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肺塞栓の看護|医療現場や災害現場での発症リスクと予防法

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肺塞栓

肺の動脈が血栓によって詰まってかかる肺塞栓は、エコノミークラス症候群と呼ばれる症状でも知られています。

入院中や術後、被災後、長期移動後などに発症するとされており、最悪の場合は死に至ることも考えられるため、しっかりとした予防策を打ち立てることが重要です。国内での肺塞栓症は、近年増加傾向にあると言われています。

発症する仕組みや原因、どのようなケースで引き起こされるのか…といったことを把握した上で、先手を打つ対策が求められます。

 

1、肺塞栓とは

塞栓とは、血流によって運ばれた血栓が血管をふさぐ現象です。血栓により動脈が詰まる病気として、心筋梗塞や脳梗塞が知られていますが、肺の動脈が急に詰まると肺塞栓症と呼ばれます。

肺塞栓症の死亡率は急性心筋梗塞よりも高いとされており、症状の兆候などが見られた場合は注意が必要です。長時間での移動を強いられるビジネスマンや旅行者などがかかることで知られる、エコノミークラス症候群と呼ばれる症状も、肺塞栓の1つです。

 

2、肺塞栓の原因

肺塞栓症につながる血栓は、9割以上の確率で下肢の静脈内からできると言われています。この血栓ができることを深部静脈血栓症と呼び、血栓が血流によって右心房・右心室を経由して肺動脈まで到達すると、肺塞栓症につながります。ちなみに、肺塞栓症と深部静脈血栓症を合わせて静脈血栓塞栓症と呼びます。

 

2-1、肺塞栓症にかかりやすい環境

肺塞栓症にかかる患者の例としては、先に挙げたエコノミークラス症候群のように、長時間座席に座った状態を続ける移動中のビジネスマンや旅行者も挙げられますが、それ以外にも肺塞栓症にかかりやすいケースは存在します。肺塞栓症にかかりやすい環境の条件やリスクについて考えてみましょう。

 

■寝たきり生活を送ること

肺塞栓症にかかる人の約半数は入院中とされています。それも、手術を受けた後だったり、けがや骨折をしたり、4日以上寝たきり生活を送った人などが当てはまるそうです。安静期間が終わった後にベッドから起きて歩き始めたら呼吸困難や失神を起こしてしまったり、トイレに行く際に失神発作を起こすなどの事例が挙げられます。

人間は立って歩くことで、脚の筋肉が静脈を刺激し、心臓から送り出された血液を押し上げる補助ポンプの機能を果たして、血液を心臓に戻すことができます。しかし、長期的にベッドで安静する生活を送っていると、筋肉による脚の静脈への刺激が無くなり、血管が拡張して血流が悪くなり、血栓ができやすくなるのです。

通院中でもギブス固定している場合などは、肺塞栓症のリスクが高くなります。また、脳卒中の後遺症で下肢に麻痺に残る人も、脚の筋肉が動かないため静脈が拡張して流れが遅くなり、深部静脈血栓ができやすくなると言われていますし、避妊薬を服用したり、妊娠出産を経た人も血液が固まりやすくなっているため、注意が必要です。

 

■手術によるリスクも

股関節・膝関節置換術や大腿骨骨折などの整形外科手術後に静脈血栓塞栓症が発生したり、腹部手術による肺塞栓症の合併も多いとされています。手術を受ける際に、筋弛緩薬が使用されることでふくらはぎの筋肉の緊張が解かれ、脚の静脈が拡張してしまうことや、術後に血液の固まる力が高まることから、手術中や手術後の肺塞栓症のリスクが高まると言えます。

 

このようにさまざまな危険因子が存在するものの、実際にはそれぞれの因子が重なることで肺塞栓症につながるケースが多いと考えられます。年齢別で言えば、60歳ごろから肺塞栓症で死亡する人の数が急激に多くなってきています。

肥満もリスクとして考えられています。高齢者や肥満体型の人、過去に血栓ができた経験のある人が手術を受けたり、入院する際には、静脈血栓塞栓症が起こる可能性が高くなるため、注意が必要となります。

 

危険因子の強度 危険因子
弱い l  肥満

l  エストロゲン治療

l  下肢静脈瘤

中等度 l  高齢

l  長期臥床

l  うっ血性心不全

l  呼吸不全

l  悪性疾患

l  中心静脈カテーテル留置

l  癌化学療法

l  重症感染症

強い l  静脈血栓塞栓症の既往

l  血栓性素因

l  下肢麻痺

l  ギプスによる下肢固定

肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)より抜粋

 

3、肺塞栓症の症状

肺塞栓症の患者の症状の大半は、突発性の呼吸困難として現れると言われています。さらに半数程度の患者が胸の痛みを、2割程度は失神発作を経験しているとされます。

 

肺塞栓症 呼吸困難、腹痛、冷汗、失神、動悸、せき、血痰
深部静脈血栓症 下肢の腫れ、下肢痛、下肢の色調変化

※左から順に発生頻度が高い

 

症状は肺に運ばれてきた血栓の大きさにもよって出方が違うことが多く、例えば血栓が小さい場合、症状が出ないケースも少なくありません。

しかし、ある程度の大きさの血栓が肺動脈を閉塞すると突発的な呼吸困難を引き起こし、さらに大きな血栓が肺動脈に詰まると血流が途絶えてしまい、失神やショック状態に陥ることもあります。ほかに肺塞栓症の症状としては、全身倦怠感や動悸などが出ることもあります。

肺塞栓症の大半の直接的原因でもある深部静脈血栓症の症候としては、下肢のはれや痛み、皮膚の色の変化があります。深部静脈血栓症は、症状が出ないまま進行するケースも多いとされていますが、特にこれらの症候が片側の下肢のみに出た場合、発症の可能性を疑う必要があります。

 

4、肺塞栓の治療

肺塞栓症にかかってしまった場合、治療法には薬を使うケースや、カテーテル治療、外科手術を施して血栓除去を図るケースなどが挙げられます。治療法や注意点などをまとめてみましょう。

 

薬剤の投与

肺塞栓症の治療としては、初期段階では酸素や生理食塩水、血管収縮薬の投与があります。以降の治療としては、残った凝血塊が拡大して閉塞を起こすことを防ぐ抗凝固療法などが挙げられます。

凝固因子を阻害する物質の作用を促すヘパリンは、抗凝固療法にも有効な薬です。ただし、ヘパリンには出血や血小板減少症、アナフィラキシーを引き起こす可能性があり、投与が長期に渡ると低カリウム血症の原因にもなり兼ねません。

低カリウム血症とは、体内の総カリウム貯蔵量が不足したり、血清カリウム濃度が3.5mEq/Lを下回る状態を指し、脱力、筋力低下、多尿、インスリン分泌障害、四肢麻痺などの症状が現れます。また、ヘパリンを長期投与して骨粗しょう症を引き起こす可能性も指摘されています。

また、ヘパリンと同じく抗凝固療法に用いられるワルファリンは、納豆やクロレラなどビタミンKが豊富な食べ物を摂取すると効果が抑えられるため、使用中はそれらの食べ物を控える必要があります。

 

■血栓除去

肺動脈内の血栓近くまでカテーテルを挿入し、血栓を吸引したり粉砕する方法があります。また、手術をして肺血管内にある血栓を取り除く外科治療法もあります。

 

5、肺塞栓の予防

歩行が困難な患者が静脈血栓塞栓症にならないために予防する策としては、足関節を動かしたり、脚の上げ下げをして筋肉を動かし、血流を良くさせることが有効です。脚をマッサージすることも、予防策になります。

また、圧迫力の強い弾性ストッキングを着用するという手段もあります。弾性ストッキングを着用させる場合、着用前に皮膚トラブルや浮腫の有無などを確認し、着用後に血行状態や血色を観察したり、チアノーゼ、びらんや水疱、痛みやしびれの有無などを確認し、圧迫症状を確かめる作業が重要となってきます。

他に、ふくらはぎやひざから足首にかけてゴムチューブを巻き、空気を送り込んで加圧し、静脈の流れを速くさせる間欠的空気圧迫法、足の裏側を周期的に圧迫するフット・ポンプ法(下図)などの手段を取ることもあります。

ベノストリームFT 圧迫療法 逐次型空圧式マッサージ器

出典:ベノストリームFT 圧迫療法 逐次型空圧式マッサージ器 テルモ

 

看護の現場でこのような具体的な予防策を講じるほか、深部静脈血栓症や肺塞栓症の兆候がないかどうか、観察を続けることも有効な対策の1つとなります。

 

6、エコノミークラス症候群

肺塞栓の中でよく知られているのが、エコノミークラス症候群と呼ばれる急性肺動脈血栓塞栓症です。飛行機などの乗り物の座席に座る状態を長時間続けることで発症すると言われていますが、災害現場で被災者がかかってしまうケースも指摘されています。

エコノミークラス症候群に陥ってしまう仕組みをまとめ、被災地で生活を送る人たちがエコノミークラス症候群にかかってしまわないために、注意すべきポイントなどを挙げていきましょう。

 

6-1、エコノミークラス症候群とは

エコノミークラス症候群は飛行機の座席に座るなど、同じ姿勢を長時間保つ状態になった時に発症します。長時間座って脚を圧迫した状態が続くことで局所的に水分不足になり、血液の粘度が上がって固まるために血栓ができ、身体が座席から離れて脚の圧迫が解放された際、血管から血栓から剥がれて肺動脈に詰まり、呼吸困難や動悸など、循環器系のトラブルをもたらします。

飛行機のエコノミークラスに限らず、ファーストクラスの座席でも起こりうる症候群で、バスや電車などの交通機関を利用した場合でも、座っている時間が長時間に渡ると発症する可能性があります。「旅行者血栓症」「ロングフライト血栓症」とも呼ばれています。

 

6-2、災害とエコノミークラス症候群

飛行機などによる長時間の移動中に起こるケースが多いエコノミークラス症候群ですが、災害発生時の被災者が発症したというニュースも、しばしば聞かれます。これは大規模地震が発生して、被災者が車の中で避難生活を過ごす場合に発症するケースが当てはまります。

夜間や昼間に車の座席に座って長時間に渡って同じ姿勢を保つことになるため、エコノミークラス症候群にかかってしまうとされています。

被災地で車中泊を繰り返す生活を送っている避難者に接する機会があった場合、水分補給や足を動かす運動を促進させるなど、看護師が率先して予防策を周知させる必要があります。

 

6-3、クラッシュ症候群

災害が起きた際に発生する、エコノミークラス症候群と類似した症状として、クラッシュ症候群があります。地震が起きて建物などに身体を挟まれた人が、救出された後に容体が急変し、死に至ることもあると言われる症候群です。

クラッシュ症候群は、災害現場などで長時間手足などが挟まれるうちに筋肉の壊死が始まり、そこからカリウムなどの有害物質が大量に血中に放出されることが原因と言われます。

救出されて手足の圧迫から解放された際に、それまで塞がれていた血流が戻り、有害物質を含む血液が全身に流れ出すことで、高カリウム血症やチアノーゼ、意識混濁などの症状を引き起こしてしまうのです。

高カリウム血症とは、体内の総カリウムの貯蔵量が過剰になったり、血清カリウム濃度が5.5mEq/Lを上回る状態を指し、弛緩性麻痺などの症状があります。不整脈を引き起こす原因にもなり、心停止にもつながりかねない症状です。

災害現場で瓦礫などに手足を挟まれている人を発見した場合、圧迫され続けている身体の部位よりも心臓に近いところをタオルなどで縛るなどの応急処置を施し、救出後は直ちに医師の診断を受けさせる必要があります。

 

まとめ

肺塞栓が引き起こされる事例としては、さまざまなパターンが考えられます。世間ではエコノミークラス症候群という名前が広まっているため、長時間乗り物の座席に座って移動する人がかかるというイメージが先行しているかもしれませんが、入院中や術後など、元々病院生活を送っている人にも発症リスクがあることから、看護の現場で発症を食い止めることが、重要な課題となってきます。

予防のための弾性ストッキングの着用やフット・ポンプ法などに使われる装置の作業を着実にこなすことはもちろん、肺塞栓や深部静脈血栓症の兆候の特徴をしっかりと把握した上で、入院患者らにそのような兆候がないかどうか、日ごろから細やかに観察する姿勢も大切です。

また、災害支援ナースとして災害発生時に現場に遭遇したり派遣され、災害看護を実施する際には、被災者にエコノミークラス症候群が引き起こされないように予防策を十分周知するなど、的確な対応も求められます。


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