消化器(胃・大腸・直腸など)のポリープを切除する際に行われるポリペクトミー。安全度の高い手技であるものの、偶発症・合併症を完全に防ぐことはできず、場合によっては重症化して緊急手術が必要となる場合があります。
それゆえ、看護師はポリペクトミーを行った患者の術後管理を徹底し、異常の早期発見・早期対処に努める必要があります。
ここでは、ポリペクトミーの概要や適応症例、偶発症・合併症、術後管理などについてご説明しますので、ポリペクトミーの看護について不明瞭な方は参考にして頂き、業務に生かして頂ければ幸いです。
1、ポリペクトミーとは
ポリペクトミーは、胃・大腸・直腸など消化器にできたポリープ(腺種・早期がん)を内視鏡的に切除する手技のことで、肛門から内視鏡を挿入し、内視鏡から金属のワイヤーを輪にした電気メス(スネア)をポリープにかけ、熱で焼切る方法です。
現在ではポリープの切除に際して広く実施されており、根治治療という観点だけでなく、摘出することによるポリープの良性・悪性の判断や悪性度の判断(病理検査)にも実施されています。
ポリペクトミーは比較的安全な手技ですが、稀に出血や穿孔などの偶発症が伴い、また術後の安静保持や食事制限など遵守すべきことが多々あるため、看護師にはポリペクトミーを行った患者に対して、バイタルサインや全身状態など細やかな観察が求められます。
2、適応となる症例
ポリペクトミーは消化器に形成されたポリープの切除に際する手技ですが、すべてのポリープに適応となるのではなく、ポリープの大きさや形状によっては適応外となります。
- ポリープの大きさが2cm未満
ポリペクトミーではスネアを用いますが、スネア先端の輪はそれほど大きくなく、大きなポリープでは電気で完全に焼切ることができないため、ポリープの大きさが2cm未満の場合に適応となります。なお、ポリープの大きさが2cm以上の場合には「ESD」が実施されます。
- ポリープの形状が隆起している場合
ポリペクトミーは隆起したポリープを輪にかけて電気で焼切る手技であるため、ポリープが隆起している状態でないと確実に焼切ることができません。ポリープが平べったく完全に輪に掛けることができない場合には「EMR」が適応となります。
- ポリープが粘膜下層の浅い部分に留まっている場合
リンパ節転移の可能性のない粘膜内のポリープ、粘膜下層の浅い部分に留まっているポリープに対して適応となり、粘膜下層の深い部分や筋層に達している場合にはポリペクトミーは実施されず、外科的手術が必要となります。
3、内視鏡的ポリープ切除術の種類
内視鏡を用いた消化器系ポリープの切除術はポリペクトミーだけでなく、上述のようにポリープの大きさや形状によって「EMR」や「ESD」という手技が実施されます。術式や適応となる症例は異なりますので、これら内視鏡的ポリープ切除術の種類をしっかり把握しておきましょう。
- ポリペクトミー
ポリペクトミーは、“キノコ状”のポリープの切除に際して実施され、スネアと呼ばれる金属の輪に掛けて締め、高周波電流を流して焼く手技のことです。スネアの輪の形状や大きさは多く存在するため、さまざまなポリープの切除、採取することでの良性・悪性の判断(病理検査)に実施されます。
- EMR
“平べったい”形をしたポリープに対して行われるのがEMR。ポリペクトミーと同様にスネアを用いますが、EMRではポリープのある場所の粘膜下層に生理食塩水などを注入し、切除しやすいように持ち上げてから(盛り上がった状態で)スネアを掛け、高周波電流を流して焼き切ります。
- ESD
ポリペクトミーやEMRではスネアの大きさにより、大きなポリープにおいては数回に分けて切除する必要があります。そこで専用のナイフで病変の周辺を切開した後に粘膜下層をめくるように剥していくESDが実施されます。まだ確立されておらず技術的に難しいため、限られた医療施設でのみ実施されています。
このように、ポリープの大きさや形状によって各手技が使い分けられ、「ポリペクトミー」←「EMR」←「ESD」という順で頻回に行われます。つまり、つまり、ポリペクトミーでは難しい場合にEMR、EMRで難しい場合にESDというように使い分けられています。
なお、いずれの手技もポリープまたは粘膜下層に留まっている早期がんに対して適応となり、粘膜下層の深い部分や筋層に達している場合やリンパ節転移の可能性のある場合には外科的手術が行われます。
4、起こりうる偶発症・合併症
ポリペクトミーは安全な手技であるものの、病変を焼きすぎることで「穿孔」や「出血」、腸内への多量の空気の流入による「腹痛」などの偶発症・合併症が起こることがあります。
これらは術中または術後1週間以内に起こることが多く、「腹痛」であれば安静にすることで次第に改善しますが、「穿孔」は「出血」の場合には保存的治療または外科的手術・止血などによる早急な治療が必要となります。
- 穿孔
ポリペクトミーでは、スネアを用いてポリープを焼切ることで、病変周辺に一定程度の損傷を伴い、スネアをかける位置が腸壁粘膜に近すぎる場合やスネアが深くかかりすぎて正常粘膜を巻き込んだ場合に、術中や術後まもなく~1週間(特に術後24時間以内)に穿孔が起こることがあります。
穿孔が起こると激しい腹痛・全身痛、心拍数・発汗の増加、腹部の圧痛などが現れ、軽度の場合には絶食や抗生物質の投与による保存的治療を行いますが、重症の場合には腹膜炎をきたす恐れがあるため、緊急手術を行います。
- 出血
ポリープ切除時に出血がみられる場合や術後出血を防ぐためにクリップを用いて止血処置を行いますが、病変周辺の血管の有無を正確に把握することはできないため、術中出血・術後出血を完全に防ぐことはできません。
また、切除部位が治るには1~2週間かかるため、術後出血を予防するために術後の食事(刺激物の摂取制限)や激しい運動を避けるなど安静保持が欠かせません。
術後出血がみられる場合には、腹痛や血便・下血などの症状が現れ、症状が軽度であれば経過観察しますが、改善されなければ内視鏡下で再度、止血処置を行います。
- 腹痛
内視鏡を挿入することで消化器に多量の空気が流入し、術後まもなく腹部膨張による腹痛を呈することがあります。ほとんどはガスを排出させることで改善されるため、特に処置する必要はありませんが、安静保持やガスの排出に関する説明をしっかり行ってください。
5、術後の看護・観察項目
上述のように、ポリペクトミーの偶発症・合併症には「穿孔」「出血」「腹痛」などがあり、場合によっては重症化し緊急手術を要することがあります。重症化しないためには、術後の患者の状態をしっかり観察し、異常がみられる場合には迅速に医師に報告することが大切です。
- バイタルサインの確認
まずは「脈拍」「呼吸」「体温」「血圧」「意識レベル」などのバイタルサインを確認しましょう。多くは、偶発症・合併症の症状が発現する前兆としてバイタルサインに変動が起こります。変動が起こった際には注意深く観察を続け、異常の早期発見に努めてください。
- 全身状態(症状の発現)の確認
穿孔であれば「激しい腹痛」「全身痛」「心拍数・発汗の増加」「腹部の圧痛」、出血であれば「腹痛」「血便・下血」などの症状が現れます。腹痛のみの場合には内視鏡の挿入に伴う空気の流入が原因であり、安静保持やガスの排出で改善されますが、腹痛以外の症状がみられれば、症状に応じて穿孔や出血を疑い、症状発現時には独自の判断で経過観察せず、早急に医師に報告してください。
- 便(下血)の確認
下血の色調変化・凝血の程度・出血量など、便を観察することで出血部位や出血の程度を判断することができます。術後に入院療養の場合には看護師が直に確認し、退院後は便の異常がみられる場合に来院する旨をしっかり伝えてください。
6、術後の安静保持・飲食制限
偶発症・合併症が起こるのは主に術後まもなく~1週間です。特に術後24時間は安静保持を怠ると偶発症・合併症のリスクが大きく高まります。
また、術後24時間以降も刺激の強い飲食物の摂取を避け、特に、香辛料の多い食べ物、熱水・冷水・炭酸飲料・アルコール、スナック菓子・アイスクリーム、タバコなどは避け、腸に優しいものを摂取するよう患者に対して指導を行ってください。
なお、ポリペクトミーでは、ポリープの大きさ・個数・場所などによって当日~4日程度で退院できますが、看護師は退院後の患者を観察することができません。
それゆえ、偶発症・合併症の発症リスクを減らすために、安静保持(運動・仕事・日常動作)や飲食制限の指導をしっかり行い、腹痛や下血などの症状が現れた際には来院する旨を伝えてください。
■退院後の指導項目
退院後1~3日目 | 退院後4~10日 | |
飲酒 | ・ アルコールの摂取は禁止
・ タバコも出来るだけ控える |
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便 | ・ 排便時はいきまないようにする
・ 便の観察を行う(血便、黒い便がでたら病院に連絡する) |
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食事 | ・ 消化のよいものを食べる(お粥、うどん、豆腐など)
・ 油分、香辛料を含んだ食べ物を避ける ・ 熱いもの、冷たいものを避け、炭酸飲料を控える |
・ 油分、香辛料を含んだ食べ物を避ける |
入浴 | ・ 湯船には浸からずシャワーで済ます | ・ 入浴可能(ただし、ぬるま湯にし長湯は避ける) |
仕事 | ・ デスクワークなどの仕事は問題なし | ・ 体調に合わせて開始する(重い物を持つなど腹圧のかかることは避ける) |
運動 | ・ 自転車、バイクの運転を避ける
・ お腹に力の入るスポーツは禁止 |
・お腹に力の入るスポーツは禁止 |
まとめ
ポリペクトミーは安全な手技であるものの、偶発症・合併症は完全に防ぐことができません。また、術後の管理を怠ると発症リスクを高めてしまいます。それゆえ、入院時の観察や指導、術後における療養指導をしっかり行ってください。