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心不全患者に対する適切な看護ケアのための基礎知識の習得

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心不全の看護

人間の心臓は日々活動しており、生命維持に必要不可欠な臓器です。ゆえに、心臓の機能が正常に働かなくなると、生命を脅かす事態を招いてしまうことになります。

 

経済発展が著しい現代社会において、心不全を患う患者数は軒並み増えてきているため、それに伴い、心不全の看護ケアの必要性も高まっています。

 

ここでは、心不全患者に対する適切な看護ケアを行うための知識の習得と理解を目的として、心不全の基礎と看護ケアに関する情報を記載していますので、ぜひ参考にしてください。

 

1、心不全とは

心不全というのは病気の名前ではなく、心臓病やその他の病気により、心臓のポンプ機能が低下したり、心臓の働きが不十分になり、全身の体組織の代謝に見合うだけの十分な血液を供給できない状態にある症状のことを指すため、厳密には症候の名前です。

 

心臓は「左心」「右心」に分かれており、それぞれが房室弁で心房と心室に隔てられています。左心では肺静脈→左心房→左心室→大動脈→体、右心では大静脈→右心房→右心室→肺動脈→肺というように、血液が循環しています。

 

心臓は体や肺に血液を送り込む役割を持っており、病気などの影響でこの機能が低下することで、身体に送り送る血液量が減る、または各所で血液が停滞(うっ血)し、息切れや倦怠感、むくみなど様々な症状が出現し、放置し続けると死に至ることが多々あります。

 

2、心不全の種類

上で述べたように、心不全は右心または左心の機能が低下した状態のことを言い、その種類は主に「収縮機能不全」「拡張機能不全」があります。

 

・収縮機能不全

心臓の収縮力が弱まることで、心臓に戻ってくる血液に見合うだけの量を送りだすことができず、心室に多量の血液が貯留します。

 

・拡張機能不全

心臓が硬くなり、収縮後に十分に広がらなくなることで、血液を取りこむ能力が低下します。その結果、心室に血液が貯留し、この過程で肺や全身の臓器にも血液が滞留します。

 

なお、収縮機能不全または拡張機能不全のどちらかをきたすことが多いものの、同時に発生することもあります。

 

3、心不全の原因

心不全の原因は実にさまざまで、心機能を低下させる病気のほか、貧血や加齢などによっても起こります。以下に心不全の原因となる主な疾患・症状を列挙します。

 

・心筋症

狭心症や心筋梗塞などで心筋が薄くなる(拡張型心筋症)、または厚くなり(閉鎖性肥大型心筋症)、血液をうまく送り出せなくなります。心筋症そのものが血液の排出に障害をきたすため、心不全と強い関わりを持つ病気です。

 

・心筋炎

心筋炎は細菌やウイルスなどが原因で発生し、次第に心筋が壊れて心臓の心機能が低下します。

 

・収縮性心膜炎

心臓を包んでいる袋を「心膜」と言い、これが細菌やウイルスなどにより炎症が起こり、心膜が癒着したり線維化または石灰化することで硬くなっていきます。その結果、心臓が拡張困難に陥り、心臓が拡張する際に心臓に流れ込む血液量が減少し、心不全が起こります。

 

・不整脈

脈拍が異常に早い「頻脈」は、心室性期外収縮、心筋細動、心筋粗動などに発展し、脈拍が異常に遅い「除脈」は、洞結節不全症、房室ブロックなどを起こします。これらの病気により、心臓に無理な負荷がかかり心機能の低下につながります。

 

・冠動脈疾患

動脈硬化により、冠動脈が狭窄・閉塞することで、血液が心筋に届かなくなります。その結果、酸欠状態に陥り、心筋が正常に働かなくなり、進行すると心臓そのものの力が低下し、心不全へと発展します。

 

・心臓弁膜症

心臓弁膜症を発症すると、血液を塞き止る、または排出するための弁が狭くなったり(弁膜症)、弁機能の低下により血液が逆流を起こす(閉鎖不全症)ことで心臓に多大な負担がかかります。これにより、心臓のポンプの働きが弱くなり、全身へ送り込む血液量が低下します。

 

・心臓の先天異常

心臓の壁や弁の異常形成など、正常な心機能に障害があると心臓に負担がかかり、心不全になることがあります。

 

・腎不全

腎臓が血液から余分な水分を取り除くことが出来なくなり、心臓が送り出す血液量が増加し、継続的に心臓に負担がかかり続けると心不全が発生します。

 

・高血圧

心拍出量の増加や末梢血管抵抗の増加により、血圧が上昇します。高血圧になると、その対処のために左心室の壁が厚くなり(硬くなり)、十分な血液を取りこめなくなります。

 

・加齢

加齢に伴い、心筋間にアミロイドなどの異物が沈下し、心肥大や拡張障害、さらに弁の変性など、心臓にさまざまな変化がみられます。また、安静時・運動負荷時ともに心拍出量が低下することで、心機能が低下し、心不全をきたします。

 

4、心不全の治療

心不全の治療には、生活の改善に加え、重症度に合わせて薬物を用い、場合によっては運動療法を取り入れます。

 

生活改善は主に、心臓に負担をかけないように、体重を落としたり、アルコール・食塩・脂肪・水分の過剰摂取を避けたり、ストレスを排除していきます。

 

薬物療法は、NYHAやAHA/ACCの重症度に合わせて、ACE阻害薬、β遮断薬などの薬物を用いて心筋や血管を保護します。

 

運動療法は、運動耐容能、心機能、血管機能などの改善を図り、心不全になりにくい体づくりを目指します。

 

4-1、生活改善

心不全を悪化させないための生活の改善は、主に「水分制限」「塩分制限」「嗜好品の禁止・制限」「休息と睡眠」「温度調整」から成ります。これらは患者本人が実践する内容であるものの、看護師は患者が適切に実践しているかをしっかりと確認し、在宅療養に移る際には入念に指導し、心不全の改善・予防に努めなければいけません。

 

・水分制限

水分を摂取しすぎると血液量が増えてしまうため、心臓に負荷がかかります。軽度の心不全の場合は水分制限を行う必要はありませんが、中等度・重度の場合は、過剰に水分を摂らないようにしなければいけません。

 

・塩分制限

塩分の成分であるナトリウムは、水分を体に取り込む性質を持っているため、血中のナトリウム濃度が高くなると、細胞内から細胞外へ水の移動が起こり、循環血液量が増えます。その結果、血圧が上がり心臓に負担がかかるため、重症度に関わらず塩分制限は非常に大切です。

 

・嗜好品の禁止・制限

タバコには血管を収縮させる物質が含まれているため、動脈硬化など血管疾患、それに伴う心疾患を助長させます。また、ニコチンが交感神経系を刺激し、血圧の上昇・脈拍の増加を招きます。

アルコールの過剰摂取も厳禁です。アルコールを摂取することにより一時的に血圧は下がりますが、長期的な飲酒は血圧を上げます。また、心拍数が増加するため心臓に負荷をかけます。少量のアルコールなら問題ないですが、多飲傾向にある場合は、制限しなければいけません。

 

・休息と睡眠

不規則な生活や寝不足、ストレス、過労は血圧を高め、心臓に負荷をかけてしまいます。また、これらは心不全だけでなくさまざまな病気を発症する原因であるため、毎日十分に休息・睡眠をとることが大切です。

 

・温度調整

人間の体は、寒さ感じると血圧を上昇させ、体温を調節します。また、寒いところから暖かいところに行くと急激な血圧変動が起こります。それゆえ、日々の生活の中で寒くなれば防寒具やマフラーを着用するなど保温を心掛け、入浴時には急激な体温変化を防ぐために、脱衣所を暖かくしておくなど配慮が必要です。

 

4-2、薬物療法

薬物療法は、NYHAAHA/ACCの重症度ごとや原因や症状などによって、使用する薬物を決定します。薬物療法は心不全の原因そのものを治すのではなく、心筋や血管を保護するためのものであるため、生活改善も同時進行で行っていきます。

 

NYHA(New York Heart Association)の分類

Ⅰ度 心疾患はあるが身体活動に制限はない。日常的な身体活動では著しい疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じない。
Ⅱ度 軽度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。日常的な身体活動で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。
Ⅲ度 高度な身体活動の制限がある。安静時には無症状。日常的な身体活動以下の労作で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。
Ⅳ度 心疾患のため、いかなる身体活動も制限される。心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する。わずかな労作でこれらの症状は増悪する。

 

AHA/ACC(American Heart Association / American College Of Cardiology)の分類

ステージA 高血圧や糖尿病、肥満などにより、心不全のリスクは高いが、器質的心疾患や心不全はない。
ステージB 左室肥大、心筋梗塞の既往、弁膜症など器質的心疾患はあるが、心不全の兆候・症状がない。
ステージC 器質的心疾患とともに心不全症状の既往歴または現歴がある。
ステージD 最大限の治療をしても心不全症状がある。

 

■重症度による薬物の選択

出典:日本循環器学会 慢性心不全治療ガイドライン

 

無症候性 血圧や糖尿病がある場合には、積極的にACE阻害薬を投与します。ただし、ACE阻害薬に対する忍容性が乏しい場合にはARBを使用します。
軽症 軽症においても無症候性と同様、まずACE阻害薬が適応となりますが、心筋梗塞後の左室収縮機能不全の場合にはβ遮断約を考慮し、心房細動による頻脈が伴う場合には、ジギタリスを使用します。
中等症~重症 ACE阻害薬に加えβ遮断薬の導入を行い、肺うっ血所見や全身浮腫など体液貯留がみられる場合には、ループ利尿剤やサイアザイド系利尿薬を用います。

また、重症度が高い場合にはスピロノラクトンやピモベンダンを追加します。さらにQOLの改善も考慮しておきます。

難治性 体液管理と薬物治療が適正であるか見直し、心臓移植の適応について検討します。積極的な治療においても予後改善が期待できない場合には、本人や家族の同意のもと、苦痛の軽減・排除を主眼とした末期医療ケアに移行します。

 

4-3、運動療法

運動療法は、心機能・血管機能を改善・向上させる効果があり、筋肉量が増えたり、自律神経のバランスが改善されるなど、心不全の悪化を防ぐとともに、再発予防としても非常に有効です。また、運動療法を行うことで気分転換やストレスの軽減につながるため、精神的にも良い影響を及ぼします。

 

なお、心不全患者に適応となる運動療法は、一般的に心疾患の同様であり、「心臓リハビリテーション」と呼ばれています。

 

・運動耐容能への影響

運動することにより、筋肉量の増加、筋肉内の毛細血管の強化に繋がり、身体が多くの酸素を取り込めるようになります。また、骨格筋が増加することで、循環中の血液環流や一回拍出量が増加することで、心機能を強化し、心不全になりにくくなります。

 

・肥満に対する効果

肥満、いわゆるメタボリックシンドロームは内臓脂肪蓄積を病態の根源としており、動脈硬化や高血圧、冠動脈疾患などを発生させる原因の一つです。運動療法を取り入れることで、これら心不全の原因疾患の発症を防ぐことができます。

 

・精神的効果

心疾患患者の約1/3が鬱または抑鬱状態にあり、鬱による気分低下やストレスの蓄積は心疾患の予後を悪化させます。運動療法には鬱を改善させる効果や、気持ちが安らぐなどQOLの改善効果もあるため、精神的にも多大な好影響を与えます。

 

■心不全に対する運動処方

運動の種類 ・早足歩き、自転車こぎ、体操

・軽い筋肉トレーニング(低強度レジスタンストレーニング)

運動の強さ ・最大能力の40~50%で運動(指示されたトレーニング心拍数に準ずる)

・「ややきつい」と感じる、軽く息があがる、軽く汗ばむ程度

運動時間 ・30~60分(15~30分×2回に分けてもよい)
頻度 ・週3~7回(重症例は週3~5回)

・少なくとも週1回は外来リハビリに参加する

 

5、心不全の看護

心不全を患う患者は、上記のような「生活改善」、「薬物療法」、「運動療法」を取り入れて改善を図っていきます。この治療の過程において、各症状の緩和、精神的な安楽、二次的合併症の防止など、患者の状態を的確にアセスメントした上で、適宜、状態に見合う看護を提供していきます。

 

■看護目標

急性期 ①呼吸や循環状態が安定し、生命の危機状態から回復する

②急性心不全により生じる身体的症状が改善する

③急性心不全により生じる不安やストレスが緩和する

④肺炎や尿路結石など、二次的合併症を発症しない

⑤心不全症状を予防する生活習慣を獲得し早期に社会復帰できる

慢性期 ①心不全により生じる身体症状が改善する

②不安やストレスなど精神面の安定が図られる

③心不全に関する確かな知識を有し、自己管理が行える

④心臓の予備能力の範囲内で最大限の活動性を維持できる

⑤心不全の増悪因子を知り、適切な対処が行える

⑥患者・家族が緊急時に適切な対応をとることができる

⑦患者・家族が効果的な社会的支援を得ることができる

 

■看護問題

①機械的要因により心拍出量が低下する可能性がある

②肺うっ血によりガス交換の障害が起こる可能性がある

③体液量が過剰になり、右心不全が増強する可能性がある

④粘膜のうっ血や浮腫により褥瘡や感染を起こす可能性がある

⑤各種ルートの留置により感染を起こす可能性がある

⑥環境の変化や病気に対する不安・ストレスにより不眠状態・精神的不安定となる可能性がある

⑦水分・塩分の摂取制限があり、食事に対する不満がある

⑧心不全を再発する可能性がある

⑨守るべき事柄に対する理解ができず、治癒を長期化させる可能性がある

⑩内服薬の自己管理が困難な可能性がある

 

■急性期・慢性期のアセスメント

自覚的・他覚的症状 ・体重の増加・減少

・浮腫の状態

・呼吸困難、起座呼吸、発作性夜間呼吸困難

・前胸部絞扼感、息切れ、起座呼吸

・チアノーゼ症状

・血圧、心拍数、脈拍(頻脈、徐脈など)

・精神的不穏状態

・薬物療法における薬物の副作用の有無

・心不全により生じる基礎疾患の有無(貧血・甲状腺疾患など)

・血液の混じった痰は肺うっ血または肺水腫の疑い

・顔面蒼白や冷感は心原性ショックの疑い

診察および検査データ ・バイタルサイン

・肺雑音(湿性ラ音・乾性ラ音)

・心音(Ⅲ音、Ⅳ音、ギャロップリズム)

・心電図(ST-T変化、QRS幅)

・胸部X線所見(心肥大、肺うっ血、胸水貯留)

心疾患の既往歴 ・高血圧、不整脈、心筋症、心筋梗塞、弁膜症など
生活における増悪因子 ・水分、ナトリウム、エネルギーの摂取量

・運動量、生活における活動量

・疲労やストレスなどの有無

・感染症の有無

・中断している治療薬の有無

復帰に向けた再調整 ・病気・治療・生活に関する注意点への理解

・家族および職場での役割

・問題やストレスに対する対処

・食事など生活習慣に対する自己管理能力

・ソーシャルサポートの状況

 

6、認定看護師(慢性心不全看護)

最後に、心不全の看護に対してさらなるスキルアップを図りたいという方のために、認定看護師に関する情報を記載します。2014年における慢性心不全看護の認定看護師数は184人で、未だそれほど多くはありません。

 

慢性心不全患者が年々増加する現状において、当該領域の認定看護師の必要性はますます高まっているため、よりより看護を提供したいという強い気持ちをお持ちの方は、ぜひ資格取得へ向けて進んでいきましょう。

 

■必要とされる能力

①心不全患者の身体及び認知・精神機能のアセスメントを的確に行う。

②慢性心不全患者の心不全増悪因子の評価とモニタリングができる。

③症状緩和のためのマネジメントを行い、 QOL を高めるための療養生活行動を支援する。

④慢性心不全患者の対象特性と心不全の病態に応じた生活調整ができる。

⑤慢性 心不全患者 ・家族の権利を擁護し、自己決定を尊重した看護を実践できる。

⑥より質の高い医療を推進するため、他職種と共働し、チームの一員として役割を果たすことができる。

⑦慢性 心不全 看護の実践を通して、役割モデルを示し、看護職者への指導・相談を行うことができる

 

取得・入学における条件

次の1から3の資格を全て満たしていること。

①保健師、助産師、及び看護師のいずれかの免許を保有していること

②実務経験5年以上(うち3年以上は慢性心不全看護の経験)

③現在、同領域に従事していることが望ましい。

 

①~③の条件を満たした上、以下の指定の教育機関で6か月(615時間以上)におよぶ教育課程を修了し、筆記試験に合格すれば、認定看護師の資格を取得することができます。

 

■教育機関

都道府県 教育機関名 住所
神奈川県 北里大学 看護キャリア開発・研究センター 相模原市南区北里1-15-1
兵庫県 兵庫県看護協会 神戸市中央区下山手通5丁目6−24
熊本県 熊本保健科学大学 キャリア教育研修センター 熊本市北区和泉町325

 

■筆記試験

マークシート方式で四肢択一、試験時間は100分。

出題方式 出題数 配点 出題範囲
問題①客観式一般問題 20問 50点 慢性心不全看護における、教育機関のカリキュラムに準ずる(共通科目・専門基礎科目)
問題②客観式状況設定問題 20問 100点
40問 150点

 

まとめ

今や心不全は、高齢者だけでなく若年層や中年層の人にとっても身近な疾患であり、再発リスクの高い疾患でもあります。また、一度発症すると、容易には改善されないため、継続的な治療を必要とします。

 

心不全の看護は観察と指導を主体としますが、精神的なケアも必要不可欠であり、重症度問わずQOLの向上を支援していかなければいけません。心不全の悪化や二次的合併症を防ぐために日々入念に観察し、患者が心身ともに安楽な状態で治療に専念できるよう、心不全に関する確かな知識を持った上で、適切なケアを提供して頂ければと思います。


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