看護学生だけでなく現職の看護師にとっても悩みの種であるアセスメント。一度、骨組みやコツを覚えるとスラスラ書くことができますが、そこまでには多大な時間を要するため、現職看護師のうちの多くがアセスメントを適切に行えていないのが現状です。
しかしながら、アセスメントは非常に重要で、治療方針を決める際の重要な材料となるため、アセスメントが適切でなければ、早期治療が難しくなり、患者の負担が大きくなってしまいます。
当ページでは、どのようなアセスメントをすればいいのか、骨組みや参考なる情報をまとめて紹介していますので、アセスメントが苦手な方はぜひ参考にしてください。各患者に合った最適な看護ケアを行えるよう、頑張ってコツを掴みましょう。
1、アセスメントとは
アセスメント(Assessment)は、評価・査定という意味合いを持ち、看護実践のための前段階に行われる過程のことを指します。同じ病気を持つ患者でも、発現症状や程度、進行具合など、人によって異なります。それゆえ、各患者に合った最適な看護を実践する必要があり、そこで重要となるのが各患者の状態を正しく評価することなのです。
アセスメントは看護過程の一つとして数えられ、看護過程には大きく分けて以下の5つの項目が存在します。
①看護アセスメント | バイタルサインや病歴など患者の情報収集と判断 |
②看護診断 | 看護アセスメントによる情報の確認とデータの分析 |
③看護計画 | 問題解決のための看護計画の立案 |
④看護介入 | 看護計画に基づいた看護行為 |
⑤看護評価 | 看護行為による成果および看護計画変更の必要性の評価 |
看護を行う上では上記の5つの過程が存在し、アセスメントは“情報収集”と“判断”、つまり「観察」することが大きな役割であり、各患者に合わせた最適な看護を決定するために最も重要となる項目であるため、アセスメントがしっかり出来ているかどうかで、看護ケアの質が決定づけられると言っても過言ではないのです。
2、アセスメントの必要性
アセスメントは5つの看護過程のうちの第一段階に位置づけられており、主に、バイタルサインや病歴など患者の情報収集と、患者本人からの主訴を基に、患者の状態(全体像)を的確に分析することが役割です。
患者の状態を適切に見極めることが出来なければ、適切な看護実践が不可能になり、場合によっては病気に対する早期治療が難しくなるだけでなく、合併症の発症リスクが高まってしまいます。
患者の状態(全体像)を把握することにより、早期治療、合併症のリスク低下のみならず、患者の苦痛・ストレスの軽減、さらに早期治療による病床の回転率UPなど、患者だけでなく病院にとっても良好に作用するため、アセスメントは非常に重要な役割を担っているのです。
3、アセスメントの実践と理論
アセスメントを行うために、最も重要となるのがコミュニケーションと分析です。バイタルサインにおいては診察することで容易に把握できますが、症状や生活習慣など、適切な看護実践のために、さまざまな情報を収集しなければいけません。
そのために、患者からそれらの情報を聞き出す必要があり、うまく聞き出すためにはコミュニケーション能力が不可欠になります。しかしながら、これは慣れの部分が多いため、現段階でコミュニケーション能力が低いと自覚している方でも心配する必要はありません。
しかしながら、情報をうまく収集できたからと言って、適切なアセスメントが行えるというわけではなく、得た情報をまとめる能力(分析力)も必要になってきます。このまとめる過程が最も重要であり最も難しいものですが、
- ヘンダーソン:14の基本的欲求
- ゴードン:11の機能的健康パターン
- マズロー:5つの人間のニードの階層構造(欲求5段階説)
などの看護理論を枠組みとして考えれば、論理的かつ素早くまとめあげることが出来るため、看護実習などでアセスメントを書く際には、参考にしておくと良いでしょう。
3-1、ヘンダーソン:14の基本的欲求
ヘンダーソンは、「人間は14の基本的欲求を持ち、その人が必要なだけの体力と意志力と知識を持っていれば基本的欲求を自立して充足することができる」と定義しています。病気を患う人は、行動の制限がされることが多く、これら14の基本的欲求のうちのどれかが制御されてしまい、欲求の自立的充足が損なわれ、早期治療の弊害になる場合があります。
これら14の欲求が出現するよう、常に念頭に置き、アセスメントをまとめる際に活用しましょう。
14の基本欲求 | 基本的欲求の充足した状態 |
①正常に呼吸する | ・ガス交換が正常に行われている・安楽に呼吸ができる |
②適切に飲食する。 | ・必要な栄養が取れている・楽しく食べられ満足感がある |
③身体の老廃物を排泄する。 | ・生理的で正常な排泄である・尿意・便意的快感がある |
④移動する、好ましい肢位を保持する。 | ・歩行、立つ、座る、眠るなどの姿勢が適切である・よい姿勢のとり方を理解している |
⑤眠る、休息する。 | ・休息や睡眠が自然にとれる・ストレスヤ緊張感からの開放感がある |
⑥適切な衣類を選び、着たり脱いだりする。 | ・適切な衣類を身につけている・きちんと身づくろいができる |
⑦衣類の調節と環境の調節により体温を正常範囲に保持する。 | ・体温が生理的範囲内である・・体温調節に努めることができる |
⑧身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する。 | ・皮膚や粘膜が清潔になっている・清潔の基準が保たれている・他人に受け入れられやすい身だしなみである |
⑨環境の危険因子を避け、また、他人を傷害しない。 | ・自分で自分の環境を自由に調整できる・周囲に危険な物がない・知らずに他人に危険をあたえない |
⑩他者とコミュニケーションをもち、情動、ニード、恐怖、意見などを表出する。 | ・自分の欲求、興味、希望などを十分に自分の身体の上に表現できる・まわりの人々に理解してもらえる |
⑪自分の信仰に従って礼拝する | ・誰もが(聖人も罪人も)ひとしく医療従事者の援助を受けられ、かつ自分の信じる教義・思想に従う権利が守られる・自分の宗教に基づいた生活の仕方ができる |
⑫達成感のあるような仕事をする。 | ・身体的あるいは精神的に仕事(生産活動)ができる・自分が社会に受け入れられているという満足感がある |
⑬遊び、あるいは種々のレクリエーションに参加する。 | ・遊びを通したコミュニケーションによる満足感の獲得ができる環境にある |
⑭正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる。 | ・回復、あるいは病気の進行阻止のための、十分な健康教育を行うための意欲を持っている |
3-2、ゴードン:11の機能的健康パターン
カルテや患者から得た情報を整理するために活用する理論として、アメリカの博士マージョリー・ ゴードンが説く、「11の機能的健康パターン」も有効です。これは、ヘンダーソンのそれと似ており、どちらも非常に実用的であることから、看護師によって、ヘンダーソン派、ゴートン派に分かれるほどです。
得た情報を整理する整理し、適切にアセスメントするために、一種のテンプレートである、このゴードンの機能的健康パターンは非常に有用であるため、しっかりと暗記しておきましょう。
11の機能的健康パターン | 項目 |
①健康知覚・健康管理 | -既往歴、現病歴、健康状態、病気への理解-喫煙・アルコール・薬物・アレルギーの有無 |
②栄養・代謝 | -身長、体重、BMI、体温の変動・悪寒、発汗の有無-嗜好・偏食・間食・食欲・食事制限の有無-爪・毛髪・皮膚・体液の状態と、感染の兆候 |
③排泄 | -排便の回数・性状・量、不快感や残便感の有無-排尿の回数・性状・量、不快感や残尿感の有無-ドレーンからの排液(量・性状・皮膚の状態) |
④活動・運動 | 呼吸、脈拍、血圧など、バイタルサインの正常確認歩行状況と姿勢、身体の障害・運動器系症状の有無セルフケア行動・移動動作など運動機能の正常確認 |
⑤睡眠・休息 | 睡眠時間・熟眠度、入眠障害・睡眠中断の有無健康時の休息の有無と休息の仕方 |
⑥認知・知覚 | 視力・聴力・味覚・嗅覚・触覚・知覚など感覚器の状態疼痛・掻痒感・眩暈・しびれの有無と程度意識レベル・言語能力・記憶力・理解力の状態 |
⑦自己認識・自己概念 | 表情・声・話し方、疾病や治療に対する想い・感情不安・絶望感・無力感の有無自己尊重、家庭や社会における役割遂行と自立 |
⑧役割・関係 | 家族の構成や家族に対する想い、キーパーソンの有無職業(学校)における内容・役割・満足度 |
⑨性・生殖 | 月経事情、生殖器の状態、妊娠・分娩回数性関係に対する問題の有無と満足度 |
⑩コーピング・ストレス耐性 | ストレス因子の有無、ストレス発散方法家族や友人など、身近な相談相手の有無 |
⑪価値・信念 | 宗教・宗教的習慣の有無とその内容家族のしきたり・習慣の有無とその内容 |
3-3、マズロー:5つの人間のニードの階層構造(欲求5段階説)
人間の欲求は段階的に存在し、①生理的欲求→②安全欲求→社会的欲求→尊厳欲求→自己実現欲求の順に、ピラミッドのように5段階で構成され、低階層の欲求が満たされると、より高次の階層の欲求を欲する性質を持つ、というのがアメリカの心理学者、アブラハム・マズローの欲求5段階説です。
フェーズ | 欲求 | 解説 |
第一段階 | 生理的欲求 | 食べる、寝るといった生活活動における欲求 |
第二段階 | 安全欲求 | 自分の健康、生活や経済的な安定に対する欲求 |
第三段階 | 社会的欲求 | 集団に属したい、仲間が欲しいなどの帰属に対する欲求 |
第四段階 | 尊厳欲求 | 認められたい、尊敬されたいなど心理的充実に対する欲求 |
第五段階 | 自己実現欲求 | 自分の能力を引き出し、創造的活動がしたいという欲求 |
例えば、自力排便ができない患者は、①生理的欲求の段階におり、それより高次である②安全欲求、③社会的欲求、④尊厳欲求、⑤自己実現欲求に、現状では達することができません。
この状態では、心理的に負担が大きく、不安や緊張状態が持続していくことになります。よって、自己排便ができるような優先的看護が必要となるのです。マズローの欲求5段階説は、あくまでも心理的影響に関する説ですが、看護において当てはまる点が多く、アセスメントにおいても役に立つことが多いため、頭の隅に置いておきましょう。
4、「SOAP」形式での考え方
看護過程において、患者から主観的・客観的な情報を収集した後、それらをアセスメントとし、今後の看護における計画を立てるといった、一連の流れが存在します。これを「SOAP」形式と呼び、SOAPを基にカルテなどに記載することがよくあります。
SOAP形式は、いわば論理であり、上手なSOAPは論理的であると言えるため、SOAPを把握することは非常に大切で、適切な看護過程のために不可欠な要素なのです。
・[S]ubject(主観)
Subjectというのは主観的見解を意味し、患者本人や家族の訴えのことを指します。
・[O]bject(客観)
Objectは、客観的見解を意味し、誰がみても分かる事実のことを指します。よって、ここには“たぶん”や“だと思う”などの曖昧な記述がNGであり、確かな情報のみを記載します。
・[A]ssessment(アセスメント)
Assessmentは、評価を意味し、入手した客観的な事実、それに対する援助者の評価、課題分析を記載します。要するに、得た情報をもとにした専門的な判断結果のこと。
・[P]lan (計画)
Planは、上記の事実に基づいた計画のことを指します。今後どのように治療を行うのかなど、今後の展望を記載したり、必要な修正事項などもここに記載します。
5、アセスメントの書き方と具体例
上記のようにSOAP形式を基に、ヘンダーソンやゴートンなどの看護理論を活用して、アセスメントを行います。ただし、適切にアセスメントするためには、相応の情報が必要になります。
つまり、SOAPの「S」「O」にあたる部分で、特に「O」である客観的な事実は非常に重要です。この情報が多ければ多いほど、質の高いアセスメントが可能であり、情報が少なければ充実しません。それゆえ、いかに多くの情報を得られるかがポイントになってきます。また、アセスメントに繋げるために、1つの情報を掘り下げていく必要があります。
5-1、Objectの考え方
「O」には客観的な情報を記載していきますが、可能な限り詳しく記載することを心がけましょう。その際、誰にでも分かるように端的かつ要点をついた情報を記載していくことがより良い「O」に繋がり、アセスメントにも非常に役に立ちます。
例1、疼痛(①発生時期、②箇所、③程度、④継続期間、⑤症状)
例2、浮腫(①発生時期、②箇所、③程度(痛みの有無・膨張具合、熱感など)
例3、末梢冷感(①箇所、②程度[色・動脈触知など]、③自覚の有無、④全体症状)
このように、それぞれの症状に対して、幅広く観察することが大切です。
5-2、Assessmentの導き方
「A」は、「S」と「O」の情報を整理・分析して、ケアを行う上での対策案を発案します。この際、必ず「S」または「O」の項目に触れておかなければいけません。“まとまりのないアセスメント”、“具体的でないアセスメント”は、「S」と「O」に触れていないことが多く、いわゆる脱線したSOAPになってしまうため、必ず、1つの症状につき1つのSOAPを完成させるようにしてください。
SOAPの中で最も難しい「A」は、「S」と「O」の情報をまとめ、問題点や改善点、注意点などを提起し、「P」に繋げなければいけません。そこで重要となるのが、“原因”、“予測”、“理由”の3項目です。
具体的なアセスメントを行うためには、まず以下の3つのポイントを抑えておきましょう。
①原因(なぜその症状が出現しているのか)②予測(ケアを行わないと、今後どうなってしまうのか)③理由(各症状に対して、なぜそのケアが必要なのか) |
上記の3つのポイントをもとに、「足背の浮腫」を例にとった、具体的かつ的確なアセスメントは以下の通りです。
例:足背に浮腫がある場合
腎機能の低下に伴い、アルブミンが低下し、浮腫が出現している。現時点では未だに、腎機能の基準値は逸脱しているため、今後も浮腫が持続する、または悪化する可能性が高い。靴を脱ぐと、靴の跡が足背にみられることから、靴による圧迫で、皮膚損傷を起こす可能性がある。 |
このように、“なぜ”という疑問から派生させていき、それらを根拠と結びつけることにより、的確なアセスメントを行うことが出来ます。経験も重要ですが、何より論理的思考ができるかが重要になってくるため、日頃から“なぜ”という疑問を持っておくようにしておきましょう。
まとめ
適切なアセスメントを行うためには、慣れも重要ですが、骨組み(看護理論)への理解と把握、各症状における観察力・分析力が重要となってきます。また、“~だから○の結果になる”というような論理的思考が必要不可欠です。
看護学生だけでなく、現職の看護師の中でも適切にアセスメントできない人は多いものの、的を得た正確なアセスメントを行うことで、患者の負担軽減や早期治療に繋がるため、的確なアセスメントができるよう、看護理論やSOAPに対する理解はもちろん、病気や症状に関する知識も深めておきましょう。
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