水頭症の代表的な治療法は、V-Pシャント術(脳室腹腔短絡術)です。この手術は脳に物理的にアクセスするため、術後の看護では急変に備える必要があります。
また、全身麻酔下で行い、手術時間は3~4時間を要します。患者やその家族は「とても大きな手術を受ける」という覚悟で臨みます。看護師は、患者と患者家族の心理的なストレスにも配慮する必要があります。
1、水頭症とは
水頭症は、頭蓋骨内の脳脊髄液が増えてしまう病気です。頭蓋骨内の脳は、「水」に浮いた状態にあります。この水のことを脳脊髄液といいます。脳脊髄液は、脳内の血管から染み出してきて、まず脳室という空間にたまります。脳室から脳全体に脳脊髄液が行き渡り脳を保護しています。
脳脊髄液は古くなると血管に吸収され、血液と一緒に頭部から出ていきます。健康な人の脳脊髄液は、血管から染み出てくる量と血管に吸収される量が同じなので、頭蓋骨内の「水」の量は一定に保たれます。
水頭症には、生まれながら脳に異常がある先天性水頭症と、脳腫瘍を発症したり頭部を損傷したりして発症する後天性水頭症があります。
いずれも、古くなった脳脊髄液の血管への吸収が滞り、そのため脳脊髄液をためておく脳室が拡大して、脳全体を圧迫していきます。
2、V-Pシャント術とは
水頭症は脳内の脳室という空間に、脳脊髄液という「水」がたまりすぎている病気なので、治療の目標はこの「水」を抜くことです。
比較的軽症の場合は、頭蓋骨に穴を空けそこに管を通して脳室まで到達させ、脳脊髄液を吸い取って体外に出します。これを脳室ドレナージといいます。しかしこの方法では、再び脳脊髄液が増えてしまったら、同じことを繰り返さなければなりません。
そこで脳脊髄液が継続的に増えてしまう患者には、V-Pシャント術を行います。全身麻酔下で脳に穴を空けるのは、脳室ドレナージと同じです。V-Pシャント術ではその後、シャントチューブという20~60cmほどのシリコンの管を挿入し、体内に埋め込みます。シャントチューブの片方の先端を脳室に挿入し、他方の先端を腹腔内に置きます。
こうすることで脳室という「池」にたまった「水」が、お腹の中という「海」に流れ出ることができます。腹腔内にやってきた脳脊髄液は自然に体内に吸収されます。
3、水頭症の看護目標
V-Pシャント術を受ける水頭症の患者は、手術前日に入院します。入院期間は8泊9日を標準とする病院が多い傾向にあるため、その期間内に患者を元の生活に戻すことが看護目標となります。
しかしV-Pシャント術後の患者は一時的に、失見当識や歩行障害、尿失禁を起こすことが少なくありません。また、低脳圧という合併症を起こすこともあります。水頭症患者の看護では、こうした障害や合併症を回避したり、克服したりすることが目標になります。
4、水頭症の看護計画
V-Pシャント術のクリニカルパス(入院診療計画書)は、一般的に8泊9日で組まれます。水頭症患者は、手術前日に入院し、CT、レントゲン、採血、心電図、呼吸機能など、手術に備えた検査を行います。また頭蓋骨に穴を空けるので、頭髪を除毛します。この日は夕食まで食べることはできますが、21時以降は絶食です。
入院2日目が手術日になります。この日は完全に絶食です。尿に管を入れます。3日目となる手術翌日はCT検査と採血を行います。この日の昼食から食べることができます。順調だとこの日から尿の管を抜くことができ、自力歩行でトイレに行くことが許されます。シャワーが許されるのは、5日目からです。
しかし、入院生活がこのように順調に進まないケースも珍しくありません。そこで以下に、術後の患者に①意識レベルの低下、②尿失禁と歩行障害、③低脳圧――が生じた場合の看護計画とその実施を紹介します。
4-1、意識レベルの低下に備える
シャントチューブを埋めても、すぐに脳室内の脳脊髄液が少なくなるわけではありません。その場合、術後であってもしばらくは脳室は拡大したままなので、意識レベルが低下する恐れがあります。
そこで手術直後のO-P(observation plan、観察項目)は、意識レベル、瞳孔、麻痺、痙攣、言語、頭痛や吐き気となり、こうした観察項目をチェックすることで急激な悪化を防ぎます。
手術をした日のT-P(treatment plan、直接的なケア)は、観察項目のチェックのほかに、採血、点滴などがあります。手術当日の患者は術後もベッドから離れることはできませんが、体調次第でベッドの上に座ることができます。患者は手術前日の21時から手術翌日の昼まで絶食ですので、点滴は24時間行うことになります。検温は4~6時間おきに行います。
E-P(educational plan、患者への教育と指導)としては、手術翌日にはCT検査と手術創の確認があることや、尿の管を抜いて自力歩行でトイレに行けることなどを伝えます。
4-2、尿失禁や歩行障害に備える
V-Pシャント術の合併症に尿失禁や歩行障害があります。しかしこれらの異常は手術前の水頭症の症状でもあるため、術後数日が経過していても尿失禁や歩行障害が続くと、患者の自尊心は著しく傷つきます。また患者に「手術は失敗したのではないか」という心配を抱かせることにもなります。
そこで尿失禁がみられる患者のO-Pとしては、失禁回数、排尿パターン、飲水量などが挙げられます。例え失禁を繰り返していたとしても、失禁前にかすかに尿意を感じることができていれば、改善傾向にあることを患者に伝えましょう。尿失禁に対するT-Pとしては、尿量と飲水量のチェック表の作成、陰部清拭などがあります。
歩行障害は術後に必ず起きるわけではありません。順調な患者だと、手術翌日から歩行が可能になります。そこで歩行障害が見られる患者には、歩行ができない程度を観察する必要があります。医師を通じてリハビリ部門へのアセスメントが必要になることもあります。
また、尿失禁や歩行障害は永続的に続くわけではなく、シャントチューブが正常に機能して、脳室の拡大が収まれば自然に改善させることを伝えるようにしてください(E-P)。
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4-3、低脳圧に備える
シャントチューブを留置する目的は、頭蓋骨内の脳髄液を腹腔内に放出することですが、放出しすぎると頭蓋骨内圧が急激に低下して、低脳圧を引き起こすことがあります。低脳圧を引き起こすと激しい頭痛や嘔吐といった症状に見舞われます。
低脳圧のO-Pは、意識レベル、瞳孔、麻痺、痙攣、言語、頭痛や吐き気などで、看護師はこうした観察項目に十分注意する必要があります。看護師は常に、低脳圧やシャント機能不全を念頭に置いて看護しなければなりません。
また、患者には、急に頭部を動かすと低脳圧を引き起こす可能性があることを十分に説明することが大切です(E-P)。
まとめ
水頭症のV-Pシャント術は、医療従事者ではない一般の患者には「頭蓋骨に穴を空ける大手術」と受け止められてしまいますが、脳神経外科ではそれほどリスクがない施術です。医療従事者と一般患者のこうしたギャップを埋めるのも、看護師の重要な仕事になります。
また、水頭症患者は乳幼児から成人、さらに認知症の高齢者まで層が幅広いという特徴があります。E-Pは患者の病気への理解度を把握しながら立てる必要があります。