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深部静脈血栓症の看護|発症の原因、検査と治療、予防を含むケア

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深部静脈血栓症の看護

一般的には「エコノミークラス症候群」として知られている深部静脈血栓症(DVT)。この疾患は長距離移動で長時間同じ姿勢を強いられる旅行客や長距離ドライブの同乗者、あるいは大震災後、車中泊の被災者を中心に発症し、一躍注目を集めるようになりました。

この疾患についてよく知り、患者さんに対してより良い看護を提供できるようにしましょう。

 

1、深部静脈血栓症とは

深部静脈血栓症(deep veinthrombosis:DVT)は、四肢(通常は下肢)の深部静脈(筋膜下静脈)に血栓が作られてしまう疾患です。

私たちの体には心臓から手足のほうへ流れている動脈と、手足から心臓のほうへ流れる静脈が網羅しています。心臓はポンプの役目をして、血液を動脈に送り出していますが、静脈にはポンプがないため、筋肉の収縮がポンプの代わりになります。

手足を動かすなど筋肉に力を入れることにより、静脈の流れが速くなります。血管内部には血液が循環しているために血液が固まる(凝固)ことは通常ありません。

しかし、手足の深部静脈の内部では血液が凝固することがあります。これが深部静脈血栓症です。

 

2、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症

深部静脈血栓症になると、血管内に血液のかたまり(血栓)ができるようになります。この血栓が遊離して静脈の血流に乗り肺へ移動。その結果、肺動脈を閉塞すると肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)となります。

つまり、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症は連環した病気、言い換えれば肺血栓塞栓症は深部静脈血栓症の合併症と言えるのです。この2つを併せて「静脈血栓塞栓症」と呼びます。

肺塞栓症

出典:[78] 肺塞栓症 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス

 

この疾患は多くは下肢(足)に発症し、その中でも特に膝下静脈・大腿静脈・ふくらはぎの後脛静脈が最も発症しやすい傾向であることもわかっています。

 

3、深部静脈血栓症の原因

静脈の血流は、歩行をはじめとする下肢(足)の運動で起こる筋肉の収縮によって助けられています。そのため、長時間同じ姿勢のまま足を動かさないでいると、静脈の血液の流れが遅くなり、血栓ができます。

日常生活でも小さな血栓は発生し、肺の動脈へ送られることがありますが、小さい血栓は自然に溶けるのでそれほど心配はいりません。しかし、血栓が大きくなってから肺の動脈へ送られると詰まる可能性があり、命を落とす危険があります。

この疾患は、飛行機やバスなどで同じ姿勢で長時間座っている時に起こることがよく知られているほか、災害時に狭い空間で避難生活を強いられた結果、発症し、突然死を招くこともあります。血栓のできる原因が静脈の血液の滞留にあるとすると、次の場合、発症が考えられます。

 

発症の原因 ・  下肢の手術後に同じ体勢で運動をしなかった場合

・  下肢の骨折などでギプスにより下肢運動が制限されている場合

・  高齢等で歩行が困難な場合

発症リスク

(傾向)

・  脱水の傾向にある人

・  血液が凝固しやすい性質の人

・  腸骨静脈圧迫症候群の人

・  外傷や出産、手術など出血を伴う状況にある人(人体のしくみにより、血液が凝固しやすくなるため)。

発症リスク

(状態・疾患)

・  高齢者

・  下肢静脈瘤

・  下肢の手術

・  骨折等のけが

・  悪性腫瘍(がん)

・  過去に深部静脈血栓症、心筋梗塞、脳梗塞等を起こした事がある

・  肥満

・  経口避妊薬(ピル)を使用中である

・  妊娠中または出産直後である

・  生活習慣病(糖尿病、高血圧、高脂血症等)がある

 

これらに該当する方は、特に注意が必要です。このほか、湿度が20%以下(いわゆる乾燥状態)の環境下も発症原因の一つと考えられています。

 

4、深部静脈血栓症の症状

深部静脈血栓はほとんどの場合、ふくらはぎの小静脈に起こりますが、たいていは無症状で発見されにくいものです。患者さんの中にはその症状を『違和感を感じる』といった漠然とした表現でしか示せないこともあります。症状と徴候としては、

 

・  漠然とした疼痛

・  静脈に沿った圧痛、もしくは圧迫感

・  浮腫

・  紅斑

 

がありますが、特異的ではなく、頻度や重症度は患者さんによってまちまちです。膝を伸ばした状態で足首を曲げたとき、たまにふくらはぎに不快な感覚がある(ホーマンズ徴候)ものの、特徴的な症状とは言えません。外見や患者さんの愁訴のみでは診断しにくいこの疾患を検査せずして予測するポイントとしては、以下のことが挙げられます。

 

・  脚の圧痛

・  脚全体の腫脹

・  両ふくらはぎ間の3cmを超える外周差

・  圧痕浮腫

・  表在性の側副静脈

 

これらのうち3つ以上が見られる場合は、この疾患の可能性があるとして良いでしょう。この疾患は軽度の発熱症状をみせることがあります。特に手術後の患者さんでは、原因不明の熱の原因となることもある上に、肺塞栓症を発症すると、息切れや胸膜炎性胸痛が発症することがありますので、術後の看護はその点にも気を付ける必要があります。

この疾患で気を付けたいのはフリーフロート血栓です。その名の通り、遊離した血栓です。血管が完全にふさがってしまった場合は、血栓はその場にとどまり、遊離しにくく肺まで運ばれる危険性は減ります。

ただし、血流が停滞するため、とどまった場所を中心にさまざまな症状が現れます。その一方、血管内に浮き上がっているような血栓は遊離しやすく、肺血栓塞栓症の原因となることがあります。

こうした血栓をフリーフロート血栓(非閉塞型浮遊血栓)といい、血管を完全にはふさいでいないので血流が保たれ、症状はあまり現れなくなります。このため肺血栓塞栓症を起こしやすい深部静脈血栓症は無症候性のものが多くなります。

 

5、深部静脈血栓症の検査

深部静脈血栓症は肺血栓塞栓症をひとたび発症すると、1時間足らずで死亡に至ることもある疾患です。診断にはさまざまな検査があります。中でも下肢静脈超音波検査や凝固線溶マーカーのD-dimer<ダイマー>(血液検査)などの検査は不可欠です。これら検査の結果、深部静脈血栓症が疑われる場合は、さらに造影CT検査などで精査していきます。

 

下肢静脈超音波検査

最初に行う検査です。下肢静脈を超音波で描き出すものですが、検査機器の性能も高くなってきているとはいえ、下大静脈、腸骨静脈といった中枢側の静脈は、描出の難しい場合もあります。また、鼠径靱帯以下の評価には有効ですが、そこよりも上のほうで血栓が疑われる場合は、CTなどの画像検査が別途必要です。

 

D-ダイマー(血液検査)

Dダイマーは、線維素溶解現象(フィブリン溶解現象)を調べる検査です。体の中のどこかに血栓ができていると、線溶現象(固体である線維素、いわゆるフィブリンが、線維素分解酵素であるプラスミンの作用を受けて液体の状態に溶けること)が亢進し、FDP、Dダイマーが高い値を示します。

この検査は静脈血栓塞栓症の診断に有効で、治療の効果を判定するときも行います。ただし、D-ダイマーは、炎症、腫瘍、消化管出血、臓器出血、リンパうっ滞などでも上昇するため、陽性を示したとしてもこれだけで静脈血栓塞栓症と確定診断することはできません。血栓の有無を判断するには他の検査と併せて診断する必要があるのです。

 

造影CT検査

血管内に造影剤を注入し、血管の形態や走行、閉塞の状態を撮像、確認する検査です。機器の性能の目覚ましい向上により、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症をこの1回の検査で確認できる上、血栓の部位(範囲)や性状、血流(還流障害)の把握と、疾患確定後のケアの判断に大いに役立ちます。

診断例として「血栓の動揺あり」とあった場合は、肺血栓塞栓症の発症リスクが高いことを示します。こうした患者さんの安静度については医師に確認する必要があり、その看護も極めて繊細なものが求められます。

さらに、肺血栓塞栓症を診断する場合は、造影CTや肺シンチグラムを行います。カテーテルを肺動脈まで進めて行う肺動脈造影も行われます。

 

6、深部静脈血栓症の治療

深部静脈血栓症の治療は、発症が確認され、肺血栓塞栓症を引き起こす危険性もあることから、一刻も早い治療が望まれます。そのため、治療には、①血栓症の進行や再発の予防、②肺血栓塞栓症の予防、③早期・晩期後遺症の軽減、に目標を置くこととなります。

治療の中でも第一に選択されるのは抗凝固療法です。これは肺血栓塞栓症や、残存している血栓が遊離して発生する再閉塞(セカンドアタック)の予防法として最も効果的です。

また、深部静脈血栓症の予防として知られる圧迫療法(弾性ストッキング・弾性包帯の着用)は、治療として広く実施されています。このほか、カテーテル血栓溶解療法、外科的血栓摘除術、下大静脈フィルター留置術などがあります。

 

治療法 治療内容
抗凝固療法 抗凝固薬を用いて、血液凝固を阻害することにより血栓形成を予防する。

注射薬→ヘパリン、フォンダパリヌクス

経口薬→ワルファリン、NOAC(日本国内ではリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンの3種)

NOACはワルファンに比較して利点は多いものの、さらなる開発が待たれている。

圧迫療法

 

患肢を圧迫して、下腿の筋ポンプ作用の増強および、微小循環の改善を図る。圧迫を加えるものによって3つに分類される。

①  弾性ストッキング

②  包帯圧迫法

③  間歇的空気圧迫法(IPC)

一般的に、重症心不全、重度の末梢動脈疾患(PAD)、有痛性青股腫、重度の感染性炎症などの患者さんには施術できない。

カテーテル血栓吸引・溶解療法 カテーテルを血管内に挿入、留置して、血栓を吸引したり、溶解剤を投与したりすることによって血栓を減少させる。
外科的血栓摘除術 外科的に静脈を露出させ、血栓を除去する。
下大静脈フィルター留置術 下大静脈にフィルターを留置し、フリーフロート血栓が肺まで移動することを防ぐ。治療後、フィルターは回収することを推奨している。

 

十分な効果を発揮させるには、各治療法の特徴を十分に理解し、適正な使用と管理を行うことが必要です。圧迫療法では、末梢血管領域の血管評価は必須となります。すでに深部静脈血栓症が生じている場合には、その血栓が遊離するリスクがあるため、血栓の所見(範囲、性状、還流障害)を絡めて施術を検討する必要があるのです。

また一般的には、重症心不全、重度の末梢動脈疾患(PAD)、有痛性青股腫、重度の感染性炎症などの患者さんには施術できないとされています。ほかにも施術に注意が必要な症候・疾患があるほか、圧迫法の種類によっても禁忌事項が異なるため、施術法の正しい理解と禁忌・禁止事項をよく確認してから行いましょう。

 

7、深部静脈血栓症の看護

深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症は早期発見、早期診断・治療により救命の確率が高くなる病気です。患者さんの変化や原因不明の急変などに対し、肺血栓塞栓症に関連した症状ではないかと、疑いをもてるかが重要なのです。

そのためには深部静脈血栓症について日頃から理解を深めておき、肺血栓塞栓症の発症には迅速かつ適切な対処ができるように備えておきましょう。

肺血栓塞栓症が発症しやすいタイミングは、安静状態から身体を動かしたとき。このことを念頭に置いて、初回歩行時には必ず付き添い、清拭や体位変換、排泄、リハビリテーション、処置、検査、食事などを行う際には、肺血栓塞栓症の前兆的な症状や症候を見逃さないようにします。看護時の観察のポイントは以下の通りです。

 

対象 観察ポイント
患者 ・  足背動脈の有無(触知できない場合は下肢深部静脈血栓症を発症している可能性がある)

・  下肢の疼痛や腫脹・熱感

・  下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋)の把握痛

・  ホーマンズ・サイン(足の背屈により生じるふくらはぎの痛み)の有無

・  採血データ(特にDダイマー)や下肢エコー

肺塞栓症の症状 ・  急激な呼吸困難

・  血圧低下

・  ショック

・  チアノーゼ

・  胸痛

・  意識障害

 

8、深部静脈血栓症の予防法

深部静脈血栓症を予防する方法には、「基本的予防法」「理学的予防法」「薬物的予防法」の3つが挙げられます。これらを単独、または併用して患者さんに行うことによって効果的に予防できると考えられる一方、相乗効果による過剰作用が現れかねません。両側面に注意して行いましょう。

 

基本的予防法

早期離床と運動、下肢挙上、脱水予防などは、最も重要で基本的な予防法です。理学的予防法(圧迫療法)や薬物的予防法(抗凝固療法の導入)の継続が困難な症例にも実施できるというメリットがあります。運動量の低下を伴う入院生活はこの疾患のリスクになるため、すべての入院患者さんが基本的予防の対象になります。

 

種類 効果 注意点ほか
早期離床と歩行 ふくらはぎの筋ポンプと足底のフットポンプの作用を活性化させ、下肢の静脈還流を促進し、下肢への静脈うっ滞を軽減。 ・歩行が困難な場合は、移乗や立位訓練、足踏みなど、抗重力下で足底部に体重負荷をかける運動を行う。

・うっ滞が生じる姿勢(静止立位や下肢下垂)は方法や時間など別の方法を配慮する。

下肢の運動、足関節運動 筋ポンプ作用とフットポンプ作用を活性化する。筋ポンプを効率よく働かせるため、足関節の底背屈運動を中心に行う。 自動運動のほうが他動運動よりも効果的。大歩行が困難な患者さんにも実施できるが、自動運動ができない場合や不十分な場合は、徒手的に他動運動を行う。
足関節の背底屈運動 筋ポンプ作用とフットポンプ作用を活性化する。
下肢挙上 生理的作用による下肢静脈還流の促進。 ・正しい挙上肢位になるように注意する。

・車椅子や椅座位、端座位、立位による長時間の下肢下垂を避け、時間をみて下肢を挙上する。さらに、長座位やレッグレストの使用による水平挙上にも配慮する。

・心肺への静脈還流量が増加するため、心不全の患者さんへは禁忌。

 

理学的予防法(圧迫療法)

下肢を周囲から機械的に圧迫し、静脈血の滞留を軽減して予防します。圧迫療法は静脈内皮の損傷を防ぐので、深部静脈血栓症のリスクが高く、出血リスクも高い患者さんの場合、第一に選択される予防法です。

 

種類 効果 注意点ほか
弾性ストッキング 末梢から中枢へと漸減的に圧を加え、静脈還流を促進する。 深部静脈血栓症の治療目的のものと予防目的の弾性ストッキングとでは、圧力設計や耐久性などが異なるので、目的に応じた種類を使用する。血栓予防用の弾性ストッキングは入院中の臥床安静での着用を想定しているため、耐久性は低い。
包帯圧迫法 どのような下肢の形状でも使用可能。状態に合わせて圧迫圧や範囲を調節できる。弾性ストッキングが履けない、サイズが合わない、あるいは皮膚障害などで中断した、下肢の手術や変形など、ストッキングを装着できない場合に使用。 ・下肢末梢から中枢に向かって同じ張力と層数で巻き上げる必要がある。

・包帯がずれにくいよう、包帯角度を調整したり、チューブ包帯を下地に装着し、摩擦力によってずれを予防したり、肢位や包帯法を調整しながら巻き上げるなどの工夫が必要。

・巻くたびに圧が異なり、緩みによる圧の低下が起こりやすいというデメリットがある。

間歇的空気圧迫法(空気圧ポンプ;IPC 効率よく能動的に静脈流出量を増加させる。

①    足底型(フットポンプ)

②    下腿型(カーフポンプ)

③    下腿大腿型(カーフタイポンプ)

④    足底下腿型(フットカーフポンプ)

の4種類を患者さんの状態、目的などに応じて選択する。

深部静脈血栓症存在下、深部静脈血栓症既往の疑いがある場合、全ての症例で禁忌となる。IPCの圧迫圧、加圧時間、加圧間隔などの設定は、装着部位や機種によって異なるため、説明書をよく読む必要がある。

 

薬物的予防法(抗凝固療法)

わが国のガイドラインでは、深部静脈血栓症のリスク要因の高い患者さんに対し、最も推奨されている予防法です。抗凝固薬を用いて、血液凝固を阻害することで血栓形成を予防します。投与時間など詳細な指示を順守し、薬剤の特徴や投与期間、投与法をはじめ、禁忌、併用注意、副作用などを確認することが重要です。ここでは特に経口薬を紹介します。

 

薬剤 種類 問題点
ワーファリン 経口薬 ・  効果が十分に現れるまでに1~2週間かかります。

・  食事の影響を受けてワーファリンの投与量を変更する必要があるために定期的に血液検査を行い、効果をチェックする必要がある。

・  血液凝固に必要なビタミンKの働きを低下させる作用があり、出血傾向になる。

NOAC

(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)

経口薬 ・  効果が早い。

・  定期的な検査を必要としない。

・  適用例が少ないため効果を実証できない。

 

まとめ

深部静脈血栓症は無症候性が多いのですが、患者さん本人も気づかない「疾病のちょっとしたサイン」を見逃さないことが大切です。症状を訴えない場合でも、視診や触診の結果、なんとなくむくんでいる、左右差がちょっとあると気づくこともあります。

こうしたサインを見つけるためには、日頃から患者さんの様子を注意深く観察し、多くの下肢をみて触ってみることが必要です。入院患者さんすべてにこの疾患の可能性があるということを念頭に入れておくと良いでしょう。


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