看護師の管理職(役職)には、「看護主任」、「看護師長(副看護師長)」、「看護部長(副看護部長)」の3つが主であり、大きな医療施設では必ずこれらの管理者が存在します。
管理職になると、業務の対象が患者から看護師を含む医療従事者になり、また「看護主任」→「看護師長(副看護師長)」、「看護師長(副看護師長)」→「看護部長(副看護部長)」と昇格するにつれて、行う業務の重要性や役割が増えていきます。
経営という観点からも非常に重要な人材であるために、給与が大きく増加することも少なくありません。管理職への昇進を1つの目標としている方は、それぞれの役割をしっかりと把握しておきましょう。
1、管理職の必要性
まず、なぜ管理職が存在するのか、管理職が必要なのかについて理解しておきましょう。医療施設だけでなく、企業においても「係長」、「課長」、「部長」というように管理職が存在し、おおむね企業における「係長」が「看護主任」、「課長」が「看護師長」、「部長」が「看護部長」と置き換えることができます。
大型施設となれば就業看護師数は1000人以上になり、病院長1人で看護師1000人を統率するのは非常に困難で、可能であったとしても環境・人材・業務などにおける質低下を招いてしまいます。
そこで、医療施設は組織全体が円滑に稼働できるよう、各分野における部門(看護部など)や病棟を設置し、また看護主任・看護師長→スタッフナース、看護部長→看護師長というように、数十人単位の人材を統括する管理者を配置しているのです。
それぞれの管理職は、職場環境の改善、人材の育成、相談・指導、業務の企画・運営・管理などのほか、上下間でスムーズに連絡がとれるパイプ役としての役割も担っており、就業人数が多い医療施設ほど、各管理職の重要性が高まっていきます。
2、管理職①【看護主任】
看護主任は、スタッフナースの上位にあたる管理職で、病棟内の業務が円滑に稼働するように、看護師長を補佐することが主な業務内容となります。看護業務全般の管理やスタッフナースへの指導などのほか、看護師長との連携もあるため、業務量は非常に多いと言えます。
看護主任への道は、看護師としての経験がおおむね10年以上。規模の小さい医療施設やスキル次第では10年未満でも任命されることもありますが、一般的には10~13年の経験が必要です。
看護主任は、病棟内のスタッフナースの管理とサポートを行う立場にあるため、業務の遂行能力や高度な知識はもちろん、リーダーシップ力も必要不可欠です。看護師としての経験が10年以上でもリーダーシップ力がなければ看護主任は務まりません。
また、高いレベルでのコミュニケーション能力やマネジメント能力も求められます。スタッフナースの指導や相談業務は、看護主任として大きな役割を担っているため、特に高いコミュニケーション能力は必須と言えるでしょう。
誰でも看護主任になれるわけではありませんので、スキルが伴っていないと感じる方は、日本看護協会が実施している認定看護管理者の教育課程の「ファーストレベル(150時間)」を受講し、管理者としてのスキルの向上を図ると良いでしょう。
2-1、看護主任の役割
看護主任の役割は、主に「包括的な看護業務の把握・運営」、「スタッフナースの指導・相談」、「職場環境の改善・向上」の3つ。具体的な役割は以下の通りです。
・ 看護単位の運営状況を把握、スタッフへの認識の促進
・ 看護案の方針・目的・目標におけるスタッフへの実施の促進と目標の達成 ・ 資源の有効活用、看護単位の運営 ・ 役割モデルとしての自立的かつ創造的な看護の実施 ・ 社会資源を活用した継続看護、スタッフへの指導 ・ 互いに啓発できる職場づくりの確立 ・ スタッフへの看護の倫理の自覚促進と行動援助 など |
■包括的な看護業務の把握・運営
病棟内で働くスタッフナースや患者全体の状況を把握するとともに、危機管理やヒヤリハットやインシデント発生率の減少に努めます。また、看護の質向上のために、病棟内の問題点を提起し、改善を図るのも看護主任の役割となります。さらに、シフトの調整やレポートの作成、看護計画の確認なども同時に行います。
■スタッフナースの指導・相談
病棟内の看護の質向上のために、スタッフナースへの指導を行います。ヒヤリハットやインシデントが起こった際には、単に指摘するのではなく、何が原因だったのか、再発させないために何をすればよいのかなどを、スタッフナース自身に気づかせ、自身の力で改善できるよう促すことが大切。
また、スタッフナースの悩みや看護技術向上における相談業務のほか、直接的なサポートも重要な役割となります。
■職場環境の改善・向上
業務を円滑に遂行できるよう、職場環境の改善・向上を図ります。スタッフナースにとって仕事がしやすく、達成感を持てるような環境づくりを推進するとともに、患者の安心・安全・安楽のための「環境整備」の統括も行います。
2-2、看護主任の年収
管理職に就くと年収が大きく上昇すると考えられがちですが、実はそれほど上昇はみられません。年収の上昇に起因するのは「管理当直」と「管理職手当」が一般的で、基本給が高くなることはそれほどありません。基本給は就業年数に起因するため、管理職に就いたからと言って、大きく上昇するものではありません。
なお、日本看護協会の「2012 年 病院勤務の看護職の賃金に関する調査 報告書」によると、看護主任の管理当直は平均7,738円。なお、管理職手当においては同報告書に記載されていませんが、おおむね1万円程度とそれほど多くはありません。
役職 | 給与・手当 | 支払い額(平均) |
看護主任 | 基本給※ | 327,143円 |
管理当直 | 7,738円 |
※基本給は、調査対象の看護主任の“最高額”の平均。(平均年齢50.1歳)
基本給の平均が327,143円(最高)であり、スタッフナースの平均が323,298円(最高)であるため、基本給の差はほとんどありません。また、看護主任になると夜勤の機会が大きく減り、さらに管理当直手当がない医療施設もあるため、スタッフナース時代よりも収入が少なくなることも珍しくはありません。
基本給327,143円、管理当直7,738円(2回/月)、賞与1,200,000円、各種手当を含めた場合の看護主任の年収(最高平均)は約600万円。一般的な平均年収は500万円ほどになります。
3、管理職②【看護師長】
看護師長は、スタッフナースを統括する役割を担い、主任看護師とともに業務の円滑化や看護の質向上に向けた取り組みを行います。
看護師長になるためには看護主任として数年の実績が不可欠であるため、おおむね15年以上の臨床経験が必要。規模の小さな医療施設では、管理職に看護主任がなく、「スタッフナース」→「看護師長」となるところもあります。
看護師長は、スタッフナースを統括するだけでなく、医療施設の運営に関しても考えていかなければなりません。それゆえ、看護主任よりも高いレベルでのリーダーシップ力、マネジメント能力、コミュニケーション能力が必要になります。
3-1、看護師長の役割
看護師長の役割は、看護主任と同様に「包括的な看護業務の把握・運営」、「スタッフナースへの指導・相談」、「職場環境の改善・向上」ですが、その他にも病棟内の管理者として、「病棟内看護における目標の設定・達成」、「組織としての使命・役割の推進」、「看護研究の推進・支援」といった業務も行っていきます。
・ 職員の能力開発の支援と人材の育成
・ 創造的に看護が実践できる職場環境・風土作り ・ 看護部門の方針に基づいた目標の達成 ・ 看護単位を効率的に運用するための組織体制の整備 ・ 質の高い看護サービスの継続的な提供・評価・改善 ・ 地域社会との連携、社会資源を活用した継続的な看護の提供 ・ 看護職員の健康管理 ・ 病院の使命や役割の推進と危機管理 ・ 看護師長の特性や看護管理者の望ましいあり方の意識の確立 ・ 看護研究の推進と支援 など |
■病棟内看護における目標の設定・達成
病棟内の看護の質向上を図るために、何をすべきか、どのようにすべきかなど目標を設定し、達成に向けた取り組みを行います。看護師の看護目標は主に患者であるのに対し、看護師長の看護目標は主に病棟内全体の看護が対象となります。
そのほか、看護基準・手順の整備や、看護提供システムの評価・改善、個人情報の管理(看護記録など)といった事務的業務も看護師長の大きな役割となります。
■組織としての使命・役割の推進
病棟内での業務を円滑に稼働できるよう、病棟内での問題解決はもちろん、各部門・看護部と連携をとり、チーム医療の推進を図ります。また、病院経営管理会議や委員会への参画、組織運営・方針に関する情報共有を行うとともに、人材確保活動など、組織としての役割を推進していきます。
■看護研究の推進・支援
看護師長が中心となって看護研究を推進するとともに、スタッフナースへの支援・促進を行います。自らが中心となって推進するため、看護研究における深い知識と豊富な経験が必要です。
3-2、看護師長の年収
看護師長・副看護師長になると、業務の重要性・責任が大きくなるため、基本給が約5万円、管理職手当が約3万円増加します(比較:看護主任)。
役職 | 給与・手当 | 支払い額(平均) |
看護師長 | 基本給※ | 370,949円 |
管理当直 | 8,632円 | |
管理職手当 | 45,439円 | |
副看護師長 | 基本給※ | 350,882円 |
管理当直 | 7,375円 | |
管理職手当 | 26,159円 |
※基本給は、調査対象の看護師長・副看護師長の“最高額”の平均。(平均年齢54.0歳(正)、51.3歳(副))
しかしながら、看護主任と同様に、夜勤の回数が大きく減少するため、経験の長いスタッフナースよりも年収が低くなることもあります。
基本給370,949円、管理当直8,632円(2回/月)、管理職手当45,439円、賞与1,200,000円、各種手当を含めた場合の看護師長の年収(最高平均)は約650万円。一般的な平均年収は550万円ほどになります。
4、管理職③【看護部長】
看護部長は看護部の責任者として、各病棟の看護師長・スタッフナースなど全職員をまとめ、経営者の1人として医療施設の経営に参加します。
看護部長になるためには看護師長として5年~10年の実績が不可欠であるため、おおむね25年以上の臨床経験が必要。規模の小さい医療施設では、40代でも就任できることもありますが、基本的には50代以降の管理職と考えてよいでしょう。
看護部長の業務の大半はマネジメント業務であるため、高度なリーダーシップ力、マネジメント能力、コミュニケーション能力(交渉力)が必要不可欠。また、医療経済や財務・会計の知識、企画力、問題分析能力、情報収集能力など、さまざまなスキルが求められます。
4-1、看護部長の役割
看護部長の役割は、主にマネジメント業務になります。「各業務の計画、計画書の作成」、「施設運営への参画」、「運営側・労働側の調整」などをもとに、包括的にマネジメントを行います。
・ 病院長・副院長との折衝
・ 新人看護師の採用計画の作成 ・ 看護部の業務計画の作成 ・ 看護師長への計画の指示 ・ 看護師の教育方針・教育計画の作成 ・ 看護部の代表として対外的な交渉 など |
■各業務の計画、計画書の作成
看護部の代表者として、各病棟における看護の質向上のために行うべき業務の計画や、それに関する計画書の作成を行います。現場の声を反映した直接的な業務の計画は看護師長の役割ですが、看護師長らの計画をまとめ、医療施設における運営の観点などを考慮して再計画するのが看護部長の役割となります。
■施設運営への参画
看護部の運営はもちろん、病院長や副病院長を補佐する立場として、施設運営に参画します。病院などの医療施設は1つの組織であり、患者の治療費によって運営が成り立っているため、財政面を考慮した上で、病棟編成のスムーズな移行、ベッドコントロールの一元化・システムの構築、退院調整システムの確立など、患者の安心・安全・安楽な看護の提供を推進します。
■運営側・労働者側の調整
病院長や副病院長などの運営側と、看護師長やスタッフナースなどの労働者側には通常、思考の相違が存在するため、両者の意見を取り入れ、両者ともに不利益とならないように調整します。また、医師や薬剤師など他の医療従事者との調整も同時に行います。
4-2、看護部長の年収
看護部長になると管理職手当が大きく増加し、基本給においても増加がみられます。ただし、看護部長は通常、臨床業務は行わず、マネジメントが業務の主となるため、基本的に管理当直の手当は付加されません。
役職 | 給与・手当 | 支払い額(平均) |
看護部長 | 基本給※ | 427,573円 |
管理職手当 | 81,307円 | |
副看護部長 | 基本給※ | 405,373円 |
管理職手当 | 60,856円 |
※基本給は、調査対象の看護部長・副看護部長の“最高額”の平均。(平均年齢56.7歳(正)、54.1歳(副))
基本給427,573円、管理職手当81,307円、賞与1,200,000円、各種手当を含めた場合の看護部長の年収(最高平均)は約750万円。一般的な平均年収は600~650万円ほどになります。
看護師の代表者という立場上、1つ1つの業務における責任は非常に重いものの、年収は一般的な他の職種と比べて低く、また同年代の場合には、小規模な医療施設の看護部長が大規模な医療施設のスタッフナースより年収が低くなることも少なくないのが実情です。
まとめ
管理職に就任したとしても、年収が大きく増加するわけではなく、むしろ下位職より減少してしまうこともあります。しかしながら、行える業務の権限が多くなり、さらに自身の力で病棟ならびに施設全体における看護の質向上に寄与できるなど、仕事に対して多大なやりがいを感じることができます。
管理職に就任するためには、看護実践における豊富な知識と高度な技術はもちろんのこと、まとめ役として、リーダーシップ力、マネジメント能力、コミュニケーション能力の3つのスキルは必要不可欠であり、看護部長となると、医療経済や財務・会計の知識、企画力、問題分析能力、情報収集能力など、さまざまなスキルが問われます。
誰でも就任できるものではありませんが、スキルを磨くことで就任への道が開けますので、看護主任または看護師長を目指している方は認定看護管理者の教育課程の「ファーストレベル(150時間)」を、看護部長としてより一層のスキル獲得を望む方は「セカンドレベル(180時間)」ならびに「サードレベル(180時間)」を受講してみてはいかがでしょうか。