーテルよりも清潔を保ちやすく、感染のリスクが少ないというメリットがあります。長期間にわたる排尿管理が必要な場合は、排尿管理方法のひとつとして膀胱瘻の造設が検討されます。
膀胱瘻造設術は、超音波ガイド下で行われます。穿刺部に局所麻酔を行い、必要時、穿刺部に小切開を加えカニューレを膀胱内に穿刺します。カニューレが膀胱内に入っていることを確認し、カテーテルを挿入していきます。カテーテルのバルーン部が、確実に膀胱内に留置されていることを確認しバルーンを拡張させます。カニューレを抜去し、カテーテル排尿口に尿バックを接続、テープ等で固定し終了します。
まれに周辺臓器の損傷や出血、感染等の合併症を引き起こす可能性があるため、合併症の出現には注意が必要となります。
3、膀胱瘻造設患者の問題点と観察ポイント
膀胱瘻造設患者における問題点として①膀胱瘻造設に伴う精神的ストレスの増強②膀胱瘻造設による合併症の出現③膀胱瘻造設によるQOLの制限④膀胱瘻の自己管理による手技的問題などが挙げられます。
①膀胱瘻造設に伴う精神的ストレスの増強
膀胱瘻の造設により侵襲的処置への不安やストレスが増強するだけでなく、造設後もそれまでの排尿スタイルとは異なったスタイルでの排尿管理が必要となります。これまでとは違った環境や自身のスタイルを受け入れられるようになるまでには、患者は大きな不安やストレスを抱えながらの生活を強いられることになります。不安な言動やストレスの有無に注意し観察していくことが大切です。
②膀胱瘻造設による合併症の出現
膀胱瘻は経尿道カテーテルよりも感染のリスクが少ないものの、全くないというわけではありません。いずれの場合も清潔の保持が重要なポイントとなります。カテーテルの挿入部の清潔を保持するとともに、挿入部の皮膚の状態や出血の有無、血尿や尿の混濁の有無など、感染の兆候がないかなどに着目し、観察を行っていく必要があります。
③膀胱瘻造設によるQOLの制限
膀胱瘻造設により外観が変化します。不自由な生活や羞恥心、周りへの気遣いなどにより、外出を避けるようになったり、人との関わりを遠ざけるようになる場合もあり、患者のQOLが制限される可能性があります。
精神的ストレスの有無だけでなく、患者の受け止め方や患者が何に不自由を感じているかなど、患者の状況を把握できるよう社会的観点からの観察も重要なポイントとなります。
④膀胱瘻の自己管理による手技的問題
退院後には膀胱瘻の自己管理が必要となります。手技に問題がないか、困難を感じていることはないかなど、退院後の不安の有無にも着目しながら観察していきましょう
4、膀胱瘻造設患者の具体的ケア
膀胱瘻造設患者の問題点を把握したうえで看護計画を立案し、それぞれの患者に合った援助を提供していくことが大切です。
■膀胱瘻造設時の援助
患者が安心、安全に膀胱瘻造設術を受けられるよう援助していきます。
術前には、患者の不安を軽減できるよう声かけや事前の説明をしっかりと行っていきましょう。術中は、手技がスムーズに行えるようサポートし、患者の変化や合併症の兆候の有無を観察していきます。術後は、穿刺部位やカテーテル挿入部位の観察や疼痛の管理、安静や清潔の保持に対する援助が必要となります。
■精神的ストレスに対する援助
前述のように、膀胱瘻造設に伴い、患者は様々な不安とストレスを抱えることになります。入院や侵襲的処置に対する不安だけでなく、退院後の生活にも大きな不安を感じていることも予測されます。術前から精神的ケアを行うことはもちろん、退院後も安心して日常生活を送ることができるよう、入院中からしっかりと精神的サポートを行っていく必要があります。
■セルフケアに対する援助
退院後に患者自身が膀胱瘻に対するセルフケアを行えるよう援助していきます。
清潔保持の必要性や合併症についてしっかりと説明を行い、必要性やリスクを理解したうえでセルフケアを行えるよう指導していきましょう。また、生活上の注意点や緊急時の対処方法についてもあらかじめ説明しておく必要があります。
患者が退院後の生活を具体的にイメージできるような働きかけが重要となります。
まとめ
膀胱瘻は、排尿障害を回避するために造設されます。しかし、それにより外観的変化や生活パターンの変化を強いられることになります。患者にとって、身体的、精神的、社会的負担となることもあるでしょう。また、患者のQOLにも大きく影響を与える可能性があります。
患者自身が現状を受け止め、QOLの制限を最小限にとどめられるよう、精神的、社会的ケアを行っていくことが大切です。また、入院中から、退院後の生活に対するイメージ作りができるよう働きかけていくことも看護の重要な役割となります。