痛みは主観的なものですので、看護師は患者の痛みを正確に把握することができません。でも、疼痛緩和はとても重要な看護になりますので、できる限り患者の痛みを客観的に把握する必要があります。
患者の主観的な痛みを客観的に評価するためのものが、NRSという疼痛スケールです。NRSについて、またNRSを用いた疼痛アセスメントや看護計画をまとめました。
1、NRSとは
NRS(Numerical Rating Scale)とは疼痛スケールの1つで、患者の主観的な痛みを客観的に評価するために用いられます。
NRSは痛みを0から10までの11段階の数字を用いて、患者自身に痛みのレベルを評価してもらう方法です。このNRSを用いる時には、初診時や治療前の痛みを10とする場合もありますし、「今までに経験した最高の痛み」を10とする場合もあります。
治療前または最高の痛みを10とした時に、今の痛みのレベルは数字で表すとどのくらいかを患者自身に表わしてもらって、痛みを評価します。
0は痛みなし、1~3は軽度の痛み、4~6を中等度の痛み、7~10は強い痛みを表します。
このNRSは臨床の現場で最もよく用いられている疼痛スケールで、ほかの疼痛スケールと比べると最も信頼性が高いとされています。
痛みのレベルを11段階で細かく表すことができる、簡単に痛みを評価できる、痛みの変化を継時的に表しやすいなどのメリットがあります。
ただ、小児や意識がない患者には使うことができず、個性や環境に影響されやすいことや数字に個人の好みが表れることがあるというデメリットもありますので、NRSを使用する場合には、このデメリットは考慮しておかなくてはいけません。
1-1、NRS以外の疼痛評価スケール
NRS以外の疼痛評価スケールも確認しておきましょう。
出典:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)|日本緩和医療学会 – Japanese Society for Palliative Medicine
臨床の現場で用いられる疼痛評価スケールはNRS以外に、VASやVRS、FPSがあります。
■VAS(Visual Analogue Scale)
VASは左端をまったく痛みがない、右端を最悪の痛みとして、今の痛みがどのくらいなのかを指してもらう疼痛スケールです。
VASはNRSと同じように、痛みのレベルを細かく評価できるというメリットがありますが、ほかの患者と比較検討しにくいというデメリットがあります。
■VRS(Verbal Rating Scale)
VRSは直線上に5段階などで、痛みの度合いを表す言葉を書いて、患者に選択させる疼痛スケールです。高齢者でも簡単に痛みを表せるというメリットがありますが、痛みが5段階と曖昧にしか評価できず、幼児には使いにくいというデメリットがあります。
■FPA(Faces Pain Scales)
FPAは言葉や数字ではなく、人の表情によって痛みを6段階に分類して評価する方法です。このFPAは子供や高齢者でも簡単に痛みのレベルを表現することができます。ただ、痛みの選択肢が6段階と少なく、その時の気持ちによって評価が左右されることがあるというデメリットがあります。
2、NRSスケールでの評価とアセスメントのポイント
NRSスケールを用いることで、患者の主観的な痛みを客観的に評価することができますが、痛みのアセスメントをする時には、NRSスケールによる評価だけでは不十分です。痛みをアセスメントする時には、NRSスケールでの痛みの程度以外の情報も収集する必要があります。
①痛みの部位
痛みのアセスメントをする時には、痛みの部位はとても大切な情報になります。痛みの部位は1ヶ所だけではなく、複数の部位に現れることも多いので、痛みの部位ごとにNRSスケールを用いて痛みを評価する必要があります。
関連痛による痛みの可能性も考慮に入れて、痛みの部位と痛みのレベルを観察するようにしましょう。
②痛みの性質
どのような痛みなのかも、痛みのアセスメントをする上ではとても重要なことになります。チクチク刺されるような痛み、鈍い痛みなど痛みの性質には様々なものがあります。
鈍い痛み、うずくような痛み、押されるような痛みは内臓痛や体性痛の可能性が高く、電気が走るような痛み、ピリピリするような痛みは神経障害性疼痛の可能性が高くなります。
③痛みの始まりと変化
痛みはいつから始まったのか、痛みが出るようになってから痛みのレベルや部位、性質はどのように変化していったのかも観察しましょう。
痛みは持続痛なのか間欠痛なのか、痛みは強くなっているのか、弱くなってきているのか、痛みの部位は移動しているかなどを観察して、痛みのパターンを把握する必要があります。
痛みのレベルが変化しているのであれば、NRSスケールを用いて、痛みの発現時から変化の度合いを0~10までの数字で表してもらいましょう。
④痛みに影響するもの
痛みの発現や増強・緩和に影響があるものはあるか、痛みの影響因子も把握しましょう。「体位によって痛みが軽減する」、「鎮痛剤を服用すると良い」、「こういうことをすると痛みが強くなる」、「温めると緩和する」などです。
このような痛みへの影響因子を把握することは、疼痛緩和のケアに役立ちます。鎮痛剤を飲んだ時には、痛みがどのくらい緩和するのかもNRSスケールを用いて、「服用前は8、服用して30分経つと4」のように痛みのレベルを表してもらうと良いでしょう。
⑤日常生活への影響
痛みがあることによって、日常生活にどのような影響があるのかも確認する必要があります。痛みは身体機能、社会機能、睡眠、精神状態に大きな影響を与えます。
痛みよって日常生活にどのような影響があるかを、患者さんから聴取しましょう。
⑥客観的な評価
痛みをアセスメントするためには、NRSスケールを用いての評価や患者さんからの主観的な情報だけでは足りません。看護師から見た客観的な情報もとても大切になります。
痛みが強ければ、血圧上昇、心拍数の増加、呼吸数の増加などバイタルサインに変化が現れます。また、表情や行動、睡眠状況も変化が出ます。それを客観的に評価して、痛みがどのくらいなのか、NRSスケールでの数字とマッチしているかを確認しなければいけません。
患者さんによっては、遠慮して痛みを過小評価することがありますし、看護師に心配してもらいたいからなどの理由で大げさに言う場合もあります。
そのため、NRSスケールなど患者さんの主観的な情報だけでなく、看護師から見た客観的な情報。評価も大切なのです。
3、NRSスケールを用いた急性疼痛の看護計画
NRSスケールを用いた急性疼痛の看護計画を立ててみましょう。
⇒疼痛の看護|原因と種類、術後や骨折などにおける疼痛緩和の援助
■短期目標
・痛みが軽減したと述べることができる
・穏やかな表情で過ごすことができる
・疼痛緩和によって良眠できる
・痛み軽減することで食欲が出る
■OP
・痛み程度をNRSスケールを用いて評価する
・痛みの部位や持続時間
・疼痛による行動制限の有無
・創部の発赤・腫脹・熱感の有無
・バイタルサイン
・炎症所見(検査データ)
・睡眠状況
・食事摂取状況
・精神状態、不安の有無
・鎮痛剤使用状況とその効果
・痛みに対する認識
■TP
・疼痛のアセスメントをし、疼痛をコントロールする
・安楽な体位の提供
・温罨法や冷罨法を行う
・気分転換を図る
・マッサージを行う
・不眠時は指示によって睡眠薬を用いる
・声掛けやタッチングなど安心感を与え、不安を訴えやすい環境を作る
・患者の訴えを傾聴する
・車いすや歩行器などを用いる
・日常生活動作への援助
■EP
・疼痛は我慢せずに伝えるように指導する
・NRSスケールの使い方を説明する
・痛みの変化があった時はNRSスケールを用いて伝えてもらう
・痛みが強い時は頓用の鎮痛剤を用いることができることを説明する
・安楽な体位の摂り方を指導する
・鎮痛剤の効果を説明する
まとめ
NRSは臨床現場で最もよく使われている疼痛スケールです。このNRSを用いて、疼痛緩和のための的確な看護を行いましょう。
ただ、疼痛のアセスメントをするためには、NRSでの疼痛評価だけではなく、そのほかの患者の主観的な情報や看護師から見た客観的な情報も重要になりますので、痛みを総合的にアセスメントして、看護計画に活かしましょう。