内科的腎疾患の診断に不可欠な検査である、腎生検。検尿や血液検査、レントゲン検査では診断が不十分な場合に行われます。正確な診断を得るために重要で有効な検査方法ですが、年齢や病態により適応や禁忌が異なり、看護における注意点もさまざまです。
今回は、腎生検の方法と適応、看護手順について詳しく解説しますので、しっかりと詳細を確認し、実践に生かしましょう。
1、腎生検の目的
腎生検の目的は、腎疾患の正確な診断と病態や予後の予測をし、治療方法を決定することです。比較的安全な手技であり、短時間で終了するため、患者の負担も最小限に抑えられます。しかし、採取時の穿刺に伴う出血が必ず起きることで合併症を引き起こすリスクも十分に考えられるので、その点に関しては注意が必要です。
また、すべての患者の病態に適応するわけではなく、禁忌となる場合も少なからずあります。検査の看護や管理をするにあたっては、あらゆる腎疾患の知識を有しておくことが必要です。
1-1、腎生検の適応
腎生検の適応となる病態として一般的に多くあげられるのは、①検尿異常、②ネフローゼ症候群、③急性腎不全、④急速進行性腎炎が疑われる場合などです。成人と小児で適応は異なりますが、ここでは成人の適応ケースについて見ていきましょう。
①検尿異常
検尿異常は、タンパク尿単独、血尿単独、タンパク尿と血尿両方の3つのパターンがあります。どのパターンも継続して異常が見られる場合は腎生検の適応です。また、尿タンパクが(+)〜(2+)程度持続し、1日の尿タンパク量が0.3〜0.5g以上の場合も、腎生検によって糸球体疾患を鑑別する必要があります。
②ネフローゼ症候群
血液中のタンパク質が減少し、浮腫や血中コレステロールの上昇などが現れるネフローゼ症候群。成人でこの疾患が見られる場合は、糖尿病性腎症をのぞいて腎生検を行うことが原則です。
③急性腎不全
急性腎不全の場合は原因が数多く、原因を診断する目的として、腎生検は有用とされています。
④急速進行性腎炎
数週間から数ヶ月で急速に腎機能が悪化し、放置すれば末期腎不全まで進行するため、急速進行性腎炎が疑われる場合は早期の腎生検が必要です。
1-2、小児における適応
成人の適応例と比較して、小児期に見られる腎疾患の場合、一般的に腎生検の対象にはならないことがほとんどです。しかし、小児の腎疾患において、特にIgA腎症や膜性増殖性腎炎などを早期発見し、治療できる点で腎生検は重要な意味を持つとされています。ここでは、代表的な適応を紹介します。
文献1)より出典・引用
① 血尿 | 多くは無症候性血尿といわれるもので、腎炎と診断されるものはほとんどありません。しかし、まれに血尿の程度が強い場合や、経過中にタンパク尿を伴ってくる場合は腎生検が適応します。 |
② タンパク尿 | 起立性タンパク尿は適応となりません。早朝タンパク尿が診断基準となります。 |
③ タンパク・血尿群 | タンパク尿のケースと同様に判断しますが、早朝タンパク尿がテープ方で1+以上持続する場合は、IgA腎症など慢性腎炎が疑われます。 |
④ 急性腎炎症候群 | 急性腎炎で、低補体血症の改善傾向が認められない場合は腎生検が適応します。 |
⑤ ネフローゼ症候群 | ほとんどの小児特発性ネフローゼ症候群は微小変化型であり、腎生検の適応になりません。しかし、好発年齢(2〜10歳)以外の初発例や頻回再発例などで適応が検討されます。 |
⑥ 紫斑病性腎炎 | 血管性紫斑病でタンパク尿が長期的に持続する場合は腎不全に至ることがあり、ネフローゼ状態にある症例は早期に腎生検を検討します。 |
⑦ 全身性エリテマトーデス(SLE) | 免疫異常を伴う腎炎では、小児の場合、このSLEであることがほとんどで、全例が腎生検の適応となります。 |
⑧ 急性腎不全 | 出血傾向、腎不全の程度などを十分に考慮して、適応を検討します。 |
⑨ その他 | 軽微な病態しか認められず腎生検の適応がない場合でも、将来や生活のために検査を希望される場合は、検査に対する理解を得た上で腎生検を行う場合があります。 |
2、注意すべき禁忌
安全な腎生検を行うためには、禁忌となる病態に対しての細心の注意を払う必要があります。特に問題になるのが、出血傾向です。血小板数、出血時間、PT/APTTなどは慎重に判断しなければなりません。
また、禁忌ではなくとも慎重さが求められる場合もあり、特に、重症高血圧の場合は降圧治療を優先します。高齢者の場合は、血管石灰化などによる出血合併症のリスクが高くなりますので、この点でも十分な検討が必要です。
患者の予後を悪化させるあらゆる可能性を十分に留意し、看護に臨みましょう。以下、一般的に禁忌とされる病態を紹介します。
l 管理困難な出血傾向
l 腎の数・形態の異常(機能的片腎、馬蹄腎) l 嚢胞腎 l 水腎症 l 管理困難な全身合併症(重症高血圧症,敗血症) l 腎実質内感染症(急性腎盂腎炎、腎周囲膿瘍、膿腎症) l 腎動脈瘤 l 末期腎(高度の萎縮腎) l 息止めが30秒間できない場合(超音波ガイド下針腎生検の場合) l 腎生検後の安静が困難な場合 |
文献2)より出典・引用
3、腎生検の合併症
腎生検において、起こりうる合併症は「①出血」と「②感染」が主なものです。腎生検中に出血等の合併症が発生する場合もあり、その際は検査を中断します。
また、腎生検の針を腎臓に挿し込む時や、検査後の処置で感染することもありますので、看護や観察によって早期発見、または予防し、合併症リスクを減らすことが重要です。
①出血
血腫や血尿として症状にあらわれます。血腫は多くの患者に見られますが、ほとんどの場合、症状はなく自然に消失します。ただし、血腫が大きくなると腰背部痛や、発熱が見られることがあります。
出血がさらに高度になれば輸血が必要となる場合もあり、注意が必要です。腎生検後12〜24時間後に起こることが多く、検査後は傷口を圧迫して安静を保つことが重要です。しっかり管理してください。
②感染
穿刺時に皮膚の常在菌が入ったり、腎生検後の傷口から感染する場合があります。また、検査後の安静により尿路感染症を合併することも考えられますので、看護の際は細心の注意を払いましょう。
③その他の合併症
非常に稀に、穿刺時に他の臓器を誤って傷つけたり、動静脈瘻で合併症を引き起こすこともあります。
4、腎生検の方法
腎生検の方法には大きく分けて、①超音波ガイド下針腎生検と、②開放性腎生検の2つがあります。どちらの場合も入院検査になり、検査前後の看護には厳格な管理が求められます。
①超音波ガイド下針腎生検
局所麻酔のもと超音波で腎臓の位置を確認しながら、背中から生検針を刺入して腎臓の組織を採取します。病棟や病室で行い、通常はこの方法が選ばれます。穿刺中は患者に息を止めてもらう必要があるため、深呼吸を促したり声かけを行います。
②開放性腎生検
肥満などで生検針による検体の採取ができない場合や、片腎などで合併症の危険性が高い場合に行われます。また、1歳以下や身長が75cm以下の患者に対しての経皮的腎生検は禁忌のため、開放性腎生検が選ばれます。手術室において全身麻酔のもと、腹部を切開して検体を採取する方法です。開腹する場合と、腹腔鏡下で行う場合があります。
5、腎生検前後の看護
腎生検は内臓を穿刺するため、患者が不安や恐怖感を抱くことが多くあります。そのため、医師からの説明はもちろんですが、看護師からの十分な事前のオリエンテーションが重要です。
また、腎生検後の観察に関しては、出血や感染などの合併症に注意して看護することが求められます。観察ポイントをしっかりと把握し、検査後の管理を十分に行いましょう。長時間の安静が必要なため、腰痛など苦痛を訴える患者のケアにも心を配ってください。
5-1、腎生検前の看護
担当医師からの患者・家族へ検査の必要性や方法、合併症の可能性などを説明し、承諾書を得ます。オリエンテーションをしっかりと行い、看護計画を元に必要な物品の準備と処置の確認を済ませましょう。
また、術前訓練として、息を止める呼吸訓練や床上排泄訓練も行います。特に、床上排泄訓練に関しては、羞恥心や緊張を感じて上手くいかない場合も多いので、さり気なく周囲の目から遠ざけた環境を作り、検査後の排泄がスムーズになるよう配慮しましょう。
医師の指示のもと、止血薬の投与も開始します。穿刺部位の点検をし、必要であれば剃毛を行います。
5-2、腎生検後の看護
検査後は合併症のバイタルサイン測定や顔色、痛みの程度など、一般状態の観察をしっかりと行うことが重要です。
■看護と観察ポイント
① 検査後、仰臥位にて6〜12時間程度の絶対安静
② 医師の診察後に砂嚢を除去、ベッドのギャッチアップ ③ 医師が診察し包帯交換の後、安静解除 ④ 排尿のチェック(量、色、混血の有無、回数など) ⑤ 穿刺部位の出血や血腫の程度 |
まとめ
腎生検は、正確に腎疾患を診断できる安全な検査方法です。しかしながら、検査後の安静など患者負担も少なからずあり、まれに合併症を引き起こすリスクも存在します。
適応と禁忌をしっかりと頭に入れ、検査前後の看護と観察を細かく実施しましょう。出血や発熱など、少しでも合併症が疑われた時は迅速に医師の指示に従ってください。
参照・引用文献