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膀胱留置カテーテルの看護|目的や種類、感染・合併症、看護技術、看護計画

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膀胱留置カテーテルはカテーテルの先端についているバルーンを膨らませて、膀胱にカテーテルを留置することで、持続的に尿を排出することができます。

膀胱留置カテーテルは安全に持続的に尿を排出できるというメリットはあるものの、尿路感染症などの合併症がありますので、きちんと看護ケアをしていく必要があります。

 

1、膀胱留置カテーテルとは

膀胱留置カテーテルとは、膀胱にカテーテルを入れて、そのカテーテルを留置することで、尿を持続的に排出するためのものです。

出典:バードI.C.シルバーフォーリートレイB(ラウンドウロバッグ) | 泌尿器科関連 | 医療関係者の皆様( 株式会社メディコン)

 

膀胱留置カテーテルは、カテーテルの先端についているバルーンを膨らませることで、膀胱にカテーテルを留置します。膀胱留置カテーテルは、バルーンカテーテルと呼ばれることもあります。

自力で排尿することができない患者に使用されることが多く、間欠的導尿を何度も行う場合に比べて、苦痛が少なく、尿量を正確に把握できるなどのメリットがあります。

2、膀胱留置カテーテルの目的

膀胱留置カテーテルは、膀胱内に24時間カテーテルを挿入しておくことで、持続的かつ安全に尿を排出する目的で用いられます。

導尿には間欠的導尿と持続的導尿の2種類があり、どちらも自力で排尿できない患者に用いられます。詳しくは「導尿の看護|目的と男女別手順、間欠的・持続的導尿の種類、看護計画・問題」を参照してください。

膀胱留置カテーテルは、間欠的導尿とは異なり、持続的に尿を排出できるという特徴があります。そのため、次のような患者に適応となります。

 

1.萎縮性膀胱で膀胱容量が50ml以下の患者

2.膀胱機能不全が原因で残尿がある患者

3.長時間の手術を行う患者

4.泌尿器科の手術を受ける患者

5.術中に大量の輸液や利尿剤を使用する患者

6.重症で尿量の正確な計測が必要な患者

7.尿失禁があり会陰部や仙骨部に開放創がある患者

8.骨盤骨折など長期的に体動制限を強いられる患者

9.尿道の閉鎖を解除する必要がある場合

10.ターミナル期の快適さの改善

 

尿失禁がある患者はオムツで対応すれば良いですし、排尿障害がある患者は間欠的導尿で対応可能です。膀胱留置カテーテルはこの10個の適応に当てはまるような患者に用いられるものになります。

3、膀胱留置カテーテルの種類

膀胱留置カテーテルは、いろいろな種類があり、患者の状態によって使い分ける必要があります。それぞれの特徴を確認しておきましょう。

出典:マスク・ウロ・ガーゼなら | コンファウロシステムⅡ(カテーテル単品/先端開孔型/チーマン型)(株式会社 エフスリィー)

 

■サイズ

成人用の膀胱留置カテーテルのサイズは12Fr~26Frまでありますが、一般的には14~18Frのものが用いられることが多いです。

 

■バルーンの容量

成人用は10~30mlまでバルーンの容量がカテーテルによって異なります。一般的には10mlのものを用いますが、止血目的の場合には30mlのものを用います。

 

■2wayか3wayか

膀胱留置カテーテルには、2wayと3wayの2種類があります。通常は、感染予防の観点から外界とつながる部分が少ない2wayのものを用います。ただ、カテーテル留置中に結石や凝血塊結成の予防目的などで膀胱洗浄を行う可能性がある時には、3wayのカテーテルを用います。

 

■先端部

通常は、尿道や膀胱を損傷しないように丈夫で滑らかなシリコン製はラテックス製の先端になっています。

チーマン型は先端部が少し曲がっていて、尿道が狭窄していても無理なく挿入できるように作られています。

先端開口型はガイドワイヤーを使って挿入することができますので、尿道が狭窄していて、カテーテルの挿入が困難な患者でも、膀胱留置カテーテルの挿入・交換をすることができます。

4、膀胱留置カテ―テルの感染・合併症

膀胱留置カテーテルは、安全に持続的に尿を流出することができますが、合併症のリスクもあります。どのような合併症のリスクがあるのかを説明していきます。

 

■尿路感染症

膀胱留置カテーテルを挿入していると、膀胱と外界がカテーテルで常につながっている状態ですので、尿路感染が起こるリスクが非常に高くなります。

 

■膀胱結石

膀胱留置カテーテルを長期間挿入したままにしておくと、カテーテルの周囲に膀胱結石が形成されることがあります。

 

■尿道の損傷

無理にカテーテルを挿入したり、膀胱に達していない状態(尿の流出を確認できない状態)で、バルーンを膨らませることで、尿道を損傷して、出血や炎症が起こることがあります。

 

■膀胱痙攣

長期的に膀胱留置カテーテルを使っていると、排尿菌が発作的に痙攣して、恥骨の上部が疼痛が起こり、尿意を感じることがあります。

 

■膀胱萎縮

膀胱留置カテーテルを用いると、尿が膀胱に溜まることがありません。その状態が長期間続くと、膀胱の廃用性症候群が起こり、膀胱の機能が低下して、萎縮が起こります。

 

■膀胱刺激症状や尿漏れ

カテーテルやバルーンによる尿道や膀胱粘膜への刺激や尿路感染症が原因で、膀胱の無抑制収縮が誘発することで、下腹部痛や尿意などの膀胱刺激症状や尿漏れが起こることがあります。

5、膀胱留置カテーテルの看護技術

膀胱留置カテーテルの挿入方法を確認していきましょう。

 

5-1、必要物品

 

・バルンカテーテル

・畜尿バッグ

・ガーゼ

・イソジン綿球

・攝子

・キシロカインゼリー

・蒸留水

・10mlシリンジ

・固定用テープ

・ディスポの手袋

・防水シーツ

・陰部洗浄に必要な物品

 

膀胱留置カテーテル挿入セットが全部入ったキットが用意されていることもあります。

 

■挿入手順

 

1.患者に膀胱留置カテーテルの挿入を行うことを説明して、同意を得る

2.陰部洗浄を行う

3.手洗いをして、カテーテルと畜尿バッグを接続しておく

4.バルーンに蒸留水を注入して、破損などの漏れがないかを確認する。確認後、蒸留水は吸い取っておく

5.防水シーツを患者の臀部に敷く

6.陰部を消毒する

7.患者に口で呼吸してもらいながら、キシロカインゼリーをつけたカテーテルを尿道口から挿入する

8.男性は20cm、女性は5~6cm程度すすめ、尿の流出があったら、そこからさらに2~3cm進めて、蒸留水を注入して、バルーンを膨らませる

9.カテーテルを軽く引っ張って、抜けないことを確認したら、バルーンを固定する

 

6、膀胱留置カテーテルの看護計画

膀胱留置カテーテルを挿入している患者の看護計画を留置中の観察項目とケアのポイント、抜去後の観察の注意点の3つに分けて説明していきます。

 

6-1、観察項目

膀胱留置カテーテルを挿入している患者の観察項目を確認していきましょう。

 

■尿量

膀胱留置カテーテルは尿量を正確に計測できるというメリットがあります。尿量は患者の疾患や使用している薬剤によって増減がありますが、インアウトバランスを計算して、異常かどうかを判断する必要があります。

尿量が少なくなれば、脱水のリスクがあり、尿路感染を起こすリスクが上がります。また、突然尿が出なくなった場合は、カテーテルの閉塞のリスクがあります。

そのため、尿量のチェックは数時間に1回は行うようにしましょう。

 

■尿の性状

尿の性状を観察することで、尿路感染症の有無や出血の有無などがわかります。尿の色調や浮遊物の有無などを観察していきましょう。

 

■皮膚の状態

カテーテルを固定しているテープでかぶれたり、皮膚に押し付けて固定することで潰瘍ができたりしますので、皮膚に異常がないかを観察しなければいけません。

 

■尿漏れの有無

膀胱留置カテーテルを挿入いていても、膀胱の無抑制収縮や尿漏れをすることがあります。また、蒸留水が抜けて、バルーンが縮小していたり、カテーテルが閉塞していて、膀胱内に尿が溜まりすぎた場合も、尿漏れを起こすことがあります。

 

■尿の流出の有無

カテーテルから尿の流出が見られない場合、カテーテルが屈曲していたり、閉塞している可能性があります。

 

■感染兆候

尿の性状に異常が見られなくても、血液検査のデータや全身症状から感染兆候が見られることがあります。WBCやCRP、体温などを観察しましょう。

 

6-2、膀胱留置カテーテルのケアのポイント(固定・管理・陰部洗浄)

膀胱留置カテーテルを挿入している時のケアのポイントを説明していきます。

 

■固定方法

男性は下腹部に固定し、女性は大腿部に固定するのが一般的です。この時、テープかぶれを起こさないように、テープを貼りかえる時には、少しずつずらして固定するようにしましょう。

また、しっかり固定しようとして、カテーテルを皮膚に押し付けた状態で固定すると、そこに潰瘍を起こす可能性がありますので注意してください。

 

■管理のポイント

 

・畜尿バッグは逆流しないように膀胱よりも低い位置に取り付ける

・畜尿バッグが床につかないようにする

・飲水制限がない患者には飲水を勧める

・カテーテルが屈曲しないようにする

・患者さんが引っ張らないように、固定場所などに留意する

・移動する時には、カテーテルが引っ張られないように気を付ける

 

■陰部洗浄

膀胱留置カテーテルを挿入している間は、基本的に毎日陰部洗浄を行って、感染予防・尿路結石予防に努めます。

 

6-3、膀胱留置カテーテルの抜去後の観察

膀胱留置カテーテルを抜去した後は、次のことを観察しましょう。

・排尿時痛
・尿量・尿意の有無・陰部の違和感・排尿回数

・残尿感

 

膀胱留置カテーテルを長期間挿入していると、膀胱の萎縮などから尿意がなかったり、頻尿になったり、残尿が残ることがあります。患者さんの状態によっては、抜去前にカテーテルをクランプして膀胱訓練をすることもありますが、クランプをすると尿路感染を起こすリスクが高くなりますので、基本的には行わないことが多いです。

 

まとめ

膀胱留置カテーテルをの基礎知識や目的、種類、感染・合併症、看護技術、看護計画をまとめました。膀胱留置カテーテルは持続的に尿を流出できるというメリットはあるものの、尿路感染のリスクが非常に高いですので、陰部洗浄をしっかり行い、感染予防に努めるようにしましょう。

 

参考文献

ICTとしての感染対策(一般社団法人 日本感染症学会)

勤医協中央病院看護技術マニュアル2012版 17-1.膀胱留置カテーテル(公益社団法人北海道勤労医療協会 勤医協中央病|2012年)

在宅での膀胱留置カテーテル管理の実際(公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団|2005年7月)


スワンガンツカテーテルの看護|挿入方法、波形や圧、合併症、看護のポイント

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スワンガンツカテーテルとは、心内圧や心拍出量、酸素飽和度測定して、心機能を評価するためのカテーテルです。

スワンガンツカテーテルを挿入する患者さんは重篤なことが多く、看護師は異常の早期発見に努める必要がありますので、スワンガンツカテーテルについて正しく理解しておかなければいけません。以下、スワンガンツカテーテルの基礎知識や挿入方法、波形と圧、合併症看護のポイントをまとめました。

1、スワンガンツカテーテルとは

出典:エドワーズライフサイエンス | スワンガンツ・サーモダイリューション・カテーテル

 

スワンガンツカテーテルとは、患者の心機能を正確に把握するためのカテーテルです。心不全やショックなどで、心機能が低下している患者に使用して、心内圧や心拍出量、酸素飽和度を計測します。

「スワンガンツカテーテル」という名称は、エドワーズライフサイエンス社の商品名で、肺動脈カテーテルや右心カテーテルと呼ばれることもあります。スワンガンツカテーテルは検査のために一時的に挿入し、心内圧等を計測したら、すぐに抜去することもありますが、心筋梗塞からの蘇生後などの重症患者の場合はカテーテルを一定期間挿入したままにして、持続的に心機能を計測するケースもあります。

2、スワンガンツカテーテルの挿入方法

スワンガンツカテーテルは、通常はX線透視下ではなく、ベッドサイドで行います。挿入部位は内頸静脈、鎖骨下静脈、上腕静脈、大腿静脈からアプローチするのが一般的です。

 

■必要物品

・スワンガンツカテーテル

・ガイドワイヤー

・穿刺針

・イントロデューサー

・三方活栓

・加圧バック、ヘパリンを注入した生理食塩水500ml

・滅菌ガウン、滅菌手袋

・滅菌ドレープ、穴あきドレープ

・1%キシロカイン

・各シリンジと針

・圧ラインセット

・イソジン、綿球

・縫合セット

・救急カート

・圧トランスデューサー

・スワンガンツ用モニター

 

■挿入手順

1.患者にスワンガンツカテーテルを挿入することを伝え、同意を得る

2.患者に仰臥位になってもらい、挿入部位を露出させる

3.処置台に滅菌ドレープをかけて必要物品を準備する

4.カテーテル用のルーメンと圧モニタリング用のルーメンを、輸液システムと圧トランスデューサーに接続し、ラインに気泡がないことを確認する

5.モニターにカテーテルを接続し、断線がないことを確認する

6.局所麻酔を行った後、スワンガンツカテーテルを挿入していく

7.カテーテルが胸部に入ると、呼吸に合わせて圧波形が変動するので、炭酸ガスまたは空気で先端のバルーンを膨らませる

8.バルーンを膨らませると、血流に乗って、右心房から右心室、肺動脈へとカテーテルが進む

9.通常、カテーテルが止まったところが肺動脈の入り口部分になる。圧波形を確認し、肺動脈楔入圧を測定できたら、バルーン膨張用のバルブからシリンジを外して、自然にバルーンを萎ませる。

10.右心房や右心室でカテーテルにたるみが出ないように、2~3センチ引き戻す

11.留置する場合は、X線で先端部位を確認し、固定する

3、スワンガンツカテーテルの波形と測定する圧

スワンガンツカテーテルでは、心内圧と心拍出量(CO)、酸素飽和度の3つを測定することができますが、心内圧には次の4つあります。

 

・肺動脈楔入圧(PCWP)

・肺動脈圧(PAP)

・右心圧(RVP)

・右房圧(RAP)

 

これらの圧は、それぞれ波形が違いますし、基準値も異なります。それぞれの波形を覚えておくことで、挿入中にはカテーテルの先端がどこにあるかがわかりますし、正しく計測できているかを確認することができるのです。

出典:スワンガンツ 大垣徳洲会病院 臨床工学科(平成27年11月号)

出典:スワンガンツ・サーモダイリューション・カテーテル(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)

 

■肺動脈楔入圧(PCWP):基準値=6~12mmHg

肺動脈圧楔入圧とは肺動脈でバルーンを膨らませて肺動脈を塞いだ時に、カテ―テルの先端にかかる圧のことです。

肺動脈楔入圧は左心房の圧を反映していますので、左心系の心機能の評価ができます。

 

■肺動脈圧(PAP):基準値=15~25mmHg/8~15mmHg

肺動脈圧は肺動脈の入り口部分で測定する圧のことで、肺血管抵抗や右室の後負荷の指標になります。

 

■右心圧(RVP):基準値=15~25mmHg/0~8mmHg

右心圧は右心室の圧のことです。収縮期の圧が高くなると、肺高血圧症の疑いがあります。

 

■右房圧(RAP):基準値=0~7mmHg

右房圧は右心房で計測する圧のことで、中心静脈圧(CVP)と同じです。右室の前負荷、つまり循環血液量の指標になります。

右房圧が上昇すると右心不全や心タンポナーデの疑いがあり、平均圧が低下すると循環血液量の減少や脱水が疑われます。

 

3-1、フォレスター分類の指標

スワンガンツカテーテルで測定できる4つの心内圧の中でも、最も重要なのが肺動脈楔入圧です。肺動脈楔入圧は、心不全の程度を把握するフォレスター分類の指標になっています。

出典:急性心不全 総論(信州メディビトネット)

 

フォレスター分類とは肺動脈楔入圧と心計数(CI)を指標にして、心不全の程度を把握するためのものです。心係数とは心拍出量(CO)を体表面積で割ったものです。CI=2.2l/分/㎡、PCWP=18mmHgが目安の数値になります。

Ⅰ型を目標に治療を行っていきます。肺動脈楔入圧と心係数が高いⅡ型は、前負荷がかかっているため、利尿薬や血管拡張薬を用います。

Ⅲ型は前負荷を増やさなくてはいけませんので、輸液や強心剤を用います。Ⅳ型は前負荷を下げつつ、心拍出量を上げなくてはいけませんので、強心剤や血管拡張薬を用いたり、場合によってはIABP(大動脈バルーンパンピング)や PCPS(経皮的心肺補助装置)で治療をすることがあります。

4、スワンガンツカテーテルの合併症

スワンガンツカテーテルは、心機能を評価できるというメリットはあるものの、心臓にカテーテルを挿入し、場合によっては留置しますので、合併症が起こるリスクがあります。

 

■肺動脈の破裂

スワンガンツカテーテルは肺動脈にまでカテーテルを進めますので、肺動脈を傷つけ、破裂させるリスクがあります。特に、肺高血圧症や高齢、低体温法や抗凝固剤を用いた心臓手術、カテーテルの遠位移動などは、肺動脈破裂のリスクを高めます。

 

■心穿孔

カテーテル挿入時の操作不備によって、心房穿孔や心室穿孔を起こし、それによって心タンポナーデが起こる可能性があります。

 

■肺塞栓

カテーテルの先端が移動することで、バルーンを膨張させていないのに、自然に楔入状態になったり、空気塞栓や血栓ができることで、肺塞栓が起こることがあります。

 

■不整脈

カテーテルの挿入中には、心室性期外収縮や心室性頻拍や心房性頻拍が起こることがあります。また、カテーテル先端の心筋への刺激により、右脚ブロックや完全房室ブロックが生じることがあります。

 

■感染

スワンガンツカテーテルを留置する場合、カテーテル感染を起こすリスクがあります。スワンガンツカテーテルを留置している患者は心機能が低下していて、全身状態が不良ですので、カテーテル感染を起こすと致命傷になることがあります。

カテーテル感染は72時間以上挿入していると、そのリスクが大幅にアップすることがわかっていますので、72時間以内には抜去するようにしなければいけません。

 

■気胸

スワンガンツカテーテルを挿入する際に、胸膜に穿孔を起こすと、気胸を発症する可能性があります。特に、鎖骨下静脈からのアプローチの場合には、気胸を起こすリスクが高くなります。

 

■三尖弁や肺動脈弁の損傷

カテーテル挿入時やカテーテルの位置調整などで、三尖弁や肺動脈弁を損傷するリスクがあります。

 

■血栓症や血小板減少症

カテーテルを留置していると、血栓が作られたり、血小板が減少することがあります。血栓ができると、脳梗塞等を引き起こしたり、静脈炎の原因になります。また、血小板が減少することで、出血傾向が見られるようになります。

5、スワンガンツカテーテルの看護のポイント

スワンガンツカテーテルを挿入している患者への看護のポイントを説明していきます。

 

■カテーテル挿入中の看護

・スワンガンツカテーテルを挿入する患者は、不安が大きいので、事前にきちんと説明を行い、挿入中も常に声掛けを行う。

・挿入中は不整脈や気胸などの合併症が起こる可能性があるため、心電図やSpO2などのモニタリングを行い、観察をしていく。

・スワンガンツカテーテルを挿入する時には、心タンポナーデなどのリスクがあるため、緊急カートを用意しておく。

 

■カテーテル留置中の看護

・モニターの波形が正しく出ているかを確認する

・挿入部位の発赤や腫脹、疼痛、浸出液やアイテルの有無などを確認する

・カテーテルが抜けないように、固定は確実に行う

・自己抜去のリスクがある時には、本人・家族の同意を得てから抑制を行う

・ルートの整理を行い、テンションがかかって抜けないように注意する

 

まとめ

スワンガンツカテーテルの基礎知識や挿入方法、波形や圧、合併症、看護のポイントをまとめました。

スワンガンツカテーテルは仕組みがやや複雑で、苦手意識を持っている看護師も多いと思いますが、きちんと理解しておかないと、異常の早期発見につながりません。スワンガンツカテーテルを挿入・留置する患者は重篤な状態であることが多いので、スワンガンツカテーテルについて正しく理解して、適切な看護ができるようにしておきましょう。

 

参考文献

スワンガンツCCOサーモダイリューションカテーテル(エドワーズライフサイエンス株式会社)

スワンガンツ 大垣徳洲会病院 臨床工学科(平成27年11月号)

血行動態モニタリング―その生物学的基礎と臨床応用(エドワーズライフサイエンス株式会社)

結核の看護|症状、検査、治療、看護計画、看護研究

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結核は昔の病気ではありません。現代の日本でも珍しくない感染症ですので、看護師は結核患者に適切な看護を提供できるようにしておく必要があります。

結核の基礎知識や症状、検査、治療、看護計画、看護研究をまとめました。

1、結核とは

結核とは、結核菌に感染することで発症する感染症のことです。結核菌に感染し、体内で結核菌が増殖することで、様々な症状を引き起こします。結核の感染経路は飛沫感染と空気感染(飛沫核感染)です。

日本人の場合、結核の8割が肺で結核菌が増殖する肺結核になります。肺結核になると、肺で結核菌が炎症を起こして、肺胞が破壊されていきますので、咳や痰などの肺結核特有の症状が現れます。また、肺外結核として、腎臓やリンパ節、骨、脳など結核菌が増殖し、炎症を起こすこともあります。

出典:どうすれば結核とわかるの?(大塚製薬)

 

結核というと、過去の病気というイメージを持っている人が多いですが、現在でも日本では、1日に68人の新規患者が発生し、6人が命を落としている疾患です。

出典:結核について(医療法人 西福岡病院)

 

また、日本はほかの先進国に比べると、患者数が多く、結核後進国と言われています。

出典:結核について(医療法人 西福岡病院)

 

日本では結核患者の入院は排菌の有無にかかわらず、結核病床に入院することが定められています。

2、結核の症状

ここでは日本人の結核の8割を占める肺結核の症状を説明していきます。肺結核を発症すると、次のような症状が現れます。

 

■結核の主な症状

・咳

・痰

・血痰

・体重減少

・倦怠感

・食欲不振

・盗汗(寝汗)

・呼吸困難

・胸痛

 

肺結核の初期症状は風邪のような症状で、咳や微熱、痰などが主な症状になり、なかなか結核と気づかないことがありますが、肺結核の場合は風邪と違って、症状が改善せずに長期間続くという特徴があります。

また、高齢者の場合は、咳や微熱、痰などの肺結核の特徴的な症状が出にくいことがあり、体重減少や食欲不振などの症状が肺結核のサインになることがあります。

3、結核の検査

結核の検査には、感染の有無を調べる検査と発症の有無を調べる検査があります。

感染は体内に結核菌が定着しているものの、増殖はしておらず、体への影響はない状態で、人へ感染させる危険もありません。発症は結核菌が体内で増殖し、炎症を起こしている状態で、人へ感染させる危険があります。

 

3-1、感染の有無を調べる検査

感染の有無を調べる検査にはツベルクリン反応検査とインターフェロンガンマ遊離試験(IGRA)の2種類があります。

 

■ツベルクリン反応検査

ツベルクリンを前腕に皮内注射して、皮膚が赤く反応するかどうかを48時間後に判定します。BCG接種を受けた人も、皮膚が赤く反応することがあり、結核菌に感染しているかどうかの判断が難しいことがあります。

 

■インターフェロンガンマ遊離試験(IGRA)

血液検査で結核菌の感染の有無を調べる検査です。ツベルクリン反応検査とは異なり、BCGの影響を受けないため、確実に結核菌に感染しているかを検査することが可能です。

 

3-2、発症の有無を調べる検査

発症の有無を調べる検査には、X線撮影検査と喀痰検査があります。

 

■X線撮影検査

肺結核の発症の有無を調べることができます。胸部X線撮影で発症が疑われた場合は、CT検査を行うこともあります。

 

■喀痰検査

結核菌を排菌しているかどうかを調べる検査です。喀痰検査には塗抹検査、培養検査、核酸増幅法検査(遺伝子検査)の3種類があります。

塗抹検査は痰をスライドグラスに塗りつけて、顕微鏡で確認する検査です。

培養検査は結核菌だけを増殖させる培地に痰を塗って培養させ、肉眼で観察する検査ですが、結核菌は増殖スピードが遅いため、最終判定に8週間かかります。ただ、塗抹検査よりも培養検査は10倍以上も検査結果が精密です。

核酸増幅法検査は培養検査と同じ精度の検査結果が数時間で出る検査になります。

4、結核の治療

結核の治療は、基本的に化学療法で行われます。結核の化学療法は、抗生物質を4剤服用して行われます。結核の治療に用いられる抗生物質は、次の5種類です。

 

・リファンピシン(RFP)

・イソニアジド(INH)

・ピラジナミド(PZA)

・エタンブトール(EB)

・ストレプトマイシン(SM)

 

結核治療では、REP+INH+PZAに、EB(またはSM)の4剤で2ヶ月間治療を行い、その後RFP+INHの2剤で4ヶ月間治療します。

この治療法は結核菌を撲滅するという治療目標を達成するための最強の治療法で、6ヶ月間という最短の治療期間で治療目標を達成できるため、世界中で広く普及している治療法になります。

ただ、副作用のためにPZAの服用ができない場合には、RFP+INHにEB(またはSM)の3剤併用で2ヶ月間治療し、REP+INHで7ヶ月間治療を行います。

4剤併用の治療法を決められた通りに、決められた期間きちんと行えば、再発率は5%未満とされていて、非常に効果が高い治療法になります。

ただ、結核の治療は途中で中断し、不完全な状態で終えてしまうと問題になります。半年間、毎日服薬しなければいけないので、途中で中断してしまう人が少なくありません。

でも、途中で中断してしまうと、耐性菌ができるため、次の治療が困難になるのです。

結核の治療が正しく継続して行われるようにWHOではDOTS(ドッツ)を推奨しています。DOTSとは対面服薬指導のことで、患者は医療従事者の目の前で服薬することで、確実に薬を服用することができる方法になります。

日本でのDOTSは、主治医と保健所が連携して、保健師が患者の自宅を訪問して、患者を支援するという方法がとられています。

5、結核の看護計画

結核は排菌が認められたリ、症状が強く全身状態が悪い時には入院になることがありますので、入院になった結核患者の看護計画を説明していきます。

 

■呼吸器合併症を起こすリスクがある

肺結核の患者は咳や痰、呼吸困難が症状に現れますが、きちんと排痰できないと、無気肺などの呼吸器合併症を起こすリスクがあります。

 

看護目標 呼吸器合併症が起こらない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・呼吸音(肺雑音の有無、エア入りの状態)

・咳嗽や排痰の状態

TP(ケア項目) ・深呼吸を促す

・安静度の範囲内で寝がえりや体動を促す

・水分摂取を促す

・必要時は吸引する

・医師の指示による薬剤を確実に投与する

EP(教育項目) ・無気肺について説明する

・痰がある時には、しっかり排痰するように指導する

 

■他者への感染リスクがある

入院をしている結核患者は、排菌していることが多いので、医療者や面会の人に感染させるリスクがあります。

 

看護目標 他者に感染を広げない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・喀痰検査の結果

・安静度

TP(ケア項目) ・陰圧室に隔離し、ドアは閉める

・清潔区域と汚染区域をきちんと設定する

・面会時は患者マスクを着用する

・患者に接する時には予防着を着用し、手洗いと手指消毒を行う

・痰が付着したものは感染源にならないように処理する

EP(教育項目) ・咳やくしゃみをする時には口や鼻を覆うように指導する

・痰が付いたティッシュは所定のごみ箱に捨ててもらう

・結核菌の感染経路を説明する

 

■栄養状態が悪化するリスクがある

結核患者は倦怠感や食欲不振があるため、食事がとれずに栄養状態が悪化するリスクがあります。

 

看護目標 体重減少を防ぎ、栄養状態を悪化させない
OP(観察項目) ・食事摂取量

・食欲の有無

・血液検査データ(TP、Alb、電解質等)

・体重

・バイタルサイン

TP(ケア項目) ・体重測定をする

・高カロリー、高たんぱくの食事を用意する

・必要に応じて食事介助をする

・家族から食の嗜好を聞いておく

EP(教育項目) ・必要に応じて、栄養士に相談する

・少しずつ食べるように指導する

 

■退院後に正しく服薬できないリスクがある

入院中は看護師が服薬管理をしていますが、退院後にもきちんと服薬をし続けないといけません。ただ、患者の家族環境や理解度によっては、正しく服薬していけないリスクがあります。

 

看護目標 退院後に自分で服薬管理ができるようになる
OP(観察項目) ・患者の理解度

・家族構成

・家族の理解度、協力度

TP(ケア項目) ・入院中から規則正しく決まった時間に服薬する

・服薬を忘れないようにするにはどうすべきか、患者と相談する

・地域の保健所と連携を取り、退院後すぐにDOTSを始められるように調整する

EP(教育項目) ・服薬の継続の重要性を患者本人や家族に説明する

・服薬中断した時のリスクを説明する

 

■結核という疾患に対しての不安がある

結核は現代ではきちんと治療をすれば治癒可能な病気ですが、まだ「不治の病」というイメージを持っていたり、社会復帰できないのではないかという不安を持っている患者が少なくありません。

 

看護目標 疾患を正しく理解できる
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・症状の程度

・患者の理解度

・言動や表情

・食事摂取量

・睡眠状況

TP(ケア項目) ・患者の不安を傾聴する

・必要なら、医師に何度も説明してもらうようにする

EP(教育項目) ・家族と患者に、現在の状況や治療方針、治療期間など正しい情報提供を行う

・不安なこと、心配なことはいつでも言ってもらうように伝える

 

まとめ

結核の基礎知識と症状、検査、治療、看護計画、看護研究をまとめました。結核は珍しい病気ではありませんので、看護師として働いていると、一度は「あの患者から結核菌が検出された」という事態に出くわしたことがあると思います。

今度も、結核患者の看護をする機会はあると思いますので、結核について正しい知識を持って、適切な看護ができるようにしておきましょう。

 

参考文献

結核の基礎知識(改訂第4版)Ⅲ.結核の治療(一般社団法人 日本結核病学会)

結核の基礎知識 (公益財団法人結核予防会結核研究所)

結核について(医療法人 西福岡病院)

結核4 | トピックス|(日本臨床検査薬協会)

Ⅳ.結核医療における看護職の意識と役割|結核第87巻第2号(永田容子、工藤恵子|2012年2月)

結核対策における保健師・看護師の役割―ロンドンのTBナースの活動から|公衆衛生69巻3号(加藤誠也、小林典子、永田容子|2005年3月)

結核患者の治療継続を支援する看護介入プログラム(秋原志穂、藤村一美、 吉田ヤヨイ、笹山久美代、冨田ひとみ、森迫京子、園田恭子|大阪市立大学看護学雑誌 第 6巻|2010年3月)

肺結核に糖尿病を合併する患者の看護—問題点とその対策(豊田シマ子、杉沼としえ|講評「本誌看護研究委員会—合併症との関連を」看護学雑誌30巻7|1966年7月)

職場の結核の疫学的動向 看護師の結核発病リスクの検討(大森正子、星野斉之、山内祐子、内村和宏|2007年2月)

潰瘍性大腸炎の看護|原因・症状や食事療法などの看護計画

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厚生労働省が定める特定難治性疾患のうちの一つであり、最も多く発症すると言われている潰瘍性大腸炎。先進国に多くみられ、日本でも急増している病気です。根本的な治療法はありませんが、患者さんに正しい知識を持ってもらうことで、一般的な日常生活を送ることが可能な病気でもあります。

引用元: 潰瘍性大腸炎ってなんだろう

 

1、潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎は原因不明の大腸のびまん性炎症性疾患です。粘膜から粘膜下層までの大腸の表層を主とした炎症で、肛門部に近い直腸から上行性に広がる性質があり、結腸に向かって広がるのが特徴です。難治性のため寛解と再燃を繰り返すことが多く、長期にわたりこの病気と生活を共にしていく必要があります。

発症のピークは20代ですが、若年者から高齢者まで、男女ともに発症します。近年、食生活の欧米化に伴い増加している病気です。

 

2、潰瘍性大腸炎の原因

原因不明の炎症性疾患と言われる潰瘍性大腸炎ですが、自己免疫説・精神身体説・感染説・アレルギー説・自律神経障害説などの原因説があります。自己のリンパ球が大腸粘膜に対して障害を加えると考えられていますが、詳しい機序は不明です。

 

3、潰瘍性大腸炎の症状

慢性の血便・粘液便・下痢を主訴とし、病変の広がりによって直腸炎型・左側大腸炎型・全大腸炎型の3つに分類されます。さらには臨床経過から再燃寛解型・慢性持続型・急性劇症型・初回発作型に分類されます。全身症状を欠くものを軽症、激しい下痢、発熱、頻脈などの全身症状があって、白血球増加、血沈値の亢進のあるものを重症、その中間を中等症と言います。発熱や栄養障害・貧血・腹痛を伴い、劇症の場合は大量出血、穿孔、中毒症状、中毒性巨大結腸症などの重篤な合併症をまねきます。腸管外症状として関節炎、虹彩炎、皮膚病編(壊疽性膿皮症、結節性紅斑等)膵炎などを合併することもあります。

引用元:登美ヶ丘治療院

 

4、診断

便培養や血液検査、組織検査等でサルモネラ腸炎、大腸結核、クローン病、細菌性赤痢、薬剤性大腸炎、虚血性大腸炎などを否定して初めて診断がつきます。内視鏡やバリウム検査で炎症や潰瘍の広がり具合を確認します。特に重篤で進行の早い病型の場合は注腸X線検査・大腸鏡検査には注意が必要で、まず直腸鏡やX線腹部単純写真などで病状を判定することが大切です。X線所見では、注腸撮影により特徴的な鉛管状腸管を呈します。炎症性ポリープ・鋸歯状変化などを認めることもあります。内視鏡的には粘膜の顆粒状変化・接触出血があり、病変が進むと膿性分泌物・潰瘍形成などが見られます。先にあげた炎症性疾患の中で最も鑑別診断上重要なのはクローン病です。

潰瘍性大腸炎とクローン病の違いを大まかに知っておきましょう。

 

①クローン病

・好発年齢:20〜30歳代

・病変部位:口から肛門まで消化管のあらゆる部位に広がることがある(特に回腸に発症しやすい)

消化管以外にも病変部がある(皮膚、関節炎、虹彩炎、貧血)

・病変:スキップ病変(病変と病変の間に正常な部位がある)

・重症化した場合:瘻孔や狭窄を生じる

 

➁潰瘍性大腸炎

・好発年齢:20〜40歳代

・病変部位 大腸(特に直腸)

粘膜や粘膜下層に限局

クローン病に比べて消化管以外の症状は少ない(貧血、発熱等がみられることもある)

・病変:びまん性(病変は連続的に広がり性状な部位はない)

・重症化した場合:瘻孔や狭窄は生じない

 

この他、各疾患の症状や治療法も異なってくるので知識として身につけておくと良いでしょう。

 

5、潰瘍性大腸炎の治療

腸の炎症を抑えることと食事療法により長期に寛解維持できるよう治療を進めていきます。寛解を維持するためには、定期的な内服と食事療法が大変重要です。患者さんにとっては長く、時には辛い道のりとなります。治療を続けながら日常生活を少しでも快適に送れるよう援助していかなくてはなりません。

 

5−1、食事療法

食事は寛解期と再燃期で異なりますが、残渣の少ない栄養豊富な食事を摂取することが大切です。また、重症なものや活動期は絶食とし、中心静脈栄養法で高エネルギー輸液を行い腸管の安静をはかります。

 

寛解期 脂肪分の多いものや、刺激の強い食べ物、熱いものなどは控えるようにします。高タンパク質・高エネルギー食が基本となります。

また、腸内環境を整えるために乳酸菌やビフィズス菌などの腸内細菌叢に良い変化を与えるものを積極的に摂取してもらうよう指導していく必要があります。

再燃期 寛解期の食事に加え低脂肪の食事を摂ってもらうよう説明します。

腸の炎症が強いため、必要な水分や栄養素が十分に吸収できないほか、下痢や粘血便としてカリウムや塩分が体外へ排出されてしまうからです。

水分は少量ずつ摂取するとともに塩分やカリウムを含む食べ物も摂取してもらうようにしましょう。

 

5−2、薬物療法

薬物療法には一般的に5−アミノサリチル酸(5-ASA)製剤が使用されます。軽症から中等症に基本的に使用される薬剤で、「活動期の炎症を抑える」・「寛解期の維持」に使われます。経口薬と座薬があり、炎症の範囲に応じて使用していきます。炎症が強い場合にはステロイドも使用します。長期に渡り大量に内服すると副作用の出現が危惧されるため、決められた期間に必要量を使用していきます。その他には、免疫抑制剤、抗体製剤を用いる場合もあります。ステロイドによる治療効果が見られない場合や、ステロイドを減量・中止することで再燃してしまう場合には免疫抑制剤を使用します。これらの薬物療法でも症状が改善しない時は抗体製剤を使用します。

 

5−3、手術

劇症化による穿孔や大量出血、中毒性巨大結腸症、大腸ガンの合併時は緊急手術の適応となります。また、再燃後6ヶ月以上活動期が続き普通の生活を送ることが困難な時や、頻回に再燃を繰り返す、大腸以外に重症な合併症を発症したような場合なども手術の適応となります。

術式は大腸全摘と回腸人工肛門造設術、自然肛門温存術があります。

 

5−4、血球成分除去療法

白血球を取り出し炎症に関与するリンパ球、顆粒球を取り除いて体内に戻す方法です。

 

6、潰瘍性大腸炎の看護問題と看護計画

症状の有無や程度により全身への影響は個々で異なるため、全身状態に関する情報を捉えて日常生活やセルフケアの向上に関する計画の立案が必要です。

6-1、看護問題

①腸壁における吸収障害と腸管の炎症による栄養状態の低下・身体的苦痛

②下痢による肛門部の潰瘍・びらんの可能性

③社会生活を送っていく中で食生活が乱れてしまう可能性

 

6-2、看護計画

①目標:栄養状態の改善と身体的苦痛の軽減が図れる

 

■OP

1、バイタルサイン

2、便の性状・量・状態

3、排便回数

4、血便の有無と程度

5、腹痛・グル音の有無

6、悪心・嘔吐・口渇の有無

7、食事の摂取状況と食欲の有無

8、検査データ

9、全身倦怠感、活動性

10、体重の増減

11、肛門周囲の潰瘍・びらん

12、口内炎の有無

13、IN-OUTバランス

14、皮膚の状態

 

■TP

1、状態に応じて輸液の管理、経管栄養を行う

2、安静が保持できるよう援助する

3、内服が確実に行えるよう援助・確認を行う

4、栄養士の指導のもと食事療法を行う

5、食事内容の工夫

6、腹部の保温

7、不安や苦痛への傾聴

 

 

■EP

1、安静の必要性を説明する

2、気分不快や痛みがある時はすぐにコールしてもらうよう説明する

3、食事指導

4、薬物療法の必要性と重要性を説明し服薬指導をする

 

➁目標:肛門部の潰瘍・びらんの防止と異常の早期発見ができる

 

■OP

1、排便状況:下痢の回数、便の性状、下血の程度

2、肛門周囲の粘膜の状態

3、栄養状態のチェック

 

■TP

1、肛門周囲の清潔を保てるよう援助する

2、肛門部に外力がかからないよう工夫する

3、食欲不振等による栄養状態の低下を認める時は食事の工夫や輸液の検討をする

 

■EP

1、清潔保持についての説明と指導

 

③目標:食事療法を守った社会生活が送れる

 

■OP

1、生活リズム

2、睡眠状況

3、食事の内容・摂取量

4、食事療法に関する理解度

5、食事療法が守れているか

6、家族や友人の協力の有無

 

■TP・EP

1、食事療法についての不明点や理解度の低い部分については再度説明・指導を行う

2、可能であれば家族にも協力をしてもらい、食事療法が続けられるような環境を作る援助をする

3、食事内容の工夫や栄養価の高く消化の良い食べ物の選択について説明する

4、現在の栄養状態について説明する

5、治療における質問や心配な事はいつでも相談に乗れることを説明し、不安やストレスを表出できるよう援助する

 

まとめ

潰瘍性大腸炎は長期間にわたる治療が必要となるため、患者さんは多くのストレスや不安を抱えて社会生活を送っています。私たち医療者は、長期にわたる治療がきちんと継続していけるよう入院中から退院後まで援助していく必要があります。入院中と違い社会生活を送る患者さんの生活全てを把握する事は困難です。患者さんや家族としっかりコミュニケーションをとりながらそれぞれが必要としている援助をしていけると良いですね。

 

参考文献

潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針 (厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(鈴木班)平成27年度改訂版|平成28年3月31日)

潰瘍性大腸炎の 最適な内科治療を考える(日本消化器病学会総会ランチョンセミナー|鈴木康夫・中村志郎・国崎玲子|平成27年4月23日)

脊髄損傷の看護|脊髄損傷のレベル、看護問題や計画・ケアなどの看護過程と看護研究過

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脊髄損傷は、損傷のレベルや位置によって生じる症状や障害が違い、その障害のレベルによって看護ケアも変わってきます。また障害を急に負うことでの精神的なサポートや、合併症の予防など看護ケアは多岐に渡ります。脊髄損傷について知り、看護に活かしていきましょう。

 

1、脊髄損傷とは

脊髄損傷は脱臼や骨折などによって脊柱に強い外的な力が加わることや、脊髄腫瘍やヘルニアによって脊柱管が狭くなることなどの内的因子によって脊椎を損壊し、脊髄に損傷を受けた病態です。頚椎後縦靭帯骨化症や頚椎症などで脊髄の圧迫がある場合は、転倒程度の衝撃によっても脊髄損傷が生じることがあります。脊髄を含む中枢神経系は末梢神経系とは異なり、現代では一度損傷すると修復や再生されることはないといわれており、回復させるための治療法はありません。

脊髄損傷の原因は、交通事故での受傷が最も多く、高所からの落下や、転倒、打撲、下敷き、スポーツによる受傷もあります。

 

2、脊髄損傷のレベル

脊髄損傷は、神経学検査、画像検査、筋電図、徒手筋力テスト、皮膚知覚テストなどの検査が行われ、損傷と障害の程度を調べます。その損傷の程度によってレベル分けされており、そのレベルによって障害の程度も異なります。

 

2−1、完全型損傷について

完全型は、脊髄が横断的に離断することによって神経伝達機能が完全に断たれた状態のことをいいます。損傷部位以下には上位中枢神経からの伝達が失われ、脳からの運動命令が届かないために損傷部位以下の運動機能は失われます。また、損傷部位以下の感覚情報を上位中枢へ伝達することもできないため、損傷部位以下の感覚知覚機能も失われます。感覚知覚機能は完全に失われることもありますが、一部は残り、足が伸びているのに曲がっているような違和感や、しびれなどの異常知覚、幻肢痛を感じることもあります。

慢性期になると、意思とは関係なく感覚が失われた箇所の筋肉が強張り、痙攣する痙性や痙縮が起こることもあります。

自律神経系の機能も失うために、麻痺の代謝は鈍麻になり、外傷は治りにくく、褥瘡の出現と治療、管理が問題となります。また、自律神経系の調節機能も損なわれるので、排尿、排便、呼吸、血圧調節、発汗、体温調節などが難しくなります。

 

2−2、不完全型損傷について

不完全型は、脊髄の一部が圧迫などによって損傷し、一部の機能が残存した状態のことをいいます。完全型のように、運動、感覚、自律神経系の機能は損なわれますが、完全に失われるということではなく、やや筋力が弱くなるというように損傷部位以下の機能は弱いながらも残している状態となります。その障害の程度は部位の損傷の度合いによって異なります。

 

2−3、障害の重症度

脊髄はその高位によって、頭側から頚髄(C1からC8)、胸髄(T1からT12)、腰髄(L1からL5)、仙髄(S1からS5)に分けられ、損傷部位が上位であればあるほど、損傷部位以下の部分が多くなり障害は重度になります。

 

■脊髄の分布

出典:交通事故サポートセンター

 

この障害の程度によって、損傷部位が上位であると呼吸器が必要な場合もあり、下位ならある程度自立しているが介助が必要であるというように生活の自立度が異なります。

 

■脊髄損傷レベルと達成可能なADL

 

損傷レベル 主な機能残存筋 運動機能 移動・移動方法 ADL
C3以上 胸鎖乳突筋

僧帽筋

首の可動可

呼吸障害

電動車椅子 全介助

人工呼吸器

C4 横隔膜 四肢麻痺

自発呼吸可

肩甲骨挙上可

電動車椅子 全介助

 

C5 三角筋

上腕二頭筋

四肢麻痺、または肩、肘、前腕の一部が可動可 平地でのハンドリウムに工夫した車椅子の可動可 重度介助

自助具による食事、整容可

C6 橈側手根伸筋 肩関節内転

手関節背屈

車椅子駆動可

一部では改造自動車運転可

中等度介助

自助具を用いて書字、食事可、更衣の一部自立

C7 上腕三頭筋

指伸筋

上肢が全て使える 車椅子可動可

移乗動作可、自動車運転可

車椅子にての日常生活、ほとんど自立
C8〜T1 指屈筋

手内筋

手内筋、指の屈曲 手の巧緻運動、車椅子駆動可 車椅子でのADL自立
T2〜T6 上部肋間、筋上部背筋 体幹のバランス安定 骨盤帯付長下肢装具・松葉杖にて歩行可

実用は車椅子

ADLは自立
T12 腹筋群 骨盤帯の挙上 長下肢装具・松葉杖にて歩行可

実用は車椅子

ADLは自立
L3 大腿四頭筋 下肢が一部動く 短下肢装具・1本杖で歩行可能 ADLは自立

 

3、脊髄損傷の看護過程

脊髄損傷に対する看護過程を展開していきます。急性期には合併症の出現が最も注意するべきことであり、脊髄損傷は突然の受傷によっての障害になりために精神的なサポートも必要になります。

回復期・慢性期は、患者が障害を持ちながらの日常生活の自立を目指す時期であり、障害を受容し、無事に社会復帰できるまで医療チームが援助することも必要です。

 

3−1、看護問題

脊髄損傷の看護問題は次のようになります。

 

①身体可動性障害

②皮膚統合性障害リスク状態

③不安・混乱状態

 

3−2、看護計画・ケア

①身体可動性障害

■看護目標:障害の程度に応じて自力動作ができる

 

■観察項目(OP)

①身体運動機能(徒手筋力テスト、握力、関節可動域、ADLレベル)

②運動・知覚麻痺レベル

③疼痛の有無、程度

④安静度

⑤身体症状の有無

⑥リハビリテーションに関する知識、意欲

⑦家族・社会的背景

 

■ケア項目(CP)

①可能な範囲で自力動作運動、介助運動を行う。

②麻痺領域のマッサージ、他動運動

③温熱療法

④足関節を足底板やスプリントで固定する

⑤車椅子を使用するときは、ベッドと車椅子の配置を工夫する

⑥家族の協力を得る

 

■教育項目(EP)

①運動やリハビリテーションの必要性を説明する

②寝たきりにならないように、ADLを積極的に行うことを説明する

③車椅子の使用方法を説明する

 

②皮膚統合性障害リスク状態

■看護目標:褥瘡が発生しない

 

■観察項目(OP)

①皮膚の状態(皮膚色、乾燥・湿潤の有無)

②圧迫・疼痛の有無

③ベッド上での動作の状態

④栄養状態(Hb、Albなど)・食事摂取量

⑤皮膚の清潔度

⑥ADLレベル

 

■ケア項目(CP)

①体圧分散寝具を使用する

②定期的に体位変換を行う

③車椅子使用時は定期的にプッシュアップを行う

④保清を介助する

 

■教育項目(EP)

①褥瘡を予防することの必要性について説明する

②褥瘡になりやすい原因や要因について説明する

 

③不安・混乱状態

■看護目標:障害を受容し、できる範囲でADLを行うことができる

 

■観察項目(OP)

①受傷した原因や障害への思い

②ADLや社会復帰への意欲の有無・程度

③表情・言動

④家族背景・サポート

⑤疼痛の有無

⑥ADL状況

 

■ケア項目(CP)

①寄り添って思いを傾聴する

②落ち込んでいるときに無理にADLを強要しない

③思いを表出しやすいような環境を作る

④話を聞くときは、プライバシーを考慮する

⑤同じ障害を持つ患者の集まりを紹介する

⑥情報提供

 

■教育項目(EP)

①遠慮なく思いを表出するように説明する

②障害を持ってもできることを説明する

③不安や落ち込みがあることは問題ないことであると説明する

 

4、脊髄損傷の看護研究について

脊髄損傷の看護研究には、患者の精神的なサポートに関するものや、リバビリテーションに過程に関するもの、褥瘡に関するものなど様々です。看護研究の一部をご紹介します。

 

脊髄損傷者の受傷による苦悩から立ち直りに向け意識が変化する要因

(坂本雅代、前田智子著|看護研究2002 35号 巻5号)

 

成人期にある脊髄損傷者の自己に対する意味づけ

(堀田涼子|茨城県立医療大学大学院博士後期課程保健医療科学研究科|2016)

 

脊髄に障がいのある女性の適応プロセスに関する質的研究

(利木 佐起子、辻本 裕子、斉藤 早苗|佛教大学保健医療技術学部論集 第 9 号 2015年3月)

 

脊髄損傷者の褥瘡発症と対処の特徴 ―病院初発者と自宅初発者・健康段階別の比較を中心として―

(瀧本美佐子、神戸美輪子、坂本雅代|人と環境 Vol. 1 2008

 

まとめ

脊髄損傷は突然の受傷による精神的なショックやボディイメージの変化があり、重大な合併症が発生する可能性もあります。精神的なサポートや合併症の発生を予防することは、脊髄損傷の看護としての大切なポイントになります。このようなポイントを理解して、看護ケアを行なっていきましょう。

 

参考文献

脊髄損傷、理学療法診療ガイドライン第1版(2011)(日本理学療法士学会|2011/10)

皮下気腫の看護|皮下気腫を起こす様々な原因と症状や看護計画

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皮下気腫の看護

皮下組織内に空気が貯留してしまう皮下気腫。エアリークや消化管穿孔がない場合、外科手術は行わず経過観察となる皮下気腫ですが、気腫は急激に症状が発現するため、自分に起こったことが理解しきれず患者の不安は大きくなります。発生は病院内での術操作だけではなく、交通事故や転倒による骨折、肺炎や喘息など基礎疾患などからでも皮下気腫が生じることがあるため、ひょっとしたことで皮下気腫を起こしていた!ということも。皮下気腫の発生場所によっては重症例となり緊急手術を要することもあるので注意して観察しましょう!

1、皮下気腫とは

皮下気腫とは、皮下組織内に空気が貯留した状態のことをいいます。肺、気管支、食道、腸管などの臓器が損傷を受けることで生じます。特に縦隔内に生じたものを縦隔気腫とよびます。縦隔気腫の発生機序は、肺胞破裂により空気が肺間質に入り込み、肺血管鞘を通り肺門に至り縦隔内に漏出する流れです。新生児にはしばしばみられますが、成人において縦隔気腫はまれな疾患です。

2、皮下気腫の原因

■腹腔鏡下手術の合併症

腹腔鏡下手術で気腹する際、送気した二酸化炭素が皮下組織内に入り込み生じます。送気チューブが接続されたトロカーが、確実に腹腔内に挿入されているか確認することが重要です。トロカーとは、下画像左上の器械で、ポート(腹部にあける穴の位置)に設置する器具のことです。

 

出典:前立腺がんの腹腔鏡手術(広島大学大学院医歯薬保健学研究院総合健康科学部門腎泌尿器科学)

 

■人工換気による合併症

持続的な陽圧換気が肺実質に損傷を与えて肺胞内ガスが肺実質外へ漏れ出し生じます。経鼻挿管時に経鼻エアウェイや挿管チューブの先端が鼻咽腔を穿孔すると縦隔気腫を起こしやすいので注意が必要です。

 

■外傷

事故や転落で胸骨や肋骨を骨折し気管や肺を損傷した場合生じます。

 

■歯科治療

・エアータービン、エアーシリンジ、歯科用レーザーからの送気圧入

・根管治療中の過酸化水素と次亜塩素酸ナトリウムによる局所洗浄

・歯科治療時あるいは治療後の咳やくしゃみによる急激な呼気圧上昇

・上下顎骨、鼻骨など顔面骨骨折の合併症

 

発生頻度としてはエアータービンによるものが一番大きいです。また口腔治療で皮下気腫

を引き起こす条件としては、以下の条件が挙げられます。

 

・不適切な装置の使用

・粘膜骨膜弁の損傷

・必要以上に広い骨膜剥離

・下顎骨舌側の骨欠損

 

■大腸内視鏡検査の合併症

大腸内視鏡検査による皮下気腫の合併症はまれではありますが、大腸穿孔による皮下気腫は、後腹膜気腫を経由して発症すると考えられています。経路は二つあり、一つは結腸が後腹膜に直接穿通して腸管ガスが後腹膜に迷入し後腹膜気腫をきたす経路、もう一つは、結腸の漿膜下穿孔から腸管膜気腫をきたす経路があります。どちらの経路をたどるかは、

先行した結腸の解剖学的位置や穿孔部位の壁在性、深達度によると考えられています。

 

■喘息や肺炎など基礎疾患による肺胞の破裂

 

■特発性の皮下気腫

特発性の皮下気腫もあり,自然気胸と同様に若年男性に多く,安静加療で1週間前後で軽快します(特発性縦隔気腫)。

3、皮下気腫の症状

皮膚を押すと握雪音crunching soundが触知されますが、一般的には自然消滅します。握雪音とは、胸膜摩擦音ともいい、雪を握りしめた時の「キシキシ」「ギューギュー」というのに似た音です。気腫を生じる部位によって症状は異なりますが、腫脹のほか、違和感、疼痛、気分不快、腹部臓器の場合は腹部膨満感、腹膜刺激症状を呈することもあります。呼吸器の場合は呼吸困難、胸部圧迫感を呈し、頭部頸部に進展すると鼻声、複視などを起こします。また、下部前胸部で心音に一致した捻髪音が聞こえるのも特徴で、ハマン徴候と呼びます。これは心拍動によって縦隔内の空気が圧迫されることが原因で起こり、特に吸気時や左側臥位で聞こえることが多いです。

4、皮下気腫の検査

最もすすめられる検査はCTです。というのも単純X線写真では、正面像だけで皮下気腫を判定できないことがあるからです。縦隔気腫は、とくに大動脈弓の外縁で明瞭にみられることがあります(spinnaker sail sign, angel wings sign)。また、血液検査も合わせて行い、好中球、CRPの高度上昇などの炎症反応を認めた場合、消化管穿孔を疑います。

5、皮下気腫の治療

エアリークのない皮下気腫は経過観察で軽快しますが、気管や消化管を損傷している場合は外科手術適応になり、気胸を合併している場合、また胸痛が強い場合は胸腔ドレナージを実施します。

 

6、皮下気腫の看護計画

6-1、安楽障害

■看護目標:皮下気腫による症状が軽快したと感じることができる

 

■観察項目

・バイタルサイン

・疼痛の程度

・表情、言動

・握雪音

・皮下気腫の大きさ、範囲、画像所見(単純X線写真、CT)

・気分不快の有無

・腹部の場合:腹部膨満感、腹痛の有無

・胸部の場合:呼吸困難の有無、呼吸音

・外科手術を行った場合、創部の観察、感染徴候の有無はないか、胸腔ドレナージしている場合は刺入部の確認

・検査データ(CRPや白血球の上昇は見られないか)

 

■ケア項目

・皮下気腫の範囲をマーキングする

・ドレナージがある場合はドレナージの管理

・安楽な体位に調整する

・適宜鎮痛剤使用

胸腔ドレナージの管理についてはこちらをご覧ください。「胸腔ドレーンの仕組みと管理とエアリーク・抜去における看護

・点滴やモニター整理

 

■指導項目

・不快な症状が出現した場合は直ちに医療従事者に言うよう説明する

 

6-2、突然の皮下気腫発生による不安

■看護目標:突然の皮下気腫出現への不安が軽減する

 

■観察項目

・不安な表情、言動

・皮下気腫出現の説明をどう受け止めているか

・睡眠できているか

・苦痛な症状の有無

・相談できる家族やパートナーの有無

 

■ケア項目

・患者の皮下気腫への理解に不十分なことがあれば情報を補足する

・眠れないときは適宜睡眠薬使用

 

■指導項目

・「ずっとお腹が張ったままではないか」「ずっと首に空気がたまったままではないか」などの間違った見解があれば訂正する

・眠れないときは睡眠薬を使えることを説明する

 

まとめ

いかがでしたか。経過観察でいい皮下気腫もあれば、発生場所や原因によっては緊急手術に踏み込まなければ命にかかわる皮下気腫もあることに驚かれたことと思います。突然体に空気がたまりボディイメージが崩れ不安に思う患者や、気胸を合併し胸腔ドレナージで管理されることになり身動きがとりづらくなった患者など、発生が突然なだけに衝撃が強いのが皮下気腫の特徴です。間違った見解をしていれば、正しい情報を提供し、不安を取り除いてあげられるように努めましょう!

 

■参考文献

喉頭微細術後に頚部皮下気腫,縦隔気腫を発症した1症例|徳島大学病院麻酔科(大下修弘、堤保夫、 高田香、野村佳世、大下修造、田中克哉|2011/10/22 )

 

歯科用炭酸ガスレーザーを用いた上唇小帯切除時に生じた皮下気腫の1例|香川大学医学部歯科口腔外科学講座(荒木咲弥加、澤井史、三木武寛、目黒敬一郎、和田圭之進、岩崎昭憲、小川尊明、大林由美子、三宅実、松井義郎|2014/07/18)

 

内視鏡的大腸ポリープ切除後に広範な皮下気腫を認めた1例|豊橋市民病院一般外科(星野伸晃、平松和洋、加藤岳人|2012/06/11)

臨床外科看護総論|株式会社医学書院 (矢永勝彦、小路美喜子|348 416 2011年2月1日)

縦隔気腫、皮下気腫|日本赤十字社松山赤十字病院(呼吸器外科 伊藤謙作)

縦隔気腫(日本救急医学会)

EUS(超音波内視鏡検査)の看護|目的や方法、看護のポイント

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EUS(超音波内視鏡検査)の看護

EUS(超音波内視鏡検査)は、上部消化管や下部消化管を消化管の中から超音波で検査する検査方法になります。粘膜下の腫瘍の精査やがんの浸潤の見極め等に用いられます。

EUSの基礎知識や目的、方法、看護のポイントをまとめました。EUSの介助・看護をする時の参考にして下さい。

1、EUS(超音波内視鏡検査)とは

EUS(Endoscopic Ultrasonography=超音波内視鏡検査)とは、消化管の中(内腔)から超音波検査(エコー検査)を行う方法です。

EUSは通常の内視鏡の先端に超音波装置がついているものを用いて行います。

出典:膵・胆道内視鏡|慶應義塾大学病院 KOMPAS

 

超音波装置がついている内視鏡を口または肛門から挿入することで、上部消化管(食道、胃、十二指腸)や下部消化管(結腸、直腸)の超音波検査を行います。また、上部消化管・下部消化管だけでなく、膵臓や胆のうなどの周辺臓器を詳細に検査することも可能です。EUSは消化管内部から超音波検査を行うことで、消化管の各臓器の内部や膵臓・胆のうなどの周辺臓器、周辺の血管やリンパ節の状態を詳細に検査できるのです。

体表からの超音波検査は、脂肪組織や骨、腹壁、腹腔、消化管内の空気などが画像化する時の妨げになるのですが、EUSは消化管内の至近距離から5~30MHzという高い周波の超音波で検査しますので、画像化の妨げになるものが少なく、鮮明な画像で検査できるというメリットがあります。

2、EUS(超音波内視鏡検査)の目的

EUSは食道、胃、十二指腸、大腸、膵臓、胆のうを詳細に検査する目的で行われますが、特に粘膜下腫瘍やがんの検査をする時には、EUSはよく用いられる検査です。

 

■粘膜下腫瘍

出典:超音波内視鏡検査(EUS)について|メディカルトピア草加病院

 

粘膜下腫瘍とは粘膜の表面に腫瘍ができるのではなく、粘膜の下、つまり粘膜下層や筋層に腫瘍ができる病変です。粘膜下に腫瘍ができると、通常の内視鏡では悪性腫瘍か良性腫瘍か、またどのくらい腫瘍が広がっているのかはわかりません。

EUSで検査をすることで、粘膜下腫瘍の状態がわかるので、治療方針を決めることができるのです。

 

■がんの検査

がん検査において、EUSは早期がんに対して行われます。

出典:がん総合診療体制  がんの3大治療法 前立腺がん|社会医療法人財団 石心会 川崎幸病院

 

どこまでがんが浸潤しているかを検査するために、EUSが用いられます。がんはどのくらい浸潤しているか、ステージはどのくらいかによって治療法が異なります。

一般的には粘膜内にとどまっている場合は、リンパ節への転移のリスクが低いため、内視鏡手術でがんの摘出をしますが、粘膜下層にまで浸潤していると、外科的手術を行わなくてはいけません。

そのため、EUSはがんのステージを見極め、治療方針を決める目的で行われることがあります。

また、すい臓がんは発見しにくいがんで、自覚症状が出てきた場合は、もう治療方法がないという状態にまで進行していることが多いのですが、EUSは通常の検査では発見できないような早期のすい臓がんでも発見することができます。

そのため、家族歴がある、遺伝性膵炎の既往がある、膵嚢胞性疾患の既往があるなど、すい臓がんのリスクが高い人や腫瘍マーカーで陽性が出た人などは、EUSを行って、すい臓がんがないかどうかを検査することもあります。

 

3、EUS(超音波内視鏡検査)の方法

EUS(超音波内視鏡検査)の方法を説明していきます。EUSは基本的に一般の内視鏡検査と同じような流れで行われます。今から説明する飲食制限等の内容は、あくまで一例です。病院によって詳細は異なります。

 

■検査前日~検査当日の朝

上部消化管のEUSの場合は、前日の夕食は22時までに済ませて、その後は水やお茶のみOKになります。そして、検査当日は朝から絶食で、水分は検査2時間前まで飲んで良いとしている医療施設が多いです。

下部消化管のEUSは前日の昼食と夕食は、事前に渡してある検査食を食べ、夜には下剤を服用します。夕食後は絶食で、水分のみ飲水可になります。検査当日は絶食で、下剤を服用します。

 

■検査中の流れ

①EUSの検査を行うことや検査手順などを説明し、同意を得る

②経口からの検査の場合は、キシロカインビスカスを口に含んでもらい、麻酔をする。

③検査台に左側臥位になって寝てもらう。

④キシロカインスプレーで追加の麻酔を行う。場合によっては鎮静剤を注射する。

⑤EUSを挿入し、目的の臓器まで進める

⑥病変部位に付着した粘液を洗い流し、脱気水を充満させて、超音波検査を行い観察をする。

⑦観察が終わったら、EUSを抜去して終了。

⑧鎮静剤の効果が残っているので、リカバリー室で2時間前後、安静にしてもらう。

 

4、EUS(超音波内視鏡検査)の看護のポイント

EUS(超音波内視鏡検査)を受ける患者の看護をする時のポイントを説明していきます。

 

■患者の理解度を考慮して説明を行う

EUSを行う場合には、前日から食事制限や下剤の服用などの前処置が必要になりますので、看護師は患者に対して、前日の夕食は何時までに終わらせるのか、水分は何を飲んで良いのかなどを詳しく説明しておく必要があります。

この時には、患者の理解度を考慮して説明をしなければいけません。高齢者の場合、説明しても、その重要性をきちんと理解することができず、検査当日も朝食を食べてしまったなど、適切な前処置が行えないケースがあります。

看護師は説明時に患者の理解度を観察して、必要であれば、家族にも同席してもらって前処置の説明をするようにしてください。

 

■合併症が起こらないかを観察する

EUSの検査中は合併症が起こる可能性がありますので、看護師は合併症が起こっていないかを観察しなければいけません。

EUSによって起こるリスクがある合併症には、次のようなものがあります。

 

・出血

・穿孔

・ショック

 

また、局所麻酔であるキシロカインや鎮静剤でアレルギーを起こすこともありますので、看護師は合併症のリスクを念頭に置いて観察するようにしてください。

特に、EUS-FNA(Endoscopic Ultrasound-Fine Needle Aspiration=超音波内視鏡下穿刺吸引法)を行う時には注意が必要です。

EUS-FNAとは、内視鏡で超音波検査をするのと同時に、消化管内から針を刺して、病変の組織を採取する検査方法になります。組織を採取し、病理検査を行うことで、より正確な診断をすることができます。

このEUS-FNAは針を刺しますので、EUSの合併症である出血や穿孔、ショック以外に感染のリスクがありますし、針を刺す部位によっては膵炎や門脈閉塞などのリスクがあります。

そのため、看護師はEUSを施行中には患者の様子やバイタルサインを確認しながら、合併症が起こっていないかを観察するようにしましょう。

 

■精神的なケアを行う

EUSを行う患者には、精神的なケアを行うことも大切です。上部消化管の検査を行う時には、口から内視鏡を挿入しますので、患者は「苦しいのではないか」とか「嘔吐いたらどうしよう」という不安があります。

下部消化管の検査の場合は、患者は検査に対する不安以外にも、羞恥心を持っています。

さらに、EUSは粘膜下腫瘍ががんかどうかを見極めるため、またはがんがどのくらい浸潤しているかを検査するために行いますので、EUSを受ける患者はがんに対する不安も持っているのです。

そのため、看護師は患者にEUSの検査について細かく説明し、検査中は声掛けをしたり、必要であれば手を握るなどの精神的なケアを行っていくようにしてください。

 

まとめ

EUS(超音波内視鏡検査)の基礎知識や目的、方法、看護のポイントをまとめました。EUSは消化管の粘膜下腫瘍の精査やがんの浸潤の程度を見極めたり、すい臓がんの早期発見のために行われる検査です。

基本的には内視鏡検査を同じような手順で行われますので、「胃カメラ検査(GIF)の看護|検査前~検査後における看護ケアと観察項目」や「CF(大腸内視鏡検査)の看護手順と留意すべき観察項目」も参考にしてください。

 

参考文献

膵・胆道内視鏡|慶應義塾大学病院 KOMPAS

超音波内視鏡検査(EUS)・検査と治療|中野胃腸病院 中野胃腸病院・健診センターなかの・訪問看護ステーションなかの 医療法人 社団 以心会

超音波内視鏡:EUS(すい臓・胆管検査)|消化器病・内視鏡センター 大分三愛メディカルセンター

超音波内視鏡検査(EUS)について|メディカルトピア草加病院

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の看護|定義や診断基準、原因、症状、治療、看護計画

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ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の看護

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)とは様々な原因によって肺水腫を起こして、重症の呼吸不全に陥る疾患ですが、根本的な治療方法がなく、死亡率が高い疾患です。

ARDSの基礎知識や定義、診断基準、原因、症状、治療、看護計画をまとめました。ARDSの患者の看護をする時の参考にしてください。

1、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)とは?定義と診断基準

ARDS(Acute Respira-tory Distress Syndrome=急性呼吸窮迫症候群)とは、様々な原因によって肺損傷が進行し、重症の呼吸不全になる病気です。

ARDSはいろいろな原因によって肺の血管透過性が進行することで、肺胞腔内に血液中の水分が移動し、肺水腫を起こして呼吸不全になるのです。肺が水浸しになる、肺胞がむくんだ状態になると考えるとイメージしやすいかもしれません。

 

出典:急性呼吸不全・ARDS|一般社団法人日本呼吸器学会

 

ARDSの定義は2011年にドイツのベルリンで開催されたヨーロッパ集中治療医学会で発表され、2012年にJAMA誌に最終版が掲載された「ベルリン定義」と呼ばれるものが採用されています。

 

■ARDSの定義

 

①1週間以内の急性発症

②明らかな低酸素血症がある

③胸部X線やCTで両肺に異常な影がある

④心不全が原因ではない

 

この4項目がARDSの定義になります。「明らかな低酸素血症」は、P/F値で判定します。P/F値とはPaO2(動脈血酸素分圧)をFiO2(吸入酸素分圧)で割ったものになります。

ARDSのP/F値は、PEEP(CPAP)≧5cmで測定します。

 

・軽症:200<P/F≦300

・中等症:100<P/F≦200

・重症:P/F≦100

 

また、胸部X線やCTで両肺に異常な影があるという項目については、胸水や無気肺、結節では説明できないものという注意書きが付いています。

ARDSでは肺水腫の状態になりますが、一般的に肺水腫と診断されるものは心不全が原因によるものです。肺水腫の状態になっているけれど、心不全以外の原因によるものがARDSと診断されるのです。ARDSは死亡率が高い病気で、医学が発達した現在でも死亡率は30~40%と考えられています。

2、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の原因

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の原因は1つではありません。様々な基礎疾患が原因となり、ARDSを発症します。

ARDSの原因となる基礎疾患は、直接肺を障害するものとそうでないものの2つに大きく分けることができます。

 

■直接肺を障害するもの

・肺炎

・肺挫傷

・誤嚥

・溺水

 

■間接的に肺を障害するもの

・敗血症

・重症外傷

・重症膵炎

・大量輸血

 

このような基礎疾患によって、好中球が活性化することで、活性酸素やタンパク分解酵素が放出され、肺胞や毛細血管がダメージを受けます。その結果、血液中の水分やタンパクが染み出して、肺水腫が起こってしまうのです。

 

3、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の症状や合併症

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)は原因となる基礎疾患の発症から数日以内、長くても1週間以内に発症しますが、初期段階では次のような症状が現れます。

 

・発熱

・咳

・痰

・頻呼吸

・呼吸困難感

 

このような症状が現れ、一気に呼吸状態が悪化していきます。ARDSが進行すると肺の線維化が進み、それに伴う肺高血圧症が合併することもあります。さらに、DIC(播種性血管内凝固症候群)や腎不全、肝不全、意識障害、消化管出血、凝固異常、心血管系機能不全(ショック)などの多臓器不全を合併することも珍しくありません。

ARDSの患者の中で、DICを合併するのは25~70%、腎不全は40~55%、肝不全は12~95%、意識障害が7~30%、消化管出血は7~30%、凝固異常は0~26%、心血管系機能不全は10~23%となっています。

 

4、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の治療

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)は、根本的な治療方法はありません。ARDSでは原因となっている基礎疾患の治療を進めつつ、呼吸管理と薬物療法を行っていきます。

 

■呼吸管理

ARDSでは基本的に人工呼吸器を使っての呼吸管理を行います。ARDSでは肺保護換気戦略のために、一回換気量とプラトー圧を制限する低容量換気が推奨されています。

低容量換気とは一回換気量を少なくすることで、肺の過伸展を予防するため呼吸管理方法になります。一回換気量が多すぎると、ARDSでは人工呼吸器関連肺損傷(VILI)が起こり、死亡率が高くなるとされています。

ARDSでは一回換気量は10ml/kg以下に、プラトー圧は30cmH2O以下になるように人工呼吸器を設定します。

また、人工呼吸器装着直後は、低酸素血症を予防するために、FiO2は1.0(酸素濃度100%)から開始しますが、高濃度の酸素を長時間投与していると、肺損傷が進むことがあります。そのため、PaO2>60mmHgを保っているのを確認しながら、0.4~0.6を目標に少しずつFiO2を下げていき、人工呼吸器の離脱を目指します。

 

■薬物療法

現時点では、ARDSに確実に効果があり、死亡率を改善できる薬物療法はありませんが、酸素化能の改善や人工呼吸器装着期間を短縮できる可能性がある薬剤を使用して治療を行っていきます。

 

■グルココルチコイド

グルココルチコイドは発症2週間以内に少量を一定期間使用して漸減する方法は、人工呼吸器装着期間を短縮させる有用性がある可能性があるとされています。

 

■好中球エラスターゼ阻害薬

好中球エラスターゼ阻害薬は所見が改善されたり、人工呼吸器装着期間やICU在室期間の短縮の有用性が証明されています。

 

■抗凝固療法

凝固異常はARDSの増悪に関係していると考えられていて、抗凝固療法をすることはARDSの治療に有効であるという可能性が示されています。

 

■抗菌療法

敗血症が原因のARDSでは抗菌薬を用いて治療を行います。また、ARDSでは人工呼吸器関連肺炎(VAP)が起こるリスクが高く、VAPが認められたら、抗菌療法を行っていきます。

 

5、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の看護計画

ARDSでは、主に肺水腫になることでのガス交換障害とARDSと人工呼吸器装着による非効果的気道浄化の2つが看護問題になります。

このほか、合併症の状態によって、循環障害や出血傾向などの看護問題も起こってきますが、ここでは合併症ではなくARDSそのものによっておこる看護問題のガス交換障害と非効果的気道浄化の2つを説明していきます。

 

■ガス交換障害

ARDSでは肺水腫が起こることで、ガス交換障害が起こり、低酸素血症になります。

 

看護目標 呼吸状態が安定する。PaO2>60以上を保つ
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・呼吸状態(喘鳴、呼吸パターン、チアノーゼ等)

・人工呼吸器の設定

・意識レベル

・バッキング、ファイティングの有無

・検査データ

・胸部X線やCT所見

・痰の性状や量

TP(ケア項目) ・適切な酸素投与、人工呼吸器管理

・医師の指示に基づいた薬剤の投与

・体位ドレナージ

・腹臥位の施行

・ギャッジアップ(頭高位)を保つ

・適宜痰の吸引を行う

 

ARDSでは腹臥位を取ると、酸素化が改善され、死亡率が低下するというデータがありますので、人工呼吸器を装着している患者も積極的に腹臥位を取らせるようにしましょう。

ただ、気管挿管をしている患者が腹臥位を取ると、挿管にテンションがかかり、事故抜去してしまうリスクがありますので、挿入物には注意して、腹臥位を取り入れるようにしてください。

 

■非効果的気道浄化

 

看護目標 VAPを起こさない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・呼吸状態(喘鳴、呼吸パターン、チアノーゼ等)

・人工呼吸器の設定

・意識レベル

・バッキング、ファイティングの有無

・呼吸音

・検査データ

・胸部X線やCT所見

・痰の性状や量

TP(ケア項目) ・適切な酸素投与、人工呼吸器管理

・医師の指示に基づいた薬剤の投与

・体位ドレナージ

・適宜痰の吸引を行う

・口腔ケア

・経管栄養投与時は、誤嚥を予防する

 

ARDSの患者はタッピングなどの用手的排痰ケアは、疼痛や重症不整脈などの合併症が起こるリスクが高く、用手的排痰ケアの有効性は不明であることから、推奨されていません。

 

まとめ

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の基礎知識や定義、診断基準、原因、症状、治療、看護計画をまとめました。

ARDSはICUなどの集中治療部門では珍しい疾患ではありません。死亡率が高く、治療が難しい疾患ではありますが、積極的に腹臥位を取り入れるなど、看護の力で酸素化を改善させて、治療につなげていけるようにしましょう。

 

参考文献

ALI/ARDSの診断基準と治療方法|京都府立医科大学大学院医学研究科

ARDS診療ガイドライン2016|一般社団法人 日本呼吸器学会 一般社団法人 日本呼吸療法医学会 一般社団法人 日本集中治療医学会

急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) (きゅうせいこきゅうきゅうはくしょうこうぐん) 病名から探す | 社会福祉法人 恩賜財団 済生会

急性呼吸不全・ARDS|一般社団法人日本呼吸器学会

田坂 定智「ベルリン定義からみた ARDS の病態と呼吸管理 機能的予後の改善を目指して」| 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2015年 第25巻 第 1 号


EBNを用いた看護|根拠に基づいた看護の大切さと実施するまでの過程

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EBN看護

EBNを用いた看護|根拠に基づいた看護の大切さと実施するまでの過程

 

日々の看護を振り返ってみた時、患者に提供されている看護はあなたの昔からの経験や病院の慣習に基づいて実施されている場合がありませんか?毎日の看護に、EBN(エビデンスベースドナーシング)の考えをプラスすることで、より患者が安全に、そして患者や看護師にも満足感をもたらす看護ができるかもしれません。「根拠に基づく看護」とは、いったいどのような看護の仕方を言うのでしょうか?ここで少しいつもの看護を振り返り、さらに質の高い看護ができるようEBNの考え方を勉強してみましょう!

1、EBN(エビデンスベースドナーシング)とは

臨床医学では、「Evidence-Based」という考え方が重要視されており、日々の私たちの看護にも適応されています。EBN(エビデンスベースドナーシング)はその名の通り「根拠に基づく看護」を指しますが、これは看護手順書や専門書、テキストからの知識よりも、看護研究から得られた確かな知識に基づくケアの重要性を意味しています。

2、EBNの実践と大切さ

私たちが日々勉強のために活用しているテキストや専門書は、著者の経験に基づいた考えが記載されており、エビデンスが十分でないときもあります。それをそのまま吸収し臨床で実施してしまうと、間違ったケアを提供しインシデントを起こしかねません。看護師は臨床での経験による多くの知識を持っていますが、それが科学的知識かといえばそうではありません。看護研究による確かな科学的知識と、日々の経験値を結びつけることによって、より質の高いケアを行うことができます。私たちが日々提供している看護技術は、すでにエビデンスがあるものと、そうではないものあるのでエビデンスがもとめられます。そして患者に提供するために最善のエビデンスを選択するために最も大切なのは、患者のニーズであり、そのニーズに応じた最善のエビデンスを選択し、ケアを実施していきます。患者にケアが提供されるまで、以下の表のような過程をたどることになります。EBNを実践するためには、患者のニーズを知り、そこから看護師の経験と最善のエビデンスを組み合わせ、提供していくことが大切です。

出典:格差の解消 エビデンスから行動へ(国際看護師協会|2012)

 

3、的確な看護判断と適切な看護技術を提供するためには

3-1、科学的知識と観察に基づき看護技術の必要性を判断し実施する

最新の患者の情報をもとに患者に適した方法を考えます。そしてケアを実施する直前にもその必要性を考え、全身状態を観察し、実施できるかどうかをアセスメントします。

このとき、適した方法の選択や実施可能か否かの判断は、看護技術の知識のみならず、対象者の病態を考慮するための基礎的知識が必要となります。そして実施の過程でも、実施しながらの患者の心身の情報を素早くキャッチして、必要に応じて方法を変更する柔軟性が求められます。実施後は効果と副作用の有無を判断します。

 

3-2、看護技術の正確な方法を熟知し実施する

多くの病院では、安全管理を専門に担う部署を置き、事故やヒヤリハットから様々な場面での事故発生の危険性について分析し、事故が発生した場合の対処をマニュアル化し、迅速で的確な対応ができるような仕組みを作っています。安全確保をすることが組織的な取り組みを中心とした活動であるなら、看護技術のリスクを想定して正確に実施することは私たち看護師に求められる努力事項です。患者に痛みを負わせる、侵襲があるような採血や点滴を実施する場合は、血管に正確に刺すことだけではなく、もしも刺入部を誤った場合に起こる神経損傷や、薬液を注入された場合の副作用の出現などのあらゆるリスクを予想して、それらが実際に起こっていないかどうかを確認しながら実施すると同時に、万が一それらが出現した場合の対処を考えながら実施しなければいけません。

 

3-3、患者の将来を考えた看護技術を選択する

ヘンダーソンは看護の独自の機能について以下のような言葉を残しています。

 

「正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる」ように対象者が行動するのを助けること

出典:看護の基本となるもの|日本看護協会出版会(ヴァージニア・ヘンダーソン|湯槇ます・小玉香津子訳|p79,2006)

 

患者は自身の状態や、回復につなげるために自分でできることを知りたいと願っており、自分が受ける処置や看護についても同様で、どのように実施されるのか、何か自分が協力できることはないかと思うし、また知る権利があります。看護師の役割は、患者自身が、他者の援助を得なくとも行動できるように援助することであると言えます。例えば、大腿骨頸部骨折の術後の患者で、まだ足の腫れが引かず靴を履くのに時間がかかる状態だとします。その患者にトイレに連れて行ってほしいと言われたとき、日々の業務に追われて忙しいからと、患者の靴を看護師が履かせるのはどうでしょうか。患者が家でどういう生活に戻っていくのか、自分で靴を履けるようになって歩けるようになるのがゴールなのであれば、看護師は靴を履かせないという判断をするのが良いといえるでしょう。一時的な助けを提供するのではなく、患者が将来的に自立して行動できるようになるための方法を考慮して援助方法を変えていく必要があります。

 

3-4、患者にとって安全安楽な看護技術を提供する

看護技術に必要なものは安全だけではなく、安楽も同様に必要です。ナイチンゲールの看護覚え書には、

 

「皮膚をていねいに洗ってもらい、すっかり拭ってもらった後の病人が解放感は生命力を圧迫していた何ものかが取り除かれて生命力が解き放たれた兆候のひとつである」

出典:看護覚え書改訳第6版|現代社(フロレンス・ナイチンゲール|湯槇ますほか訳|p159-160,2000)

 

と記されています。清拭の技術は生命力を圧迫しているものを取り戻すこと、つまり安楽をもたらしていることを意味しているといえます。看護技術は安楽をもたらすことを前提として提供され、たとえ痛みを伴う注射の手技一つであっても、その痛みを最小限にするようにもたらされなければいけません。

 

3-5、正確に記録し評価する

看護計画に基づき行ったケアの記録を残す目的として、

 

①適正な看護を行ったことへの証明

②ケアの根拠の明治

③医療チーム間、患者・看護師間の情報交換

④病状や医療提供の経過および結果に関する情報提供

 

以上を残し、実施後にどのような効果があったかを評価し正確に記録を行います。

 

まとめ

患者にケアを提供するとき、ついついルーチンになりがちですが、業務に慣れてきたからこそ、一歩立ち止まり、自分が行っているケアは科学的な知識に基づいたものかどうか考えながら実施できるといいですね。経験値が、すべて科学的知識に基づいたものかといえば、決してそうではないはず。エビデンスが十分でないケアは、ときにインシデントの原因になりかねません。患者のニーズに合わせた最善のエビデンスを選択し、自分の経験値と結びつけた最善のケアが患者に提供されるよう、経験値とともに科学知も向上させていきましょう。

 

参考文献

格差の解消 エビデンスから行動へ(国際看護師協会|2012)

EBNの重要性(岩手県立大学看護学部エビデンスベース看護情報センター)

基礎看護技術Ⅱ基礎看護学3|株式会社医学書院(任和子|p4-7,2013/02/01)

DC(直流除細動器)の看護|使用目的や方法、適応について

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DC(直流除細動器)看護

直流除細動器(DC)は、医療機関内のみで使用される除細動器の一つです。除細動器にはDCの他に公共の施設などに設置されている自動体外式除細動器(AED)、救急車に搭載されている半自動除細動器があります。日本や海外の医療ドラマなどでもよく見られる除細動器について、種類や使い方、目的を知り、除細動の必要な患者さんに遭遇した時に適切に対応できる技術を身につけておきましょう。

 

1、直流除細動器とは

医療現場ではDCと呼ばれ、不整脈の治療に使われる医療機器です。心房細動・心室細動・心室頻拍などの致死的な不整脈に対して使用されます。DCは手動式で、心臓に直流電流刺激を与えて電気ショックによって心臓の異常興奮を抑制するためのものです。

 

2、DCの使用目的と適応

除細動は、心筋に高エネルギーの電流を瞬間的に流し、その作用によって心筋に通常の興奮を起こし正常調律に回復させることを目的とします。

除細動の適応となる不整脈には、心房粗動、心房細動、心室細動、心室頻拍、心室粗動があります。除細動はQRS波に同期するかしないかで、除細動(同期なし)とカルディオバージョン(同期あり)の二つに分けられます。また、心停止には4つの分類があり、除細動の適応の可否を判断します。

除細動器には単相性とニ相性あり、単相性は電極間を一方向に電流が流れますが、二相性は電極間双方から電流が流れます。このため、二相性の除細動器の方が単相性に比べて少ない電流で有効な除細動を行うことができます。

 

2−1、除細動の適応となるもの

心室細動(VF)、無脈性心室頻拍(VT)

致死性不整脈に対して行います。心室の収縮に関係なく通電し、心臓全体が脱分極して不応期に入るためVF、VTは止まります。

出典:Ventricular arrhythmias

 

2−2、カルディオバージョンの適応

頻拍性不整脈に対して行います。これらは心房が異常な興奮状態にあるもので、心室の収縮に合わせて通電することで心室以外が脱分極し発作の原因となっているリエントリー回路のみを不応化できます。QRS波がある心電図波形である疾患が適応となります。

 

①発作性上室性頻拍(PSVT)

出典:Micro EKG

 

②心房粗動(AFL)

出典:心電図クイズ|弘前大学大学院医学研究科

 

③心房細動(AF)

 

出典:Atrial Dysrhythmias: Atrial Fibrillation

 

2-3、除細動の適応とならないものには以下の二つがあります。

①無脈静電気活動(PEA: Pulseless Electrical Activity)

 

出典:Pulseless Electrical Activity

 

②心静止(Asystole)

出典:Ventricular Rhythms: Asystole

 

3、DCの使用方法

実際の現場で除細動が必要となった際、どのような手順で除細動器を使用するのか、その使い方について見ていきます。

 

3−1、必要物品

①除細動器

②伝導用パッドまたは伝導用ゼリー

③皮膚保護用スプレー、クリーム

 

3-2、DCの使用方法

 

1.除細動器の電源を入れる(電源コードが入っていることも確認する)

2.通電量を設定し充電ボタンを押す

3.患者の前胸部に心臓を挟むように伝導用パッドを貼布する。(伝導用パッドがない時はパドルに火傷予防のため、ペーストを塗っておく)

4.除細動器のバドルを伝導用パッドの上に乗せる

5.酸素マスクをしている場合は発火防止のため外す

6.医師、看護師は患者に触れないよう離れる

7.充電ができたらパドルについているスイッチを押して放電する

8.モニター波形を確認する

9.必要に応じて胸骨圧迫を行う

10.不整脈の改善が認められない時は通電量をあげて再度放電する

11.除細動が終了したら、放電した皮膚に保護用クリームを塗布する

 

3−3、電極パドルを当てる位置

右電極パドル:第2あるいは第3肋間胸骨右縁

左電極パドル:第5肋間左腋窩線上、乳頭の外側

出典:Defibrillation

 

4、除細動実施時の注意点

除細動が必要な場合には、実施する前に以下のことを確認しておきましょう。

 

1、ペースメーカーが埋め込まれているかどうかの確認

2、メガネ、時計、義歯などの貴金属類を除去しておく

3、パドル装着部に薬剤パッチがないか確認し、あれば取り除いておく

4、胸毛の多い患者は除毛をする

5、体表面が濡れている時は拭き取る

 

※導電性のある貴金属類があると、適切な量の電気エネルギーが心臓に伝わらないため、アクセサリーや時計などが身についている場合には取り除きましょう。また、胸毛や汗などの水分も有効な除細動を妨げる原因となり、患者さんの体に対しても火傷などを起こすもとになるので注意が必要です。

ペースメーカーが埋め込まれている患者さんに除細動を行う場合、ゲルパットを貼る際は3cmほど離して貼ります。ゲルパッドをコードの上に貼ったり、皮膚との間に隙間ができないように注意しましょう。

 

5、通電量(ジュール)について

心電図波形を見て、電気ショックの必要性の有無、どのぐらいの強さのショックが必要かの判断を行います。一般的には初回の通電量は100—200J(ジュール)で行います。洞調律に回復しない場合2回目は300J、3回目は360Jと段階的にエネルギーを増加していきます。しかし、不整脈の種類によって初回の通電量が150Jであったり、50Jだったりすることもあるため、充電をする際には指示を出す医師にきちんと確認をすることが大切です。

 

出典:BLSとは|BLSについての要点を整理①|BLS総論

 

6、除細動を行う際の看護

目標:安全かつ効果的な除細動を行い洞調律に戻る

OP

1、ペースメーカーの有無

2、義歯等の貴金属類の有無

3、発汗の有無

4、心電図波形

5、バイタルサイン

6、除細動後の心電図波形

7、皮膚の状態

 

TP

1、金属類がある場合は除去する

2、発汗等で体表面が濡れている時は拭き取る

3、ペースメーカーのある患者の場合はゲルパッドを貼る位置に注意する

4、伝導用パッドがない場合には伝導用ゼリーを塗る

5、通電を行う際は自分を含め周囲の看護師、医師が患者に触れていないこと、他の物品類が患者さんに触れていないことを確認する

6、除細動器の同期がOFFになっていることを確認する(同期する時はONになっていることを確認)

7、除細動が終了したら皮膚状態を確認しクリームを塗布する

8、除細動後は心電図波形の監視を行う

 

 

まとめ

近年、様々な場所に設置されるようになったAEDを含め、特に救急の医療現場では除細動を実施することが度々あります。致死性の不整脈に対する除細動の実施は、いかに有効かつ速やかに行えるかによって患者さんの予後にも影響します。現在医療者向けのACLSの講習では不整脈や心肺停止にある患者さんなど救急における除細動の使い方や救命処置について学ぶことができます。このような講習会に参加したり、自分の職場にある除細動器を確認し必要な時すぐに使えるよう知識や技術を身につけておくことが大切です。

 

参考文献

除細動器と心臓ペースメーカのきほん   (九州大学附属図書館)

Defibrillation 2: using defibrillators in hospital

DNRの看護|ガイドラインや同意書、看護のポイント、看護研究

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DNRの看護

DNR(Do Not Resucitate)とは、心停止時に心肺蘇生をしないことを指します。近年ではDNRではなく、DNAR(Do Not Attempt Resucitation)という言葉を使うことが多くなっているかもしれません。

DNRの基礎知識やガイドライン・勧告、同意書、看護のポイント、看護研究をまとめました。看護師はDNRを正しく理解しておかなくてはいけません。DNRについてもう一度、学んでおきましょう。

1、DNR(DNAR)とは

DNRとはDo Not Resucitateの略で、患者が心停止になった時に心肺蘇生法(CPR)を行わないことです。

1995年には日本救急医学会救命救急法検討委員会から「DNRとは尊厳死の概念に相通じるもので、癌の末期、老衰、救命の可能性がない患者などで、本人または家族の希望で心肺蘇生法(CPR)をおこなわないこと」という定義が示されています。

DNRはあくまで心停止時に心肺蘇生を行わないという指示であり、通常の医療を行わないという指示ではありません。

そのため、「DNRの指示があっても、通常の医療や看護には影響はない」ことは、看護師として誤解のないようにしておかなくてはいけません。

DNRであっても、昇圧剤や抗生剤の投与は中止されません。ただ、心停止になった時に胸骨圧迫などの心肺蘇生を行わないというだけになります。

DNRと同じような意味でDNARという言葉もあります。DNRは「Do Not Resucitate=心肺蘇生を行うな」という意味になります。このDNRという言葉だと、「心肺蘇生を行うと蘇生が成功するので、心肺蘇生を行うな」と間違った解釈をされることがあります。

それを受けて、AHA Guideline 2000ではDNRではなく、DNAR(Do Not Attempt Resucitation)という言葉を用いることが推奨されました。

DNARという言葉は、「成功しない蘇生をあえて試みるな」という意味合いになりますので、曲解されることがなく、妥当な言葉であるとして、全世界で多用されるようになっています。

さらに、Guideline 2010ではDNARではなくAND(Allow Natural Death)という言葉が使われる機会が増えるだろう説明しています。

2、DNRのガイドラインや勧告

現在の日本においては、公的な機関によるDNRや終末期医療の明確なガイドラインは示されていません。法整備についても不十分であるとされています。

ただ、2016年12月に日本集中治療学会は「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」を発表しました。

 

<Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告>

1、DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである。

2、DNAR指示と終末期医療は同義ではない。DNAR指示に関わる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである。

3、DNAR指示にかかわる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである。

4、DNAR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話合い評価すべきである。

5、Partial DNAR指示は行うべきではない。

6、DNAR指示は日本版POLST-Physician Orders for Life Sustaining Treatment-(DNAR指示を含む)「生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」に準拠して行うべきではない。

7、DNAR指示の実践を行う施設は、臨床倫理を扱う独立した病院倫理委員会を設置するよう推奨する。

 

「DNAR指示にかかわる合意形成は終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである。」の終末期医療ガイドラインとは、厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」、あるいは日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」のことで、この2つのガイドラインの内容を忠実に踏襲すべきであるとしています。

Partial DNARとは、直訳すると「部分的なDNAR」になります。心肺蘇生内容をリストとして提示し、「胸骨圧迫は行うが気管挿管は施行しない」のように心肺蘇生の一部のみを実施する指示のことです。

心肺蘇生の目的は救命です。一部だけの心肺蘇生をしても、救命をすることはできないので、Partial DNARは行うべきではないとしています。

POLSTとは、アメリカで使用されている生命維持治療に関する医師による携帯用衣料指示書のことです。日本版POLSTは日本臨床倫理学会が作成して公表しています。

ただ、日本版POLSTは急性期医療領域で合意形成がないため、十分な検証をせずに導入することに危惧があるため、日本でのDNAR指示に用いるべきではないと日本集中治療学会は勧告の中で述べています。

3、DNRの同意書

DNRは患者本人、もしくは家族の希望・同意があって行うものであり、医療者の意向で行うものではありません。

患者本人や家族の同意を得られていない状態で心停止時に心肺蘇生を行わないと、訴訟問題に発展するリスクがあります。

そのため医師が、DNRが妥当であると判断した場合、もしくは本人や家族がDNRを希望した場合は、看護師は医師と患者本人、家族との話し合いの場を設けなければいけません。

そして、医師から本人と家族にDNRについて詳細な説明が行われ、本人や家族がそれに同意した場合は、同意書に署名をしてもらう必要があります。

同意書に署名してもらう場合には、看護師は本人や家族に医師からの説明をしっかり理解できたかを確認し、さらにいつでもこの決定を撤回できることを伝えておかなくてはいけません。

また、最後に記入漏れ等がないかどうかを確認しておきましょう。

DNRの同意書の書式や同意書に関する手続きは、各施設によって異なります。各施設に倫理委員会や管理部がDNRに関する指針を出していると思いますので、確認しておくと良いでしょう。

4、DNRの看護のポイント

DNRを決定する時の看護のポイントとDNR決定後の看護のポイントを説明していきます。

 

■DNRの決定に関する看護のポイント

DNRの決定は患者本人や家族にとって、とても大きな決断になります。特に、家族は「患者本人に苦しんでほしくない」という気持ちと、「できるだけ長生きしてほしい。死んでほしくない。」という気持ちが混在しています。

DNRについて患者本人や家族が悩んでいる時には、次のことに注意して看護を行いましょう。

・本人や家族の気持ちを汲み取る

・正しい情報を提供して、患者と一緒に考える

・家族間の仲立ちをする

・患者と家族が話し合うように促す

・医師に正しい説明を促す

DNRの決定に関しては、医療者の意思を反映させてはいけません。看護師として働いていると、たくさんのDNRの症例を経験することになります。

たくさんの症例の経験から、「この患者の状況なら、DNRにすべき」という考えが浮かび、無意識のうちに本人や家族にDNRを促したり、言葉の端々に「DNRにしたほうが良い」と匂わせることがあります。

そうすると、本人や家族の意思決定に看護師の意思が反映されるリスクがありますので、看護師はあくまで中立的な立場を保ち、意思決定への支援をするだけであることは忘れないようにしましょう。

 

■DNR決定後の看護のポイント

患者本人や家族がDNRに同意し、同意書に署名をもらったら、医療者全体で意思統一をして、共通認識を持っておく必要があります。

その患者の治療・看護にかかわるスタッフ全員が「DNRである」という認識を持っておかないと、心停止になった時に心肺蘇生が行われ、本人や家族の意思とは異なる治療が行われる可能性があります。

そのため、カンファレンスを開いたり、申し送り等で周知を徹底しておくようにしましょう。

また、DNRと言っても心停止時の心肺蘇生を行わないだけで、通常の治療・看護は行われます。

DNRだからモニターはつけない、心停止まで何もしないというわけではありませんので、看護師はQOLや人間としての尊厳を考慮しながら、最善のケアを行っていくようにしてください。

5、DNRの看護研究

DNRに関する看護研究はたくさん行われています。DNRの患者や家族に対する看護師の役割や考え方、ケア方法などを勉強したい人は、DNRに関する看護研究の論文を読んでみると良いでしょう。

わが国のDNARの選択をゆだねられた家族への看護援助に関する文献検討(家族看護学研究 第22巻第 1 号|片岡恵理、伊東美佐江|2016年)

 

委員会報告 日本集中治療医学会会員看護師の蘇生不要指示に関する現状・意識調査(日集中医誌|日本集中治療医学会倫理委員会|2017)

 

終末期医療における看護師の機能と役割 −埼玉県内の大規模な病院と中小規模の病院を対象とした実態調査−(埼玉医科大学雑誌 第 35 巻第 1 号|松下年子|2008 年 12 月)

 

わが国のクリティカルケア領域における終末期看護研究の動向(日本救急看護学会雑誌 第16巻 第1巻|江尻晴美、片岡秋子|2014年)

 

5. 急性期病院に勤務する看護師はDNRについてどう考えるか ―アンケート調査より見えてくるもの―(第19回群馬緩和医療研究会<セッション2>(The Kitakanto medical journal第60巻 第1号北関東医学会|佐藤, 和也 ; 鈴木, 雅美 ; 高橋, 結花 ; 清水, 政子 ; 磯部, 孝弘 ; 金子, 京子 ; 小保方, 馨 ; 須藤, 弥生 ; 土屋, 道代 ; 岡野, 幸子 ; 田中, 俊行|2010-02-01)

 

これらの看護研究の論文を読むと、DNRの患者や家族に対して、看護師はどのような看護を行うべきか、DNRをどう考えるべきかが見えてくると思います。

 

まとめ

DNRの基礎知識やガイドライン・勧告、同意書、看護のポイント、看護研究をまとめました。DNRは明確なガイドラインがないため、とてもデリケートで難しい問題です。

看護師は患者やその家族がDNRについて正しく理解しているのかを確認し、どのような希望・要望があるのかをしっかり汲み取って、医療者と患者・家族の認識に相違がないように医師と患者・家族の橋渡し役・調整役としてケアしていくようにしましょう。

 

参考文献

Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告(日本集中治療医学会雑誌|日本集中治療医学会|2016/12/20)

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の考え方(日集中医誌|日本集中治療医学会倫理委員会|2017)

蘇生術を行わない(DNR)指示に関する指針(坂総合病院管理部|2008年3月10日)

DNAR 日本救急医学会・医学用語解説集

ESWL(体外衝撃波結石破砕術)の看護|適応や原理、合併症、看護のポイント

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ESWL(体外衝撃波結石破砕術)の看護

ESWLは衝撃波で体内の結石を破砕させる治療法になります。内視鏡での治療に比べて、侵襲が少なく、場合によっては外来通院での治療が可能になります。

ESWLの基礎知識や適応、原理、合併症、看護のポイントをまとめました。ESWLの治療を受ける患者の看護をする時の参考にしてください。

 

1、ESWL(体外衝撃波結石破砕術)とは

出典:体外衝撃波結石破砕術のご案内|三郷中央総合病院

 

ESWL(Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy=体外衝撃波結石破砕術)とは、体の外から衝撃波を結石に当てて、結石を粉々に砕く治療法です。

体外衝撃波結石破砕術の読み方は、「たいがいしょうげきはけっせきはさいじゅつ」です。

ESWLは、体にメスを入れることなく結石の治療を行えることがメリットです。治療時間は1時間程度になります。

そのため、基本的には1泊2日の入院、場合によっては外来通院での治療が可能です。外科的手術ではありませんので、治療が終わったらすぐに日常生活に戻ることができます。

また、痛みも強くありませんので、治療前に鎮痛薬の内服薬や座薬を使用しますが、麻酔を使わずに治療をすることが可能です。

ESWLは自然排出困難な5mm以上の結石を、尿や便と一緒に排泄される大きさである4mm以下に粉々に砕く治療になりますが、ESWLを複数回行っても結石を砕くことができない場合は、TUL(経尿道的尿管結石術)やPNL(経皮的人尿結石破砕術)を行うこともあります。

 

2、ESWL(体外衝撃波結石破砕術)の適応

ESWL(体外衝撃波結石破砕術)の適応は、尿路結石、胆石、膵石になります。

 

■尿路結石

出典:体外衝撃波結石破砕術のご案内|三郷中央総合病院

 

尿路結石は明らかな原因は不明ですが、リン酸カルシウムやシュウ酸カルシウムなどが結晶化して、大きくなったものです。

尿路結石は小さな結石の場合は飲水を励行して、自然に尿と一緒に排出されるのを待つのが治療の第一選択になります。

でも、自然排出が期待できないほど結石が大きかったり、何度も強い痛みが出たり、水腎症や腎盂腎炎などを起こし腎機能が低下してきた場合は、ESWLでの治療の適応になります。

 

■胆石症

ESWLは一部の胆石症にも適応になります。胆石は胆のうや胆管に結石ができる病気で、心窩部を中心とした疝痛発作が症状の特徴で、右肩痛や背部痛などが現れることがあります。

胆石は胆汁成分の偏りや細菌感染が原因で胆汁成分が分解されることで、成分が結晶化して起こりますが、結石が発生する過程によって、様々な性状の結石が作られます。

その中でもESWLの適応となるのは、コレステロール結石です。純コレステロール胆のう結石でないと、ESWLでは粉砕できません。日本人の胆石は石灰化混合胆石が多いため、ESWLの適応にならないことも少なくありません。

また、直径2cm以下で3個程度まで、さらに胆のうの機能が正常でないと、ESWLの適応にはなりません。

 

■膵石

膵石は膵管内に作られた結石で、膵液の流出障害が起こるため、腹痛や急性膵炎を引き起こす原因になります。

膵石は慢性膵炎の患者の40%に見られるもので、アルコールの多飲や喫煙、高カルシウム血症、膵管奇形、低栄養などが原因です。

ESWLは膵石にも適応になります。以前は保険適用外だったのですが、2013年秋に保険適用が認められるようになりました。

膵石の場合は、ESWLを1回2時間、合計4~5回行わなければならず、施行時の痛みが強いことがあり、全身麻酔で行うこともあります。

 

■ESWLの禁忌

ESWLは侵襲は少ないものの、誰でも適応になる治療方法ではありません。次のようなケースはESWLの禁忌となっています。

・妊婦

・閉経前の女性の下部尿管結石

・幼児や小児

・抗凝固剤服用の患者、出血傾向がある患者

・ペースメーカー装着患者

・高度肥満患者

・インプラントを装着している患者

・腎機能が廃絶している患者

・尿路感染症を合併している場合

このようなケースではESWLで治療をすることができませんので、そのほかの治療方法を選択することになります。

 

3、ESWL(体外衝撃波結石破砕術)の原理

出典:泌尿器科の病気:尿路結石症 病気の治療 | 徳洲会グループ

 

ESWLは破砕装置から衝撃波を発生させて、結石のみに当てることで、体の組織を損傷させることなく、結石のみを破砕する治療法になります。

レントゲンやエコーで結石に焦点を合わせて、1分間に約60回、1度の治療で3000~4000回の衝撃波を結石に当てます。結石にしっかり焦点を合わせることで、衝撃波が通る筋肉や皮膚、骨、内臓などの組織は損傷することはありませんし、皮膚への痛みも少ないのです。

衝撃波が結石に当たると、結石の表面で反射が起こりますので、高い圧力が発生し、その直後に通常の圧に戻ります。この時に、手前では陰圧になります。そうすると、外側に引っ張る力が生まれます。

高い圧力が発生することで、結石がいったんギュッと圧縮され、その後すぐに外側に引っ張る力によって膨張しますので、その力で結石の内部でひび割れができます。それを何度も繰り返すことで、結石が破砕され、細かく粉砕されるのです。

結石が細かくなることで、尿路結石は尿と一緒に排出され、胆石や膵石は消化管に流れて、便と一緒に排出されます。

 

4、ESWL(体外衝撃波結石破砕術)の合併症

ESWL(体外衝撃波結石破砕術)は、侵襲が少ない治療法になりますが、それでも合併症が起こるリスクはあります。ESWLの代表的な合併症を説明していきます。

 

■血尿

尿路結石の場合、結石が破砕されることで、尿路の粘膜が傷つき、血尿が出ることがあります。血尿は尿路結石でESWLの治療を受けた患者のほとんどのケースで発生しますが、多くは数時間から数日でおさまります。

 

■皮下出血

衝撃波が当たる部位に皮下出血が見られることがあります。ただ、ほとんどの場合は軽症で、経過観察のみとなり、数日で消失します。

 

■尿管の閉塞

破砕した結石が尿管内に詰まり、疼痛が生じることがあります。この場合は、疼痛が落ち着くまで鎮痛剤を使用し、飲水量を増やして、尿と一緒に排泄するようにします。

 

■急性腎盂腎炎

ESWLで割れた結石から細菌が飛び散って、尿や腎臓に感染が起こり、腎盂腎炎を発症することがあります。38℃以上の発熱や背部痛などが症状で、入院して抗生剤の投与が必要になることもあります。

 

■腎被膜下出血

衝撃波の影響で腎臓の表面の毛細血管が傷ついて、腎臓周囲に血腫が生じることがあります。腎被膜下出血が起こると、血尿・疼痛の持続の症状が現れます。

 

■膵炎の増悪

膵石をESWLで治療すると、膵炎が悪化することがありますが、軽症の場合がほとんどで、重症化することは少ないです。

 

このほか、腹痛や頭痛、腰痛、嘔気・嘔吐、血圧上昇・低下、不整脈などの合併症が起こることがあります。

 

5、ESWL(体外衝撃波結石破砕術)の看護のポイント

ESWLの治療を受ける患者の看護をする時のポイントを説明します。

 

■合併症の観察

ESWLの治療は侵襲は少ないですが、合併症が起こるリスクがあります。心電図等のモニターを装着して治療を行いますが、モニターに異変はないか、患者の様子に変化はないかを観察するようにしましょう。

 

■疼痛の観察

ESWLの治療の前には、座薬等の鎮痛薬を使ったり、ソセゴンを筋肉注射で投与します。もともと痛みは少ない治療法ですし、治療中に疼痛を訴えるケースは少ないですが、人によっては強い疼痛を感じることがあります。

疼痛が強い場合は、追加で鎮痛薬を投与する必要がありますので、患者の疼痛の訴えだけでなく、脈拍数や血圧、表情などを観察して、疼痛の有無や程度を確認しておきましょう。

 

■治療後の安静

ESWLの治療は1時間程度で終わりますし、外来通院での治療が可能ですが、治療後は2時間程度安静にしてもらって、異常がないことを確認してから、帰宅することになります。

使用した鎮痛薬によっては、ふらつき等が見られることもありますので、転倒などに注意しなければいけません。

 

■生活上の注意の指導

ESWLの治療後は、すぐに日常生活に戻ることができますが、生活上の注意点がありますので、安静にしてもらっている間に、看護師は注意点の指導をしなければいけません。

・水分は多めに摂取すること

・結石の排出を促すために、軽い運動・体操を心がけること

・血尿が見られる場合、また治療後1~2日は腎臓に負担をかけるため、アルコールは控える

・帰宅後、疼痛や血尿が強くなる時には受診してもらう

結石を破砕した後は、体外に排出する必要がありますので、水分摂取を促すようにしてください。

 

■入院なら畜尿

入院してESWLの治療を受ける患者には、入院中は畜尿をしてもらいましょう。尿はガーゼ等で濾して、結石が排出されたかどうかを確認し、結石分析に出して、成分を確認します。

 

まとめ

ESWLの基礎知識や適応、原理、合併症、看護のポイントをまとめました。ESWLは尿路結石などの結石を衝撃波で破砕できる治療法です。

侵襲が少ないというメリットがありますが、合併症がありますので、看護師は合併症の有無を確認し、合併症について患者にきちんと指導しておくようにしましょう。

 

参考文献

体外衝撃波結石破砕術(ESWL) (社会福祉法人聖隷福祉事業団 総合病院聖隷浜松病院)

膵石症の内視鏡治療ガイドライン2014 (厚生労働省難治性膵疾患調査研究班・日本膵臓学会|2014)

ESWL(公益財団法人星総合病院結石破砕センター|佐々木和哉)

身体を傷つけない治療(体外衝撃波結石破砕術)(医療法人社団太公会 我孫子東邦病院)

経管栄養法の看護|経管栄養の種類や手順、看護計画について

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経管栄養 看護

経管栄養は、口から食事を摂ることができない、もしくは十分な摂取量でない場合に、口や胃などに留置したチューブから高カロリーの栄養剤を注入する栄養療法の一つです。高齢社会の我が国において、経管栄養は脳血管疾患や高齢者の栄養を支える重要な栄養療法であり、必須の看護技術となっています。今回は栄養療法の分類、経管栄養の種類、実際の注入手技を順に学び、経管栄養を行っている患者への看護計画を立案します。

 

1、経管栄養とは

人間は通常、口から食物を摂取することで栄養を補給します。しかし、高齢者や脳血管疾患患者のように、食べる・嚥下するという機能を喪失してしまうと、口から栄養を摂取することができません。また、消化器疾患による急性期や術後は、消化管の安静や創部の離開を防ぐため、一時的に絶食にすることがあります。

これらの十分に経口摂取のできない状態にある患者の栄養管理をすることを、栄養療法と言います。栄養補給の選択基準として下の図で説明されていますので、こちらがわかりやすいでしょう。

引用:栄養の基礎知識(株式会社大塚製薬工場)

 

栄養補給をどのように行うかは、消化機能が保たれているかどうかで経静脈栄養と経腸栄養に選択肢が分かれ、経腸栄養の具体的な方法の一つが経管栄養となります。経管栄養にもいくつかの方法があるため、更に選択肢は枝分かれしていきます。大きく分類すると、栄養療法の種類は下のようになります。

 

<栄養法の分類>

経腸栄養(EN) 消化管機能が保たれている場合 → 経管栄養
経静脈栄養 消化管機能が保たれていない場合 → 中心静脈栄養(TPN)

→ 末梢静脈栄養(PPN)

 

2、経管栄養法の種類

経腸栄養のうち、経口で嚥下することが困難な患者に対して行うのが経管栄養です。(経腸栄養には栄養剤を経口摂取する方法も含みますが、今回は省略します。)経管栄養は、管をどこから消化管に挿入するかによって3つの方法があります。

 

<経管栄養法の種類>

経鼻胃管栄養法 鼻から胃へチューブを挿入する
胃瘻栄養法 内視鏡を使用して腹壁と胃壁との間にカテーテルを通す瘻孔を造る
腸瘻栄養法 内視鏡を使用して腸壁と胃壁との間にカテーテルを通す瘻孔を造る

 

通常、4週間以内の短期使用が目的であれば、侵襲の少ない経鼻胃管栄養法を選択します。口腔や咽頭の手術後は、手術創の安静を保つためにこの方法を選択します。経鼻胃管栄養法は手軽で侵襲の少ないことがメリットですが、抜けやすいというデメリットもあります。

 

経鼻経管栄養法は、鼻から胃まで細いチューブを挿入します。体格によって違いますが、チューブの長さはおよそ45~55㎝です。術後や狭窄がある場合を除いては看護師が挿入することも可能ですが、気管への誤挿入や正しい位置に挿入されずに栄養剤を注入してしまうと気道に栄養剤が注入されて誤嚥性肺炎の原因となることがあるため、現在では医師が挿入し、挿入後にはレントゲンで位置確認する医療機関が多くなりました。

 

逆に、脳血管疾患による後遺症などの長期使用の場合には胃瘻栄養法を行うことが一般的で、胃癌術後や胃の萎縮や変形のある場合は胃瘻増設ではなく、腸瘻を増設します。胃瘻は固定方法によって、胃内固定に「バルーン型」「バンパー型」、体外固定に「ボタン型」「チューブ型」と種類があり、チューブの交換は種類に応じて適宜交換が必要になります。

(胃瘻増設の手技や種類については、医療法人医誠会 城東中央病院胃瘻増設のしくみと胃瘻のチューブの種類についてが参考になります。)

 

3、経管栄養法の看護技術・手順(速度・注意点)

栄養剤の注入方法は、基本的には経鼻も胃瘻・腸瘻も同じです。今回は栄養剤を注入する都度チューブの位置を確認する必要がある、経鼻経管栄養法で手順をお伝えします。

 

<栄養剤の注入方法>

①患者氏名と栄養剤の種類、投与量を確認する。

②栄養剤は低温だと腸管を刺激して下痢や腹痛を起こし、高温だと消化管が炎症してしまうため、37度前後に温める。

③栄養剤をイルリガードル(イリゲーター)に入れ、不要な空気を消化管に入れないため管の先端まで満たし、点滴台(患者より1mほどの高さ)にセットする。

④患者の体位をファウラー位(挙上できない場合は右側臥位)にする。

⑤正しい位置に挿入されているか確認する。

・ステートを胃部にあて、シリンジで空気を入れた音を確認する

・シリンジを引いて、胃液を確認する

⑥経管栄養のチューブを接続する。

⑦クレンメを開いて開始する。

注入速度の目安:1回の注入(200~400ml)を60~90分かける

(嘔吐や下痢のある場合などは、患者の状態により調整する)

医師より指示のある場合は、指示の時間で落ちるように調整する。

⑧注入開始後は、呼吸状態や嘔吐の有無など患者の状態を観察する。

⑨栄養剤の終了後はチューブ内の細菌繁殖と閉塞予防のため微温湯を注入し、チューブの中に栄養剤が残らないようにする。

➉注入後、30ほどはファウラー位を保つ。

 

*内服薬は微温湯で溶かし、⑨の微温湯を流す前に注入してチューブ内に残らないようにする。

*胃瘻・腸瘻の場合は、栄養剤を注入する前にカテ―テルを解放し、胃液や前回注入した栄養剤が貯留していないか確認してから注入を開始する。(⑤挿入部位のチェックは不要)

*瘻孔周囲の皮膚が栄養剤や消化液が漏れて皮膚損傷を起こすことがあるため、注入前後で観察する。

 

4、経管栄養法の看護計画

経管栄養は、経鼻・胃瘻・腸瘻のどの方法をとっても、誤嚥性肺炎のリスクが存在します。今回は、共通する誤嚥性肺炎リスクで看護計画を立案・検討していきます。

 

4-1、経管栄養法の看護問題・看護目標

看護問題:誤嚥リスク状態

看護目標:経管栄養による誤嚥を起こさない。肺炎の徴候がない

 

4-2、看護計画

O-P

①バイタルサインのチェック

②注入前後での呼吸状態(肺雑音、喘鳴、痰の性状と量)の変化

③意識レベル(患者の訴え)

④口腔内の状況

⑤基礎疾患(経管栄養法に至った理由)、嚥下障害の程度

➅嘔吐の有無と程度

⑦腹満の有無と程度

⑧採血データ

⑨画像データ(胸部レントゲン、胸部CT)

 

T-P

①注入時はファウラー位を保ち、注入後もできるだけファウラー位、困難な場合は30~40度のギャジアップを維持する。(それも困難であれば、右側臥位とする)

②注入に合わせて①の体位がとれるよう、体位変換を調整する

➂口腔内を清潔に保つ(口腔清拭を行う)

④喀痰喀出が困難な場合、注入前に喀痰吸引を行う

⑤注入時・注入後に咳嗽や痰がらみの多い場合は、1回の注入量・時間を医師と検討する

⑥注入前に腹満がみられる場合は、シリンジで排気してから栄養剤を注入する

 

E-P

①患者・家人に、経管栄養の必要性を説明する

②患者・家人に、経管栄養による誤嚥のリスクを説明する

➂注入の1回量や時間を調整するため、患者が会話可能であれば嘔気や呼吸困難など、注入後に不快な症状がある場合は訴えるよう説明する

④患者・家人に、誤嚥を予防するため、注入後も30分間はファウラー位をとるように指導する

 

まとめ

消化器疾患だけでなく、高齢社会の現代では経管栄養による栄養療法は必要不可欠な医療となっています。在宅で経管栄養を行う場合には、経管栄養導入後は早期より家人へ指導が必要となることもあります。そのため、看護師は経管栄養に関する正しい知識と、エビデンスに基づいた技術を確実に身につけることが求められます。

 

参考文献

経管栄養と中心静脈栄養(国立がん研究センターがん情報サービス|2006/10/1)

PEG(胃ろう)造設と交換について(医療法人医誠会城東中央病院)

経腸栄養(EN)(株式会社大塚製薬工場)

経管栄養管理マニュアル(医療職者用)(大垣市民病院)

NST(栄養サポートチーム)の看護|NSTの役割や資格、看護研究について

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NST(栄養サポートチーム)

近年、病気の治療や健康の維持・増進に果たす栄養の役割が見直されています。そして、栄養のことは栄養士にだけまかせるのではなく、医師や看護師・その他コメディカルを含めた栄養をサポートするチーム、NSTを立ち挙げて活動する医療機関も増えて来ました。NSTとは何をすることが目的のチームで、その役割や意義は何かお伝えします。

 

1、NST(栄養サポートチーム)とは

1-1、栄養療法と経腸栄養

NSTは、Nutrition Support Team=栄養サポートチームの略称で、医療機関において患者の栄養をあらゆる職種の視点で管理・支援しようというチームのことです。これまで管理栄養士に任せきりにしていた患者の栄養管理を、医師や看護師も積極的に介入することで、治癒や全身状態を良好に保つことが目的です。

 

なぜ栄養が注目を浴びるようになったのかというと、栄養状態の悪い患者はどんなに薬剤を投与しても治癒せず、手術後などは創部の癒合が遅れ、合併症を起こす率の高いことがわかったからです。そして、栄養摂取の経路として、経静脈栄養よりも経腸栄養の重要性が見直されてきたのです。

 

以前は食事が摂取できない、もしくは消化管の安静のために絶食が必要な患者は、中心静脈栄養を行うことが当然とされていました。しかし、近年はこのような経静脈栄養は消化管(腸)を使わないために腸内細菌のバランスが崩れてしまい、免疫力の低下がみられることがわかりました。経管栄養専用ではなく、経口摂取用の高カロリーの栄養剤の開発も進み、経腸栄養を積極的にすすめる動きになりました。

 

また、高齢患者の増加に伴い、褥瘡を持ち込んで入院するケースも多くなりました。しかし、既に褥瘡の発生している高齢者はADLが低くて嚥下機能の低下も著しいため、低栄養を改善するのは非常に難しい問題です。患者が嚥下しないことには食べ物は口腔から先に進みませんし、無理に経口摂取を促せば誤嚥性肺炎の悪化につながります。

このように、経腸栄養を優先しつつ患者個人の嚥下・消化機能に合わせた最良の方法を選んで支援するのが、NSTの活動です。もし病院食だけでは栄養が不足するのであれば、食事をハーフ食にして高カロリーの栄養剤を足すなど、いくつかの方法を掛け合わせる方法もあります。どの方法をとるかは、下のように消化機能・嚥下機能のアセスメントを行って検討します。

引用:経腸栄養の選択基準(株式会社大塚製薬工場)

 

1-2、NSTの主な対象

栄養療法は全ての患者において検討されるべき基本事項であり、その成果が疾患や創傷治癒に現れます。では、成人の一般病棟において積極的にNSTが介入すべきなのは、どのような状態の患者でしょうか。(ここでは、入院中の患者に的を絞っています。)

 

<NSTの対象>

・褥瘡のある患者、もしくは寝たきりなどの褥瘡発生のリスクが高い患者

・嚥下機能に障害がある患者

・低栄養の患者

・抗癌剤などの副作用によって、経口摂取が困難な患者

・口腔疾患によって咀嚼・嚥下が十分にできない患者

・糖尿病など疾患の性質上、教育が必要な患者

このように、NSTが介入すべきなのは褥瘡の発生している寝たきりの高齢患者だけではなく、抗癌剤治療中や糖尿病患者まで、まちまちです。

 

2、NSTの看護師の役割

2-1、NSTのチーム構成

NSTのチーム構成は、食事とは一見何も関係がなさそうな部署も含みます。

それは、患者の栄養を取り巻く環境は食事を調理するだけではなく、様々な情報をもとにその患者に必要な栄養を摂り込む必要があり、それをサポートするためには各職種がお互いの情報と専門知識を持ち寄って、その患者にとって最良の栄養方法を検討する必要があるからです。言語療法士は嚥下機能や口腔ケアに関与しますので、嚥下機能の評価や食事形態を検討するために欠かせない存在ですし、どんなによい製品であってもコスト的な問題もありますので、医事課スタッフが会議には出席することもあります。

 

<NSTの主なチーム構成>

・管理栄養士

・医師

・看護師

・薬剤師

・歯科衛生士

・臨床検査技師

・言語療法士(ST)

(・医事課)

 

これらコメディカルが集まって個々の症例に対する栄養スクリーニングを行い、栄養状態の評価と改善策を検討します。多くの医療機関では、症例検討の後に患者のベッドサイドで行うNST回診も導入しています。

引用:NST(栄養サポートチーム)の活動とその意義(一般財団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会発酵乳、乳酸菌飲料公正取引協議会)

 

2-2、NSTにおける看護師の役割

では、この中で看護師はどのような役割があるのでしょうか。NSTにおいて私達が実践可能なこと、まずは栄養にどう介入していけばよいのかという点から検討すると、下記のことが挙げられます。

 

<看護師の役割>

・栄養に障害のある患者の抽出および情報提供

・経静脈栄養、経管栄養の実施とルートの適切な管理

・患者の全身状態(栄養状態を含む)に関する医師への情報提供・助言

・患者と家族に対する栄養療法の指導、必要時退院指導

・食事摂取の直接介助と、誤嚥などの対応

・コメディカルとの連携

 

治療方針は医師が決定するため、看護師は医師が治療方針の選択に必要となる情報を提供すること、そして決定した栄養療法を実行することが大きな役目です。医師と薬剤師、医師と言語療法士が直接会話を交わすことよりも、間に看護師を介してコミュニケーションをとることが多いので、各職種の橋渡しも大切な役割です。

 

3、NST 看護師資格

NSTに関する資格には、一般社団法人日本静脈経腸栄養学会における「栄養サポートチーム専門療法士」が存在します。

 

受講資格は管理栄養士・看護師・薬剤師・臨床検査技師・言語聴覚士・理学療法士・作業

療法士・歯科衛生士・診療放射線技師として5年以上の実務経験があること、日本静脈経腸栄養学会の指定単位数の研修を受講し、認定教育施設において合計40時間の実地研修を修了していることとなっています。受験は年1回行われ、5年ごとの更新制です。

栄養サポートチーム専門療法士の受験要綱や認定教育施設については、同学会の栄養サポートチーム専門療法士認定規程を参照してください。

 

4、NST 看護研修・研究

一般社団法人日本静脈経腸栄養学会では、栄養サポートチーム専門療法士の講習・検定だけを行っているのではなく、認定を持たない医療従事者向けの研修も行っています。

同学会の看護師部会でも、毎年セミナーを開催しています。医師が講師となるセミナーでは、看護師はどうしても受け身の姿勢になりがちです。しかし、資格を有した看護師から教わると目線が近くなります。栄養のことを学ぶのであれば、栄養専門の学会である日本静脈経腸栄養学会のセミナーに重点をおきつつ、看護協会や各種セミナーを合わせて受講するとよいでしょう。

 

まとめ

NST・栄養療法という言葉を聞くようになり、大分経ちます。しかし、嚥下機能が低下して栄養状態が低下している患者の全てに経鼻経管栄養チューブを挿入したり、胃瘻・腸瘻の増設を進めることは、QOLや尊厳の観点からも安易にできることでもありません。どのような経路でどれだけの栄養を摂取すればいいのか、それぞれの患者によって違います。

日本静脈経腸栄養学会は1998年に発足され、これまで20年近い活動をしていることになりますが、国内の医療識関における取り組みや知識には大きな隔たりがあります。様々な学会や研究会といった教育の場で情報交換をし、自身の知識とスキルを磨きたいですね。

 

参考サイト

日本静脈経腸栄養学会  栄養サポートチーム専門療法士認定規程(一般社団法人日本静脈経腸栄養学会)

NST(栄養サポートチーム)の活動とその意義(一般財団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会発酵乳、乳酸菌飲料公正取引協議会|竹内理恵)

経腸栄養の選択基準(株式会社大塚製薬工場)

HCUの看護|看護必要度・配置基準・看護師の役割

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HCUの看護

HCU(高度治療室)での看護師の仕事は、一般の病棟とは違い集中的なケアが必要な患者を看護することであり、ICU(集中治療室)に準じた知識や技術が必要になります。ここでは、HCUの看護について詳しくご紹介していきます。

 

1、HCUとは

HCU(High Care Unit高度治療室)は、集中治療室と一般病棟との中間に位置する病棟で、集中治療室での緊急の状態から病態が落ち着いた患者や、一般の病棟で状態が悪化した患者、手術後の管理が必要な患者など、様々な患者のケアに当たります。ICUよりは集中しての管理やケアが必要ないとはいえ、HCUに入院する患者は一般の病棟と比べると生命に大きく関わるレベルの患者層であり、患者の状態について適切に観察し、正しくアセスメントし、処置や緊急時の対応をすることが必要になり、緊張感がある環境になります。一般の病棟とは違い、専門の科ではないために、幅広い総合的な知識も必要です。また、集中治療室からの緊急の状態を脱した患者の、一般病棟への転棟へ向けた支援も行うこともHCUの看護師の大切な役割となります。

 

2、HCUの看護必要度

看護必要度とは、患者の状態や処置の状況などを点数によって採点し、看護師の業務量を評価するものですが、HCUの場合、一般の病棟とは違って、「ハイケアユニット入院医療管理料」を算定するために、HCU用の評価表によって評価します。これは厚生労働省が定める診療報酬の評価ですが、2年ごとに見直されます。これによって評価の内容などが変更になることがありますが、看護必要度の基本的な考え方としては、患者それぞれにどのような医療や看護が行われているのかということを毎日評価する指標で、患者の状態を重症度、医療の高度レベルを数値化して評価するものということになります。また、看護必要度を評価することによって、どのような状況の患者がいて、どれくらいの業務量となっているのかということも評価できます。これにより、業務に携わる看護師の必要な人数や、適正な業務量を計ることができます。

 

平成28年度 看護必要度の評価表

出典:メディ・ウォッチ データが拓く新時代医療(2016年)

 

この表ではICUの算定条件ですが、HCUではA項目が3点以上、B項目が4点以上であることが算定基準になります。A項目については一般病棟の評価表と同じものになります。点数が高いほど重症であると判断され、看護ケアや処置、医療機器の管理などの看護必要度が高いということになります。このように、看護必要度の点数が高いほど看護ケアも重度になるため、HCUでの看護ケアはICUや一般病棟に比べて、全身管理や異常の早期発見に努めながら、一般病棟への転棟を目指しての日常生活の援助を行うため、看護業務は多岐にわたっていて多忙であり、幅広い知識や技術が必要になります。

 

3、HCUの看護配置基準・体制

HCUは高度治療室という位置にあり、一般病棟が7:1の看護配置であるのとは異なり、ハイケアユニット入院医療管理料の施設基準を満たすために4:1の看護配置が取られています。つまり、患者人数が4人に対して1人の看護師がつくように、患者と看護師のバランスを取るように決められています。HCUは看護師1人が受け持つ患者の人数が、一般病棟よりも少なくなっています。それは、HCUは一般病棟に比べて、全身観察や異常の発見、処置や検査など、より複雑で看護度が高いケアを必要とするため、1人の患者に対する看護度が高いため看護師1人が担当する患者の人数が少なくする必要があるからです。同じ考えとして、ICU(集中治療室)は2:1の看護配置を取っており、患者2人に対して看護師1人が担当するようになっているのです。

 

4、HCUの看護師の役割

HCUでの看護師の大きな役割は、一般病棟に転棟できるように身体的な回復のためのケアと日常生活の援助という、心と体のケアを行うことです。HCUの患者は、ICUでの病態が落ち着いたものの、引き続き集中的な治療が必要な患者や、急性期から脱して一般病棟や退院へ向けての支援を行う必要のある患者や、状況が悪化して集中的な管理が必要な一般病棟からの患者を受け入れています。そのため、状況的には身体的にも精神的にも不安定であり、患者本人やその家族にも不安が強いことが多いため、安全・安楽に努めながら不安を軽減し、身体的な回復のために治療に専念できるように関わる必要があります。また、様々な原因から集中的な治療を継続的に行う必要があるため、医療機器の取り扱いや状況の変化を見逃さないようにするという、ICUに近い高度な看護が必要であり、専門の科のみの患者と関わるというわけではないため、広い医療や看護の知識や技術、責任が必要になります。さらに、一般病棟への転棟のために、日常生活に戻るための援助も必要で、ICUよりも受け持つ患者の人数が多くなるために、業務は多岐にわたり、多忙なこともあります。

HCUの患者は入れ替わりも多く、短期間での関わりが主になります。その関わりの中で、急変の患者の管理や、一般病棟への転棟が間近の患者のケアなどそのレベルに合わせて看護を行っていきます。常に、緊急時や状況の変化に対応しつつ、患者の日常の援助を行っていくのがHCUでの看護業務といえます。長期にわたって関わる看護とは違い、HCUでの看護は短いある一時期を関わるものにはなります。その責任は重大ではありますが、急性期を乗り越えた患者の姿を見ることは、看護師としてとてもやりがいのあるものとなるのです。

 

5、HCUの看護師の勉強

HCUで働くためには、循環器系、呼吸器系の知識は基本的に必須なものとなります。心電図の読解や、バイタルサインのアセスメントはもちろん、循環や呼吸の管理の基本を勉強しておく必要があります。その他には、輸液ポンプやシリンジポンプ、人工呼吸器などの医療機器の取り扱い、循環器や呼吸器の疾患や、外傷、骨折などの整形外科的な知識、脳外科的な知識も必要です。まずは、基本的なバイタルサインや心電図などの部分から知識を深め、不明点や問題点があれば、その都度相談することでさらに知識を深めることができます。HCUでは先輩看護師や医師に相談することも大切なことであり、毎日勉強ができ、看護技術を習得できる場でもあります。様々な状況の患者の管理や看護を行うHCUは、様々な経験をすることで、看護師としての知識や技術を多く経験し、他の科では経験できないことが習得することができます。HCUの患者と関わる中で、必然的に資料や本で調べたりすることもあります。緊急的な状況や、幅広い知識が必要なためにハードに感じるかもしれませんが、看護師としてはとても勉強になる現場であり、キャリア形成にも有意義な経験になるとも言えるのです。

 

まとめ

HCUは一般病棟とICUとの中間的な位置付けであり、その看護業務はICUのような集中的な管理と、一般病棟のような日常生活の援助など、幅広いものです。また、異常の早期発見という役割も担い、重大な責任があるものでもあります。必要な知識は多岐にわたり、多忙な業務でもありますが、一般病棟では経験することができないような総合的な看護を経験することもできます。HCUでの患者の看護ケアは、全身観察や日常生活援助など、看護技術を深めることにもなるのです。

 

参考文献

看護必要度Q&A−あなたの疑問に答えます−(オーム社|田中彰子・筒井孝子監修|2015年)

中央社会保険医療協議会総会審議会資料(中央社会保険医療協議会総会審議会総会(第328回)|厚生労働省|2016年2月10日)


MRIの看護|原理や時間、造影剤、CTとの違い、検査の注意事項、看護師の役割

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MRIの看護

MRIは磁石と電波を用いて、体のあらゆる角度から断面を撮影する検査方法になります。検査の痛みはなく、放射線被曝もないですが、強い磁場が発生するため禁忌の患者がいます。看護師はMRI禁忌の患者ではないかを確認しなければいけません。

また、MRI検査に不安を持つ患者も少なくないので、精神的なケアを行うようにしましょう。

MRIの基礎知識や原理・時間、造影剤、CTとの違い、検査の注意事項、看護師の役割をまとめました。

 

1、MRI検査とは

出典:岡山済生会総合病院

 

MRI検査(MRI=Magnetic Resonanece Imaging)とは、磁気共鳴画像診断装置を用いた検査のことです。

MRI検査は超電導磁石が埋め込まれた筒状の検査機器に体を入れることで、非常に強い磁石と電波を利用して、人体のあらゆる断面を撮影し、画像にすることができます。

MRI検査は全身の様々な病巣を発見することができますが、特に脳や脊椎、四肢、骨盤内臓器には高い検査能力を持っていることが特徴です。

MRIで検査すると有効な疾患の一例をご紹介します。

・脳神経外科=脳腫瘍、脳血管疾患、脳外傷

・整形外科=頚椎症、胸椎・腰椎のヘルニア、骨軟部腫瘍、関節の靭帯損傷、半月板損傷

・婦人科=子宮・卵巣の異常や疾患

・泌尿器科=腎臓・尿管・膀胱の異常や疾患

このほか、小児科疾患や耳鼻咽喉科、眼科疾患の検査にも使用されることが多くなっています。

MRI検査は放射線被曝がないこと、画像のコントラストがCT検査よりも優れていること、造影剤がなくても血管造影ができることなどがメリットになります。

 

2、MRIの原理・時間

MRI検査は磁石と電波を用いて、体内の状態を画像化します。MRI検査の装置にはコイルが巻いてあり、このコイルに電流を流すことで、磁場と磁力を発生させます。

発生した磁力がコイルを振動させるため、MRI特有の「ガンガン」という工事中のような音がします。しかも、検査中は、磁場を発生させるためのスイッチのオンオフを高速で繰り返しているので、MRI検査中はずっと音が聞こえているのです。

出典:MRI(核磁気共鳴画像法)(中通歯科診療所)

 

体内にはプロトン(水素原子核)が存在しています。磁石の力で、バラバラに向いていたプロトンを整列させます。

そして、そこに電磁波を加えることで、プロトンの軸を変えて、核磁気共鳴という現象を起こすことを利用して画像化します。

MRIの原理は詳しく説明すると、とても専門的で難しいので、看護師は「磁石と電波を使って、体の中の水分を同じ方向に整列させることで画像化する」と覚えておくと良いでしょう。

MRI検査は20~40分前後かかります。これは、CT検査やX線検査の時間に比べるとかなり長いことが特徴です。これは、プロトン(水素原子核)を整列させるのに時間がかかるからです。

人体は70%が水分できています。この70%の水分を整列させて、その情報を画像化するには時間がかかります。しかも、MRIは撮影条件や撮影部位・方向を変えながら行いますので、さらに時間が必要になります。だから、MRI検査は長時間かかるのです。

 

3、造影剤を用いてのMRI検査(造影MRI検査)

MRI検査では、CT検査と同様に造影剤を投与してから検査を行うことがあります。MRI検査ではガドリニウムDTPAという造影剤を静脈から投与することが一般的です。

造影剤を用いてMRI検査を行うことで、腫瘍がほかの組織とは違った信号を出すなど、血管の状態や臓器の血流状態などがわかり、より正確に診断できるようになります。

造影剤は基本的には安全ですが、まれに副作用が出ることがあります。副作用には次のようなものがあります。

 

・悪心や嘔吐

・熱感

・皮膚の発赤や掻痒感、蕁麻疹

・咳やくしゃみ

・倦怠感

・めまい

・冷感

・血圧低下

・呼吸困難

 

造影剤の副作用は一過性のものですが、血圧低下や呼吸困難などの重篤な副作用が出ることもあるため、造影MRI検査を行う時は、副作用の出現に注意が必要です。

また、次のような人は造影MRI検査を行えないことがあります。

・今までに造影剤の副作用が出たことがある

・喘息がある

・アレルギー体質

・肝機能や腎機能が低下している

このような人は副作用が出やすいので、特に注意しなければいけません。また、授乳中の女性は母乳を介して、子どもに造影剤の成分が移行するリスクがありますので、造影MRI検査は避けたほうが無難です。

 

4、MRIとCTとの違い

MRI検査はCT検査と一見よく似た検査に思えます。でも、それぞれ特徴があり、メリットやデメリットが違う検査なのです。それぞれの特徴やメリット、デメリットの違いをまとめました。

 

■撮影方法

・CT=放射線を利用

・MRI=磁石と電波を使用

 

■撮影時間

・CT=10分前後

・MRI=20~40分前後

 

■撮影が得意な部位

・CT=脳や肺、腹部、骨

・MRI=脳や脊髄、関節、骨盤内臓器

 

■画像

・CT=空気や骨の影響を受け、骨は白く、空気は黒く映る。基本は横断面。

・MRI=CTよりもコントラストに優れていて、骨や空気の影響を受けにくい。あらゆる角度の断面を画像化できる。

 

■メリット

・CT=撮影時間が短い。出血に対する診断力が高く、救急での初期診断に優れている。骨の診断も可能。

・MRI=放射線被曝がない。あらゆる角度からの断層像を得られる。造影剤なしで血管の画像が得られる。細かい部分の画像診断に優れている。

 

■デメリット

・CT=放射線被曝がある

・MRI=検査に長時間を要する。体内に金属が入っている人は検査を受けられない。狭いところに長時間閉じ込められる。騒音がある。

 

5、MRI検査の注意事項

MRI検査中はMRI検査室内で強い磁場が発生していますので、磁石に引き付けられたリ、破損したりする可能性があるものは取り外さなければいけません。取り外せない時には、検査を受けることができません。

 

■検査を受けられない人

・心臓ペースメーカーや刺激電極を装着している

・金属製の心臓人工弁を入れている

・脳動脈瘤の手術で金属クリップを入れている

これらの人は、MRI検査中に体内の金属が磁石に引き付けられて動いてしまう可能性があるので、検査を受けることができません。

 

■検査を受けられないかもしれない人

・人工関節を入れている人

・人工内耳を埋め込んでいる人

・可動型義眼を装着している人

・妊娠している人、または可能性がある人

・タトゥーを入れている人

・閉所恐怖症の人

・小児(狭いところでじっとしていられない)

これらの人は、MRI検査を受けられない可能性があります。

 

■検査前の注意事項

検査前には金属製のもの、磁気に影響するものなどはすべて外して、MRI室に持ち込まないようにしなければいけません。

キャッシュカードやクレジットカード、定期券、診察券、スマホ、補聴器などは、すべてMRI室の外に置いてもらいます。

また、時計やメガネ、入れ歯、アクセサリー類、ヘアピン、カラーコンタクトなどもすべて外してもらいます。女性の場合はマスカラやアイシャドウに金属が含まれていることがありますので、アイメイクはせずに来院してもらう、もしくはその場でしっかり落としてもらう必要があります。

基本的には、検査着に着替えてからMRI検査を行います。この時、女性はブラジャーをとってもらうように注意しなければいけません。

 

5、MRI検査での看護師の役割

MRI検査での看護師の役割を説明していきます。

 

■患者への説明と不安の軽減

MRI検査は、先ほど説明したような注意事項がありますので、その患者が検査を受けられるか、ペースメーカーなどが入っていないかどうかを確認しなければいけません。

また、MRI検査は長時間狭い中で動かずにいて、さらにMRI特有の大きな音がしますので、看護師が事前にきちんと説明して、患者の不安を軽減しておく必要があります。

造影剤を使う時には、アレルギー体質ではないかなどを確認し、造影剤を使用することへの同意書に記入してもらっているかをチェックしておきましょう。

 

■MRI室への持ち込みチェック

先ほども説明しましたが、MRI室へは金属製のものや磁気の影響を受けるものなどを持ち込むことはできません。

一度説明しても、ヘアピンや入れ歯、ブラジャー、マスカラなどはうっかり忘れてしまう患者が多いので、看護師がもう一度確認してから、検査を受けてもらうようにします。

 

■副作用や異常の早期発見

検査中は狭いところが苦手な人、閉所恐怖症の人にはつらい時間になり、人によってはパニックを起こす可能性があります。

また、造影剤を使ってのMRI検査では造影剤の副作用が出るリスクがあります。看護師は異常がないか、副作用は出ていないかを観察しなければいけません。

 

■検査後

MRI検査後は、特に安静にする必要もなく、すぐに日常生活に戻ることが可能です。ただ、造影MRIを行った患者は、造影剤の排出のために、飲水を促しておく必要があります。

 

まとめ

MRI検査は磁石と電波を用いて画像にする検査のことです。MRI検査は痛みはないのですが、長時間狭い中で動いてはいけないこと、検査中は大きな音が響くことで、不安を持つ患者がたくさんいますので、きちんと説明をして、不安の軽減に努めましょう。

また、金属製のものはMRI室に持ち込めないことはもちろんですが、ペースメーカーを入れている人も検査を受けることができませんので、看護師はMRI禁忌の患者ではないか、身につけていた金属類はすべてMRI室の外に置いているかを確認してから、検査を受けてもらうようにしてください。

 

参考文献

CTとMRIの違い(医療法人早仁会 久喜メディカルクリニック|)

MRI検査とは(AIC八重洲クリニック)

代表的な検査について「MRI検査」(大阪大学医学部附属病院放射線部)

MRI の2つの疑問 ◇うるさい音と長い検査時間について◇(メディカルコラム|医療法人社団創進会 みつわ台総合病院|2016年6月10日)

画像診断・放射線治療について(愛知医科大学病院)

CTとMRIの違いは?(医療法人社団 めぐみ会|2008年)

産婦人科医が答える!○○で流産になる?処女でも子宮頸がんに?

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産婦人科

妊娠中に風邪の受診先は?(女性・25歳)

現在妊娠6カ月目の妊婦です。風邪をひいてしまい、高熱と喉の強い痛みに悩んでいます。薬を処方してもらおうと思うのですが、産婦人科を受診するべきなのか、喉の痛みが強いので耳鼻咽喉科を受診するべきなのか悩んでいます。

 

妊娠中の風邪(上気道炎)は産婦人科でも耳鼻科でも大丈夫です。しかし、妊婦の診察に消極的な耳鼻科医もいますから、まずは産婦人科を受診しましょう。とは言うものの、風邪はウイルスによるものがほとんどであり、風邪のウイルスに効果のある薬はありません。よって”風邪”の状態がひどくなければ病院に来る必要はありません。

また、”風邪”に対して抗生物質を処方する医師もいますが、ほとんどの風邪はウイルスによるものですから無駄です。二次的な感染予防の効果もほとんど期待できません。さらに不必要な抗生剤を飲むと抗生剤の効かないばい菌が増えることになり、本当に危険な細菌に感染したときに薬が効かなくなることがあります。

どんな薬にも副作用の問題があり、その危険を考慮しても必要な場合にのみ処方するものです。風邪と聞いただけで、すぐに薬を処方するような医師には気をつけた方が良いでしょうね。また、不勉強な医師は薬の処方だけして「飲んで良いかどうかは産婦人科で聞いてください」と言って、無責任な処方をする場合もあります。そういう病院も避けた方が良いでしょう。

一方で、39度を超えるような高熱やのどの痛みに対しては、病院に行って原因を調べてもらうとともに、熱冷ましや痛み止めを処方してもらうほうが良いでしょう。妊娠中や子供の場合には、アセトアミノフェン(カロナール、タイレノール)が処方されます。妊娠中にはボルタレン、ロキソニン、ポンタール、などの痛み止めは使ってはいけませんから、注意しましょう。

風邪に対しては、無理をせず、バランスの良い食事を摂り、水分をしっかりとって休養することです。無理をしておいて薬を飲むのでは本末転倒です。しっかり休んで早く治るようにしましょう。

 

 

薬が原因で流産?(29歳・女性)

生理痛がひどくて病院にかかっていて、子宮の収縮を抑えるズファジランという薬を処方してもらっています。下腹部が痛むので生理前だと思いズファジランを飲んだのですが、妊娠していました。病院ではこの薬は妊娠していても大丈夫だと聞いていたので、何も考えなかったのですが、妊娠3カ月で流産してしまいました。薬が原因で流産したのでしょうか?

 

流産すると、どうしても自分の行ったことが原因ではないかと考えてしまい、自分自身を責めてしまいますね。しかし、ほとんどの早期流産は受精したときの遺伝子の異常にあるとされます。生きていけないような遺伝子の異常があるために成長が止まり、成長が止まったために、流産になるということです。よって、何をしても流産を止めることはできませんし、逆に、普通の生活での行動によって流産を起こすこともできません。

 

また、ズファジランは妊娠初期にも良く処方される薬で、それが原因で流産になる可能性はゼロと言って良いでしょう。そもそも、普通に処方される薬で赤ちゃんに悪影響を及ぼす薬はほとんどありません。抗がん剤や一部の特殊な薬だけです。あ、一つだけありました。タバコです。タバコは手に入る薬の中で唯一、赤ちゃんに悪影響を及ぼす薬ですが、そのタバコでさえも流産率がすごく高くするわけではありません。

 

一回の流産の経験だけで、すべてがわかるわけではありませんが、妊娠初期のズファジランによって、流産が起こる可能性はほぼゼロです。自分を責める必要はありません。ちなみに、妊娠初期に下腹部痛を訴える妊婦は非常に多く、そのほとんどは治療が必要なものではありません。痛みが流産によるものであっても、治療はないのです。

流産は自分のせいにして責める必要はありません。

 

 

処女でも子宮頸がんになるの?(29歳・女性)

茶褐色のおりものが続くことと生理不順、ひどい生理痛のため、婦人科で検査を受けました。子宮内膜症と子宮筋腫の心配はないと言われたのですが、子宮頸がんの検査もすべきなのでしょうか。性行為の経験がないので、検査を受けるのが不安なことと、未経験だと検査できないと聞いたことがあるので受けていません。性行為の経験がなくても子宮頸がんになる可能性はあるのでしょうか。

 

子宮頸がんの原因のほとんどはセックスによるヒトパピローマウイルスの感染が原因だとわかっています。よって、セックス未経験の女性が子宮頸がんになる可能性はほとんどありません。そのため、「無症状であっても2年に一回受けるべき」とされている子宮頸がん検診の必要はありません。そもそも、セックスした経験がない女性は、子宮頸部を観察するために腟を拡げる処置自体が痛くて、検診が困難である可能性が高いという問題もあります。あなたの場合には、検診による害(苦痛や時間)のほうが、検診による効果を上回っています。

 

人間の体の全てがわかっているわけではなく、子宮頸がんの全てがわかっているわけではありません。従って、セックス未経験の女性が絶対に子宮頸がんにならないとは言えませんが、セックスの経験がない女性は子宮頸がん検診を受ける必要はありません。

 

子宮頸がんではありませんが、強い生理痛のある人は子宮内膜症が隠れていることがあり、それを放置していると、不妊につながることがあります。「子宮内膜症がない」という診断は簡単ではありません。超音波検査や採血、MRI検査で異常がないと診断されても、100%確実ではないのです。生理痛がひどい人は、低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲストーゲン配合剤などを使って治療をしておいた方が、将来の妊娠に有利な場合が多いです。ぜひ、産婦人科で相談してください。

 

治療するにせよ、治療しないにせよ、生理痛がひどい人は妊娠しにくい確率が高いです。もし、子供を産む人生を考えているのであれば、早めに妊娠して、出産しておくことが有利です。自分がどんな人生を歩んでいくのか(特に妊娠と出産に関して)を、ここでもう一度、考えてみることをお勧めします。

子持ちナースと子どものいないナースは不平等である

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看護師の不平等

ナースという職業は、女性が多いのが特徴です。男性看護師も増えてきたとはいえ、まだまだ女性が半数以上を占める職場がほとんどでしょう。

 

そんな環境で感じるのが、子どものいないナースと育児中の子持ちナースの不平等さ。仕方ないとわかってはいても、不平等さを感じずにいられません。

 

女性の働き方が今後の課題

女性の働き方は、頻繁にクローズアップされます。女性の社会進出に伴って、結婚や出産に伴う働き方の選択が大きな課題となっているからです。

 

男女平等が叫ばれるようになったとはいえ、まだまだ社会全体を見れば男性中心です。そして、出産をするのが女性である以上、女性が社会で働き続ける上で、そのあり方というものは課題となってきます。

 

子どものいないナースにかかる負担

ナースの世界は、女性の働き方への理解がある場所。

 

しかし、昔から女性中心であったナースの世界では、女性のライフステージの変化に対する理解や受け入れ体制は整っている方でしょう。ライフスタイルに合わせて雇用形態を変えることはよくありますし、院内に24時間保育体制を整えて、ワーキングママ達をバックアップする体制を取っている職場も多くあります。

 

男性中心で動いてきた他の業界に比べて、女性の働きやすさはずば抜けていると言っても過言ではないかもしれません。

 

消えない職場内の不満

けれど、それでも職場での不満はなくなることはありません。女性だからといって全員が結婚・出産を経験するわけではないし、完全に理解することは不可能です。

 

とくに、子どものいるナースとそうでないナースの間で距離が生じやすくなってしまいます。

 

育児中のナースは、時短制度を使ったり、子どもの急病で休むことが多くなったりすることで、仕事に対してフルコミットすることが難しくなります。有休もどんどん消化していきます。その分、子どものいないナースが残業したり、院内の委員会を兼務したりと、どんどん負担が増えてきます。

 

シフト表を見て育児中のスタッフが多いと、「あぁ、突然休まれたら困るから、絶対休めないな…」と思って、体調不良でも無理をして出勤するようなことも。有休だって、気を使って取りにくくなります。

 

こういったことは一般企業でも起こりうることでしょう。しかし、女性ばかりの職場であるがゆえに、一般企業と比べて育児中のスタッフの比率が高くなってしまうこともあります。そうなると、育児中スタッフとそうでないスタッフの負担がどんどん広がってしまい、同時に不満もたまっていくのです。

 

育児に関するスタッフの不満の大きさでは、実はナース業界は一番なのかもしれません。

 

育児中スタッフの態度が原因?

もちろん、育児中のスタッフだって、そのようなことになっているのは理解している人がほとんど。休まなければならなくなったときに申し訳なく思っていたり、限られた時間でも出来る限りの事はやろうと精一杯働いています。

 

けれど、時折、「子どもがいるんだから休んで当然」という態度でいる人もしばしば。

 

「子どもが体調を崩すのは仕方ないんだから、休んで当たり前」

「子どものいない人が、子どもがいる人と同じ日数有休を取るのは無理でしょ」

「子どもの迎えがあるから、仕事の残りは任せて帰ります」

 

子どもの体調不良が仕方ないことも、保育園に迎えに行かなくてはならないこともわかります。出来る人たちでカバーしなければならないこともわかります。

 

けれど、子どもがいないスタッフだってプライベートはある。有休だって取りたいときもあるし、残業しないで帰りたいときもあります。

 

そんなときに、子どもが原因で休んだり早く帰宅したりするスタッフが、そんな態度で接してきたら…働くママの状況を理解しようとしても理解したくなくなってしまいます。

 

スタッフ間の不平等をなくすには

こういう職場の不平等は、往々にして「子どもがいない人の不理解」として片付けられがちです。けれど、それだけではないのが事実。理解しようとしても、上記のような状況があれば、納得できなくなってしまうものです。

 

だからこそ、一番に必要なのは「互いの思いやりの態度」。そんなのあって当然と思われるかもしれませんが、案外、置き去りになりがちです。

 

子どものいないナースは、育児中のスタッフを思いやる。休んだり早退したりすることも多くて、肩身狭い思いをしているかもしれないね、と。

子どものいるナースは、子どものいないナースを思いやる。いつも仕事を任せてしまってごめんね、と。出勤できるときは、精一杯やるからね、と。

 

そんなふうに思いやれれば、少しは不満が小さくなるかもしれません。

 

 

そして、職場全体でも配慮が必要でしょう。育児中のスタッフの比率が高くなりすぎないように人員配置を調整するとか、休みの取り方に関して工夫をするとか。病後児保育やシッター制度を使いやすくなるよう、工夫してみるのもいいのかもしれません。

 

まとめ

ナースの世界は、まだまだ女性が多い職場。同じ女性同士で不満がたまらないように、スタッフ同士、あるいは職場全体で声を掛け合っていきたいものです。

 

不満の蓄積は、職場全体の雰囲気の悪化にもつながります。女性が中心となってきた業界だからこそ、女性が働きやすい職場を維持するために、すべての職場に率先して改善をするようお願いしたいとです。

ARDSの看護計画|急性呼吸窮迫症候群の定義と原因・診断基準・症状

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ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の看護

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)とは様々な原因によって肺水腫を起こして、重症の呼吸不全に陥る疾患ですが、根本的な治療方法がなく、死亡率が高い疾患です。

ARDSの基礎知識や定義、診断基準、原因、症状、治療、看護計画をまとめました。ARDSの患者の看護をする時の参考にしてください。

1、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)とは?定義と診断基準

ARDS(Acute Respira-tory Distress Syndrome=急性呼吸窮迫症候群)とは、様々な原因によって肺損傷が進行し、重症の呼吸不全になる病気です。

ARDSはいろいろな原因によって肺の血管透過性が進行することで、肺胞腔内に血液中の水分が移動し、肺水腫を起こして呼吸不全になるのです。肺が水浸しになる、肺胞がむくんだ状態になると考えるとイメージしやすいかもしれません。

 

出典:急性呼吸不全・ARDS|一般社団法人日本呼吸器学会

 

ARDSの定義は2011年にドイツのベルリンで開催されたヨーロッパ集中治療医学会で発表され、2012年にJAMA誌に最終版が掲載された「ベルリン定義」と呼ばれるものが採用されています。

 

■ARDSの定義

 

①1週間以内の急性発症

②明らかな低酸素血症がある

③胸部X線やCTで両肺に異常な影がある

④心不全が原因ではない

 

この4項目がARDSの定義になります。「明らかな低酸素血症」は、P/F値で判定します。P/F値とはPaO2(動脈血酸素分圧)をFiO2(吸入酸素分圧)で割ったものになります。

ARDSのP/F値は、PEEP(CPAP)≧5cmで測定します。

 

・軽症:200<P/F≦300

・中等症:100<P/F≦200

・重症:P/F≦100

 

また、胸部X線やCTで両肺に異常な影があるという項目については、胸水や無気肺、結節では説明できないものという注意書きが付いています。

ARDSでは肺水腫の状態になりますが、一般的に肺水腫と診断されるものは心不全が原因によるものです。肺水腫の状態になっているけれど、心不全以外の原因によるものがARDSと診断されるのです。ARDSは死亡率が高い病気で、医学が発達した現在でも死亡率は30~40%と考えられています。

2、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の原因

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の原因は1つではありません。様々な基礎疾患が原因となり、ARDSを発症します。

ARDSの原因となる基礎疾患は、直接肺を障害するものとそうでないものの2つに大きく分けることができます。

 

■直接肺を障害するもの

・肺炎

・肺挫傷

・誤嚥

・溺水

 

■間接的に肺を障害するもの

・敗血症

・重症外傷

・重症膵炎

・大量輸血

 

このような基礎疾患によって、好中球が活性化することで、活性酸素やタンパク分解酵素が放出され、肺胞や毛細血管がダメージを受けます。その結果、血液中の水分やタンパクが染み出して、肺水腫が起こってしまうのです。

 

3、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の症状や合併症

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)は原因となる基礎疾患の発症から数日以内、長くても1週間以内に発症しますが、初期段階では次のような症状が現れます。

 

・発熱

・咳

・痰

・頻呼吸

・呼吸困難感

 

このような症状が現れ、一気に呼吸状態が悪化していきます。ARDSが進行すると肺の線維化が進み、それに伴う肺高血圧症が合併することもあります。さらに、DIC(播種性血管内凝固症候群)や腎不全、肝不全、意識障害、消化管出血、凝固異常、心血管系機能不全(ショック)などの多臓器不全を合併することも珍しくありません。

ARDSの患者の中で、DICを合併するのは25~70%、腎不全は40~55%、肝不全は12~95%、意識障害が7~30%、消化管出血は7~30%、凝固異常は0~26%、心血管系機能不全は10~23%となっています。

 

4、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の治療

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)は、根本的な治療方法はありません。ARDSでは原因となっている基礎疾患の治療を進めつつ、呼吸管理と薬物療法を行っていきます。

 

■呼吸管理

ARDSでは基本的に人工呼吸器を使っての呼吸管理を行います。ARDSでは肺保護換気戦略のために、一回換気量とプラトー圧を制限する低容量換気が推奨されています。

低容量換気とは一回換気量を少なくすることで、肺の過伸展を予防するため呼吸管理方法になります。一回換気量が多すぎると、ARDSでは人工呼吸器関連肺損傷(VILI)が起こり、死亡率が高くなるとされています。

ARDSでは一回換気量は10ml/kg以下に、プラトー圧は30cmH2O以下になるように人工呼吸器を設定します。

また、人工呼吸器装着直後は、低酸素血症を予防するために、FiO2は1.0(酸素濃度100%)から開始しますが、高濃度の酸素を長時間投与していると、肺損傷が進むことがあります。そのため、PaO2>60mmHgを保っているのを確認しながら、0.4~0.6を目標に少しずつFiO2を下げていき、人工呼吸器の離脱を目指します。

 

■薬物療法

現時点では、ARDSに確実に効果があり、死亡率を改善できる薬物療法はありませんが、酸素化能の改善や人工呼吸器装着期間を短縮できる可能性がある薬剤を使用して治療を行っていきます。

 

■グルココルチコイド

グルココルチコイドは発症2週間以内に少量を一定期間使用して漸減する方法は、人工呼吸器装着期間を短縮させる有用性がある可能性があるとされています。

 

■好中球エラスターゼ阻害薬

好中球エラスターゼ阻害薬は所見が改善されたり、人工呼吸器装着期間やICU在室期間の短縮の有用性が証明されています。

 

■抗凝固療法

凝固異常はARDSの増悪に関係していると考えられていて、抗凝固療法をすることはARDSの治療に有効であるという可能性が示されています。

 

■抗菌療法

敗血症が原因のARDSでは抗菌薬を用いて治療を行います。また、ARDSでは人工呼吸器関連肺炎(VAP)が起こるリスクが高く、VAPが認められたら、抗菌療法を行っていきます。

 

5、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の看護計画

ARDSでは、主に肺水腫になることでのガス交換障害とARDSと人工呼吸器装着による非効果的気道浄化の2つが看護問題になります。

このほか、合併症の状態によって、循環障害や出血傾向などの看護問題も起こってきますが、ここでは合併症ではなくARDSそのものによっておこる看護問題のガス交換障害と非効果的気道浄化の2つを説明していきます。

 

■ガス交換障害

ARDSでは肺水腫が起こることで、ガス交換障害が起こり、低酸素血症になります。

 

看護目標 呼吸状態が安定する。PaO2>60以上を保つ
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・呼吸状態(喘鳴、呼吸パターン、チアノーゼ等)

・人工呼吸器の設定

・意識レベル

・バッキング、ファイティングの有無

・検査データ

・胸部X線やCT所見

・痰の性状や量

TP(ケア項目) ・適切な酸素投与、人工呼吸器管理

・医師の指示に基づいた薬剤の投与

・体位ドレナージ

・腹臥位の施行

・ギャッジアップ(頭高位)を保つ

・適宜痰の吸引を行う

 

ARDSでは腹臥位を取ると、酸素化が改善され、死亡率が低下するというデータがありますので、人工呼吸器を装着している患者も積極的に腹臥位を取らせるようにしましょう。

ただ、気管挿管をしている患者が腹臥位を取ると、挿管にテンションがかかり、事故抜去してしまうリスクがありますので、挿入物には注意して、腹臥位を取り入れるようにしてください。

 

■非効果的気道浄化

 

看護目標 VAPを起こさない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・呼吸状態(喘鳴、呼吸パターン、チアノーゼ等)

・人工呼吸器の設定

・意識レベル

・バッキング、ファイティングの有無

・呼吸音

・検査データ

・胸部X線やCT所見

・痰の性状や量

TP(ケア項目) ・適切な酸素投与、人工呼吸器管理

・医師の指示に基づいた薬剤の投与

・体位ドレナージ

・適宜痰の吸引を行う

・口腔ケア

・経管栄養投与時は、誤嚥を予防する

 

ARDSの患者はタッピングなどの用手的排痰ケアは、疼痛や重症不整脈などの合併症が起こるリスクが高く、用手的排痰ケアの有効性は不明であることから、推奨されていません。

 

まとめ

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の基礎知識や定義、診断基準、原因、症状、治療、看護計画をまとめました。

ARDSはICUなどの集中治療部門では珍しい疾患ではありません。死亡率が高く、治療が難しい疾患ではありますが、積極的に腹臥位を取り入れるなど、看護の力で酸素化を改善させて、治療につなげていけるようにしましょう。

 

参考文献

ALI/ARDSの診断基準と治療方法|京都府立医科大学大学院医学研究科

ARDS診療ガイドライン2016|一般社団法人 日本呼吸器学会 一般社団法人 日本呼吸療法医学会 一般社団法人 日本集中治療医学会

急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) (きゅうせいこきゅうきゅうはくしょうこうぐん) 病名から探す | 社会福祉法人 恩賜財団 済生会

急性呼吸不全・ARDS|一般社団法人日本呼吸器学会

田坂 定智「ベルリン定義からみた ARDS の病態と呼吸管理 機能的予後の改善を目指して」| 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 2015年 第25巻 第 1 号

ノロウイルスの看護|症状・潜伏期間・看護計画

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ノロウイルスの看護

ノロウイルスは感染力が高く、感染すると強い消化器症状を起こすウイルスです。その感染拡大を防止すること、また予防することは看護師の役割ともいえます。ノロウイルスの基本的な特徴と正しい対処方法、さらに看護計画を知って看護に役立ててください。

 

1、ノロウイルスとは

ノロウイルスは、非細菌性急性胃腸炎を引き起こす小型球形ウイルスで、牡蠣などの二枚貝や井戸水などのノロウイルスによって汚染された水、さらには、ノロウイルス感染者の糞便や吐物、手などからの感染があります。感染力は非常に強く、わずかな摂取(10〜100個)によっても感染します。特にノロウイルス感染患者の吐物や糞便には多量のウイルス(1g中の吐物に100万〜1000万個、糞便に1000万〜1000億個)が含まれており、乾燥にも強くて浮遊しやすいために、二次感染の危険性が高く、感染者の吐物や糞便の扱いを注意する必要があります。

ノロウイルスは小腸粘膜で増殖して感染性胃腸炎や食中毒を引き起こしますが、流行は特に冬季に流行する傾向があります。しかし、冬季だけではなく年間を通しても感染があります。ノロウイルスは、施設や学校、飲食店などでウイルス性胃腸炎の集団感染を起こす原因となり、その拡散力はとても強く、ノロウイルス感染流行時期には感染予防や感染の拡散を防止することが重要になります。

出典:東京都福祉保健局

 

2、ノロウイルスによる感染の症状

ノロウイルスに感染すると、激しい嘔気や嘔吐、下痢といった症状があり、それに伴った腹痛や倦怠感、咽頭痛などがあります。発熱は軽度ですが、発熱時に頭痛、悪寒があることもあります。感染し潜伏期間が経過すると激しい症状が出現しますが、健康で体力のある成人であれば2〜3日ほどで軽快しますが、小児や老人などは嘔吐や下痢による脱水や誤嚥性肺炎などの合併症によって死亡することもあります。止痢剤は症状を長引かせるために基本的には使用せず、ウイルスの排泄を促します。ノロウイルスには、現在、効果のある抗ウイルス薬やワクチンがなく、感染者の体内からノロウイルスが排出されて症状が軽快するまで、経口での水分摂取が難しい時は点滴などの水分補給による対症療法を行い、脱水症状を予防します。ノロウイルス感染による胃腸炎や食中毒は、嘔吐や下痢が主な症状であり、これによっての脱水症状を予防することが治療には特に重要になるのです。

 

3、ノロウイルスの潜伏期間

ノロウイルスの潜伏期間は12時間から48時間で、汚染された食品の摂取や感染者の糞便や吐物からのウイルスを吸い込むことで感染します。二枚貝にノロウイルスが付着していることがあるとされていますが、ノロウイルスが付着した手から他の食品へ付着し、それを食することでの感染もあります。また、感染患者の糞便や吐物の処理が不適切であった場合や感染患者の飛沫によって、ノロウイルスが浮遊し、周囲に散らばることで感染する塵埃感染もあります。ノロウイルスは乾燥に強い性質であるために、周辺環境にとどまって、そこに触れた人の手から感染するということもあるのです。感染すると症状は2〜3日ほどで軽快しますが、ノロウイルスの排泄は1ヶ月ほど続くとされていて、二次感染に注意が必要になります。

 

4、ノロウイルスの看護師の対応

ノロウイルスには主に、経口感染、接触感染、飛沫感染、空気感染の4つの感染経路があります。

 

■経口感染

食品による感染で、十分に加熱していない食品を摂取することで感染します。

 

■接触感染

感染者の吐物や糞便の処理時に接触したり、不適切な処理によって浮遊したウイルスに接触することでノロウイルスが口の中に入り感染します。

 

■飛沫感染

感染者のウイルスを含む飛沫を吸い込むことで感染します。

 

■空気感染

ノロウイルスが飛沫核となって空気中に浮遊し、吸い込むことで感染します。

 

経口感染以外は、いずれも感染者の吐物や糞便の不適切な処理によって引き起こされています。また、ノロウイルスに感染している患者がいない場合は、外部からノロウイルスを持ち込むことを防ぐ必要があります。

 

4−1、ノロウイルス患者の隔離

ノロウイルスに感染している可能性がある場合は、医師の指示によってノロウイルス迅速検査キットを使用して感染の有無を確認します。検査の結果が陽性であれば、患者を隔離し、できればトイレも患者専用にします。オムツを使用している場合は、患者のベッドサイドで排泄物を処理できるように環境を整備します。ベッドサイドで使用したものは、隔離した場所から持ち出さず、必ずベッドサイドで処理します。

 

4−2、個人防護具の使用

看護師の手は感染の媒体になりやすいために、手指衛生は徹底します。その上で、マスク、グローブ、ガウンの個人防護具を使用し、使用後は患者のベッドサイドで処理して、移動するようにします。

 

4−3、吐物の適切な処理

ノロウイルス感染患者の吐物には大量のウイルスが含まれています。さらに、ノロウイルスは浮遊しやすいので、迅速に対応する必要があります。病棟にはノロウイルス吐物処理キットを準備します。吐物の処理方法は次の通りです。

 

ノロウイルス吐物処理キットのセット内容例

①マスク

②グローブ

③エプロンまたは、ガウン

④シューズカバー

⑤嘔吐物凝固剤

⑥ビニール袋

⑦次亜塩素酸ナトリウム

⑧ペーパータオル

 

吐物処理手順

①防護具(エプロン、マスク、シューズカバー、グローブは二重に装着)を装着します。

②吐物の周囲2メートル以内は汚染区域として立ち入り禁止とします。

③吐物の上を覆うようにペーパータオルを優しく載せ、その上から次亜塩素酸ナトリウムを吐物と同量程度注ぎます。(あれば吐物凝固剤を使用)

④吐物を外側から内側に向かって拭き取ります。

⑤拭き取ったペーパータオルをビニール袋に入れて、使用したグローブの1枚目を外し、袋に入れて密封します。

⑥吐物があった場所に次亜塩素酸ナトリウムをかけて、10分ほど置きます。

⑦ペーパータオルで拭き取り、シューズカバーを外し、靴底を次亜塩素酸ナトリウムで浸したペーパータオルで拭きます。

⑧吐物があったところを再度水拭きし、グローブ、エプロン、マスクの順で外しビニール袋に入れて密封します。

⑨ビニール袋を二重にし、破棄します。

⑩十分に手洗いをします。(擦式消毒用アルコールは無効のため、液体石鹸を使用し流水で洗う)

 

個人防護具の脱着手順

出典:職業感染制御研究会

 

5、ノロウイルスの看護計画

ノロウイルス感染時の看護は、症状に対する看護、感染の拡散の防止やその教育などが挙げられます。

 

観察項目(OP)

①嘔気、嘔吐、下痢の有無、回数

②尿量

③飲水量

④腹痛、頭痛、倦怠感の有無と程度

⑤手洗いの方法と習熟度

⑥ノロウイルスの感染拡大を防ぐ方法の知識の有無

⑦家族の協力度、知識の程度

⑧バイタルサイン

 

ケア項目(CP)

①脱水となっているようなら、水分摂取を促す

②必要時、医師の指示により点滴による補液を行う

③洗濯物の扱いなど、家族の協力を得る

④患者の隔離を行い、吐物や排泄物は適切に処理する

 

教育項目(EP)

①手洗い方法を指導する

②洗濯物は破棄するか、次亜塩素酸ナトリウムを使用して洗濯する、または、85度以上の熱湯をかけて消毒するように指導する

③症状があるときは、遠慮せずに伝えるように指導する

④トイレの使用方法、排泄後に手が触れた部分の消毒方法を指導する

 

まとめ

ノロウイルスの看護は、感染患者の治療を行う他に、他の患者や医療従事者の安全を確保し、感染を拡大させないということが大切になります。ノロウイルスは感染力が高いため、その知識を深めて対策を正しく行うことは看護師の重要な役割ともいえるのです。

 

参考文献

ノロウイルス −概要と感染対策−(丸石製薬株式会社|2016)

食品微生物学辞典(中央法規出版|田中智之|2010年)

ノロウイルス感染症 (日本内科学会雑誌 Vol.102 No.11 p.2801-2807|吉田正樹|2013)

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