不整脈のひとつ、心房細動が増えています。心臓の中の上部にある心房が小刻みにけいれんする病状で大半の人は頻脈になり動悸、息切れなど日常生活に支障をきたします。不整脈のなかでも患者数が最も多く、100万人程度の患者がいると推定されています。
怖いのは血栓ができやすくなることで、その血栓が脳に飛んで脳の血管が詰まる心原性脳塞栓症が多いことが明らかになってきたため、その予防が重要になってきました。
従来は薬物治療が主でしたが、血管内に入れたカテーテルの先端から高周波電流を流して心臓の異常部位だけを焼き切るアブレーション治療(電気焼灼)が根治治療として確立してきました。薬物、根治治療を確かなものにするためには適切な看護、観察が大切です。
1、心房細動の基礎知識
心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしている臓器です。心臓の4つの部屋(左心房、右心房、左心室、右心室)のうち、上に心房、下に心室があります。このうち心房が痙攣するように細かく動くのが心房細動です。
心臓の疾患ですが、脳梗塞の原因のひとつです。高齢化社会の進展に伴い増えている病気を未然に防ぐことにつながりますので注意深い看護が必要です。
1-1、心房細動とは
右心房上部にある「洞結節」で電気を作り、心房と心室の間にある「房室結節」が電気のタイミングと量を調節することで、心臓の各部屋が適切な速さと順序で動き、血液を全身に巡らせます。
この調節機能がうまく働かないと「心房細動」になり、動悸や息苦しさが起きます。1分間140回以上の頻脈は息苦しさを覚えます。突然起きた場合は、心臓が送り出す血液量が減って血圧が下がることもあります。
1-2、心房細動の危険因子と基礎疾患
加齢とともに心房細動は増え、各年齢層とも男性が、女性より有病率が高いことが明らかになっています。欧米より日本人の有病率は低く、その理由は明らかではありません。
心房細動が起きやすい基礎疾患として、器質的な心疾患である心肥大、心不全、心虚血があげられます。また、心臓に病気がなくても高血圧との関係はかなり高いです。
飲酒は男性の場合の危険因子とされ、特に飲酒量増加は短時間でも発生危険度が増すとの研究があります。心原性脳塞栓症の危険因子を評価するため、CHADS2スコアが使われています。
■CHADS2スコア
危険因子 | 点 | |
C | Congestive heart failure(うっ血性心不全)/ LV dysfunction(左室機能不全) | 1 |
H | Hyper tension(高血圧) | 1 |
A | Age>75y(75歳以上) | 1 |
D | Diabetes mellitus (糖尿病) | 1 |
S2 | Stroke / TIA(脳梗塞、一過性脳虚血発作) | 2 |
合計 | 0〜6 |
■CHADS2スコアによる脳梗塞発生のリスク
CHADS2スコア | 脳梗塞発症率 |
0 | 1.9%/年 |
1 | 2.8%/年 |
2 | 4.0%/年 |
3 | 5.9%/年 |
4 | 8.5%/年 |
5 | 12.5%/年 |
6 | 18.2%/年 |
2、心房細動の看護計画
心房細動は、動悸など胸部不快感を訴えて入院した患者が検査で分かる場合と、他の病気で入院中に心電図で発見される場合の2つがあります。
動悸や呼吸苦を訴える場合には不安感の除去と共に、適切な「抗不整脈」、あるいは「抗凝固療法」の薬物投与が必要です。
また、基礎疾患がある場合は、その疾患の治療が心房細動の治療にも役立つので、基礎疾患をしっかりと見極める必要があります。以下、観察項目と、ケアについて説明します。
2-1、心房細動の観察項目
■心房細動の診断
心房細動は、基本的に慢性進行性疾患と考えられ、発症後、いったん症状がおさまり、同じような発作を何度も繰り返しながら、次第にその持続時間や頻度が増え、やがて発症がとまらなくなると考えられています。重篤な不整脈の心室細動(VF)、心室頻拍(VT)とはその点で異なります。
発症後、いったんはおさまる例が40%程度あるとされています。従って、本当の心房細動の初発時期がいつなのかを見極めるのは困難で、臨床上は「初めて心電図で心房細動が分かった時」を初発とします。
下2つのうち上図が心電図であらわれる心房細動の典型的例です。下図のように正常脈のP波がはっきりせず、RとRの間隔が不正であることが特徴です。
(上)心房細動に対するカテーテルアブレーション 東京大学医学部附属病院循環器内科
(下)不整脈とアブレーション治療 国立循環器病研究センター循環器病情報サービス
診断は、通常の心電図検査で行いますが、突然、症状が出る事もあるので、ホルター心電図、携帯型心電図を用いることもあります。
心房細動は、自然に収まる「発作性心房細動」、発作性から年間5〜8%の率で徐々に移行する長時間型の「持続性心房細動」、慢性に経過する「永続性心房再動」などに分類されます。
移行のスピードは、初期は速く、その後緩慢となり、5年で約25%が永続性に移行するとされています。
■基礎疾患の見極め
心房細動は、もともと何らかの疾病があり、その結果として生じる場合が多く、基礎疾患となる器質的な疾患を探し出すことが非常に重要です。
心疾患としては心臓弁膜症、冠動脈疾患や心機能低下、心房中隔欠損症などの先天性心疾患、拡張型、肥大型の心筋症などが上げられます。こうした病気は心房細動の慢性化の促進因子にもなります。甲状腺機能亢進症が原因となる場合もあります。
高齢者については、高齢自体が脳梗塞のリスクが高く、症状が収まっても、心エコー、レントゲン検査、血液検査などで基礎疾患の有無を調べることが特に必要です。
■初発心房細動が自然停止している場合の脳梗塞防止
心房細動の合併症として最も怖いのは、脳梗塞です。初発心房細動が一過性で自然停止している場合は、半数の症例で数年間は再発しないので、薬物による心房細動予防を安易に行わないとされる一方で、脳梗塞の危険因子がある場合は、再発がない、と判断されるまでは血栓をできにくくする抗凝固療法の適応です。
よく使われるのは、ワルファリン(商品名ワーファリン)です。CHAD2スコアの2点以上は、年間の脳梗塞発症率が4%以上になるためワルファリン療法が推奨されています。ワルファリンは食品や他の薬との相互作用があります。近年、ダビガトラン(商品名プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレクト)、アピキサバン(エリキュース)、エドキサバン(リクシアナ)の新しい抗凝固薬(NOAC)も使われています。
■発作性、持続性心房細動への薬理的対応
発作性心房細動は長い経過からみると早期に当たり、早期ほど薬物が高い効果を示します。「Naチャネル遮断薬」の投与が高効果で、救急外来では静注されることが多いですが、患者に持たせ発作時に内服するPill—in—the—pocket(抗不整脈薬単回経口投与法)も使われています。
Naチャネル遮断薬は、心房の異常な興奮の起因源の90%近い肺静脈内の興奮頻度を減らす作用を持ち、多くの薬がありますが、ピルシカイニド(商品名サンリズム)、シベンゾリン(シベリール)などが知られています。
持続性心房細動になると、除細動せずに心拍数を調節(レートコントロール)することで優れたQOLが確保されるので、心拍数調節のための薬物としてベプロジル(ペプリコール)が推奨されます。心拍数調節が困難な場合や、心拍数調節を行っても症状が続く場合、永続性心房細動に移行する前にアブレーション治療(電気焼灼)を行う場合は、薬物より電気的除細動で洞調律を整える(リズムコントロール)方が高効果とされるので、治療法については各種検査を重ねたうえでの医師の判断です。
■永続性心房細動の場合
心拍数調節と脳梗塞リスクに応じた抗凝固療法を、薬物を使って行うのが一般的です。
■カテーテルアブレーション(電気焼灼)に向けて
心房細動の最大のリスクは、心原性脳塞栓症にあるとわかってきたため、根治治療としてカテーテル治療が進みました。発作性心房細動が主ですが、最近では持続性、永続性心房細動にも適応しています。
血管を通して左心房に電極カテーテルを挿入し、心房細動の主因である、肺静脈からの異常な電気信号が左心房に伝わらないよう、肺静脈を左心房から電気的に隔離します。このほか、4本の肺静脈の入口に順番に風船(バルーン)を押し当てその部分をマイナス70度前後に凍らせる「冷凍凝固バルーン法」や、風船を高周波電流で暖める日本発技術の「高周波ホットバルーン法」も2015、16年に保険適用になりました。麻酔下で行い、入院期間は5〜7日間です。
2-2、看護ケア
脈拍が通常の3倍の1分あたり300回以上になることもあり、心臓が速く、時には不規則に脈打ちますので、心房細動の患者は胸部不快感があり、息切れ、疲れやすさもあります。
自覚症状のない発作性の場合も、脳梗塞を合併しないため症状がなくなっても治療が必要であることをていねいに説明する必要があります。なお、心原性脳塞栓症を含めた脳梗塞の看護については、「脳梗塞の看護|急性期・慢性期における看護計画とは」をご覧下さい。
まとめ
心房細動を発症する患者の多くは、基礎疾患のほか、高血圧症や糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病などの生活習慣病を有していますので、治療後は生活の改善についてしっかりと指導し、再発防止に努めてください。