脳疾患の代表的な疾患は、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の3つが代表的な脳血管障害です。脳神経外科を理解していく上で、脳出血は避けて通れない疾患の一つです。
脳は一つの均質な塊としての臓器ではなく、大脳、中脳、小脳、橋、間脳、脳室、延髄などの多くの部分から構成されています。各々の部分で異なった機能がある、とても複雑な形態をしています。
脳が損傷を受けると、
・運動系の障害
・認知・言語障害がある高次脳障害
・体温調節や呼吸調節を司る自律神経が、障害される
などの日常生活に大きな影響を与えてしまいます。
当ページでは、脳出血を発症してしまった患者様に対して、どのような治療方法があるのかを詳しく記載していきます。また看護計画を立案し、看護過程を展開していくために必要な視点についても詳しく紹介していきます。脳神経外科の経験がない、または経験が浅く自信がない方は特に、しっかりお読み頂き、確かな知識を得て日々の看護ケアに活かしてください。
1.脳出血とは
脳内の血管が何らかの原因で破れてしまい、脳の中で出血した状態をいいます。脳には、大脳や小脳、脳幹など様々に分類されますが、出血部位によって意識障害、運動麻痺、感覚障害などの症状が出現します。血腫が大きくなると脳浮腫を起こし、頭蓋内圧が高まります。脳ヘルニアを合併し脳幹部を圧迫すると、死に至ります。
脳出血による死亡数が以前より減少した理由は、高血圧の内科的な治療が行われ、血圧のコントロールをされている患者様が多くなったことが原因と考えられています。
脳出血といっても、出血する部位によって病状が異なり、大きく分けて5つに分類されます。
1-1.被殻出血
脳出血の中で約50%を占める、最も出血しやすいタイプです。被殻は脳の中央部にあるため、運動や感覚、さらに言語や理解を司る高次機能もあります。そのため、ここが出血により障害されると、身体が麻痺を起こし動かなくなる運動障害、感覚障害、各種の失語症などの症状が出現します。出血が被殻の部分のみであれば、症状は軽度となりますが、出血が基底核部の内包にまであると、出血部位の反対側に麻痺や感覚障害が起こります。
1-2.視床出血
脳出血の約3割を占めるタイプです。視床とは、間脳の一部で運動や感覚を司る、神経の束がたくさん存在する場所になります。そのため、運動障害だけではなく、感覚障害が強く現れる特徴があります。出血が視床だけの場合には、症状はしびれを感じるのみの軽度となりますが、基底核部の内包にまで出血がおよんでしまうと、麻痺が起こります。また脳室が近いことで、脳室内出血を起こすこともあります。
視床出血はしびれ、痛み、意識障害、片麻痺などの後遺症が残ることが多いとされています。
1-3.皮質下出血
頭頂葉や側頭葉、前頭葉などの大脳皮質という場所の下で出血が起こるタイプです。軽度の意識障害や痙攣などの症状が出現します。症状が軽いことが多いため、予後が良好な場合が多いのが特徴です。
1-4.小脳出血
小脳という、運動全体を調節している部分に出血が起こるタイプです。小脳は、四肢や体感の動きの調節や平衡機能、眼球運動の調節を行います。したがって、これらが障害されてしまうと激しい後頭部痛、回転性めまい、嘔吐が続くなどの原因になります。その後、起立・歩行障害、共同偏視、眼振などが出現します。
1-5.脳幹出血
脳の最も奥の脳幹という場所の橋とところで出血を起こすタイプです。脳出血のタイプの中では、一番に予後が悪く発症してから短時間で意識障害を起こし昏睡状態になります。その血とも呼ばれますが、脳の最も奥の部分にある脳幹の中の橋というから出血することです。そのまま死亡することもよくあるため、迅速な対応が必要となります。
2.脳出血の原因とは
脳出血の一番の原因は、高血圧であることがわかっています。脳出血を起こした患者様の約半数は、高血圧の治療を行っている方です。血圧をコントロールすることが、最大の予防となります。
アルコールの過剰摂取をしている方も、血圧を上昇させてしまうためリスクが高まります。また肝臓が悪い方は、血液を凝固する力が弱まるため、出血リスクを高めるともいわれています。
抗血栓薬を内服している患者様の場合は、血液を意図的に固まらないようにしているので、脳出血のリスクが高まります。
動脈硬化を患っている患者様の場合は、さらにリスクが高まります。もろくなった血管が破裂して出血を起こすのが脳出血なので、高血圧+動脈硬化は非常に危険であることがわかります。
3.脳出血の症状とは
基本的には、意識障害や片麻痺、頭痛や嘔吐などが多くの患者様に見られます。どこが出血しているのかが大事になり、血腫の大きさによっても症状の強さが違います。出血部位毎に、出現しやすい症状を見ていきましょう。
3-1.被殻出血の症状
片麻痺や感覚障害、両眼とも片側半分の視野が見えなくなる同名性半盲、これらが主な症状となります。さらに発見が遅れると意識障害が見られることもあります。また失語症が見られることもあります。
3-2.視床出血の症状
被殻出血と同様に、片麻痺や感覚障害が出現しますが、感覚障害が優位になることがあるのが特徴です。視床出血の場合は、出血後に半身の強い痛みを伴うことがあります。
3-3.皮質下出血の症状
どこの皮質下で脳出血を起こすかによりますが、多い症状としては片麻痺、失語、半盲が挙げられます。程度は中程度以内とされていますが、後遺症が残ることはあります。
3-4.小脳出血の症状
突然の眩暈、頭痛、嘔吐などが特徴的な症状です。歩行障害も見られることがあります。
3-5.脳幹出血の症状
突然の意識障害、縮瞳、呼吸異常、四肢麻痺、高熱などが特徴的な症状です。脳幹出血は他の出血部位と違い、急激な意識障害など状態悪化をすることがあるため、予後は不良なことが多いです。
4.脳出血の治療とは
出血の起こった部位や原因となる疾患、大きさ、合併症の有無など全身状態によって、治療が異なります。
治療の基本となるのは、開頭手術をしない内科的な治療が主となります。出血によって障害を受けた脳は元に戻ることができません。そのため、脳への圧迫を緩和する、再出血の予防、脳浮腫を抑制し頭蓋内圧をコントロールする、合併症の治療を行うこととなります。出血した部位や患者様の全身状態によっては、外科的手術を行う必要もあるので、その時の状況に大きく左右されます。
4-1.脳出血に対する内科的治療
発症から6時間以内は再出血が起こりやすい状態なので、収縮血圧を120~140mmHg程度に調節します。降圧剤は点滴を使用します。脳出血の急性期は、脳の自動調節能が障害されているため、血圧がそのまま脳血流に影響してしまいます。なので、過度に血圧を下げることは、予後を悪くします。発症24時間以降は、基本的には内服薬に移行していきます。
脳浮腫の治療薬であるグリセロールの投与は、発症24時間以内では基本的には使用しません。急激な脳圧低下は、再出血を助長する可能性があるためです。
脳出血の合併症として、全身状態悪化による肺炎や尿路感染症などが起こることもあるので、並行して治療を行う必要があります。
このような急性期を脱することができれば、早期にリハビリを開始します。開始時期は、全身状態にもよりますが、比較的早い段階で開始します。
4-2.脳出血に対する外科的治療
血腫によって、生命に直結する脳幹が圧迫されている場合には、救命目的に血腫除去術が行われます。しかし既に昏睡状態で、脳幹障害を起こしてから時間が経過している場合には、救命の可能性が低く手術の適応にはなりません。また脳幹が直接出血している場合にも、手術の適応はありません。
手術方法は、全身麻酔下で開頭を行い血腫を除去する方法、局所麻酔下で穿頭し、血腫を吸引、ドレナージする方法があります。発症直後の比較的大きな血腫の場合には開頭術を行います。
5.脳出血を患った患者様へのアセスメントのポイント
では脳出血の看護を行う上で、アセスメントの視点を記載していきましょう。
・出血部位によって、出現しやすい症状を十分に把握できているか
・急性期は生命の危機に直面していることを基本とし、血腫の増大、血腫周囲の脳浮腫による症状悪化に注意し、異常の早期発見を行う体制になっているか
・症状や全身状態から、合併症を予測できているか
・全身状態悪化に伴い、呼吸管理やバイタルサイン測定、酸素投与などを行っているか
これらをアセスメントの基本とし、どこに看護ケアが必要な状態であるかを考えていくようにしましょう。
5-1.脳出血を患った患者様の看護問題
次に看護問題ですが、急性期と慢性期によって看護問題が大きく異なります。
急性期の場合には、血圧のコントロール不良による再出血、血腫の増大、脳浮腫の拡大による全身状態の悪化などがあります。異常の早期発見を行い、生命の危機を脱することが最大の目標となります。したがって看護問題は、
「血圧のコントロール不良による再出血のリスク状態」
「頭蓋内圧亢進による血腫の増大に伴う生命の危機」
このように立案することができます。
慢性期の場合には、高血圧のコントロールや内科的基礎疾患の治療、そしてリハビリが主となります。後遺症によって看護問題は様々になりますが、一般的には
「高血圧による再出血リスク状態」
「運動・感覚障害による転倒リスク状態」
「セルフケア不足による自立困難」
このように立案することができます。
6.脳出血を患った患者様への看護計画
では具体的に、看護計画を立案していきますが急性期と慢性期に分けていきましょう。
急性期では、生命に関連する内容が主となります。
OP
・意識障害の有無と程度
・呼吸状態
・バイタルサイン
・眼球の位置と瞳孔の異常
・運動麻痺の有無と程度
・排泄状態
・IN・OUTバランス
・不穏な体動
・頭痛の有無と程度
TP
・血圧管理(発症後まだ間もない場合には15~1時間毎に測定)
・呼吸管理(状況によって、エアウェイ挿入や気道確保、酸素吸入を行う)
・体温調節(腋窩やソケイ部にアイスノンなどを貼用し、クーリングを行う。それでも
解熱がなければ、医師の指示通りに解熱剤を投与する)
・排泄管理(状態が落ち着くまでは、尿道カテーテルを挿入し尿量チェック)
EP
・意識がある場合には患者本人に病状説明
・家族に病状説明
続いて慢性期についてですが、ここではセルフケア不足やリハビリに向けての計画が主となります。
OP
・運動麻痺の有無と程度
・ADLの状況
・関節の拘縮・変形の有無
・日常生活行動である、移動・洗面・食事・排泄、更衣の自立度
・バイタルサイン
・長期臥床による褥瘡好発部位の有無を確認するために皮膚観察
TP
・関節の拘縮・変形予防のために、良肢位の保持・体位変換・リハビリを行う
・ADLの援助(一部歩行介助や車椅子移乗介助など)
・褥瘡予防(体位変換や除圧マットの検討)
EP
・良肢位の保持、体位変換、リハビリを行っていく必要性の説明を行う
7.まとめ
いかがでしたでしょうか。脳梗塞の次に発症頻度が高い脳出血ですが、出血部位によって様々な症状の違いや予後について理解できたかと思います。脳出血の一番の原因は血圧コントロール不良による影響が多いです。そのため知識として、高血圧症の患者様は、脳出血のリスクがあると考えながら観察していくのも、一つポイントとなります。さらに循環器内科の疾患を患い、動脈硬化を基礎疾患と持っている場合には要注意となることも理解できたかと思います。
脳出血を患っている患者様の看護は、まずは生命の危機を脱することができるように、異常の早期発見ができることが必要となります。そこをクリアできて、初めて慢性期に移行し今後のことを考えていけるようになります。
当ページを参考にしていただき、脳出血を患った患者様が一人でも多く救命され、日々の看護ケアの質を高めていただければと思います。