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摘便の看護|看護的観点からみる問題、その手順と方法、注意点について

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摘便看護

摘便は入院・外来問わず、臨床では日常的に行う基本的な看護技術です。便秘には内服による緩下剤での排便コントロールが理想ですが、どうしても効果が得られなかった場合や患者からの希望が強い場合には、直接掻き出すことが必要となります。また、高齢者の多い入院病棟や介護の現場では、「3日に1回、浣腸後に摘便」とルーチンに行われることも多いのが実状です。

安易に行われがちな摘便ですが、出血やショック・穿孔などの危険も伴う処置です。これらの危険性を認識した上で適応を検討し、必要な際には患者の安全・安楽が得られるよう正しい知識を身に付けてから行いましょう。

 

1、摘便の目的と適応

排泄は人間の最も基本的な生理的な欲求であり、患者の安楽を得るために必要不可欠な処置です。便秘は、患者にとって大変な苦痛をもたらします。

どうしても肛門部に硬い便が溜まってしまった場合、自然に排便することが難しくなります。水分が吸収されて硬くなった便が肛門部を塞ぐことで、一層便が硬くなって栓をしてしまい、便秘を悪化させます。便秘が高度になると、嘔気・嘔吐や食思不振、イレウスを起こすことがあります。主に以下のような症状の見られる患者に対して行ないます。

 

・緩下剤の内服でも自然排泄が得られない患者

・高齢・衰弱、もしくは術後の創傷等で腹圧がかけられない患者

・認知症や精神疾患により、自身で排便のできない患者

・脊椎損傷や二分脊椎等の疾患による直腸機能障害のある患者

・バリウム検査後に排便のない患者

 

2、摘便の注意点

 

■出血の危険性

摘便は指を挿入して便を掻き出す際に、直腸粘膜を傷つけて出血を起こすことがあります。摘便の範囲は肛門から4㎝までとし、無理に搔き出さないようにします。

下記の患者には、処置の際に出血を引き起こすリスクが高くなるので、適応を含めてよく検討し、実施の際には注意深く行う必要があります。

 

・痔核のある患者

・血液疾患・肝機能障害等により出血傾向のある患者

・肛門や直腸に病変のある患者

 

特に、肛門部に腫瘍性病変があるために便秘を起こしている場合には、腫瘍を傷つけることで大出血を起こす危険性があります。実施の際は慎重に行い、医師とすぐに連絡がとれるようにしておく必要があります。

 

■穿孔

摘便により、直腸穿孔を起こすことがあります。特に摘便の前に浣腸(GE)を行った場合に多いのですが、トイレ内で立位の状態で摘便を行うと、腸の走行により穿孔を起こしやすくなります。摘便は、どうしても仰臥位しかとれない患者を除き、左側臥位で行います。

 

■血圧低下

摘便により排便が促されて大量の排便があった場合には、急激に血圧の低下を起こすことがあります。実施する前には、必ず血圧を始めとしたバイタルサインの観察をしておきましょう。実施後も、出血の有無と合わせて血圧変動に注意しましょう。

 

■プライバシーへの配慮

摘便は陰部の露出する処置であり、臭気を伴うことから周囲に対するプライバシーの配慮が必要です。必ずカーテンやドアを閉めてプライバシーに留意し、掛け物で不要な露出を避けます。処置のあとには換気を行い、臭気へも配慮します。

 

3、摘便の方法

摘便の際には以下のものが必要物品となります。

 

・ディスポーザブル手袋

・ディスポーザブルエプロン

・潤滑剤

・ペーパー(トイレットペーパー、未滅菌の紙ガーゼ)

・オムツ(平オムツ、場合により替えのテープ式オムツ)

・便器

・尿器(男性の場合)

・ビニール袋

 

以下、摘便のおおまかな手順になります。

 

①患者に摘便の必要性を説明し、同意を得る

ベッドサイドに行き、患者の名前を確認します。そして、摘便の必要性と大まかな流れを説明し、同意を得ます。同意が得られたら物品を取りに行きましょう。その間に排尿を済ませてもらうと、処置をスムーズに行うことができます。

 

②処置シーツ・オムツを敷く

ベッド周囲にカーテンを引いてから、バスタオルなどの薄い掛けものを掛けます。エプロンと手袋を二枚重ねで装着してから、臀部の下へ処置用シーツと平オムツを敷きます。(もともとオムツを使用している場合には、平オムツは不要です。)

 

③服をおろし、体位を整える

掛けものの下で服と下着を膝まで下ろし、臀部を露出します。左側臥位をとり、膝を軽く抱えるようにします。1人でできない患者の場合は、服を下ろしてから側臥位をとります。前(腹側)に掛物をして露出を最小限にし、プライバシーの保護に努めます。

 

④必要物品を配置する

ペーパーとビニール袋、替えのオムツが必要な場合は、手の届くところに置きます。ペーパーの内1枚に潤滑剤を出しておきます。寝具を汚さずに済むように、触れてしまいそうな物はよけておきます。

 

⑤利き手の示指に、潤滑剤をつける

ペーパーに出した潤滑剤を、利き手の示指に十分に付けます。反対の手で臀部を抑えます。

 

⑥患者に声をかけながら、指を挿入する

ゆっくり息を吐き肛門に力を入れないよう声をかけながら、潤滑剤を付けた指で肛門周囲を軽くマッサージします。患者の呼気に合わせながら、ゆっくりと指を回転させながら挿入します。指を回しながら挿入すると、少しずつ肛門を広げられるため、患者の苦痛を抑えることが可能です。

 

⑦便塊を掻き出す

患者にゆっくり呼吸するように促し、肛門に近い便塊を掻き出してペーパーに出します。指の腹を直腸壁に沿わせながら進め、挿入する深さは4㎝までとします。手袋についた便をペーパーやオムツの端で拭きながら行うと、肛門周囲の皮膚を汚さずに済みます。

便塊は触れるのに掻き出せない場合には、利き手と反対の手で下腹部を時計周りにマッサージしながら行うと、便が肛門付近へ下りやすくなります。便塊が大きい場合は無理にそのまま出そうとせず、指先で潰してから掻き出します。便の性状や色、出血の有無を確認しながら、便塊を全て出します。

 

⑧便器を挿入する

肛門付近の便を掻き出すことで、患者自身が便意を催す場合があります。その際は仰臥位にして便器を差し込み、排便を促します。男性の場合は、尿器を当てておくと安心です。

便器を当てることが難しい場合には、オムツをしっかりあて、腹部マッサージも加えると自然に排便しやすくなります。

 

⑨片付け

肛門部をペーパーで拭きとり、便器を外します。オムツの場合は、使用したオムツを換し、ビニール袋に捨てます。新しいオムツを当てます。患者の衣服を整え、体位を安楽な体位に戻します。その後、使用した物品を片付けてからカーテンを開け、窓を開けて換気します。

 

⑩状態観察と説明

患者の状態を観察し、気分不快や腹痛の有無を確認します。患者には肛門部の便が出たことでしばらく排便が続くかもしれないこと、出血や気分が悪くなったらすぐにナースコールを押すよう説明し、退室する。

 

まとめ

摘便は臨床で日常的に行われ、便を出すには一番確実な方法です。しかし、出血や穿孔など、時には命に関わる大きな危険も伴う処置です。患者の苦痛を極力減らし、安全かつ効果的に処置をしましょう。プライバシーを保護することも忘れずに。

 

参考文献

看護技術がみえる vol.2 臨床看護技術

MEDIC MEDIA(平成25年 第1版)


シスター・カリスタ・ロイの看護理論|適応モデルを用いた看護過程

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ロイの看護理論

看護理論とは看護に対する知識や考え方を体系化し理論付けたもので、看護実践の基礎となるものです。看護における理論は、ナイチンゲールの「看護覚え書」からはじまり、V・ヘンダーソンの「看護の基本となるもの」、ドロセア・E・オレムの「オレムのセルフケア不足論」、シスター・カリスタ・ロイの「ロイの看護論」など多くの理論化が様々な看護理論を展開しています。ここでは、シスター・カリスタ・ロイの看護理論を取り上げ説明していきたいと思います。

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1、シスター・カリスタ・ロイとは

シスター・カリスタ・ロイは、アメリカの著明な看護理論家の一人で、1939年にカルフォルニア州のロサンゼルスで生まれ、1963年24歳で看護学士号、1966年27歳で看護学修士号、1973年34歳で社会学修士号、さらに1977年38歳の時に哲学で博士号を取得しています。

ロイは自ら看護師として働いた経験から、人間の回復力と心身の変化に対応する適応力の素晴らしさに気付き「適応力を促進させること」が看護の役割であると考え、理論を確立していきます。

 

2、ロイの看護論

ロイの看護理論は「適応モデル」で、以下の表の2つの仮説(科学的仮説、哲学的仮説)が適応概念の基本となっています。

 

表1

科学的仮説

1.物質やエネルギーのシステムは、複雑な自己組織の高いレベルまで進歩向上する。

2.意識と意味は人と環境の統合によって成立する。

3.自分自身と環境に対する認識は、思考と感情に根づいている。

4.人間はその意思決定によって創造的過程の統合に対して責任を持つ。

5.思考と感情は人間の行動の成立と媒介となる。

6.システムの相互作用には、受容、防護、相互依存の促進が含まれる。

7.人間と地球は共通のパターンを持ち、補完的な関係にある。

8.人間と環境の受容は人間の意識の中でつくられる。

9.人間と環境の意味の統合は適応を生じる。

哲学的仮説

1.人間は世界および神との相互関係を持つ。

2.人間が持っている意味は宇宙の最終地点の収束に根づいている。

3.神は森羅万象の中に身近なものとして存在し、創造物の共通の目的である。

4.人間は気づき、悟り、信仰という人間の創造の力を活用する。

5.人間は宇宙を継承させ、維持させ。変容させる過程に対して責任をもつ。

ロイ看護適応看護理論入門より引用

 

2-1、ロイの看護論の特徴

ロイは人間を生理的様式、自己概念様式、役割機能様式、相互依存様式の4つのシステムのより環境に適応していく生物と定義しています。

 

生理的様式

身体の基本的な作用に基づくもので、酸素、栄養、運動と休息、感覚、体液と電解質、内分泌などの機能が挙げられます。

 

自己概念様式

身体的自己と人格的自己から成り、個人の身体に対する受け止め方や自己の信念、感情の表現などを指します。

 

役割機能様式

個人の社会的立場やそれに基づく役割の遂行などを指しています。

 

相互依存様式

愛や尊敬、価値など他者との関わりを指し、それらを与えたり、受け取ったりする意思や能力などが含まれます。

 

人間はこの4つのシステムにより、内的・外的刺激(インプット)に対して、行動(アウトプット)を起こし適応していくとしています。また、人間の目標として成長、生殖、生存、円熟を挙げており、これに対する反応(行動)として適応的反応と非効果的反応があり、人間の適応的反応を促進させ非効果的反応を抑えることが看護であるとしています。

 

3、ロイの看護過程

看護師は4つのシステムの中で、患者がどの程度効果的に適応しているか、その程度非効果的反応を示しているかを決定するために、看護過程を活用する必要があります。また、看護過程を用い、患者が確実に適応できるよう援助し、適応を促進することが看護の目標と考えられています。ロイの適応モデルによる看護過程は6つの段階(行動のアセスメント、刺激のアセスメント、看護診断、目標設定、介入、評価)で構成されています。

成されています。

 

 

①行動のアセスメント

4つの適応様式に基づき、それぞれの様式ごとにどのような行動が見られるかをアセスメントし患者の抱える問題を抽出していきます。

②刺激のアセスメント

刺激には焦点刺激(その人にとって最も直接的な刺激)と関連刺激(その他のすべての刺激で、焦点刺激により引き起こされる行動に寄与する)、残存刺激(現状では測定不能な信念、態度、経験などに影響を与える要因)があり、3種の刺激についてアセスメントを行います。

③看護診断

最も関連のある刺激と行動との関連を陳述します。

④目標設定

その患者に期待される適応行動として表現します。

⑤介入

刺激の調整や適応レベルを高めるよう援助していきます。

⑥評価

介入の効果について評価・判断します。

 

3-1、ロイの看護モデルを用いた事例

患者:72歳 女性 夫と二人暮らし

診断名:右大腿骨警部骨折

既往歴:特になし

現病歴:屋外で転倒し受傷。観血的整復固定術目的で入院。現在、牽引療法により患肢の安静を保持しています。「痛くて身体を動かすのがつらい」「元通りに歩けるようになるのかしら」「今まで大きな病気なんてしたことなかったのに」「家のことが心配で」との訴えが聞かれています。

バイタルサイン:BP188/80mmHg、P80回/分、R20回/分、KT36.8℃

検査データ:WBC7800/mm3、RBC420×104/mm3、Hb14.0g/dl

S/Oデータ 刺激 看護診断
生理的様式 O:BP188/80mmHg、

P80回/分、

R20回/分、KT36.8℃

 

 

S:痛くて身体を動かすのが辛い

 

骨折による痛みにより、血圧の上昇を引き起こしている。環境変化や手術への不安による血圧の上昇が考えられる

 

痛みと牽引療法により身体活動が制限されている

痛みや精神的ストレスによる血圧の上昇

 

 

 

痛みと治療に伴う活動量の低下

自己概念 S:今まで大きな病気はしたことがなかったのに

 

S:元通りに歩けるようになるのかしら

初めての入院・手術により不安や教師新がある

 

疾患への理解不足による手術や、生活への不安

入院手術による不安と恐怖

 

 

疾患への理解不足による不安

役割機能様式 S:元通りに歩けるようになるのかしら

 

O:夫と二人暮らし、女性

S:家のことが心配で

入院生活による生活への不安と役割の変化がある 入院、生活環境の変化による不安と役割変化
相互依存 O:夫と二人暮らし、女性

S:家のことが心配で

 

疾患や役割変化に伴う信頼関係の喪失への不安 役割変化に伴う信頼関係の喪失

 

以上のアセスメントにより、患者の問題点を抽出し看護の目標を設定していきます。また、その目標に沿った援助提供し、行った援助に対してどのような効果が得られどのような反応が見られたかを評価し、さらに適宜フィードバックしていく必要があります。

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まとめ

看護理論は看護実践のもとになるものです。なぜそうするのか、なぜそれが必要か、その「なぜ」が根拠であり、看護理論となります。ロイの適応モデルの他にも、様々な理論や看護に対する考え方がありますが、患者が直面している問題や起こりうる問題を予測して看護を提供していくということには変わりはありません。

看護理論は難しいと思われることが多いと思います。今はぼんやりとした理解であっても、経験を重ねるうちに、理解が深まっていくものなのかもしれませんね。

 

看護過程の1つ「アセスメント」ゴードン等の書き方と事例

縫合不全の看護|原因、予防、症状と看護計画(OP・TP・EP)、観察項目

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医療は日進月歩していますが、まったく合併症の存在しない手術はありません。消化管をつなぐ消化器外科領域の手術では、術後合併症の1つである縫合不全は頻度が高く、大腸の手術では5%程度の率で起こるとさえ言われています。今回は縫合不全について学び、早期発見と対処につなげるための看護計画を立案していきます。

 

1、縫合不全とは

縫合不全とは、消化管の吻合部の癒合がうまく起こらずに破たんし、消化液が腹腔内に漏れることをいいます。術後1週間頃までに起こりやすいとされています。

 

2、縫合不全の原因

縫合不全というと、患者・患者家族は「執刀医の技術不足によるもの=失敗」と誤解しがちです。しかし、縫合不全は患者側の理由や術式によって可能性の高いものもあります。縫合不全の原因となるものを挙げてみましょう。

 

■縫合不全の原因

➀患者の全身状態によるもの:高齢・低栄養・糖尿病・肝硬変・抗生物質の長期投与

ステロイドの必要な自己免疫性疾患(膠原病など)

➁局所的な問題によるもの :血流不全(虚血)・浮腫・炎症・感染

➂術式によるもの     :消化液の作用等により縫合不全を起こしやすい術式・部位

(1)食道切除・再建術

(2)幽門側胃切除術

(3)胃全摘術

(4)膵頭十二指腸切除術

(5)胆道手術

(6)結腸切除・低位前方切除術

➃手技的なもの      :術者の手技(吻合部の緊張の強さなど)

 

外傷による手足の皮膚の縫合と違い、消化管の縫合は消化液が関与してくる分、縫合不全を起こしやすくなります。また、ヘルニア嵌頓や腸穿孔などの緊急手術の場合には、虚血や炎症・感染(すでに腸内容物が腹腔内へ漏れている・十分な浣腸による準備ができない)など、縫合不全の起こる条件がそろってしまうことも多々あります。

これらの条件が重なって縫合不全は起こるもので、単に術者の技量による問題だけではありません。患者や患者家族へは、緊急時こそ術後合併症への説明を十分に行う必要があります。

 

3、縫合不全の症状・治療

3-1、縫合不全の症状

縫合不全が起こると、消化液が腹腔内に漏れて溜まり、そこへ白血球が集まることで膿瘍(うみ)を形成します。これが熱源となり、腹痛の原因となります。創部からの浸出液が多い場合も、消化液が漏れていることが考えられます。縫合不全のときに起こる症状・感染徴候は下の通りです。

 

■縫合不全の症状

➀腹痛

➁熱発

➂採血データによる炎症反応(WBC↑、CRP↑、AMY↑)

➃創部からの浸出液

➄腹壁の緊張

➅ドレーンからの排液量増加、性状の変化

 

これらの症状が見られたら縫合不全を疑い、画像による確認を行います。(毛髪ほどの小さな縫合不全の場合はCTや透視下では判断できないものもあります。)

 

■画像データによる所見

CT  → free air、膿瘍

透視 → 造影剤の消化管外への漏出

 

3-2、縫合不全への対応

3-1における症状と画像所見が得られた場合、縫合不全に対応しなくてはなりません。縫合不全は、場合によっては腹膜炎から敗血症を起こし、死に至るケースもあります。

創部からの浸出液やドレーン留置中の場合に膿瘍などが見られた場合、すぐに医師へ報告し、必要な検査・処置を行います。まず、食べたものや消化液が腹腔内に漏れている状態なので、絶食にして中心静脈栄養へ切り替え、抗生剤を投与します。

ドレナージ効果の悪い場合は、持続吸引機を接続して積極的に漏れているもの(胃液・膵液・腸液・胆汁・便汁・膿瘍)を体外に排出します。また、持続吸引でもドレナージ効果の悪い場合や、既にドレーンを抜去してしまったあとの縫合不全に関しては、再度開腹して膿瘍など腹腔内に溜まったものを生理食塩水で洗浄し、新たにドレーンを留置することもあります。(生理食塩水を用いたドレーン洗浄は、縫合不全を悪化させるとも言われており、状況に応じて行います。)

 

■縫合不全への対応

➀絶食、中心静脈栄養(TPN)

➁中心静脈カテーテルの留置

➂抗生剤投与

➃ドレーンの持続吸引(場合により生食洗浄)

➄リオペによる洗浄・ドレーン再留置

 

4、縫合不全の予防

縫合不全は、2、縫合不全の原因でお伝えしたように、起こしやすい部位や術式があります。また、緊急時などは特に縫合不全を起こしやすい条件(感染・浮腫・虚血など)がそろっているため、前もって術中に溜まりやすい部位へドレーンを留置してくることがあります。

術前に時間のある予定手術の場合には、患者の栄養状態や糖尿病のコントロールなど、全身状態をよくしておくことも、縫合不全の予防となります。栄養状態の悪い患者には栄養科と連携し、経腸栄養(EN)で蛋白質などを補っておくこともあります。

 

5、縫合不全における看護計画

今回は、術後全症例の看護において縫合不全に対する予防や観察を身に付けるため、まだ縫合不全が起こっていない場合の、早期発見と早期治療に向けた看護計画の立案をしていきます。

 

5-1、看護問題

外科手術に関連した、縫合不全の恐れがある

 

5-2、看護目標

・術後縫合不全が起きない

・縫合不全による感染徴候がみられない

 

5-3、看護計画

■OP(観察項目)

①(留置中の場合)ドレーンからの排液量(通常100ml/日以下)

②(留置中の場合)ドレーンからの排液の性状が、通常の色の変化を経ているか

淡血性(薄い赤)→淡々血性(オレンジ)→淡黄色(黄色)→淡々黄色(薄い黄色)

腹腔ドレーンのアセスメントのポイント【排液の量・色】参照)

③ドレーンの屈曲や閉塞の有無

④ドレーン周囲の皮膚の状態(発赤・腫脹・びらん)

⑤ガーゼ汚染(創部汚染)の量・性状・臭い

⑥疼痛の程度とその部位

⑦バイタルサイン(特に熱型)

⑧血液データ(WBC、CRP、AMYなど)による感染徴候の有無

⑨画像データ

⑩食事摂取量

⑪1日の水分出納(IN/OUT)

 

■TP(ケア項目)

①(ドレーン留置中の場合)抜けないようにしっかりテープ固定し、適宜張り替える

②創部・ドレーン挿入部の皮膚の保清(必要時は皮膚保護剤の使用)、ガーゼ交換

③術後指示があるまで絶飲食とする

④ドレーンからの排液量や性状や、バイタルサインに変調がある場合、医師へ報告する

⑤医師の指示により、適切な薬剤・輸液投与を行う

⑥創部の緊張をとり、ドレナージ効果を高めるため、できるだけファウラー位をとる

⑦患者の状態と医師の指示により、少しずつ食事形態を上げていく

⑧ドレーン挿入中は行動制限が伴うため、必要に応じトイレや保清の介助を行う

⑨検査等の移動時には必ず付き添い、ドレーンや点滴ラインの抜去を防ぐ

 

■EP(教育項目)

①術後合併症の1つとして、縫合不全があることを説明する

②もし縫合不全を起こした場合にどのような症状が現れ、どのような処置や対処(絶食になるなど)をするか、事前に説明しておく

③痛みが強い場合、ガーゼ汚染がひどい場合には縫合不全の可能性があるため、すぐ訴えるよう指導する

④ドレーンの必要性を説明し、体動により抜けないように指導する

 

まとめ

術後合併症は、あらかじめ予測できるものも存在します。その中でも縫合不全は、緊急手術や術式、基礎疾患として糖尿病やステロイドの長期投与の必要な自己免疫性疾患などがあると、ある程度予期される合併症となります。

術前より患者・患者家族へ縫合不全の起こる可能性を十分に説明し、縫合不全が起こったときにはどのような症状が出るのか、またどのような処置や対応をするのか、看護師も事前にイメージしておくと、症状の現れたときにも冷静に・速やかに行動することができます。

 

参考文献

腹腔ドレーンのアセスメントのポイント【排液の量・色】|齋藤 恭子|2015/12/23

中心静脈栄養(TPN) / 経腸栄養(EN)|株式会社大塚製薬工場

切迫早産の看護計画|原因・症状・予防の観察項目と看護目標

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切迫早産は、早産しかかっている状態のことです。早産になると、胎児に重篤な後遺症が残るリスクがありますので、切迫早産になったら、妊娠を継続させるための治療を行います。

切迫早産の基礎知識や原因や症状、治療、看護目標、看護計画・ケアをまとめました。産科で働く看護師さんは、ぜひ参考にしてください。

1、切迫早産とは

切迫早産とは早産になりかかっている状態のことです。

出典:早産・切迫早産:病気を知ろう|日本産科婦人科学会

 

日本の場合、早産とは妊娠22週0日から36週6日までに出産することを言います。正期産は妊娠37週0日から41週6日までの出産のことで、22週未満の場合は流産になりますので、早産とは区別されます。そのなかでも切迫早産は、子宮の収縮や子宮頸管の開大と展退が進行が起こり、早産になる可能性がある状態です。

日本の医療では妊娠22週以降での出産であれば、新生児の生存は可能ではあるものの、重篤な障害が残る可能性がありますので、切迫早産になった場合は、正期産に入るまで出産しないように治療をしていく必要があります。厚生省心身障害研究班周産期管理班24施設の調査では、35週までの早産率は4.1%1となっています。早産率が4.1%ということは、早産になりかける切迫早産率はもっと高いことが推測できます。

2、切迫早産の原因

切迫早産の原因はいろいろあり、切迫早産の原因のすべてが解明されているわけではありません。また、切迫早産が重症化する場合は、今から説明する原因の1つだけではなく、様々な原因が複雑に絡み合って起こると考えられています。切迫早産の主な原因には、次のようなものがあります。

 

・絨毛膜羊膜炎

・子宮頸管無力症

・合併症(妊娠高血圧症候群、糖尿病など)

・薬物

・ストレス

・高齢

・尿路感染症

・歯周病

・子宮筋腫

・羊水過多、過少

・多胎妊娠

・前置胎盤

特に、絨毛膜羊膜炎と子宮頸管無力症は、切迫早産の代表的な原因です。

 

■絨毛膜羊膜炎

膣内の細菌が増加して、炎症が子宮頸部や子宮内膜にまで達すると、子宮の収縮を促すプロスタグランジンが産出されるようになるため、子宮が収縮しておなかが張るようになり、子宮口が熟化して開大しやすくなります。細菌性膣炎から頸管炎、絨毛膜羊膜炎と上行感染することがほとんどで、原因となる細菌は、B群溶連菌や腸炎球菌、大腸菌、バクテロイデス、マイコプラズマ、クラミジアなどがあります。

 

■子宮頸管無力症

子宮頸管無力症は体質が原因で、陣痛が起こらないまま子宮口が開いてしまいます。

通常は陣痛が起こることで子宮口が開くのですが、子宮頸管無力症は陣痛が来る前に、内子宮口が開き始めて子宮頸管が短くなり、さらに外子宮口が開いて、胎児が入っている胎胞が出てきてしまいます。

3、切迫早産の症状

切迫早産の症状は、次の3つがあります。

 

・おなかが張る

・不正出血がある

・破水している

 

切迫早産は、早産しかかっている状態です。そのため、子宮が収縮することで、おなかが張るようになります。また、絨毛膜羊膜炎などの炎症が原因で出血を起こしたり、子宮が収縮することで、卵膜がずれて出血を起こすこともあります。

絨毛膜羊膜炎になると、卵膜がもろくなるため、卵膜が破れて破水することがあります。破水すると、24時間以内に陣痛が起こるのが一般的です。また、破水が起こると、子宮内感染が起こり、感染が胎児にも及ぶことがあるため、妊娠34週未満で破水が起こった場合は、入院管理をして、妊娠を継続させつつ、感染しないように治療をしなければいけません。

4、切迫早産の治療

切迫早産は、軽症の場合は自宅で安静を保ちながら、外来通院で経過観察をするのですが、破水があったり、感染兆候が見られるなど重篤な場合は、入院加療が必要になります。

切迫早産の治療法は、次の6つが基本になります。

 

■安静

切迫早産の治療は安静です。入院中はベッド上安静が基本になります。

 

■感染予防

抗生剤の投与や膣内洗浄などを行います。

 

■子宮収縮の抑制

塩酸リトドリンや硫酸マグネシウム、プロスタグランジン合成阻害薬などを投与します。

 

■頸管縫縮術

子宮頸管無力症の患者に対して行われる手術で、子宮頸管を縛ることで、子宮口が開大しないようにする治療法です。

 

■ステロイド投与

ステロイドを母体に投与することで、胎児の肺成熟を促し、早産になっても呼吸窮迫症候群を予防することができるため、早産が高確率で予想される場合は、ステロイドを投与します。

 

■胎児モニター

子宮収縮や子宮内感染は胎児ストレスになるため、厳重な胎児モニターが必要になります。

 

基本的には、これらの6つの治療法で正期産に入るまで出産しないように治療していきますが、母体や胎児の状態によっては、安全のために早産の進行をあえて止めずに、陣痛促進剤を投与するなど分娩誘導を行うことがあります。

5、切迫早産の看護目標

切迫早産で入院になった患者の看護目標を説明していきます。

 

■妊娠の継続ができる

切迫早産の患者の最大の看護問題は、早産のリスクが高いことです。早産になると、胎児に重篤な後遺症が残ることがありますので、看護師は妊娠が継続できるように援助していく必要があります。

 

■心身のストレスを軽減でき、苦痛なく入院生活を送れる

切迫早産の治療の基本は安静です。そのため、患者はベッド上安静を強いられます。排泄もベッド上で行わなくてはいけないこともあります。また、入浴もできません。切迫早産に伴う行動制限で、患者はストレスを抱えていることが多いのです。

看護師は患者のストレスを考慮して、そのストレスを軽減できるようにケアしていく必要があります。

 

■子宮収縮抑制剤の副作用を軽減できる

子宮収縮抑制剤の塩酸リトドリン(ウテメリン)は、動悸や頻脈、手指のふるえ、頭痛などの副作用が現れることがあります。患者によってはこの副作用が強く出て、苦痛に感じることがありますので、看護師は副作用を軽減できるように援助していく必要があります。

 

■切迫早産に対する不安を軽減できる

切迫早産になると、患者は「赤ちゃんは死んでしまうかも」とか「私は母親失格だ」のような不安を抱えてますので、看護師は精神的なケアをして、患者の不安軽減に努めていきましょう。

6、切迫早産の看護計画・ケア

先ほど説明した切迫早産の4つの看護目標に沿って、看護計画を立てていきましょう。

 

■妊娠の継続ができる

看護目標 妊娠の継続ができる
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・腹部緊満の有無、程度

・下腹部痛の有無、程度

・性器出血の有無、量、性状

・胎児心音
・胎児心拍陣痛図(CTG=Cardiotocogram)の異常の有無

・破水の有無

・感染兆候の有無

・排便、排尿回数
・子宮収縮剤の効果や副作用の状態

TP(ケア項目) ・分娩監視装置の装着
・医師の指示に基づいた薬剤の投与
・性器出血や腹部緊満増強時、破水時は医師に報告する

・安静度を守れるように援助する

・安楽な体位の補助

・排便コントロール

EP(教育計画) ・腹部緊満や下腹部痛、破水、性器出血等切迫症状について説明する

・異常時はすぐに伝えてもらうように説明する

 

■心身のストレスを軽減でき、苦痛なく入院生活を送れる

看護目標 心身のストレスを軽減でき、苦痛なく入院生活を送れる
OP(観察項目) ・食事摂取量
・睡眠状況
・言動や表情

・排泄状況、便秘の有無

・保清状況

・安静度

TP(ケア項目) ・ベッド上排泄の場合は、プライバシーを配慮する
・全身清拭や陰部洗浄、ベッド上での洗髪などで保清を援助する

・気分転換できるように室内環境を整える

EP(教育項目) ・安静の必要性を説明する

 

■子宮収縮抑制剤の副作用を軽減できる

看護目標 子宮収縮抑制剤の副作用を軽減できる
OP(観察項目) ・動悸や頻脈の有無

・手指の震えの有無

・頭痛の有無

・呼吸状態

・胎児心音

・血液検査データ

TP(ケア項目) ・安楽な体位の工夫

・副作用が強い時は医師に報告する

EP(教育項目) ・子宮収縮抑制剤の副作用について説明する

・副作用が強くなったら、報告してもらう

 

■切迫早産に対する不安を軽減できる

看護目標 切迫早産に対する不安を軽減できる
OP(観察項目) ・食事摂取量

・睡眠状況

・言動や表情

・胎児の状態

TP(ケア項目) ・患者の訴えを傾聴する

・不安を表出できるような関係を構築する

・医師による説明を適宜行う

・支持的な態度で接する

・家族への協力を求める

・医療者側で見解を統一しておく

EP(教育項目) ・処置や治療の説明をする

 

まとめ

切迫早産の基礎知識や原因、症状、治療、看護目標、看護計画・ケアをまとめました。

切迫早産は患者の不安が非常に大きいだけでなく、安静による行動制限でのストレスもありますので、看護師は「妊娠を継続できる」ための援助だけではなく、精神的なケアもしっかり行うようにしましょう。

 

参考文献

進行性核上性麻痺の看護計画|症状と予後、看護過程、看護問題

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進行性核上性麻痺とは、パーキンソン病関連疾患の1つで、転びやすくなる、眼球の運動障害、認知症、嚥下障害などの症状が現れる神経疾患です。進行性核上性麻痺の基礎知識や症状、予後、看護過程、看護問題、看護計画をまとめましたので、進行性核上性麻痺の患者の看護をする時の参考にして下さい。

1、進行性核上性麻痺とは

進行性核上性麻痺とは、パーキンソン病関連疾患の1つで、脳の特定部位の神経細胞が変性・減少することで、神経症状が見られるようになります。

進行性核上性麻痺は脳の黒質や中脳、視床下核、淡蒼球、小脳歯状核などで、タウというタンパク質が変性し、脳内に蓄積していくことで、その部分の神経細胞が減少・脱落して、神経症状が現れるようになります。進行性核上性麻痺の発症率は、10万人当たり5~20人とされていて、ほとんどの患者は50歳以上で発病します。1

2、進行性核上性麻痺の症状

進行性核上性麻痺の症状は、転倒しやすさと眼球の運動障害、認知症、パーキンソニズム、嚥下障害・構音障害などが現れます。

 

■転倒しやすい

進行性核上性麻痺の特徴的な症状の1つに、転倒しやすいことがあります。進行性核上性麻痺は発症後初期段階から転倒を繰り返します。特に、パーキンソニズムや認知症などの症状があるために、とっさに手が出なかったり、注意力が散漫になるため、進行性核上性麻痺の患者は転倒を繰り返し、転倒によってけがをしやすくなります。

 

■眼球の運動障害

進行性核上性麻痺は眼球の運動障害の症状も現れます。初期は眼球の上下運動が障害され、病気が進行すると、水平方向の眼球運動も障害されるようになります。さらに進行すると、眼球は正中位で動かなくなります。この眼球運動の障害も転びやすくなる原因の1つになります。

 

■認知症

進行性核上性麻痺を発症して1~2年が経過すると、認知症のような症状が現れます。ただ、進行性核上性麻痺の認知症は、アルツハイマー病のような症状とは少し異なり、記憶障害や失見当識の症状は軽度です。

進行性核上性麻痺は前頭葉が障害されるために、全く動かない・話さないという時があったり(動作の開始障害)、同じことを繰り返す時があったり(終了の障害)します。また、把握反射や視覚性探索反応、模倣行動なども進行性核上性麻痺の認知症の特徴的な症状になります。

 

■パーキンソニズム

進行性核上性麻痺は、パーキンソン病関連疾患の1つですので、パーキンソン病と似たような症状が出ます。ただ、すべてが同じような症状というわけではありません。進行性核上性麻痺の初期では、動きは緩慢ではあるものの、関節が動かしにくいということはありません。また、パーキンソン病では四肢に筋強剛が見られますが、進行性核上性麻痺では四肢よりも頚部や体幹に筋強剛が強く出るのが特徴です。

そのため、進行すると、頚部が後屈し、体幹が後ろにのけぞるような不安定な姿勢になっていき、最終的には寝たきりになります。

進行性核上性麻痺は、パーキンソン病と同じようなすくみ足や小刻み歩行は見られますが、振戦はほとんど見られません。また、進行性核上性麻痺では、一見動かないように見える患者が突然立ち上がることがよく見られますので、注意が必要です。

 

■嚥下障害・構音障害

進行性核上性麻痺は、病気が進行するにつれて、構音障害や嚥下障害がみられるようになり、嚥下障害が進行すると、経管栄養での栄養管理が必要になります。

3、進行性核上性麻痺の予後

進行性核上性麻痺の根本的な治療は、まだ確立されていません。そのため、進行性核上性麻痺を発症すると、完治することはなく、徐々に進行し、最終的には死に至ります。

出典:PSP 進行性核上性麻痺 ケアマニュアル 第4版

 

進行性核上性麻痺は発症後2~3年で車イスが必要になり、4~5年で臥床状態になります。発症から全経過は平均で5~6年となっていますが、羅病期間が10年以上ある患者も少なくありません。死因は肺炎や痰詰まりによる窒息が多くなっています。

4、進行性核上性麻痺の看護過程

進行性核上性麻痺の患者は、訪問看護を利用しながら、自宅で療養生活を送るケースも多いので、病棟で入院している時の看護だけではなく、退院後自宅で療養することを念頭に置いて、看護をしていく必要があります。

 

4-1、進行性核上性麻痺の看護問題

進行性核上性麻痺は病気の進行状態によって、看護問題が異なりますが、ここでは進行性核上性麻痺の代表的な4つの看護問題を説明していきます。

 

■転倒リスク状態

進行性核上性麻痺の最大の看護問題は、転倒のリスクがあることです。入院中の進行性核上性麻痺の患者の15%が転倒し、しかも月平均2.1回の転倒が見られ、転倒者の1/4以上で外傷が見られたというデータがあります。2

看護師は患者の安全を守るため、患者が転倒しないように看護介入していく必要があります。

 

■誤嚥のリスクがある

進行性核上性麻痺は嚥下障害が出てくるため、誤嚥のリスクがあります。早期から嚥下障害がある患者は予後不良である傾向がありますし、死因は誤嚥による肺炎であることが多いため、看護師は誤嚥が起こらないようにケアしていかなければいけません。

 

■褥瘡ができるリスクがある

進行性核上性麻痺は発症から5年前後で臥床状態となるため、褥瘡が発生するリスクが高くなります。褥瘡が発生すると、そこから感染が起こることもありますので、褥瘡が発生しないように看護介入をしていきましょう。

 

■便秘になりやすい

進行性核上性麻痺を発症すると、車イス→臥床という経過をたどり、体を動かさなくなります。また、嚥下障害のために食事量が少なくなるなどの要因がありますので、便秘になりやすいのです。

 

4-2、進行性核上性麻痺の看護計画

進行性核上性麻痺の看護計画を、先ほどの看護問題に沿って立案していきます。

 

■転倒リスク状態

看護目標 転倒しない
OP(観察項目) ・歩行状態

・歩行時の姿勢

・行動の観察
・ベッドの高さや床頭台の位置

・病衣や履物

TP(ケア項目) ・見守り歩行

・ベッド周囲の環境整備を行う
・トイレ誘導を行う

・排泄時や入浴時は目を離さない

・必要時は体幹ベルトや安全ベルトを使用する

・ナースコールを手元においておく

・離床センサーを用いる

EP(教育項目) ・離床の時にはナースコールを押して呼ぶように何度も伝える

・家族に転倒のリスクを説明する

・自宅でもできる転倒予防法を指導する

 

■誤嚥のリスクがある

看護目標 誤嚥を起こさない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・意識レベル

・嚥下障害の程度

・呼吸状態

・四肢冷感やチアノーゼの有無

・経口摂取量

・口腔残渣の量

・血液検査のデータ(WBCやCRP)

・胸部レントゲン

TP(ケア項目) ・食事前には姿勢を整える

・食事以外の時間も誤嚥しにくい体位(側臥位やファーラ―位)を保つ

・食形態を調整する

・とろみをつける

・患者のペースで食事介助をする

・口腔ケアをする

・アイスマッサージや嚥下体操を行う

EP(教育項目) ・ゆっくり食べ、しっかり飲み込むように指導する

・家族にアイスマッサージや嚥下体操の方法を指導する

・家族に体位の整え方を指導する

嚥下障害の看護に関しては、「嚥下障害のある患者の看護|看護目標と看護計画(OP・TP・EP)」を参考にしてください。

 

■褥瘡ができるリスクがある

看護目標 褥瘡が発生しない
OP(観察項目) ・全身の皮膚の状態
・ADLの自立度
・自力での体位交換の可否
・排泄の状態
・関節拘縮の有無
・疼痛や掻痒感の有無
・栄養状態
・血液検査データ
TP(ケア項目) ・適宜体位交換を行う
・エアマットを使用する
・骨突出部の除圧を行う
・皮膚の清潔を保つ
・排泄ケアを行う
・衣類やシーツのしわを伸ばす
EP(教育項目) ・家族に除圧の方法を指導する

・体位交換の必要性を伝える

・褥瘡のリスクを説明する

 

■便秘になりやすい

看護目標 2~4日に1回は有形便が出る、腹部緊満感がない
OP(観察項目) ・食事摂取量

・水分摂取量

・腸蠕動音

・腹部緊満感

・排便のサイクル

・便の性状や量

TP(ケア項目) ・トイレ誘導を行う

・転倒に留意しながら、可能な範囲で体を動かす

・下腹部をマッサージする

・温罨法を行う

・摘便をする

・医師の指示の下剤や浣腸を行う

・発酵食品や食物繊維を多めにした食事を用意する

EP(教育項目) ・水分摂取量を多めにするよう伝える

・便意は我慢しないように説明する

 

まとめ

進行性核上性麻痺の基礎知識や症状、予後、看護過程、看護問題、看護計画をまとめました。進行性核上性麻痺は、発症初期段階からの転倒が多く、しかも転倒による外傷も多いので、看護師は転倒に注意して看護を行っていく必要があります。

また、進行性核上性麻痺という疾患は家族にも負担が大きい疾患ですので、公的な社会資源を紹介したり、MSWに介入してもらうなど、家族看護も行っていくようにようにしてください。

参考文献

1)PSP 進行性核上性麻痺 ケアマニュアル 第4版|「神経変性疾患領域における基盤的調査研究」班|2017/04
2)進行性核上性麻痺患者の転倒・転落―他施設共同研究―|村井敦子、饗場郁子、齋藤由扶子、沼崎ゆき江、外尾英樹、松下剛、松岡幸彦、湯浅龍彦|医療58巻4号|2004/04

前立腺癌の看護計画|前立腺癌の原因・症状・治療と手術後の看護問題

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前立腺癌看護

前立腺は男性だけにあり、精液の一部をつくっている臓器です。前立腺は、恥骨の裏側に位置しており、栗の実のような形をしています。前立腺癌は、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することにより発生します。最近、遺伝子の異常が原因といわれていますが、正常細胞がなぜがん化するのか、まだ十分に解明されていないのが現状です。ここでは、前立腺癌について述べていきます。

 

1、前立腺癌とは

前立腺癌は、前立腺に生じる悪性腫瘍で、50歳以上の男性に好発します。元来欧米人に多い疾患でしたが、近年は欧米化した食事の影響を受け、我が国でも増加傾向にあります。前立腺癌には手術療法・ホルモン(内分泌)療法・放射線療法による治療が行われますが、今回は外科的治療における術後の看護計画を立案します。

 

2、前立腺癌の原因

前立腺癌の原因・リスクファクターとして主に4つの要因があると言われていますが、中でも一番の危険因子は食事、特に脂肪分の多い食事です。アメリカでは既に肺癌を抜いて前立腺癌が、男性における癌の第一位となっています。同じ日本人であっても、欧米に住む日本人は国内在住の日本人に比べて前立腺癌の発症が3倍以上になるというデータもあり、いかに食生活が影響を及ぼしているかがわかります。

また、加齢も前立腺癌においては重要な原因となります。前立腺癌は50歳以上になると好発しますが、90歳の男性の遺体を解剖すると、約半数に前立腺癌が発見されると言われています。他にも、遺伝や人種といった要因も存在します。

 

■前立腺癌の危険因子

➀食生活:動物性脂肪・タンパク質・砂糖の摂取が癌発生に関与すると指摘されている

➁加齢 :50歳以上の男性は、加齢と共に発生率が高くなる

③遺伝 :親・兄弟・子に前立腺癌患者がいた場合の癌発生率は2倍に増加する

➃人種 :黒人>白人>黄色人種であり、日本人を始めとする黄色人種は最も少ない

 

3、前立腺癌の症状

前立腺癌は、前立腺内に腫瘍が留まる間には、自覚症状はありません。周囲への浸潤が進むと尿閉や血尿などを呈するようになりますが、症状が前立腺肥大と類似しており、程度が軽いと加齢による前立腺肥大と放置されてしまいがちです。そして、骨転移やリンパ性に全身に転移して初めて、原発である前立腺癌が発見されるケースも多くあります。

 

■前立腺癌の進行度と症状

前立腺内に限局 尿道・膀胱へ浸潤 尿管へ浸潤 転移
無症状

検診でPSA↑指摘

排尿困難

尿閉

残尿感

排尿痛

夜間頻尿

血尿

水腎症

背部の殴打痛

腎後性腎不全

骨転移によるもの

疼痛(腰痛)

骨折

全身転移によるもの

貧血

DIC

 

4、前立腺癌の治療

4-1、前立腺癌の検査・診断

前立腺癌の治療をするためには、その前に前立腺癌であるという確定診断をつけることが必要です。まず最初に行うのが前立腺特異抗原であるPSAという採血です。PSAは前立腺液に含まれる糖蛋白質です。産生されたPSAは本来血液中に移行せず、腺腔へと分泌されます。しかし、癌や炎症を起こすと、前立腺組織が破綻して血液中に漏れ出すため、血液中のPSA値が高くなります。正常値はPSA>4ng/mlを基準としています。これにより、検診で初期の前立腺癌を発見することも可能になりました。

PSAは手軽に採血で済む検査ではありますが、これだけで前立腺癌の確定診断にはなりません。前立腺の組織を採取(生検)し、顕微鏡下で癌細胞を確認し、初めて前立腺癌であると確定診断されます。生検は肛門から超音波プローブと生検装置を挿入し、10か所以上から採取してくるのが一般的です。

確定診断を付けてから治療方針を決定していきますが、それには転移の有無・浸潤の深さや範囲などを判断するために画像検査を行う必要があります。生検による確定診断がつく前から行うことも、臨床では一般的です。

 

■前立腺癌の検査

➀採血:PSA

➁触診:直腸診で前立腺に触れて、その硬さで判断する(前立腺癌なら硬くなる)

➂経腹的超音波検査:腹部からプローブをあてる(通常の腹エコー)

➃経直腸的超音波検査(TRUS):肛門から行い、前立腺および性能の形態変化をみる

➃前立腺生検:肛門からエコーを入れ、穿刺して組織を採取する

➄MRI、CT:前立腺癌の浸潤範囲を判定する

➅骨シンチ:前立腺癌による骨転移の有無・範囲をみる

これらの検査結果をふまえて、今後の治療方針を検討します。

 

4-2、治療方法

これまで行ってきた検査の結果からTNM分類によって病期を分類し、治療方針を決定します。前立腺癌には大きく分けると3つの治療法と待機療法(積極的治療をしない)という選択肢があります。癌と診断をつけておいて治療しないというのは、治療ができないという意味ではありません。また、2.前立腺癌 原因でお伝えしたように、前立腺癌は前立腺癌以外の死亡事例における解剖で、年齢を経れば経るほど発見されています。つまり、前立腺癌の中には治療をせずにいても命に関わらない、もしくは他の要因で死亡するまで悪さをしないものもある、と言うことができます。

そのため、前立腺癌の治療はただTNM分類だけではなく、患者の年齢やADL・QOL、そして社会背景などを総合して方針を決定する必要があります。

 

■前立腺癌の治療

➀手術療法   :癌が前立腺内に限局している場合に適応される

下腹部を切開して前立腺を摘除し、膀胱と尿道をつなぎ合わせるのが一般的

近年は腹腔鏡やロボット手術も導入されている

➁ホルモン療法 :前立腺癌の基本となる治療

前立腺癌は男性ホルモンによって成長するため、この作用を抑えることで前立腺癌を小さくする

転移がある場合・手術の補助療法・手術が困難な例に適応される

➂放射線療法  :根治的目的・転移再発した場合・疼痛コントロールに行う

➃待機療法   :積極的な治療(➀~➂)を行わず、対症療法のみで経過を追う

年齢や前立腺癌の進行具合など、総合的に考慮して選択する

 

5、前立腺癌の術後看護問題

■術後合併症による後出血の恐れ

■手術による神経機能障害に関連した排尿障害の恐れ

■膀胱留置カテーテルの血尿や尿路感染による閉塞の恐れ

 

上に挙げた前立腺癌の治療には、それぞれに合併症が存在し、必要とされる看護もそれぞれ異なります。今回は術後の観察力つけるため、#1について目標・看護計画立案をしていきます。

 

6、前立腺癌の術後看護目標・看護計画

看護問題:術後合併症出現の恐れがある

看護目標:後出血を早期に発見する

凝結による留置カテーテルの閉塞を予防する

看護計画:

■O-P

1.バイタルサイン

2.水分摂取量(IN)、尿量(OUT)

3.尿の性状(血尿の有無、凝血塊の有無)

4.疼痛の有無、程度

5.腹部の張り・膨満感

6.血液データ

7.止血薬の使用有無

8.その他自覚症状(頭痛・吐気・嘔吐・眩暈)

9.排便回数・性状(努責を必要とするか)

 

■T-P

1.膀胱留置カテーテル内に新しい出血を確認した場合、速やかに医師へ報告する

2.出血を確認したら、安静にする

3.医師の指示により、カテーテルの牽引固定を行う

4.牽引中は、クッション等の使用により、同一体位による苦痛・皮膚トラブルを防止する

5.持続還流を行う場合、還流速度を適宜調整し、排液を破棄する

6.食事以外での水分摂取を促す

7.確実な止血薬の投与・確認をする

8.安静度に応じて保清や排泄の介助を行う

 

■E-P

1.術後合併症の可能性について、症状の出る前(術前)から説明する

2.留置カテーテルから出血が見られたら、看護師に伝えるように指導する

3.排便時に過度な努責をしないように指導する

4.水分摂取の必要性を説明し、食事の合間にも水分を摂取するよう指導する

 

まとめ

前立腺癌は高齢者に多く発生する癌であり、平均寿命の延びた現代では、今後は高齢者にも積極的な治療を行うケースが増加してくるでしょう。患者の理解度に応じ、術前からどのような手術を行い、どのような合併症が起こりうるのか説明しておく必要があります。

また、前立腺癌の手術では、膀胱留置カテーテルの抜去後に高頻度で尿失禁がみられます。一時的な症状で治まることが多いとはいえ、失禁による患者の精神的苦痛も配慮し、術前からのオリエンテーションを充実させることも、術後の看護につながるといえるでしょう。

 

参考文献

前立腺がん|独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター

前立腺がん(前立腺癌)|順天堂大学医学部附属順天堂医院泌尿器科

MEDIC MEDIA 病気がみえる vol.8 腎・泌尿器|2014/09/12

くも膜下出血の看護計画|原因・症状・治療などの看護課程と看護問題

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くも膜下出血は毎年人口10万人に16人の割合で発症しており、原因の多くを占める破裂脳動脈瘤に対する手術件数は一般的な脳外科での1年間の手術件数の約10%を占めています。また、くも膜下出血により死亡したり、なんらかの後遺症が残り生活が不自由になる患者も多いため、くも膜下出血は非常に緊急性の高い疾患だといえます。

1、くも膜下出血とは

脳および脊髄は、外側から順に硬膜、くも膜、軟膜の3層の髄膜で覆われています。オブラート様をしたくも膜と軟膜の間にはくも膜下腔とよばれるスペースがあり、この中には脳脊髄液が灌流しています。

出典:くも膜下出血とは【1】(TERUMO 予防に、大切なこと、わかりやすく。くも膜下出血を防ぐための情報サイト)

 

しかし、なんらかの原因でくも膜下腔または隣接して走る血管が破裂すると、脳脊髄液に血液が混じり、くも膜下腔全体に広がっていきます。この状態をくも膜下出血といいます。くも膜下出血が起きると、くも膜下腔に広がった血液のために髄液の吸収部が閉塞し脳室内に髄液が貯留していき、脳室が拡大し水頭症を合併します。その結果脳実質が圧迫され頭蓋内圧亢進症状が出現し、さらには脳ヘルニアという重篤な状態に陥り急死することもあります。

その他の脳出血の症状についての病態と看護計画については、「脳出血の急性期、慢性期におけるポイントと看護計画」をご覧ください。

2、くも膜下出血の原因

くも膜下出血の原因疾患には、脳動脈瘤破裂、脳動静脈奇形の破綻、高血圧性脳内出血、脳腫瘍からの出血、もやもや病、白血病などの血液疾患などがあります。そしてこのうち脳動脈瘤破綻によるものは約70~80%、脳動静脈奇形によるものが約10%で、この両者がくも膜下出血の大部分を占めており、働き盛りの40~60歳代で特に起こりやすいです。また各疾患の詳細は以下の表を参照してください。

 

原因 脳動脈瘤の破裂 脳動静脈奇形 もやもや病 その他
割合 80%以上 約5~10% 数% 数%
好発年齢 40~60歳代

(女性に好発)

20~40歳代

(男性に好発)

10歳以下と30代 特になし
くも膜下出血の機序 動脈瘤が破裂する 異常血管が破裂する 側副路の血管が破裂する 外傷、出血性素因 等

出典:看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア(岡庭豊|J-36 2015/03/19)

3、くも膜下出血の臨床症状と検査

■頭痛

突然、今までに経験したことがないような、ハンマーで殴られたかのような激しい頭痛で発症し、悪心・嘔吐、意識障害を伴います。一般的に麻痺、失語症を伴うことは少ないです。

 

■眼瞼下垂

末破裂脳動脈瘤、特に内頚動脈―後交通動脈分岐部動脈瘤の場合、動脈瘤が動眼神経を圧迫し、動眼神経麻痺つまり眼瞼下垂が起こることがあります。

 

■血性髄液

くも膜下出血の診断を付けるための直接的な方法は、髄液が血性であることを証明することです。腰椎穿刺を行い髄液を採取し調べます。

 

■硝子体出血

眼底検査を実施すると、硝子体に出血が認められることがありますが、高血圧の患者でも出血することがあるので区別する必要があります。くも膜下出血の硝子体出血はターソン症候群と呼ばれ、出血が吸収されない場合視力障害が残ります。

 

■頭部CTに出血像(高吸収域)が見られる

頭部CTの正常所見では、くも膜下腔は髄液があるため低吸収域となりますが、くも膜下出血を起こすと血液が流入し高吸収域を認めるようになります。

出典:くも膜下出血(東海大学医学部脳神経外科)

 

■髄膜刺激症状

検査 項部硬直 ケルニッヒ徴候 ブルジンスキー徴候
方法 ・仰臥位の状態で頭部を前屈させる ・仰臥位の状態で足を持ち上げる ・仰臥位の状態で頭部を前屈させる
異常時の所見 ・頭部を前屈させると抵抗と疼痛がある ・抵抗により膝を135度以上進展できない ・股関節・膝関節が自動的に屈曲する

出典:看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア(岡庭豊|J-37 2015/03/19)

 

■脳血管造影

明らかにくも膜下出血であると証明された場合には、出血源を調べるため脳血管造影を行います。4本の血管(左右の内頚動脈、椎骨動脈)すべてを造影しても出血源がはっきりしなければ、発作直後の血管攣縮のために病巣が隠れているのか、もしくは脊髄の出血性病変を疑います。

4、くも膜下出血の看護アセスメント項目

■意識レベル

短時間の意識消失から持続的昏睡まで様々。

 

■視覚障害

・複視

・視野欠損

・視力低下

 

■髄膜刺激症状

・項部硬直

・ケルニッヒ徴候

・ブルジンスキー徴候

・てんかん

・易刺激性

・不穏

 

■自律神経

・心拍数増加

・血圧変動

・呼吸リズム変動

・悪寒

・発汗

 

■脳神経障害

・眼瞼下垂

・上方または下方への眼球運動障害

・乳頭浮腫

 

■運動機能

・失語

・不全麻痺の開始と悪化

・嚥下困難

・片側あるいは両側下肢の不全麻痺

 

■頭蓋内圧亢進

・意識レベル低下

・バイタルサインの変化

・クッシング症候群

・不穏

・瞳孔変化

・乳頭浮腫

・悪心嘔吐

・てんかん

・局所神経症状の出現

・呼吸パターンの変調

 

■てんかん発作

・悲鳴、呼び声

・転倒転落

・意識消失

・頻呼吸

・閃光、めまい、脱力、恐怖、喪失感、味覚・嗅覚・聴覚の異常

・筋肉痛

・誤嚥

・尿、便失禁

・強直

・四肢の反復性けいれん

・口から泡をふく

・倦怠感

 

■血管攣縮

・失語

・片麻痺出現

・局所性神経障害

 

■心電図の異常

・Q波の出現

・ST上昇

・ST-T変化

 

■疼痛

突発的で激しい頭痛(たいていは前頭部か側頭部に限局して始まり、全体に広がっていく)

5、くも膜下出血の治療

出血した原因・部位により治療困難な場合がありますが、血圧のコントロールが重要であることは言うまでもありません。

 

■脳動脈破裂が原因の場合

脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対しては動脈瘤のクリッピング術を第一選択に行います。(最近では血管内手術により動脈内のコイル塞栓術を用いた治療も行われています。)未破裂の動脈瘤が発見された場合は、患者の状態と動脈瘤のサイズ、部位などの条件を勘案して治療の適応かどうかを判断します。

 

■脳動静脈奇形が原因の場合

異常血管塊(ナイダス)の摘出術、定位的放射線治療(ガンマ・ナイフ)を行います。

6、くも膜下出血の看護計画

■看護問題:脳組織循環の変調

 

■看護目標:脳組織への循環が良好である

 

■観察項目

・髄膜刺激症状の有無

・頭蓋内圧モニター

・24時間水分出納

・バイタルサイン

・室内の温度、照明

・頭蓋内圧亢進症状の有無

・頭部CT所見

・頭痛の程度

・意識レベル

・痙攣の有無

・視力障害の出現の有無

 

■ケア項目

・再出血を予防するため、指示に従い血圧をコントロールする

・排便時血圧上昇防ぐため、緩下剤使用する

・病室を暗くし刺激を避ける

・最初の出血から24時間以内は絶対安静

・頭蓋内圧モニタリング

・コーヒーや紅茶などの刺激物を制限する

・禁忌でなければベッドの頭部を少し上げる

・指示に従い高張利尿剤で脳内の水分を排泄する

 

まとめ

くも膜下出血の患者の状態は、くも膜下腔に広がっていく血液によって刻々と進行していき、治療が遅れると急死することもある、非常に緊急を要する疾患です。また脳疾患は観察項目がかなり多いため苦手意識を抱きがちですが、緊急時にも焦らずスムーズに動けるよう、何度も復習して臨んでください!

 

参考文献

クリニカルナーシング7神経疾患患者の看護診断とケア(石川稔生、樋口康子、小峰光博、中木高夫|株式会社医学書院|144-152 1990/09/01)

看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア(岡庭豊|J-36-39 2015/03/19)

絵で見る脳と神経 しくみと障害のメカニズム第2版(馬場元毅|株式会社医学書院|196-199 203 2001/06/15)

大腸がんの看護計画|症状やステージとその看護過程・看護問題

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大腸がんは、部位別がん死亡数で男性は第3位、女性は第1位のがんで、近年患者数が急増しています。大腸がんの基礎知識や症状、ステージ、看護過程・看護問題・看護計画をまとめました。大腸がんの患者の看護をする時の参考にして下さい。

1、大腸がんとは

大腸がんとは、盲腸・結腸、直腸・肛門から構成される大腸に発生するがんです。

出典:ガイドラインを理解するための基礎知識 JSCCR |大腸癌研究会

 

大腸がんは大腸に発生した悪性腫瘍で、周囲のリンパ節や臓器に浸潤・転移を起こします。浸潤・転移を起こさないものは、良性腫瘍になりますが、良性のポリープの一部ががん化することがあります。また、正常な粘膜からがんが直接発生することもあります。

日本人は大腸がんの中でもS状結腸と直腸にがんができやすいとされています。

大腸がんの罹患率は40代から増加し始め、高齢になるほど罹患率が高くなります。国立がん研究センターの統計によると、2014年の統計では、大腸がんの部位別がん罹患数は男女ともに第2位、死亡数は男性で3位、女性で1位となっています。

出典:ガイドラインを理解するための基礎知識 JSCCR |大腸癌研究会

 

また、食生活の欧米化などにより、大腸がんの死亡数はこの半世紀で8倍にも増えていることが、日本における大腸がんの大きな特徴と言えるでしょう。

2、大腸がんの症状

大腸がんは初期段階では、自覚症状はほとんどありません。大腸がんを初期段階で早期発見できるのは、がん検診で便潜血が陽性になる場合などが多く、自覚症状から気づくことは珍しいのです。

大腸がんの症状は、大腸がんが進行するに伴って現れるようになります。大腸がんは、がんができる部位によって、盲腸がん、上行結腸がん、横行結腸がん、下行結腸がん、S状結腸がん、直腸がん、肛門がんに分けることができますが、大腸の中でもどの部位にがんができるかによって、現れやすい自覚症状が異なります。

 

■大腸がんに共通して現れる症状

・腸閉塞

・腹痛

 

■盲腸・上行結腸・横行結腸のがんに現れる症状

・貧血

・腫瘤

 

■下行結腸・S状結腸・直腸、肛門のがんに現れる症状

・下血

・血便

・便が細くなる

・便秘

・下痢

 

3、大腸がんのステージ

大腸がんのステージは、次の3つの要素で決められます。

 

・深達度(がんが大腸の壁にどのくらい深く入り込んでいるか)

・リンパ節転移の有無(周囲のリンパ節にがんが転移しているか)

・遠隔転移の有無(肺や肝臓、腹膜など臓器に転移しているか)

 

この3つの要素で、大腸がんはステージ0からステージⅣまでに分類されます。

出典:大腸がんについて 【神奈川県立がんセンター大腸外科】

 

ステージ0 粘膜内にがんにとどまってまっている
ステージⅠ 固有筋層(筋肉内)にとどまっている
ステージⅡ 固有筋層を越えて、周囲に広がっている状態
ステージⅢa リンパ節転移が3個以下
ステージⅢb リンパ節転移が4個以上
ステージⅣ 肝臓や肺、腹膜などの遠い臓器に転移している

4、大腸がんの看護過程

大腸がんはがんの部位やステージによって、治療方法は異なりますが、手術療法が基本の治療法になります。そのほか、化学療法や放射線療法を組み合わせて、治療を行っていきます。

そのため、患者がどのステージでどのような治療をしているかによって、看護問題は異なります。

大腸がんの患者のアセスメントをする時には、全身状態だけでなく、精神状態や治療方法、家族状況、周囲の支援体制などを考慮して、看護過程を進めていくようにしましょう。

 

4-1、大腸がんの看護問題

大腸がんの看護問題は、その患者の全身状態やステージ、治療方法によって異なりますが、ここでは、大腸がんの代表的な5つの看護問題を説明していきます。

 

■手術や疾患への不安がある

大腸がんはがんの中でも比較的生存率が高いのですが、それでも患者はがんを発症したことに、不安を持っています。

また、手術を予定している患者は手術への不安や手術後はどうなるのかなどを不安を抱えているため、精神的なケアをして、前向きに治療に取り組んでいけるように支援していかなければいけません。

 

■術後合併症が起こるリスクがある

大腸がんで開腹手術をすると、縫合不全や術後出血、創部感染、イレウスなどの術後合併症が起こるリスクがあります。

開腹手術をした大腸がんの患者は、術後合併症が起こらないようにケアをしていく必要があります。

 

■ストーマの異常

大腸がんでは、ストーマを造設することがあります。ストーマの造設後は、粘膜皮膚縫合部の離開やストーマの血行障害、ストーマ周辺皮膚の蜂窩織炎などの皮膚トラブル、装具による圧迫などで異常が起こることがあります。

 

■便通が安定しない

大腸がんは、下痢や便秘を繰り返すなどの症状が現れます。また、大腸がんの術後は、大腸を切除することで、大腸が短くなるために、便の水分が十分に吸収されず、下痢になりやすいことがあります。

また、大腸が周囲の臓器と癒着して、腸の動きが悪くなり、便秘になることもあります。そのため、大腸がんの手術後は、下痢や便秘を繰り返して、便通が安定しないことが珍しくありません。

 

■排尿障害や性機能障害が起こる

大腸がんの手術でリンパ郭清をすることで、下腹神経や骨盤神経叢を損傷することがありますので、排尿障害や性機能障害が起こることがあります。また、放射線療法の影響で、このような障害が起こるリスクもあります。排尿障害や性機能障害は退院後のQOLに大きくかかわりますので、看護介入をしてケアしていかなければいけません。

大腸がんでは化学療法や放射線療法などを行うことがありますが、化学療法の看護は「化学療法(抗がん剤治療)の副作用ごとの対処と看護ケア」を、放射線療法の看護は「放射線治療の看護|種類と方法、副作用を踏まえた看護ケア・指導」を参考にしてください。

 

4-2、大腸がんの看護計画

大腸がんの看護計画を、先ほどの看護問題に沿って看護計画を立案していきましょう。

 

■手術や疾患への不安がある

看護目標 手術や疾患に対する疑問や不安がなくなり、前向きに治療に臨める
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・大腸がんの症状の有無や程度

・言動、表情

・食欲や食事摂取量

・睡眠状態

TP(ケア項目) ・患者との信頼関係を作る

・患者の訴えを傾聴する

・医療スタッフの中で言動の統一を図る

・患者に不安が見られる時には、何度でも医師に説明をしてもらう

・不安を助長させるような言動はしない

EP(教育項目) ・パンフレットなどを用いてオリエンテーションを行う

・不安がある時には、些細なことでも話してほしことを伝える

 

■術後合併症が起こるリスクがある

看護目標 術後合併症が起こらない
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・ドレーンからの排液量や性状

・腹部膨満感

・吐血や下血の有無

・創部の発赤、腫脹、熱感、離開の有無

・浸出液の量や性状

・創部の疼痛の程度

・血液検査データ

・排ガスの有無

・腸蠕動音の有無

TP(ケア項目) ・安静度を確認する

・創部の清潔を保つ

・ドレーンからの排液に異常がある時や出血時には、医師に報告する

・ドレーンの逆行性感染を予防するために、パックの固定位置に注意する

・指示に基づいた処置や薬剤の投与を行う

EP(教育項目) ・創部の清潔を保つように説明する

・創部に異常を感じた時には、すぐに報告してもらう

・安静度を守るように伝える

 

■ストーマの異常

看護目標 ストーマからの出血がなく、赤色の色調を保てる
OP(観察項目) ・バイタルサイン

・ストーマの色調

・ストーマの浮腫の有無

・ストーマ周辺の皮膚の状態

・ストーマの高さ

・ストーマからの出血の有無

・ストーマからの排せつ物の性状や量

・疼痛の有無

・皮膚粘膜縫合部の状態

・腹部症状の有無

TP(ケア項目) ・ストーマへの圧迫や刺激を避ける

・術後はストーマを清潔操作で交換する

・ストーマの異常があれば、すぐに医師に報告する

EP(教育項目) ・異常な症状があれば、すぐに報告してもらう

 

■便通が安定しない

看護目標 自分に合った排便コントロールができる
OP(観察項目) ・腹部症状の観察

・排便回数や便の性状、量

・薬剤を使った時の効果

・肛門周囲のスキントラブルの有無

TP(ケア項目) ・腹部温罨法

・医師の指示に基づいた止痢剤や整腸剤、緩下剤の投与

・肛門部の清潔を保つ

・消化管の安静を図る

・程度によってはオムツやポータブルトイレの使用を勧める

・食事内容を工夫する

EP(教育項目) ・術後半年程度で便通は落ち着いてくるが、術前と同じ状態には戻らないことを説明する

・規則正しい排便習慣をつける

・食事内容を工夫し、消化に良いものを摂るように指導する

 

■排尿障害や性機能障害が起こる

排尿障害の看護計画から説明します。

看護目標 排尿障害を理解でき、セルフケアができる
OP(観察項目) ・尿意の有無や程度

・排尿の回数や量、性状

・腹部膨満感の有無

・残尿の有無や量

TP(ケア項目) ・排尿状況を記録する

・必要時、間欠的導尿を行う

・残尿量を測定する

・用手的排尿を行う

EP(教育項目) ・排尿障害について説明する

・時間がたつと改善する可能性があることを説明する

・用手的排尿方法や自己導尿の方法を指導する

 

性機能障害の看護計画を説明します。

看護目標 術後の後遺症であること理解でき、パートナーと話し合える
OP(観察項目) ・性機能障害の程度

・パートナーとの人間関係

・術前の性生活の状況

・性機能障害に関する言動や表情

TP(ケア項目) ・性機能障害について医師に説明してもらう

・パートナーとの話し合いの機会が持てるように促す

・ストーマの患者はパウチカバーや固定方法を工夫する

・悩みを傾聴する

EP(教育項目) ・悩みがあれば話してもらうように伝える

 

まとめ

大腸がんの基礎知識や症状、ステージ、看護過程・看護問題・看護計画をまとめました。

ステージや治療法によってどのような看護をすべきか異なりますが、大腸がんは術後に排泄に関する問題が起こりやすいので、看護師は精神的なケアや退院後の生活を考慮しながら、看護ケアを行うようにしましょう。

 

参考文献

ガイドラインを理解するための基礎知識 JSCCR |大腸癌研究会

大腸がんについて 【神奈川県立がんセンター大腸外科】

化学療法(抗がん剤治療)の副作用ごとの対処と看護ケア

放射線治療の看護|種類と方法、副作用を踏まえた看護ケア・指導


TUR-Btの看護計画|経尿道的膀胱腫瘍切除術の術後、看護問題

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TUR-Bt看護

泌尿器科は尿路(腎、尿管、膀胱、尿道)と男性性器(前立腺、精巣、陰茎など)の疾患を対象とした臨床の一分野です。患者さんの多くは排尿や性器に関する愁訴で来院するので、看護をするにあたっては羞恥心に対して十分な配慮が必要です。外科的処置を受ける患者さんの術前から術後までの病態を理解し適切な観察と対応が求められます。

 

1、膀胱癌の種類と特徴

膀胱腫瘍には大きく分けて乳頭状のものと非乳頭状のものがあります。膀胱壁は内から外に向かって粘膜・粘膜下層・筋層・周囲脂肪という構造になっていますが、乳頭状のものは表面がイソギンチャクのような形をしており、膀胱粘膜から膀胱内に向かって発育するタイプです。このタイプは比較的根っこが浅く粘膜内にとどまるものが多いのが特徴です。これに対して非乳頭状のものは表面が岩のような形をしており、根っこが深いのが特徴です。粘膜下層さらには筋層へと膀胱の外へ向かって発育する傾向があります。
膀胱癌は大きく以下3つのタイプに分けられます。

①表在性癌
悪性度の低い癌で、膀胱内腔にイソギンチャクのように突出しています。膀胱内に多発しても浸潤や転移は起こしませんが半数以上の患者さんに再発します。
②浸潤性癌
悪性度が高く根が深いのが特徴です。粘膜下層さらには筋層へと膀胱の外へ向かって浸潤していく傾向があり、進行すると転移を起します。
③上皮内癌
膀胱の表面に這うように発育する悪性度の高い癌です。

 

2、TUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)とは

TUR-Btとは、下半身麻酔あるいは全身麻酔下で尿道から切除鏡を挿入して前立腺腺腫、膀胱腫瘍などを電気メスで切除する方法です。尿道から内視鏡を挿入するため、開腹術に比べて侵襲が少ないという利点があります。CT・MRI検査や膀胱鏡検査などからリンパ節転移がないこと、病巣の深さが筋層表面までと推測される場合にTUR-Btの適応となります。切除した腫瘍は病理検査で深達度と腫瘍の悪性度の診断を行い、膀胱癌では、手術直後に膀胱内に抗がん剤を注入することで再発率の低下を図ります。

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)とは
出典:市立島田市民病院

 

3、TUR-Btにおける合併症

術中・術後の合併症にはどのようなものがあるのでしょうか。以下の起こりうる合併症について見ていきましょう。

 

3−1、術中の合併症

①膀胱穿孔 電気メスで腫瘍を切除する際に電流の刺激で閉鎖神経反射が起こり患者さんが動くことがあります。その際膀胱穿孔を起こすことがあるため、閉鎖神経ブロック等で回避します。
後腹膜腔への穿孔ではバルーンカテーテルの留置で自然治癒しますが、穿孔の部位によっては開腹術が必要となる場合もあります。
②出血 出血部位を電気凝固止血します。

 

3−2、術後合併症

①出血(血尿) 術後2〜4週間は腫瘍切除部から出血することがあるため、血尿の有無や程度、尿量を把握していく必要があります
②尿路感染・発熱 術侵襲や術後感染による発熱などの徴候に注意して観察していく必要があります
③頻尿・排尿時痛 腫瘍切除部に炎症が起こり膀胱炎症状が見られますが、創部が治癒していくにつれて徐々に治っていきます。
④深部静脈血栓・肺塞栓 活動性の低下による下肢の静脈血栓、それに伴う肺塞栓を予防するために弾性ストッキングの使用や背屈運動を促しましょう。
⑤水腎症 腫瘍が尿管口に近い場合、TUR-Btによって尿管が狭くなり水腎症を発症することがあります。
⑥穿孔 腫瘍を切除する際、膀胱壁が薄くなり穿孔を起こすことがあります。バルーンカテーテルを挿入したまま穴が塞がるのを待ちますが、開腹にて修復を要する場合もあります。

 

4、TUR-Btのクリニカルパス

クリニカルパスは、様々な治療や検査についての標準計画表で、看護記録が一元化されているため治療を進めていく上で医療の質の向上にも繋がります。クリニカルパスには医療者用と患者さん用の2つがあります。クリニカルパスを用いることで、患者さんに対して入院から退院までがどのように進んでいくのかをわかりやすく、簡潔に説明することができます。ここではTUR-Btのクリニカルパスの一例を下記にご紹介します。それぞれの医療機関によってパスの内容は多少違いがありますが、参考にしていただき統一した看護の提供ができるようなパスの作成、使用をしていきましょう。

TUR-Btのクリニカルパス
出典:クリニカルパスについて|東邦大学医療センター大橋病院

 

5、術後の看護

無事にTUR-Btが終わったらパスに沿って患者さんの全身状態の観察、痛みやベッド状安静における苦痛の軽減を図ります。術後の合併症を念頭に異常の早期発見に努めましょう。クリニカルパスの中に看護計画が組み込まれているので看護目標からどんな点を観察・援助していけば良いかがわかります。

 

5−1、看護計画

<目標>

①穿孔がない
②血尿が増強しない
➂苦痛・不安の軽減が図れる

■OP
1.バイタルサイン
2.出血の有無・程度
3.痛みの有無と程度
4.下肢の色・動き
5.感染徴候の有無
6.尿量
7.腹痛・排尿時痛
8.排尿回数(バルーンカテーテル抜去後)
9.排便の有無・パターン
10.足背動脈触知の有無

■TP
1.疼痛時は痛みの度合いに応じて医師と相談しながら鎮痛剤を使用する
2.下肢静脈血栓や肺塞栓の予防に弾性ストッキング等を使用する

■EP
1.疼痛時や苦痛時は我慢せず伝えてもらうよう説明する
2.ベッド上安静の必要性についての説明
3.弾性ストッキングなど、血栓予防についての説明と指導
4.不安なこと、質問等についての説明

 

6、退院指導について

パス通りに治療計画が進み、退院が決まったら退院指導が行われます。患者さんには日常生活における注意事項をわかりやすく説明することが必要です。また、可能であればご家族にも一緒に話を聞いてもらい、協力をお願いすると良いでしょう。

 

6−1、退院後の注意点

①水分をたくさん摂取する
尿路感染を予防するためお茶や水などの飲料水をたくさん摂取してもらうよう 説明する。特に高齢者になると水分摂取が少なくなる傾向があるため、声をかけて積極的に水分を摂取してもらうようにしましょう。(コップ5〜6杯くらいなどと説明するとわかりやすいですね)

②便秘にならないよう緩下剤等の使用を検討する
下腹部に力が入ることで再出血の可能性があるため、便秘にならないよう排便コントロールをする。水分をしっかり摂ってもらうこと、どうしても便秘になりがちな方には緩下剤の使用を検討するなどの援助、指導をします。

③定期的な診察を受ける
再発の有無を確認するため3〜6ヶ月ごとに膀胱鏡や細胞診による検査があること・定期的な受診の必要性を説明します。血尿や疼痛が出現した場合には直ちに受診してもらうことも説明しましょう。

④アルコールや長期の旅行・スポーツなど体に負担のかかる事を避ける
術後1ヶ月くらいは出血する危険性があるため、過度に体に負担のかかることは避け、ウォーキングなどの軽い運動にしてもらうようにします。また、重い荷物を持つことも下腹部に力がかかるので避けるよう伝えましょう。

 

まとめ

TUR-Btは内視鏡下で行われるため、患者さんへの手術侵襲が少なく、入院期間も1週間から10日前後と比較的短期で行える治療法の一つです。とはいえ、腫瘍の状態や術後の患者さんの全身状態によっては更に進んだ治療や他の処置が必要となることもあります。どのような病気でも患者さんは常に様々な不安や悩みを持って治療を受けています。私たち医療者は、病気だけでなく、患者さん自身の内面にも気を配り、的確な対処と看護が行えることが求められます。

 

参考文献

クリニカルパスとは|市立岸和田市民病院
TUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)|順天堂大学医学部附属順天堂医院 泌尿器科
経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)|金沢大学附属病院|2005/11

骨髄異形成症候群の看護|治療や予後・生存率とその看護計画について

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骨髄異形成症候群の看護

血液の癌というと、白血病を思い浮かべる方が多いと思います。今回お伝えする骨髄異形成症候群も血液における癌であり、同時に白血病の前段階でもあります。骨髄の働きと骨髄腫瘍性疾患(血液の癌)、そして骨髄異形成症候群とはどのような病気なのかを学び、そこから看護計画を立案していきます。

 

1、骨髄異形成症候群とは

1-1、骨髄の働きと造血のしくみ

骨髄は骨の内側の髄空を埋める組織で、人にとって重要な造血の役割を担っています。造血とは、全ての血球成分(白血球、赤血球、血小板)を産生することを言います。骨髄にある造血幹細胞は、全ての血球成分へと分化する能力を有しており、分化を繰り返しながら次第に成熟して、正常な機能を有する成熟血球を作り出します。また、分化だけではなく、造血幹細胞には自分と同じ細胞を複製する能力があり、自分自身を複製することで血液中における血球の総数を維持しています。

血液の癌と言われる骨髄系の腫瘍は、この造血幹細胞に遺伝子変異を生じ、骨髄系細胞が腫瘍性増殖や形態異常を呈する疾患です。骨髄系腫瘍は、以下の4つに大別されます。

 

■骨髄系腫瘍のWHO分類

➀急性骨髄性白血病 (AML)

②骨髄異形成症候群(MDS)

➂慢性骨髄増殖性疾患(CMPD

➃骨髄異形成/骨髄増殖性疾患(MDS/MPD)

 

1-2、骨髄異形成症候群とは

骨髄異形成症候群は、原因はわかっていませんが50歳以上および高齢者に多く、我が国でも人口の高齢化とともに増加傾向にあります。特有の症状がないため自覚症状に乏しく、健康診断や別の目的で行った採血によって偶然発見されることが多い疾患です。

上の分類において、急性骨髄性白血病は、末梢血で芽球(成熟していない血球)が増えてしまう状態で、「増殖性」の病気です。一方で、骨髄異形成症候群は、骨髄で「形態異常(異形成)」を呈した血球が増えます。この異形の血球は、正常な機能を持たない無効造血(アポトーシス)を行い、更に、正常な造血幹細胞の増殖を抑制させ、血液中の正常な血球を不足させてしまいます。そして、骨髄中の芽球の割合が20%以上になると、急性骨髄性白血病に移行する率が高くなるとされています。つまり、骨髄異形成症候群は白血病の前段階であるといえます。

血液疾患は「難しい」というイメージが強いかと思いますが、骨髄異形成症候群は、➀異常な造血幹細胞のクローン性疾患であること、②無効造血による血球減少が起こること、の2つの特徴を理解すると、病態や症状・観察点がわかるようになるでしょう。

 

1-3、骨髄異形成症候群の症状

骨髄異形成症候群には、特有の症状はありません。しかし、異形成された血球ばかりが増えると、正常の血球の割合が減少しますから、それぞれの血球が働きを担うことができなくなります。身体全体に正常な血液細胞を送り出せなくなるため、さまざまな身体の異常を呈してきますが、それぞれの血球の働きが低下した状態=骨髄異形成症候群の症状、となります。

 

■骨髄異型性症候群の症状

赤血球減少によるもの:貧血(易疲労感、眩暈、動悸、息切れ)

白血球減少によるもの:易感染状態(発熱など)

血小板減少によるもの:出血傾向(皮膚の点状出血、鼻出血)

 

2、骨髄異形成症候群の治療

骨髄異形成症候群の根治的な治療は、造血幹細胞の移植しかありません。しかし、全ての患者が移植適応にあるわけではなく、患者個々の症状や病態・年齢や健康状態(ADL)、更に患者の求めるQOLを考慮して治療方針を決定します。治療法は大別すると3つに分けられ、近年では更に緩和ケアがメインとなる経過観察も、選択肢の一つとして挙げられます。

 

■骨髄異形成症候群の治療

➀同種造血幹細胞移植:骨髄異形成症候群を治癒する唯一の方法だが、ドナー(造血幹細胞の提供者)の有無や年齢・全身状態など適応条件がある

②化学療法     :抗癌剤によって芽球の数を減らし、病状を軽くする目的で行う

➂支持療法     :赤血球輸血、血小板輸血、G-CSF(好中球減少に対し)等、不足している血球を補う対象療法を行う

➃無治療・経過観察 :生活の質を重視した治療で、積極的治療ではなく患者の苦痛を取り除き、患者・家族がその人らしく過ごすための緩和ケアを行う

国立がん研究センターがん情報サービスより抜粋

 

3、骨髄異形成症候群の予後・生存率

骨髄異形成症候群には、消化器癌のようなTNM分類を用いることはできません。そこで、代表的な予後予測システムとして、IPSS(International Prognostic Scoring System : 国際予後判定システム)とIPSS-R(Revised IPSS : 改訂IPSS)があり、これらの予後因子を組み合わせてリスクを判定します。(IPSS・IPSS-Rについては、日本新薬骨髄異形成症候群の予後と予後予測についてが見やすいので参照してください。)合計スコアがどのリスクに当てはまるかによって、リスクを4分類して予後や急性骨髄性白血病に移行する確率などを予測します。

 

■IPSSのスコアによるリスク分類と予後

リスクカテゴリー スコア 生存中央値(年)
全年齢層 60歳以下
低リスク 0 5.7 11.8
中間リスク-1 0-1 3.5 5.2
中間リスク-2 1.5-2 1.2 1.8
高リスク 2.5以上 0.4 0.3

大阪市立大学・大学院医学研究科 血液腫瘍制御学 医学部 臨床検査医学

医学部附属病院 血液内科・造血細胞移植科 骨髄異形成症候群より抜粋

 

4、骨髄異形成症候群の看護計画

骨髄異形成症候群は、根治的治療となるものが同種造血幹細胞移植しかなく、臨床の場では化学療法・支持療法を行っている患者の看護にあたることの方が多くなります。看護師が介入すべき問題としては、症状でもある貧血・易感染状態・出血傾向となります。今回は、この中で易感染状態に的を絞り、看護計画を立案していきます。

 

4-1、看護問題・看護目標

看護問題:#1原疾患による白血球減少に続発した、感染リスク状態

看護目標:感染の徴候がみられない

感染の徴候を早期に発見し、対応する

患者が感染予防のための必要性を理解し、実行できる

 

4-2、看護計画

■O-P

1.血液データ

2.骨髄検査データ

3.IPSSスコア

4.治療内容(G-CFS使用・赤血球輸血・血小板輸血の有無)

5.バイタルサイン

6.水分出納(IN/OUT)

7.食事摂取量

8.感染徴候の有無

(咳嗽・喀痰・頭痛・尿混濁・下痢・腹痛・関節炎・筋肉痛皮膚・粘膜の状態等)

9.患者の疾患に対する理解度

10.家族の理解・支援

 

■T-P

1.環境整備の徹底により、感染源を排除する

2.検査データ・症状により、個室へ移動する

3.医師の指示により、空気清浄器を使用する

4.室温・湿度を調整する

5.排泄後の手洗いを徹底する

6.食事前の手洗いと口腔ケア(出血傾向のひどい場合は口腔清拭)を確認する

7.ADLと安静度に応じた保清の介助を行う

(手洗い・歯磨き・含嗽・シャワー浴・清拭・洗髪・陰部洗浄・爪切り等)

8.食事形態を患者と相談し、食べやすいものへ随時変更する

 

■E-P

1.骨髄異形成症候群による易感染状態にあることを説明する

2.感染予防の必要性を説明する

3.排泄後の手洗い、食事前後の手洗いと口腔ケアを確実に行うよう指導する

4.家族へ、面会や差し入れ・見舞い品(食べ物等)について指導する

 

まとめ

骨髄異形成症候群は、根治治療が造血幹細胞移植の移植しかないこと、高齢の患者が多いことから、積極的治療を行って完治する患者は、あまり多くありません。また3大症状である貧血・易感染状態・出血傾向に対する理解が難しく、患者本人が予防することが難しい側面もあります。看護師は、退院後の生活も見据えた指導など、入院中から関わるようにしていきたいですね。

 

参考文献

骨髄異形成症候群(こつずいいけいせいしょうこうぐん)(国立がん研究センターがん情報サービス|2016/06/17更新)

血液のがん: 骨髄異形成症候群(新潟県立がんセンター新潟病院)

脳性麻痺の看護計画|定義、原因、特徴と看護過程、看護問題

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脳性麻痺看護

脳性麻痺とは、妊娠中から生後4週以内に脳が損傷したことで運動障害が起こる疾患のことです。脳性麻痺は患者1人1人、それぞれ症状や合併症、障害の程度が異なりますので、個別性を重視して看護をしていく必要があります。

脳性麻痺の定義や原因、特徴、看護過程・看護問題・看護計画をまとめました。

 

1、脳性麻痺の定義

脳性麻痺とは生後4週以内に脳の損傷が原因で、運動や姿勢に異常が生じる病気です。厚生労働省の脳性麻痺研究班は脳性麻痺を

受胎から生後4週以内の新生児までの間で生じた、脳の非進行性病変に基づく、永続的な、しかし変化しうる運動および姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害、また将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する

と定義しており、この定義を踏まえると、脳性麻痺は次の4点が重要なポイントであると言えます。

・妊娠中から生後1か月の間に脳に障害が起こったこと

・脳の障害が進行性のものではないこと

・脳性麻痺とは運動障害を指すこと

・一過性のものではないこと

脳性麻痺というと、てんかんや知的障害、視覚障害などを合併することが多いですが、脳性麻痺と診断する場合には、これらの神経障害の合併は問いません。

また、脳の障害やそれによる運動障害が一過性ではなく、永続的に続くことが、脳性麻痺のポイントになります。

 

2、脳性麻痺の原因

脳性麻痺は妊娠中から生後4週までに脳に障害が起こることが原因ですが、その障害が起こる原因は、出生前(妊娠中)と周産期(分娩時)、出生後の3つの時期に分けることができます。

 

■出生前

・脳内構造の形成異常(脳神経細胞の遊走障害)

・脳梗塞

・頭蓋内出血

・脳室周囲脳軟化症(低出生体重児)

・サイトメガロウイルス感染症

・トキソプラズマ感染症

・母体の栄養障害

・放射線障害による脳髄発達障害

 

■周産期

・新生児仮死

・分娩時の脳出血や脳外傷

 

■出生後

・脳外傷

・中枢神経感染症(脳炎や髄膜炎)

・重症黄疸による核黄疸

 

これらの原因によって、脳に障害が起こり、脳性麻痺が発症するのです。

 

3、脳性麻痺の特徴

脳性麻痺は、その特徴によって5つに分類することができます。

 

■痙直型

脳の錐体路を中心とした部分に障害が出ることで、筋肉が硬直して、持続して縮んだ状態が続きます。視覚障害や斜視を合併することが多いという特徴があります。

・片麻痺=体の片方のみに障害が現れます。脚は膝や股関節が伸びきらないため、尖足歩行になりやすく、腕は掌で支える姿勢がとりにくくなります。

・四肢麻痺(両麻痺)=四肢麻痺は、独歩が可能な状態から座位が取れない状態まで障害の程度の幅が広いという特徴があります。また、四肢麻痺は各関節を伸ばしきれないため、関節拘縮が起こりやすいことも特徴の1つです。

 

■アテトーゼ型

アテトーゼ型は脳の錐体外路を中心とした障害で、不随意運動が症状の特徴です。不随意運動があるために、運動の調節や協調、コントロールがうまくできません。

不随意運動が主症状ですので、関節拘縮は起こりにくく、知的障害の合併はそれほど多くありません。

ただ、顔面の筋肉の不随意運動により、発語や発声などの言語障害や咀嚼・嚥下障害、流涎などの症状が現れることが多いです。

 

■失調型

小脳や大脳皮質の平衡を調節する神経経路に障害が起こることで、筋肉の衰弱やふるえ、バランスのとりにくさ、運動の不安定性などが症状に現れます。

また、イントネーションには抑揚がなく、話し方がゆっくりであることも、失調型の特徴の1つです。

 

■強剛型(固縮型)

強剛型は錐体路の障害で四肢の屈曲・伸展、どちらにも筋肉の緊張が生じることが特徴です。そのため、四肢の関節を伸ばす時も曲げる時も筋肉に緊張が起こるので、歯車のようにカクカクとした動きになるのが特徴です。

 

■混合型

混合型は、今まで説明した4つの脳性麻痺の型が2つ以上合わさったもので、混合型の多くは痙直型とアテトーゼ型が混ざったものになります。混合型の場合は、混合しているどちらか一方の型が強く出ていることがほとんどになります。

 

3-1、脳性麻痺の特徴的な合併症

脳性麻痺は運動障害ですので、運動障害以外の合併症がなくても、「脳性麻痺」と診断されます。ただ、脳性麻痺は運動障害以外に合併症を生じることが多いのです。

・精神発達障害(知的障害)

・てんかん

・視知覚認知障害

・視覚障害

・聴覚障害

脳性麻痺は知的障害やてんかんを合併することが珍しくありません。また、見たものを正しく理解できない視知覚認知障害も、脳性麻痺に多い合併症です。

視覚障害は大脳皮質盲(目に問題はなくても脳が情報を受け取ることができないために見えない)が起こったり、斜視や眼振が起こることがあります。

 

4、脳性麻痺の看護過程

脳性麻痺の患者は、運動障害のほかにも知的障害やてんかんなどの合併症を持っていることが多いのでので、合併症にも目を向けて看護をしていく必要があります。

ただ、脳性麻痺の患者はどのような運動障害があるのかなど運動障害の程度は個人差が大きいですし、どのような合併症があるのかや家族状況によっても、看護問題は変わりますので、患者個人の状態に合わせて、看護過程を進めていかなくてはいけません。

また、脳性麻痺の患者は自宅療養することが多いですので、退院後に自宅で家族が看護することも踏まえて、看護過程を進めていくようにしましょう。

 

4-1、脳性麻痺の看護問題

脳性麻痺の看護問題を考えていきましょう。ここでは、脳性麻痺の代表的な看護問題を挙げていきますが、先ほども説明したように、脳性麻痺の患者の看護問題は1人1人異なりますので、ご紹介する看護問題を参考にしながら、患者個人に合わせた看護問題を考えるようにしてください。

 

■関節拘縮のリスクがある

痙直型や強剛型の脳性麻痺の患者は、筋肉の硬直から関節がきちんと伸びずに、関節拘縮を起こすリスクがあります。

関節拘縮を起こすと、ADLが低下しやすいので、関節拘縮が起こらないように看護介入していきましょう。

 

■誤嚥のリスクがある

脳性麻痺の患者は顔面の不随意運動から、咀嚼障害や嚥下障害が起こることが多いため、誤嚥を起こすリスクがあります。

誤嚥が起こると、誤嚥性肺炎を起こし、命にかかわることがありますので、誤嚥を起こさないようにケアをしていく必要があります。

 

■セルフケア不足

脳性麻痺の患者が入院すると、点滴や治療などを行うために、行動が制限され、自宅で療養している時よりも、ADLが低下してセルフケア不足になることがあります。

入院中にADLが低下すると、退院後の自宅療養で家族の負担が増えますし、患者のQOLが低下しますので、セルフケア不足にならないようにケアしていきましょう。

 

■生活環境の変化への不適応を起こす

普段、自宅で療養していていて、知的障害がある脳性麻痺の患者が入院すると、環境の変化に適応することができず、パニックになることがあります。

看護師は脳性麻痺の患者が環境の変化にできるだけスムーズに適応できるように、ケアしていく必要があります。

 

4-2、脳性麻痺の看護計画

脳性麻痺の看護計画を先ほどの看護問題に沿って、立案していきましょう。

 

■関節拘縮のリスクがある

看護目標 関節拘縮を起こさない、悪化させない
OP(観察項目) ・脳性麻痺の症状

・ADLの状態

・関節可動域

・筋力、筋緊張の状態

・拘縮の有無

・麻痺側

・他動運動時の関節の疼痛の有無、表情

TP(ケア項目) ・良肢位を保つ

・更衣や清潔ケア、体位交換などのケアの時に、関節を動かす

・他動運動の前には関節を温める

EP(教育項目) ・家族に他動運動をするように説明する

・良肢位を保つことの重要性を説明する

・拘縮が起こることのリスクを伝える

 

関節拘縮の看護に関しては、「拘縮の看護|原因と種類ごとの特徴および介助者が可能な援助」も参照してください。

 

■誤嚥のリスクがある

看護目標 嚥下がスムーズに行えて、誤嚥が起こらない
OP(観察項目) ・咀嚼の状態

・嚥下の状態

・食事や水分の摂取量

・食事の形態(とろみやキザミの有無)

・食事中の体位

・食事介助の必要性の有無

・食事中の呼吸状態

・流涎の量

TP(ケア項目) ・食事介助を工夫する

・家族からの情報を得て、食事内容を工夫する

・食べやすい体位を整える

・むせこみや咳嗽が見られたら、いったん食事を止める

・すぐに吸引できるように、食事前に用意してく

EP(教育項目) ・食事中にむせこみがあった時の対処法を指導する

 

嚥下障害の看護は「嚥下障害のある患者の看護|看護目標と看護計画(OP・TP・EP)」を参考にすると良いでしょう。

 

■セルフケア不足

看護目標 ADLを維持することができる
OP(観察項目) ・脳性麻痺の症状

・ADLの状態
・入院によるADLの制限の有無

TP(ケア項目) ・障害の程度、ADLの状態に応じて、できるだけ自力でセルフケアできるように働きかける

・全面的に介助するのではなく、できることはやってもらう

・家庭での介助方法を家族から聞いて、病棟でも同じように実施する

・生活パターンに合わせた規則的な生活を送れるようにする

EP(教育項目) ・介助のポイントなどを家族に指導する

 

■生活環境の変化への不適応を起こす

看護目標 入院前と同じような生活パターンで過ごすことができる
OP(観察項目) ・脳性麻痺の症状

・知的障害の有無や理解度

・言動や表情

・食事の摂取量

・睡眠状況

・同室の患者との関係

TP(ケア項目) ・家庭での生活パターンを把握する

・日課表を作り、それに基づいて行動する

・患者との信頼関係を作る

・ほかの患者とのかかわりを支援する

・現在の状況や病棟の構造などを理解できてるかを確認する

EP(教育項目) ・家族に必要時は付き添ってもらうように伝える

 

まとめ

脳性麻痺の定義や原因、特徴、看護過程・看護問題・看護計画をまとめました。脳性麻痺は運動障害が主症状ですが、知的障害やてんかんなどの合併症が現れることが珍しくありません。

また、1人1人症状や合併症が異なりますので、患者の状態に合わせた看護をしていくようにしましょう。

 

参考文献

拘縮の看護|原因と種類ごとの特徴および介助者が可能な援助

嚥下障害のある患者の看護|看護目標と看護計画(OP・TP・EP)

咳嗽の看護|種類・訓練・反射などメカニズムとそのガイドライン

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咳嗽の看護

腹痛・発熱などと共に一般的な風邪症状で馴染みのある「咳嗽」。臨床現場でもよく見られる症状の一つですね。「咳嗽」といば最初に浮かぶのが「風邪」ではないかと思いますが、実際医療現場で働いていると、様々な種類の「咳嗽」に遭遇します。

 

1、咳嗽とは

生体は自己を守るために種々の防御機構を有しています。「咳嗽」とは、「咳」のことで、気道内の異物を排除する重要な生体防御反射です。上気道に対する様々な物理的、化学的あるいは炎症性刺激が原因となり、肺内の空気が音を伴って反射的に呼出される現象です。胸膜、縦隔、食道などの刺激によっても起こります。これらは気道内の分泌物や異物を除去するための肺の防御反応の一つと言えます。
咳嗽は、「痰」を伴うか否かにより湿性咳嗽と乾性咳嗽に分けられ、3週間以上持続する咳を遷延性咳嗽、8週間以上持続する咳を慢性咳嗽と言います。

 

2、咳嗽のガイドライン

「成人の感染性咳嗽の診断」や「小児における慢性咳嗽の代表的疾患と診断」などについて日本呼吸器学会より「咳嗽に関するガイドライン」が出されているので参考にされると良いと思います。(参考元:咳嗽に関するガイドライン第 2 版 – 日本呼吸器学会
また、「咳嗽」といっても原因疾患により治療方針・内容が変わってくるため、私たち医療者は各疾患に対して適切な看護を提供していかなくてはなりません。

咳嗽のガイドライン

出典:大阪府藤井寺市 池田医院 内科 糖尿病専門外来

 

3、咳嗽反射とメカニズム

咳嗽反射はどのようにして起こるのでしょうか。まず刺激や炎症が起こります。そうすると気管や気管支、肺胞などに分布する咳受容体が炎症や刺激に反応し、迷走神経を介して延髄の咳中枢に至ります。延髄からは横隔神経を介して横隔膜や肋間筋に至り、吸気が起こります。そして声門が閉鎖して呼吸筋の収縮によって胸腔内圧が上昇、声門が開き呼気が生じます。
出典:Cough suppressants & expectorants

咳反射が起こるのは異物が入り込んだ時のみではなく、体内に侵入した細菌やウルスなどを排出する際や食べ物や唾液などの誤嚥時にも起こります。咳嗽と共に出る痰は、体内に入ってしまった細菌やウイルスを体外へ排出するためのものです。

 

4、咳嗽の種類

咳嗽はどのくらいの期間それが持続しているのかで以下の3つに分類できます。

①急性咳嗽
3週間未満で治る咳のことを言います。多くは風邪やインフルエンザなど、気管支や肺などの呼吸器の感染によるものです。
②遷延性咳嗽
3〜8週間未満で治る咳のことで、咳嗽が見られる期間が長いほど感染症以外が原因である可能性が高くなります。
③慢性咳嗽
8週間以上持続する咳で、感染症が原因であることはほとんどなく、他の疾患が背景にあります。

また、「咳嗽の状態による分類」では、以下の2つがあります。

①乾性咳嗽
痰が出ないあるいは出たとしても透明でさらっとしたものが少量という場合を乾性咳嗽と言います。字のごとく乾いた咳が聞かれます。原因疾患に咳喘息、感染後咳嗽、胃食道逆流、アトピー咳嗽、百日咳、心因性咳嗽などがあります。

②湿性咳嗽
粘り気があって、色がついている痰が出る咳です。痰が絡んだ咳ですね。風邪などの感染症が原因で起こりますが、長引く場合は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、鼻の病気等が原因であることが多くなります。肺がんや心不全などでも見られます。

 

5、咳嗽の随伴症状

咳嗽は生体に以下のような影響を及ぼします。

■エネルギーの消耗
咳嗽によって呼吸筋が消費するエネルギーは1回につき約2Kcalと言われています。強い咳嗽が続けばそれだけ多くのエネルギーを消費します。湿性咳嗽の場合は、喀痰に含まれるアルブミンなどのタンパク質、電解質や炭水化物も失うため消耗はさらに増大します。

■気道の変化
咳嗽発作時には、気道を取り囲む肺胞や胸腔内圧が増大、気道は外側から圧迫されて呼気時に細くなります。そして、吸入された空気が呼出期に一部しか呼出されないため肺胞内に空気が蓄積し、肺胞内圧・胸腔内圧はさらに増大します。これは喘息に著名に見られます。

■循環系の変化
咳嗽による肺胞内圧、胸腔内圧の上昇は肺循環・体循環ともに変化をもたらします。呼気閉塞時は、肺動脈圧が著しく上昇し冠血流量の減少と右室心筋の虚血を起こし、急性心不全の主因となります。また、胸腔内圧の著名な上昇は、静脈還流量を減少させて脳血流量の減少をもたらします。

上記の結果、次のような症状や状態を引き起こしやすくなります。
①疲労、胸痛、腹痛、不眠、食欲不振、眼瞼浮腫、精神的不安定
②皮下気腫、自然気胸
③鼻出血、眼底出血、喀血
④脳動脈や大動脈瘤などの破裂
⑤ヘルニア、脱水、尿失禁、流産
⑥突発性呼吸困難、急性右心不全、失神など

 

6、咳嗽訓練

自発的に咳が出るように行う訓練を「咳嗽訓練」と言います。自発的に咳ができない患者さん、嚥下障害のある患者さんに対して行います。むせに対処する防御機構を強化する訓練です。

 

6−1、咳嗽訓練のやり方

①咳嗽反射の弱い人、嚥下障害を持つ人に対して、その人の腹部に手を置いて息を吸ってもらう
②腹部が膨らんだのを確認してから「えへん」としっかり声をあげながら息を吐いてもらうよう指導する(この時、腹式呼吸ができているかどうかを確認しましょう)
③その呼気に合わせて腹部を押し、咳の誘導を図る
④これを繰り返し行い有効な咳嗽ができるよう援助する

 

7、咳嗽の看護

咳嗽や痰がみられる疾患の代表は、気管支炎や肺炎などの呼吸器の感染です。気道や肺に炎症がある時に起こるものですね。それ以外にも、肺うっ血・肺水腫・心不全・気管支拡張症・喘息・慢性気管支炎などがあります。まずは情報収集・アセスメントを行い、どのような咳が出ているのかや痰の性状、生活環境などを全体的に把握した上でそれぞれの患者さんに必要な看護計画を立てていきましょう。以下に看護計画の一例をご紹介します。

 

7−1、目標:効果的な咳嗽及び喀痰が行え、適切な酸素化ができる

■OP
1.バイタルサイン
2.肺雑音・エア入り
3.咳嗽の種類・程度
4.喀痰の有無・性状
5.呼吸状態
6.喘鳴の有無
7.疲労感・頭痛
8.胸痛の有無
9.検査データ(血液・レントゲン)
10.鎮咳薬や去痰薬の使用状況とその効果
11.食事摂取量・水分量
12.睡眠状況
13.排便状況

■TP
1.咳嗽による苦痛や疲労感が強い場合は鎮咳薬を使用する
2.喀痰が困難な場合には去痰剤の投与を行う
3.必要に応じた体位ドレナージ
4.水分摂取を促す
5.食事や水分形態の工夫
6.肺理学療法の実施
7.喀痰喀出が困難な時はネブライザーを使用する
8.酸素吸入
9.セルフケア不足に対する援助
10.安楽な体位の工夫
11.便秘時の腹部マッサージや整腸剤の検討
12.不安を傾聴する
13.環境整備

■EP
1.水分摂取の必要性を説明する
2.腸内ガスの貯留は咳嗽を誘発するため、食事や水分の摂り方についての指導や説明を行う
3.呼吸困難増強時や心配なことがある時はすぐにCallを押してもらうよう説明する
4.安楽な体位の指導
5.乾燥予防のためのマスク着用の説明

 

まとめ

咳嗽は長引くほど体力低下や食欲低下につながり日常生活を困難なものにさせます。特に高齢者においては、長期の咳嗽による肋骨骨折の危険性もあります。経過観察をきちんとしながら安楽に患者さんが過ごせるよう、苦痛がある時は症状の軽減を図り、ADLの低下や日常生活における活動意欲の低下を予防できるような工夫・援助をしていくことが必要です。

 

参考文献

訓練法のまとめ(2014 版) – 日本摂食嚥下リハビリテーション学会

白内障の看護|白内障の症状や治療の実際と看護計画

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早期であれば無症状ですが、進行すれば日常生活に支障をきたす白内障。加齢に伴い発症するケースが多いですが、全身疾患や薬剤性、外傷性など様々な原因で発症することも。眼の治療は患者にとって非常に不安の強いものであり、「手術をすると失明することもあるのだろうか。」「何時間も拘束されたりするのだろうか。」など間違った見解をしている患者もいるため、手術前の入念な説明は欠かせません。最近の治療では日帰り手術など体に負担の少ない治療も行われているため、眼科は入退院が激しく忙しい病棟です。短い入院期間でも安心して治療が受けられるよう、ここで白内障についてじっくり学びましょう!

1、白内障とは

白内障とは、生来透明である水晶体ににごりが生じ、視力・視機能の低下をきたす疾患です。ほとんどは加齢によるものですが、糖尿病やアトピー性など全身疾患に関連するものや、外傷性・薬剤性、高度近視に伴うものもあります。先天性の白内障も存在します。たいていは白内障のみで失明することはないですが、先天性の白内障の場合、極度の弱視の原因となることがあります。

白内障の成因の詳しい分類は以下の表を参考にしてください。

 

①    先天白内障 特発性(原因不明)

遺伝性

胎内感染(風疹症候群など)

代謝疾患

他の眼先天異常に伴うもの

②    後天白内障 加齢性(老人性)、壮年・若年白内障

併発白内障(ぶどう膜炎、強度近視、網膜色素変性症など)

外傷性(打撲・穿孔、電撃白内障、放射線白内障)

薬物性(ステロイド、向精神薬など)

全身疾患に伴うもの(糖尿病、アトピー性皮膚炎、筋緊張性ジストロフィなど)

出典:眼科疾患ビジュアルブック|株式会社学研メディカル秀潤社(落合慈之、平形明人|150|2013年3月26日)

2、白内障の症状

軽度の白内障であれば無症状ですが、進行すると視力低下、単眼複視(片側で見た時にものがだぶる)、羞明(まぶしがり)、近視化が現れます。

3、白内障の検査

白内障の検査は、散瞳下で細隙灯検査を実施し、水晶体の混濁の部位、範囲、程度を観察し、さらに核硬度・皮質白内障・嚢下白内障に分類し評価します。各分類表は以下の通りです。

 

■混濁部位による分類

①    核硬化(NS:nuclear sclerosis)
②    皮質白内障(CC: cortical cataract)
③    嚢下白内障(SC: subcapsular cataract)

前嚢下白内障(ASC:anterior subcapsular cataract)

後嚢下白内障(PSC: posterior subcapsular cataract)

出典:眼科疾患ビジュアルブック|株式会社学研メディカル秀潤社(落合慈之、平形明人|151|2013年3月26日)

 

■核硬化の分類

グレード 硬さ 色調
0 核なし 核なし
1 soft 透明~やや白
2 semisoft 白~淡黄
3 medium 黄色(茶色は混ざっていない)
4 hard 琥珀色(茶色がかかった黄色)
5 rock hard 茶~黒

出典:水晶体画像解析装置(astamuse)

 

■皮質混濁の状態による分類

膨潤白内障(intumescent cataract) 皮質が水を含んで膨れた状態
成熟白内障(mature cataract) 全体に皮質混濁が進んだ状態
過熟白内障(hypermature cataract) さらに成熟度が進み皮質が液化した状態

出典:眼科疾患ビジュアルブック|株式会社学研メディカル秀潤社(落合慈之、平形明人|152|2013年3月26日)

4、白内障の治療

薬物療法には混濁を焼失させる効果はありません。無症状の場合は経過観察しますが、日常生活に不自由を感じるようであれば手術治療を検討します。手術の適応には、視力障害(患者の生活上の必要性から判断する)、眼の障害を引き起こすおそれのある過熟白内障(緑内障・ぶどう膜炎)、およびレンズ後部組織を治療あるいは検査する必要のある場合です。一般的には水晶体超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入を行います。この術式では、レンズを粉砕して吸引しやすくするため、超音波を使い粉砕(水晶体の乳化)を行います。必要な切開はわずか3mm程度なので、患者は通常翌日には退院できます。

出典:超音波水晶体乳化吸引術(もざわ眼科 日帰り白内障手術専門サイト)

 

進行した白内障や水晶体を支えるチン小帯が弱い場合では症例に応じて摘出術を行います。摘出には2つの方法があり、嚢内摘出法と嚢外摘出法があります。

 

■嚢内摘出法

レンズを取り巻く被嚢を含めてレンズ全体を摘出する方法です。上方角膜輪部において18~20mmの切開を行い、切開創からレンズ全体を摘出します。(同時に周辺虹彩切除術を行うことも。)レンズを鉗子または冷凍グローブを使って摘出していきます。

 

■嚢外摘出法

前嚢の一部とレンズ内容を摘出しって後嚢はそのままにしておく術式です。角膜輪部切開により、前嚢への接近がしやすくなります。前嚢を機械的に破り、レンズの核を摘出し、残ったレンズ皮質は洗浄し吸引して後嚢は定位に残します。レンズ後嚢は20歳ごろまで硝子体と癒着しているため、この方法は若者や児童に対して行われます。

出典:白内障(アイケア名古屋)

5、白内障の看護計画

5-1、白内障形成に関連した感覚・知覚の変調

看護目標:白内障患者が視力の変化に適応する

 

■観察項目

・視力

・視力喪失に対処するのを助ける力が家族にあるか

・視力低下、単眼複視、羞明、近視化の有無

 

■ケア項目

・患者の視力測定

・患者の生活上の必要性を検討し、視力のかすみや周辺視野の減弱を補う方法を示す

・手術を行うか否かの決定を明確にするため、家庭や地域社会の安全性、必要な生活様式の変更、結果として起こる感情について患者家族と一緒に話し合う

 

5-2、手術を受けることに対しての不安

看護目標:不安が軽減される

 

■観察項目

・表情、言動

・睡眠時間

・手術に対してどのような不安があるか

 

■ケア項目

・患者と白内障手術について話し合う。もし間違った見解をしていれば訂正する

・元気づけ楽な気持ちにさせる

・視力やその他の全体的問題、手術に不都合な事柄、状況についての知識、利用できるサポートシステムを一緒に調べる

 

■指導項目

・必要に応じて、患者や家族に手術の方法や手順について、使われる器具、手術にかかる時間、処置の内容、術後に起こり得ることを注意深く説明する

 

5-3、身体外傷の潜在的状態

関連因子:術前措置の欠如

看護目標:安全や危険を認識し回避することができる

 

■ケア項目

・指示に従い術前与薬を行う(抗生物質の点眼または軟膏、散瞳薬または毛様筋麻痺薬の点眼、眼圧降下薬、麻酔前与薬)

 

■指導項目

・転倒を防ぐため、まためまいの予防のため、重い荷物を持ち上げたり、極度に緊張したり、かがみこんだりしないよう説明する

・術後に目をこすったり瞼を無理に閉じないよう説明する

・目を触らないよう、特に高齢者には眼鏡着用を促す

 

5-4、白内障手術に関連した術後合併症のリスク

看護目標:術後合併症を起こさない

 

■観察項目

・過剰の液体排出、出血の有無

・バイタルサイン

・痛みの程度

・日中の歩行の状態

・眼帯は正しい位置に装着できているか

 

■ケア項目

・ベッドの頭の位置を30度にギャッジアップする

・眼圧の増大が見られた時は直ちに医師に報告する

・突発的な体温上昇、眼痛の出現に気を付ける

・非手術眼の側を下にむけるようにする

・患者と話す際は非手術眼の方向から近づき話す

・手術当日ふらつきがある場合は歩行付き添い

・眼帯の装着介助実施(術後1日目、2日目)

・必要に応じ夜間は防御用眼帯を装着する

・指示に応じ術後与薬を行う(散瞳薬点眼、縮瞳薬点眼、抗生物質または副腎皮質ステロイド薬の点眼、術後吐き気があれば制吐薬)

 

■指導項目

・ものを見る時は十分に頭を回して見るよう説明する

・日中眩しさが気になるようであれば色の濃い眼鏡をかけても良いと説明する

・眼帯、目薬の使い方を説明する

 

まとめ

いかがでしたか。白内障の治療は局所的ですが、視力障害を抱えた患者は転倒リスクも高く、また無意識に目をこすってしまい術後合併症を引き起こしてしまったりと管理や指導が大変重要です。退院した後も目薬や眼帯の装着を正しく行えるよう、患者家族にわかりやすい説明を心掛け、事故や術後合併症の予防に努めましょう!

 

参考文献

眼科疾患ビジュアルブック|株式会社学研メディカル秀潤社(落合慈之、平形明人|149-152|2013年3月26日)

クリニカルナーシング15眼疾患患者の看護診断とケア(石川稔生、樋口康子、小峰光博、中木高夫|株式会社医学書院|87-98|1991年4月)

横紋筋融解症の看護|横紋筋融解症の原因や症状・治療と看護のポイント

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みなさんは『横紋筋融解症』という病気をご存じでしょうか。

我が国では、1995年の阪神・淡路大震災で注目されるようになり、震災により約400人が外傷によるクラッシュ症候群から横紋筋融解症を引き起こし、約50名が死亡したと言われています。クラッシュ症候群とは座滅症候群とも言われ、長時間重たいものに圧迫された状態から解放された際に、破壊された筋肉から出された毒性の高い物質が血中に流出されることにより、腎臓や心臓の機能を悪化させる病態です。クラッシュ症候群は横紋筋融解症の原因の一つです。

ここでは横紋筋融解症について説明しますので、病態について学び、看護のポイントをしっかり押さえていきましょう。

 

1、横紋筋融解症とは

横紋筋融解症とは、何らかの原因で骨格筋が変性や壊死をきたし、筋細胞中のミオグロビンやクレアチンキナーゼ、カリウムなどが大量に血液中や尿中に放出される病態を言い、重症の場合は、急性循環不全や急性腎不全を引き起こし致死的な多臓器不全に引き起こす場合もあります。

 

■急性循環不全

血圧低下により血液循環が悪化し、重要な臓器への血液供給ができなくなる状態を言います。循環不全により心停止を引き起こす場合もあります。

 

■急性腎不全

急激に腎機能が低下し、老廃物の排泄ができなくなったり、体液中の水分や電解質のバランスが保てなくなる状態を言います。乏尿や無尿などの症状が見られますが、治療により回復する可能性があります。

 

■多臓器不全

生命を維持するために重要な臓器が複数障害された状態を言います。腎臓、肝臓、血液、呼吸器、循環器、消化器、中枢神経系のうち2つ以上が機能不全に陥った状態で、多臓器不全になると、回復は難しく致死的な状態となります。

出典: 株式会社スズケン

 

2、横紋筋融解症の原因

横紋筋融解症の原因は様々ですが、大きく外傷性のものと、非外傷性のものに分けられます。

外傷性のものには、圧迫性壊死や急性動脈閉塞、外科手術、電気ショックなどがあり、非外傷性のものには、感染症や先天性骨格筋疾患、代謝性ミオパチー、代謝異常、過度な運動、薬物などがあります。

なかでも薬物では、全身麻酔薬や向精神薬の他に、脂質異常症薬や抗生物質など身近な薬剤が原因となり横紋筋融解症を引き起こすこともあります。

 

■横紋筋融解症の原因薬剤

薬剤カテゴリー 薬剤
脂質異常症治療薬 HMG-CoA還元酵素阻害薬 アトルバスタチンカルシウム水和物、フルバスタチンナトリウム、プラバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ピタバスタチンナトリウム
フィブラート系薬剤 クリノフィブラート,フェノフィブラート,ベザフィブラート,クロフィブラート,クロフィブラートアルミニウム
その他 プロブコール,コレスチミド
抗生物質製剤 ニューキノロン系抗菌薬 オフロキサシン,塩酸ロメフロキサシン,ガチフロキサシン水和物,プルリフロキサシン,スパルフロキサシン,ノルフロキサシン,トシル酸トスフロキサシン,メシル酸パズフロキサシン,エノキサシン,フレロキサシン,シプロフロキサシン,レボフロキサシン
マクロライド系抗生物質 クラリスロマイシン
β-ラクタム系抗生物質 ピペラシリンナトリウム,塩酸セフカペンピボキシル,ファロペネムナトリウム,タゾバクタムナトリウム・ピペラシリンナトリウム
神経系に作用する薬 エチゾラム,ブロムペリドール,ハロペリドール,デカン酸ハロペリドール,リスペリドン,塩酸ペロスピロン水和物
抗うつ薬 塩酸クロミプラミン,塩酸マプロチリン
躁病・躁状態治療薬 炭酸リチウム,バルプロ酸ナトリウム
ベンゾジアゼピン系睡眠薬 フルニトラゼパム
キサンチン系気管支拡張薬 テオフィリン,アミノフィリン,コリンテオフィリン,プロキシフィリン,ジプロフィリン
解熱消炎鎮痛薬 ジクロフェナクナトリウム
免疫抑制薬 シクロスポリン
痛風・高尿酸血症治療剤 アロプリノール,コルヒチン
上記以外に,消化性潰瘍治療薬,総合感冒薬,高血圧治療薬,骨格筋弛緩薬,抗真菌薬などがあります。

出典:お薬の副作用としての横紋筋融解症(筋肉の痛み)(徳島県薬剤師会)

 

3、横紋筋融解症の症状

横紋筋融解症の症状には、手足のしびれや脱力、筋肉痛やこわばり、全身倦怠感、異常色(赤褐色)尿などがあり、横紋筋が破壊されるため、筋肉の炎症や痛みが出現します。

また、尿中へのミオグロビン排泄量が増加するため赤褐色尿となります。ミオグロビン尿は、横紋筋の融解が起きた場合でしか発生せず、大量のミオグロビンが尿細管を閉塞することにより腎不全を引き起こすと考えられています。

検査所見では、高カリウム血症や高ミオグロビン血症、クレアチンキナーゼ(CK)上昇などの所見が見られます。

 

4、横紋筋融解症の治療

横紋筋融解症により致死的な合併症を引き起こす可能性があるため、早期発見・早期治療が重要となります。また、薬物が原因の場合には、原因薬剤の使用をただちに中止します。

輸液等により循環動態の安定を図ることが治療の基本となり、重症度によって大量の輸液が必要となったり、明らかな腎障害が認められる場合は、血液透析の導入される場合もあります。

 

5、横紋筋融解症の看護のポイント

横紋筋融解症は、重篤化し生命の危機に陥る可能性があるため、症状や兆候の変化をいち早く発見することが看護のポイントとなります。そのためには、横紋筋融解症の病態をしっかりと把握し、患者の状態を十分に観察することが重要です。

 

5-1、横紋筋融解症の問題点と看護ケア

横紋筋融解症の病態より、腎機能障害、電解質異常、ADL制限、精神的ストレスの増強などの問題点が挙げられます。

 

■腎機能障害

横紋筋融解症は腎障害から腎不全を引き起こす可能性があるため、ミオグロビン尿や腎機能の変化に注意し観察を行います。重篤な場合は、血液透析が導入されるケースもあるため、透析に対するケアが必要になる場合があります。

腎不全から死に至ることもあるため、患者の状態や臨床検査値などの変化が見られた場合には、ただちに医師へ報告し指示を仰ぎましょう。

 

■電解質異常

横紋筋融解症では高カリウム血症がみられる場合があります。血中のカリウムが上昇すると、不整脈を引き起こし質的な不整脈から心停止に至る可能性もあります。

心電図変化や臨床検査値および高カリウム血症に伴う症状(四肢のしびれ、筋力低下、吐気など)の出現、増強の有無に注意し観察をしていきましょう。

 

■ADL制限

横紋筋融解症の症状には個人差がありますが、患者の状態によってはADLへのケアが必要となる場合があります。

麻痺や筋力低下によりADLの低下がみられる場合は、日常生活動作の援助が必要となります。

また、治療によりADLが制限される場合もあり、補液や尿道カテーテルが挿入される場合は、ADL援助の他に感染予防への対策も必要となります。

患者の状態を正しく把握し、それぞれの患者の状態に合わせたケアを提供していきましょう。

 

■精神的ストレスの増強

横紋筋融解症は重篤化すると死に至る可能性があります。患者は大きな不安を抱いていることが予測されます。またADL制限によりストレスが増強する可能性もあります。患者の言動や表情を観察し、精神的ストレスの軽減に努めましょう。

 

まとめ

臨床現場において横紋筋融解症の患者の看護に携わることは、それほど多くないかもしれません。しかし、横紋筋融解症は生命に危機に直結する可能性のある疾患です。悪化の症状・兆候の早期発見のためには、病態に対する知識をしっかりと身につけておくことが重要です。

 

参考文献

重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚生労働省|平成18年11月)

J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 16 No. 3『横紋筋融解症の病態と臨床』(日集中医誌|2009)

ファロー四徴症の看護|ファロー四徴症の原因や症状とその看護計画

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先天奇形であるファロー四徴症は、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右室肥大の四徴からなり、頻脈、多呼吸、哺乳不良、無酸素発作などを起こす重大な疾患です。3歳までを目安に手術が行われますが、子どもは手術をするということを理解できなかったり、怖がって啼泣し術前に無酸素発作を起こしてしまったりと、術前術後の看護は非常に難しいです。安心して手術に臨めるよう、また術前の発作に対応できるよう、ここでしっかり勉強しましょう。

1、ファロー四徴症とは

ファロー四徴症とは、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右室肥大の四徴からなる先天性心疾患です。生後1~6か月の間にチアノーゼで初発することが多く、2歳以上ではチアノーゼ性心疾患の約90%を占めます。

2、ファロー四徴症の原因

ファロー四徴症の原因は先天奇形です。先天奇形とは、正常な発生の障害による器官、器官の一部、あるいは身体の一部の形態以上のことをいい、これは外表性の形態異常だけではなく、内部臓器の形態異常も含まれます。先天奇形は、障害される臓器や器官により以下のような奇形が発生します。また、ファロー四徴症の場合、一臓器に複数の奇形が現れます。

 

■臓器・器官 ■先天奇形の例
中枢神経系 無脳症、脊髄髄膜瘤
顔面 口唇裂、口蓋裂
消火器 食道気管瘻、鎖肛、十二指腸閉鎖、腸回転異常、臍帯ヘルニア、メッケル憩室
泌尿器・生殖器 尿道下裂、停留睾丸
循環器 大血管転位、心室中隔欠損、動脈管開存症、ファロー四徴症
四肢 合指症

出典:小児看護学 子どもと家族の示す行動への判断とケア 第6版(筒井真優美|日総研グループ|250表9障害される臓器および器官と先天奇形の例 2010年10月28日)

3、ファロー四徴症の症状

ファロー四徴症の症状は、頻脈、多呼吸、哺乳不良などです。生後2~3か月より無酸素発作、4~6か月以降ではばち指が見られ、2歳以降に蹲踞姿勢、発育障害が見られます。蹲踞姿勢とは、胸と膝をつけてしゃがみ込む姿勢で、蹲踞の姿勢では腹部大動脈と大腿動脈を圧迫することで体血流抵抗を増大させ、VSD(心室中隔欠損症)での右→左シャントを減少させる効果があります。また、合併症として低酸素による多血症が原因で脳血栓を起こしたり、脳腫瘍、右→左シャントによる細菌が体循環へ移行することで感染性心内膜炎を起こすこともあります。

出典:ファロー四徴症(特定非営利活動法人日本小児外科学会)

 

ファロー四徴症の特徴と症状についての詳細は以下を参照してください。

形態の特徴 心室中隔欠損 右心室と左心室を隔てる心室中隔に欠損孔がある
肺動脈狭窄 右心室からの肺動脈への流出口が狭い
大動脈騎乗 大動脈が心室中隔にまたがり、左右の両心室にかかっている(通常は左心室のみ)
右室肥大 肺動脈狭窄により、流出経路が狭く収縮期血圧が高いため、右室壁が肥厚(通常は薄い)
症状 チアノーゼ 欠損孔(心室中隔欠損)と狭窄(肺動脈狭窄)の存在により、血流は肺動脈よりも心室中隔欠損を通して左室に流れやすいため右→左短絡(右室から左室への血流)が起こり、その結果、酸素飽和度の低い血液(静脈血)が大動脈に直接流れ込み、全身に送られる
低酸素発作 肺動脈弁下の筋肉が収縮して肺血流が急激に低下すると、右→左短絡量が増加する。運動や啼泣などによって引き起こされる
多血症 肺胞でのガス交換が正常に行われず、血中酸素濃度が低下した状態の不足部分を補うため、赤血球数が増加する
ばち状指 末梢血管のうっ血によるチアノーゼ状態が長期に続くと出現する
蹲踞姿勢 下肢の血流を減少させ血管抵抗を増やすことで、右→左短絡量を減少させる。子どもが無意識にしゃがみ込んで無酸素発作を回避する行動で、運動後などに見られる。

小児看護学 子どもと家族の示す行動への判断とケア 第6版(筒井真優美|日総研グループ|251 表11ファロー四徴症の特徴と症状 2010年10月28日)

4、ファロー四徴症の治療

症状の一つである右室肥大は、長期的には右心不全や不整脈の原因となり得るため、子どもの生活の質の向上を考えると、3歳までを目安に手術をすることが望ましいとされています。1歳までは、頻回の失神発作、無酸素発作、心不全徴候が生じるものに肺血流増加を目的とした姑域手術(ブラロック・タウジッヒシャント手術)を行います。ブラロックタウジッヒシャント手術とは、鎖骨下動脈を切断し、肺動脈と端側吻合する術式で、人工血管を用いることが多いです。ファロー四徴症は年齢が高くなればなるほど根治が難しくなるため5歳以前に根治手術(肺動脈狭窄の解除とVSDの閉鎖)を行います(最適時期は1~3歳)。

5、ファロー四徴症の看護計画

5-1、術前低酸素発作のリスク

■看護目標:低酸素発作を起こさない

 

■観察項目

・バイタルサイン

・呼吸パターン

・チアノーゼの有無

・蹲踞姿勢の有無

・顔色

・機嫌

・確実に内服が行われているか

 

■ケア項目

・できるだけ刺激を排除し、激しい啼泣を誘発させない

・適切な移動方法を選択する

・ケアを行う際は侵襲の少ないものを選択する

・家族など安心できる存在により精神的な安寧の保持を図る

・哺乳や食事は本人のペースを守る

・適宜浣腸緩下剤使用し排便時の努責を防ぐ

・睡眠環境を整え、中途覚醒を避ける

・温度、湿度の管理

・活動を抑えた遊びの環境を提供する

・生活動線を考慮する

・適切な発達課題を妨げない

・検査や処置中は指示に従い酸素投与

・検査や処置は低酸素発作に備えた場所で行う

 

■指導項目

・子どもの理解ややる気に応じて説明やプレパレーションを行う

 

5-2、身体外傷の潜在的状態

■看護目標:危険を回避し身体外傷を起こさない

 

■観察項目

・麻酔の覚醒状態、意識レベル

・点滴、ドレーンの固定

・創痛の程度

・手術への理解度

・表情、言動

 

■ケア項目

・点滴、ドレーンに触らないよう包帯を巻く

・指示に従い鎮痛剤使用

・4点柵実施

・術後暴れることがあれば、体幹ジャケットやミトン固定を行う

・子どもが好きなおもちゃやぬいぐるみなど、安心できるものをベッドサイドにおいておく

 

■指導項目

・いつになったら点滴が終わるのか、いつになったら離床できるのか、子どもが回復をイメージできるように説明する

6、退院指導

退院後は、術後の長期的な合併症を防止するため、退院後に起こり得ることを家族に説明しておく必要があります。ただ「何かあれば連絡をください。」という漠然な指導ではなく、「体育の授業中に動機がしたり、息苦しくなったり、急な発熱があれば○○に電話してください。」などくわしい症状や連絡先を明記するのが親切です。また外来通院になる場合は、外来と情報を共有し、同じ質のケアが提供できるよう密に連携すれば、子どもや家族にも安心して受診してもらえます。

 

まとめ

手術が近づくにつれ、子どもはこれまで受けたことがない処置を受けることになったり、家族の不安を感じ取って敏感になります。何か自分が悪いことをしたからではないかと落ち込んだり、痛みを怖がり医療従事者を見ただけで泣いてしまう子どももいます。家族と子どもの両方が、手術を理解し、前向きに望めるよう、毎回のケアや処置の際は理解度に合わせて実施していきましょう。術前の発作をいかに予防するか、子どもをやる気にさせるかはあなたの腕にかかっています。

 

参考文献

小児看護学 子どもと家族の示す行動への判断とケア 第6版(筒井真優美|日総研グループ|250-252 264-267表11ファロー四徴症の特徴と症状 2010年10月28日)

看護師・看護学生のためのレビューブック2016第17版|メディックメディア(岡庭豊|C69-70 平成27年3月19日)


圧迫骨折の看護計画|原因や症状、コルセット治療について

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圧迫骨折は、胸椎や腰椎の椎体がつぶれて扁平になってしまう疾患です。昔は若い人が高所から落ちたときなどの外傷時に生じることが多かったのですが、最近は高齢社会に伴い、骨粗鬆症を背景とした高齢者の患者が多くなりました。今回は圧迫骨折の病態・治療を学び、そこから看護計画を立案していきます。

 

1、圧迫骨折とは

人間の脊椎は、頭部と体幹を含む上半身を支えています。脊椎は7個の頸椎(C)と12個の胸椎(T)および5個の腰椎(L)、それに仙椎(S)・尾椎からなり、その一つ一つを椎体といいます。椎体は意外にもろいので、ちょっとした外傷によって潰れてしまいます。圧迫骨折は「骨折」という名前がついていますが、骨がポキンと折れるものではなくて、椎体が「潰れる」「ひしゃげる」ことで発生する疾患です。

 

■圧迫骨折のしくみ

出典:医療法人鉢友会 はちや整形外科医院 骨粗鬆症 脊椎圧迫骨折

 

圧迫骨折には、腰椎の椎体が潰れる「腰椎圧迫骨折」と、胸椎の椎体が潰れる「胸椎圧迫骨折」があります。どこに力が加わったかという受傷機転によっても違いますが、腰椎圧迫骨折は骨粗鬆症がベースにある高齢者に多く、胸椎圧迫骨折は比較的事故などの思わぬアクシデントによる若年者の発症が多く、若干性質が異なります。

臨床では、夜間や明け方にトイレに行こうとして畳のヘリなどの段差につまずいて転倒したり、ベッドから転落して発症するケースが多くみられます。患者が全く動けなくなってしまった場合、救急車を要請して救急外来を時間外受診し、圧迫骨折と診断を受けても自宅への帰宅が困難で、もめるケースもしばしばあります。

 

2、圧迫骨折の原因

圧迫骨折は、ベースとなる骨の強さと加わった外傷によって、骨折する場所や程度が変わります。骨の強い成人男性が、日常生活を送る中で発症することは稀です。しかし、強いエネルギーの加わるような事故が起これば、いくら屈強な男性でも圧迫骨折を起こします。一方で、骨のもろい高齢女性の場合は、立ち上がろうとしたときやくしゃみなど、たわいもない日常生活動作だけで発症することもあります。昨今は圧迫骨折による高齢者の寝たきりや介護問題も多く発生しており、圧迫骨折を始めとした全身の骨折を予防するために、積極的に骨粗鬆症の治療を行うようになってきました。それでも、患者は増加の一途をたどっています。

また、骨は病気によってもろくなることがあります。成人男性で骨がもろくなる理由としては、悪性腫瘍によるものがあります。前立腺癌は男性特有の癌ですが、かなり進行するまで自覚症状はほとんどありません。ちょっとしたことで圧迫骨折を起こして精査してみたら、前立腺癌による骨転移が発見される・・・というケースも、珍しくありません。

このように、圧迫骨折は原因を分けると、

 

➀外傷・受傷によるもの

②加齢等によるもの

➂病的なものに分類されます。

 

■圧迫骨折の原因

➀外傷・受傷によるもの

・重いものの持ち上げ

・事故(スポーツ事故・交通事故・転落事故)

②加齢等によるもの

・60代以上の女性もしくは70代以上の男性

・骨粗鬆症(骨密度の低下)

・くしゃみ

・転倒時の尻もち

・身体の捻り(ひねり)

・強い前屈

➂病的なもの

・悪性腫瘍の転移

・その他骨疾患(骨軟化症etc.)

 

3、圧迫骨折の症状

圧迫骨折を起こすと、背中の突起物である棘突起を順番に指で押していくと、同じ場所で叩打痛(こうだつう)が現れます。激しい腰痛と背部痛が主たる症状で、歩行や寝返りをうつだけで激痛が走ります。また、椎体の後方部にまで骨折が及ぶと症状は一層ひどくなり、下肢の痛みや痺れといったヘルニア様の症状、ときには尿が出にくくなったりする麻痺症状も出現します。この疼痛は、1か月以上続くこともあります。

 

4、圧迫骨折の治療とコルセット

圧迫骨折の治療は、基本的に安静です。発症(受傷)後1か月は、骨折部の変形を起こしやすいため、特に注意が必要です。圧迫骨折の治療には、コルセットを使用します。コルセットを装着することで疼痛を軽減し、骨の変形を防ぐ効果もあります。

コルセットはよく肋骨骨折で使用するバンドとは違い、硬さや範囲など様々な種類があります。胸椎圧迫骨折用、腰椎圧迫骨折用、それから硬性・軟性があります。下の写真は、二つとも胸椎用ですが、硬性コルセットはプラスチック製で、かなり動きが制限されます。その分、受傷直後には安静のためにこちらを使用することが多くなります。

 

■胸椎軟性コルセット

出典: 体幹装具(株式会社 澤村義肢製作所)

 

■胸椎硬性コルセット

出典: 体幹装具(株式会社 澤村義肢製作所)

 

骨折が治ると、体動時の疼痛は消失します。しかし、長時間座位をとるときには疼痛が出てきますので、コルセットを使用しながら少しずつ日常に戻すことが必要です。元の生活に戻るようにするには、1年かかることも珍しくありません。また、高齢者では圧迫骨折による安静を機にADLが低下したり、認知症を発症・悪化させてしまうこともあります。

また、圧迫骨折を発症した高齢の患者は骨粗鬆症の背景を持つことが多いため、再発予防も大切です。内服や注射による骨粗鬆症の治療を行うことにより、圧迫骨折だけでなく大腿骨頸部骨折等、他の部位の骨折予防にもつながります。

 

5、圧迫骨折の看護問題

圧迫骨折における治療の基本は保存治療ですので、基本的には入院の必要がないケースが多数を占めます。しかし、あまりの疼痛に全く動けなくなってしまった、高齢者で1人暮らしの患者など、社会的な意味を含めて入院治療を行う場合も多くあります。圧迫骨折における看護は、疼痛に対する看護に終始します。今回は急性疼痛に対する看護問題を挙げてみました。

 

看護問題:(胸腰椎)圧迫骨折による急性疼痛

看護目標:疼痛が緩和し、受傷前のADLの状態に戻る(維持することができる)

疼痛が緩和し、良眠できる

 

6、圧迫骨折の看護計画

■O-P

1.疼痛の有無と程度

2.疼痛の生じる行動・体位

3.疼痛による行動制限の有無

4.コルセット装着の有無と、適切に使用できているか

5.コルセット装着による皮膚障害の有無

6.疼痛の訴え

7.食事摂取量

8.夜間の睡眠状態(本人の睡眠に対する満足度)

9.画像データ

10.不穏症状の有無

11.鎮痛剤の使用状況

12.家人の協力、退院後の受け入れ態勢

 

■T-P

1.疼痛の程度により、医師の指示のもとで鎮痛剤を使用する。

2.安楽な体位を工夫する。

3.排泄や保清など、必要な範囲でのADLの介助を行う。

4.コルセットの装着時に介助する。

5.コルセット着用を促す。

6.安静度がUPしたら、下肢の筋力低下を防ぐため歩行を促す。

7.歩行時に疼痛がひどいようであれば、車椅子や歩行器を使用する。

8.医師の指示のもと、できるだけ早期からリハビリを開始する。

9.自宅退院に向け外来通院によるリハビリが必要な場合、各部署と連携をとる。

 

■E-P

1.圧迫骨折の治療には安静が重要であることを説明する。

2.日中は必ずコルセットを着用するよう指導する。

3.無理な体動は避けるように説明する。

4.疼痛のひどい場合、ありのまま伝えるように説明する。

5.家族に病態や安静の必要性、また安静の弊害について説明する。

 

まとめ

圧迫骨折の治療は、基本的に時間が解決してくれるものです。それまでの間はコルセット装着と鎮痛剤使用により安静を図ることになりますが、臨床では痛みが軽減するまでの生活がままならず、入院治療を希望する患者・家族が大勢います。過度な安静によってADLの低下や認知症の発症・悪化がしないように配慮しながら、看護師は疼痛による体動制限への介入が必要となります。骨粗鬆症の予防治療も進歩していますが、高齢社会において、今後も圧迫骨折の患者は増加することが懸念されます。

 

参考文献

骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折(一般社団法人日本骨折治療学会|浦山 茂樹)

椎体骨折評価基準(日本骨代謝学会|2012)

便秘の看護計画|便秘の原因とその薬、看護問題・計画

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便秘とは、ひと言で言っても原因や発生機序によって分けられ、その種類によっても看護ケアが変わってきます。便秘は生活習慣によって起こるものや、疾患によって起こるものもあります。便秘は単純なもののように思えますが、便秘によっての肛門疾患や結腸癌のリスクの増加もあると言われており、また看護を行う上でよく関わるものでもあるので、ここで原因や治療方法など便秘について再度確認して、看護に役立てましょう。

 

1、便秘とは

便秘とは排便の回数や量が減り、排便することが困難な状態のことをいいます。排便の回数や習慣は個人差があり、1日に1回排便がないことでも便秘であったたり、もともと3日に1回の排便習慣の人もいます。便秘について回数や量での明確な定義はありませんが、規則的排便は健康の一要素であり、排便回数や量が減って不規則となり排便習慣を逸脱した排便を便秘とすることもあります。

便秘には、急性便秘と慢性便秘という大きく2種類に分けられ、さらにその原因によって分類されます。

 

1−1、急性便秘

急性便秘は一過性便秘とも呼ばれ、旅行や生活環境の変化などで起こる短期間での便秘のことをいいます。この一過性の便秘は機能性便秘と言われますが、疾患によって急に起こる器質性便秘もあります。

 

①機能性:消化管に異常はないが腸過敏性症候群、生活習慣などでの機能低下によって排便の回数や量が減少するもの

②器質性:消化管そのものの病変が原因であるもの

 

1−2、慢性便秘

一般的に便秘というのはこの慢性便秘のことをいいます。慢性便秘は原因によって、症候性、薬剤性、器質性、機能性と分類されます。

 

①症候性:神経疾患、内分泌疾患が原因であるものや、腫瘍、憩室の形成と進行にともなう症状によるもの

②薬剤性:薬物中毒、重金属中毒、薬の副作用によるもの

③器質性:消化管そのものの病変が原因であるもの

④機能性:消化管に異常はないが腸過敏性症候群、生活習慣などでの機能低下によって排便の回数や量が減少するもの

 

2、便秘の原因

便秘の原因をそれぞれの分類に沿ってみていきます。

 

2−1、機能性便秘

機能性便秘は胃結腸反射の低下や排便排出機能の障害などが原因で起こります。生活習慣が主な原因で起こるものをいいますが、その原因は、食物繊維不足、水分摂取不足、運動不足が要因とされ、大腸の機能低下が要因に挙げられますが、疾患が原因となっているものではありません。またストレスや食事内容の変化も原因となっています。

機能性便秘には、大腸通過遅延型と排便機能障害型があります。

 

①大腸通過遅延型:胃結腸反射の低下により大腸内や全消化管の通過時間が千円することによって起こります。大腸の筋肉が弛緩することによって、便を押し出すことができないために起こります。高齢者や女性に多いのが特徴です。

②排便機能障害型:肛門括約筋の排出力低下やストレスが要因となっていると言われているもので、自律神経のバランスの乱れによって大腸が正常に動かなくなり、肛門括約筋の協調不全や大腸が痙攣したようになるために起こります。

出典:おなかのはなし.com

 

2−2、器質性便秘

器質性便秘は、胃、小腸、大腸、肛門に疾患があり、または狭窄や閉塞によって発症する便秘です。原因となる疾患は次の通りです。

 

①閉塞:大腸直腸腫瘍、炎症性腸疾患

②腸管壁の障害・蠕動運動障害:全身性硬化症、発達障害、パーキンソン病、多発性硬化症、糖尿病、甲状腺機能低下症など

③圧迫:腸管癒着、ヘルニア嵌頓、巨大腹腔内腫瘍(子宮筋腫など)

 

2−3、症候性便秘

症候性便秘は、何らかの疾患が原因となって合併症として起こる便秘で、内分泌疾患、代謝性疾患、神経疾患、精神疾患、循環器疾患などで起こります。このような疾患によっての便秘は、腸管運動機能の低下によって起こります。腸管運動機能の低下は、例えば、糖尿病なら神経障害によって、甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモンの分泌低下、低カリウム血症では筋肉障害、神経系疾患では中枢神経系の障害で起こるとされています。

 

■症候性便秘を起こす疾患

内分泌疾患 糖尿病・甲状腺機能低下症・副甲状腺機能亢進症・褐色細胞腫・汎下垂体機能低下症・グルカゴノーマ
代謝性疾患 ポルフィリン症・低カリウム血症・高カルシウム血症
神経疾患 パーキンソン病・脳血管障害・多発性硬化症・脳腫瘍・脊髄障害・筋ジストロフィ
精神疾患 うつ病・統合失調症
循環器疾患 急性心不全・急性心筋梗塞
その他 膠原病・アミロイドーシス・肺気腫・尿毒症・鉛中毒

 

2−4、薬剤性便秘

薬剤性便秘は、腸管運動機能を低下させるまたは抑制させる薬剤によって起こります。

 

■便秘を引き起こす薬剤

薬の種類 一般名 便秘のメカニズム
制酸薬 ・水酸化アルミニウム

・カルシウム塩

収斂作用によって起こる
高脂血症治療薬

鉄剤

・コレスチラミン

・硫酸鉄

腸管運動機能低下、脱水、水分制限による
抗コリン薬(パーキンソン病治療薬)

アトロピン様薬剤

ドパミン作動薬

・ビベリデン塩酸塩

・レボドパ

平滑筋に対するアセチルコリンの作用を抑制し、消化管の緊張や運動性を減少させる様に作用する
抗うつ薬(三環系) ・アミトリプチリン塩酸塩

・ノルトリプチリン塩酸塩

・イミプラミン塩酸塩

腸管壁の平滑筋細胞に対して抗コリン用の作用をする
抗精神病薬(フェノチアジン系) ・クロルプロマジン塩酸塩

・マレリン酸トリフロペラジン

腸管の筋層間神経叢障害が起こる可能性があり、慢性便秘の原因となる。

便嵌頓は局所の炎症や、潰瘍、出血、先行の原因となる。

抗がん薬 ・ビンクリスチン硫酸塩 上部結腸の便嵌頓を起こすことがある。

麻痺性イレウスを起こしやすい。

麻薬系鎮痛薬 ・リン酸コデイン 腸管の推進力や蠕動収縮力の減少に関与する腸平滑筋の静止緊張を上昇させる
抗ヒスタミン薬 ・ジフェンヒドラミン

・プロメタジン塩酸塩

内在性の抗コリン作用
緩下薬 ・センナ

・ビサコジル

長期使用(濫用)は正常の蠕動を抑制するような平滑筋の緊張と収縮性の消失(無緊張)を導く
利尿薬(非カリウム保持性) ・クロルタリドン

・サイアザイド

・フロセミド

脱水による硬い便塊形成の原因となる。

カリウム保持製剤の抗利用は虚血性海洋の原因となる。

降圧薬

抗不整脈薬

・Ca拮抗薬(ベラパミル塩酸塩など)

・クロニジン塩酸塩

・ジソピラミド

平滑筋の運動を抑制
止痢薬 ・ロペラミド塩酸塩

・ベルベリン塩化物水和物

腸管運動抑制作用

 

3、便秘の薬について

便秘時に使用する薬剤は、生活習慣の改善と併用することが大切です。また、便秘薬の種類は多くありますが、その特徴を知って使用することも必要です。便秘薬としてよく使用されるのは酸化マグネシウムなどの緩下薬やセンノサイド系の刺激性下剤がありますが、依存性が強い薬剤なので、連日使用は避けるようにします。また、酸化マグネシウムは併用する薬剤に注意が必要であり、高マグネシウム血症の患者には注意が必要です。

このような薬の他に、漢方もよく使われます。麻子仁丸や潤腸湯、大建中湯などが便秘時によく使用される漢方です。

 

4、便秘の看護問題

便秘の看護問題は「排便の変調:便秘」として大きくまとめられますが、細かく分けると次のようなものが挙げられます。

 

①食事摂取量・水分摂取量の減少によって便秘となっている

②術後の安静や運動不足によって腸管運動機能の低下がある

③薬の副作用による腸管運動機能の低下がある

④精神状態や、認知症による便意認識の欠如がある

⑤疾患により腸管閉塞、または狭窄がある

⑥排便痛や怒責時の疼痛があり、排便困難である

⑦ストレスや環境の変化により、腸管運動機能の低下がある

⑧疾患によって排便機能に障害がある

 

5、便秘の看護目標

上記の看護問題に関する看護目標としては、次のようなものが挙げられます。

 

①腸管運動機能が改善し、排ガスや排便がみられる

②規則正しい排便習慣となる

③排便コントロールを自己管理できる

 

6、便秘の看護計画

■観察項目(OP)

・排便状況(排便の回数、量、性状、間隔)

・排便時の疼痛、出血など苦痛の有無

・腹部膨満感の有無

・使用薬剤と使用頻度

・食事量

・水分摂取量

・検査データ(腹部X-P、腹部CT、内視鏡検査など)

・排泄環境、方法

・排便についての知識、言動

 

■ケア項目(TP)

・排泄しやすい環境を整備する

・腹部マッサージや温罨法を行う

・便秘の原因をアセスメントし、必要なら医師へ報告して指示を仰ぐ

・水分摂取を促す

・医師の指示に基づいて、便秘薬を与薬する

・必要時、医師の指示に基づいて浣腸や摘便を行う

・術後、早期離床を行い、離床が難しい場合は体位変換を適宜行う

・思いを傾聴する

 

■教育項目(EP)

・水分摂取の必要性を説明する

・食物繊維を含む食事を指導する

・便秘薬の使用方法を説明する

・適度な運動の必要性を説明する

・排便方法を患者とともに考える

・排便は決して我慢しないように説明する

 

まとめ

便秘は生活習慣で起こるものや疾患や薬剤が原因で起こるものなど、様々な要因によって発生します。看護ケアの中でも便秘は日常的なもので、大切な援助項目でもあります。看護によって薬を使用しなくても便秘を改善することができることもあります。便秘の知識を改めて知ることは、看護の質を高めることにも繋がることでしょう。

 

参考文献

排便と健康(順天堂醫事雑誌Vol.60 No.1 p.16-24|浦尾正彦| 2014)

便秘の定義と便秘体質(中村学園大学薬膳科学研究所研究紀要第5号P.49-54|徳井教孝、三成由美|2012年9月発行)

慢性便秘の診断と治療最前線(日本内科学会|中島淳)

熱傷の看護|分類、9の法則、ガイドラインに基づく治療・処置、看護計画

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熱傷は熱によって皮膚が損傷した状態のことです。熱傷は重症度によって治療法が異なります。熱傷の患者は重症になると、全身管理が必要になり、長期間の治療を行う必要があります。

熱傷の基礎知識や分類、9の法則、ガイドラインに基づく治療・処置、看護計画をまとめました。熱傷患者の看護をする時の参考にして下さい。

 

1、熱傷とは

熱傷とは熱によって皮膚が損傷した状態のことを言います。一般的には「やけど」と呼ばれています。

熱傷は高温のものに皮膚が一定時間以上接することで起こりますが、場合によっては高温のものではなく50℃前後のものに皮膚が長時間接することで、熱傷が起こることもあります。また、化学薬品や放射線などによる損傷も「化学熱傷」として、熱傷に分類されることがあります。

熱傷の範囲が小さければ、全身に影響が出ることはありませんが、熱傷が広範囲に及ぶと全身に影響が現れ、さらに年齢と熱傷範囲の割合の合計が100を超えると、死に至るリスクが高くなるとされています。

例えば、65歳の人が体表面積の40%の熱傷を受傷すると、65+40=105になり、100を超えるので、死亡のリスクが高くなるのです。

2、熱傷の診療ガイドラインによる分類

熱傷はその深度によってⅠ~Ⅲ度に分類されます。

出典:熱傷深度とその鑑別法が説明できる 帝京大学救命救急センター

 

■Ⅰ度

Ⅰ度の熱傷は表皮のみの浅い熱傷(表皮熱傷)で、有痛性の紅斑や発赤、浮腫、疼痛が起こるのみになります。3~4日で治癒し、瘢痕は残りません。

 

■Ⅱ度

Ⅱ度は真皮層にまで達した熱傷で、真皮浅層熱傷(浅達性Ⅱ度熱傷=SDB)と真皮深層熱傷(深達性Ⅱ度熱傷=DDB)の2つに分類されます。

真皮浅層熱傷は真皮の有棘層・基底層にとどまる損傷で、真皮深層熱傷は真皮の深層部である乳頭層や乳頭下層にまで及ぶ熱傷になります。

分類 所見 治癒までの期間 瘢痕の有無
真皮浅層熱傷 紅斑、水疱、発赤、強い疼痛、灼熱感、知覚鈍麻 2週間前後 瘢痕なし
真皮深層熱傷 白色の水疱、著しい知覚鈍麻、強い疼痛、灼熱感 3~4週間 残る可能性が高い

 

■Ⅲ度

Ⅲ度熱傷は皮下組織や骨まで達した熱傷で、水疱はできず、皮膚は灰白色または褐色に変化し、場合によっては炭化して壊死します。

Ⅲ度の熱傷は疼痛はなく、知覚もなくなります。治癒までには1ヶ月以上を要し、ケロイドになったり、瘢痕拘縮が残ります。

3、熱傷の9の法則

熱傷の重症度を判定するためには、熱傷の深度も大切ですが、熱傷面積もとても重要になります。一般社団法人熱傷学会の「熱傷診療ガイドライン〔改定第2版〕」によると、熱傷面積は予後推定因子として、最も基本的なものであるとされています。

熱傷面積をすばやく推定するために、救急現場では9の法則が用いられています。この熱傷面積の推定にはⅠ度の熱傷は含めません。Ⅱ度とⅢ度の熱傷面積で計算します。

出典:「熱傷」一覧 : 救命救急センター 東京医科大学八王子医療センター

 

9の法則とは成人に適用される熱傷面積の推定方法です。頭部と右上肢、左上肢を9%、体幹部の前面を18%、後面を18%、右下肢、左下肢をそれぞれ18%、陰部を1%として、熱傷面積を推定します。

小児の場合は、5の法則と言います。乳児は頭部と体幹前面、体幹後面を20%、四肢はそれぞれ10%として計算します。幼児は頭部を15%、右上肢、左上肢はそれぞれ10%、体幹前面を20%、体幹後面と右下肢、左下肢はそれぞれ15%で計算します。

4、熱傷のガイドラインに基づく治療・処置

熱傷の治療や処置は、一般社団法人熱傷学会の「熱傷診療ガイドライン〔改定第2版〕」に基づいて行われることが多いです。

 

4-1、外用剤での局所療法

受傷直後は流水で30分程度の冷却をして、鎮痛や消炎、浮腫の抑制を行います。

 

■Ⅱ度熱傷

湿潤環境を維持するためにワセリンを塗布することを基本とし、熱傷の状況によっては抗生剤やステロイドなどを用います。また、ハイドロコロイドなどの創傷被覆材を用いることも推奨されています。

 

■Ⅲ度熱傷

Ⅲ度熱傷では、広範囲の場合は壊死部分を外科的に切除する必要がありますが、それまでは感染予防を目的にゲーベンクリームの使用が推奨されています。

また、小範囲のⅢ度熱傷の場合、壊死組織の除去のために、ブロメライン軟膏やソルコセリル軟膏を塗布することが多いです。Ⅲ度熱傷には創傷被覆材はあまり用いません。

 

■外科的局所療法

30%TBSA(体表面積の30%)以上の熱傷に対しては、早期にデブリードマンを行い、創の閉鎖を行うことが「熱傷診療ガイドライン〔改定第2版〕」では推奨されています。

また、死亡率が低下したり、再建手術の減少、合併症の減少、入院期間の短縮などが報告されていますので、デブリードマンと同時に同種皮膚移植(スキンバンクや家族の皮膚)を行うこともあります。

 

■全身療法

成人で15%TBSA以上、小児で10%TBSA以上では、熱傷受傷後2時間以内に輸液を開始することが推奨されています。基本は乳酸リンゲル液などの等張の電解質輸液を尿量やCVP(中心静脈圧)、ナトリウム濃度、カリウム濃度などをモニタリングしながら、輸液します。また、状態によってはアルブミンなどのコロイド輸液を併用することもあります。

そして、広範囲の熱傷の治療には、感染対策が欠かせません。感染対策のために、標準予防策を実施し、水治療や排便管理チューブの使用、予防的抗菌薬の投与などを行います。

 

■気道熱傷

気道熱傷は気道閉塞のリスクがあります。気道熱傷は高温の気体やススを吸い込むことで起こります。

気道熱傷が起こると、気道に浮腫が生じて徐々に気道が狭窄し、気道閉塞が起こりますので、気管挿管を行い、気道確保を行います。気道熱傷があるかどうかは、判別しにくいのですが、口腔・咽頭内にススが付着していたり、嗄声が見られたり、ラ音が聴取された時には、気道熱傷を疑います。

 

■栄養管理

熱傷の受傷直後は、代謝異化亢進状態が続いていますので、それを補うためのエネルギーを供給しないと、治癒遅延や感染リスクが高くなります。

そのため、成人は低脂肪炭水化物栄養を、小児患者は高たんぱくの栄養を受傷後24時間以内に、経腸栄養で投与することが推奨されています。

 

5、熱傷の看護計画

熱傷の患者の看護は重症度によって異なりますが、ここでは広範囲の熱傷を負った重症の熱傷患者の看護計画をご紹介します。

 

■循環血液量が減少して、ショック状態に陥りやすい

熱傷患者は創部から浸出液が多く、体液が喪失していきますので、それに伴い循環血液量が減少して、血圧低下などのショック状態に陥って命の危機に瀕する可能性があります。看護師は循環血液量が維持できるように看護介入をしていく必要があります。

 

看護目標 循環血液量が維持できて、ショックを起こさない
OP(観察項目) ・バイタルサイン(血圧、心拍数、CVP、肺動脈圧、呼吸数、体温)

・水分出納

・尿量の減少、尿比重の変化の有無

・意識レベル

・血液検査のデータ

・浮腫の状態

・浸出液の量(ガーゼカウント)

TP(ケア項目) ・指示通りの輸液を正確に投与する

・こまめに水分出納を計算する

・バイタルサインを継時的に測定していく

EP(教育項目) ・本人や家族に病状を説明する

 

■低栄養になりやすい

熱傷後は代謝異化亢進状態になり、タンパク質が浸出液とともに流出しますので、低栄養になりやすく、肉芽の形成不良や感染リスクの増大などが起こります。

 

看護目標 低栄養にならない
OP(観察項目) ・バイタルサイン(血圧、心拍数、CVP、肺動脈圧、呼吸数、体温)

・創部の状態

・血液検査データ

・栄養摂取状況

・水分出納

・腹部症状

・全身状態

TP(ケア項目) ・経管栄養やIVHは医師の指示に基づいて確実に投与する

・経口摂取ができる時には高たんぱく高カロリーの食事の中に、本人の好みのメニューを取り入れる

・便通を調整する

EP(教育項目) ・栄養摂取の必要性を説明する

・栄養指導をする

 

■感染リスクがある

広範囲の熱傷は、感染リスクが高いため、感染が起こらないように援助していかなければいけません。

 

看護目標 感染兆候が見られない
OP(観察項目) ・創部の状態(色調、状態、臭い、浸出液の量・性状、創の周囲の皮膚の状態、熱感、疼痛)

・ドレッシング材の交感頻度

・バイタルサイン

・血液検査データ(WBC、CRP)

・栄養状態

TP(ケア項目) ・標準予防策の実施

・熱傷部位の清潔操作の徹底・清潔保持

・ルート刺入部の清潔の保持

・ルートが床につくなど不潔にならないようにする

・必要があれば、バルンカテーテルや肛門内留置型排便管理チューブを用いる

・薬剤を確実に投与する

・環境整備を行う

EP(教育項目) ・易感染状態であることを説明する

・清潔保持について説明する

 

まとめ

熱傷の基礎知識と分類、9の法則、ガイドラインに基づく治療・処置、看護計画をまとめました。

熱傷は重症になると命の危機に瀕しますし、本人の苦痛がとても大きく、治療も長期間に及びますので、看護師はご紹介した看護計画以外にも、患者の状況に応じて、精神的なケアも行っていくようにしましょう。

 

参考文献

最新の熱傷臨床-その理論と実際-(平山峻、島崎 修次編|克誠堂出版株式会社|p.89|1994)

熱傷診療ガイドライン〔改定第2版〕(一般社団法人 日本熱傷学会|2009年3月31日)

胸腔穿刺の看護|穿刺部位や手技、その合併症や看護手順

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胸腔内に空気や水が貯留した結果、呼吸状態・循環動態が悪化してしまうことがあります。そこで、穿刺をして貯留したものを体外に排出する手技が、胸腔穿刺です。貯留物が空気か水かによって穿刺部位が異なりますし、胸腔穿刺をめぐる合併症もあります。まず、胸腔穿刺が適応となる病態(状態)・合併症を学び、看護師が介助に付く際に必要な手技や必要物品を学びます。

 

1、胸腔穿刺とは

胸腔穿刺・胸腔ドレナージは、胸腔内に貯留した空気や液体を体外に排出するための手技で、大きく分けると2つの目的があります。

 

■胸腔穿刺の目的

➀診断的胸腔穿刺:貯留した液体物を採取し、検体を調べることで病因を判定する

➁治療的胸腔穿刺:閉塞性ショック状態や呼吸困難などを軽減させる

胸膜癒着術を行うために穿刺する

 

治療的胸腔穿刺のうち、絶対適応となるのは下の6つです。胸腔内を空気や液体が占めて胸腔内圧が上昇すると、前負荷を減少させるために心拍出量が低下します。すると、呼吸困難だけではなく循環動態に変調をきたし、ショック状態に陥ることがあります。呼吸困難が進行していて、かつ血行動態が不安定な場合は、緊急で穿刺が必要となります。特に緊張性気胸の場合は、胸部レントゲン写真や胸部CTなどの画像診断を撮影する間もなく、身体所見だけで胸腔穿刺を実施することもあります。一方で、身体所見・画像所見によっては、安静や利尿剤投与で経過観察することもあります。

 

■絶対的胸腔穿刺の適応

①緊張性血気胸

②外傷性血気胸

③自然気胸

④胸水

⑤膿胸

⑥乳び胸

 

絶対的胸腔穿刺の適応はありますが、反対の絶対的禁忌はありません。状態によって、相対的に判断することになります。「相対的禁忌」は以下の通りです。

 

■胸腔穿刺の相対的禁忌

①胸水の位置が不明瞭である

②胸水の量が少なすぎる

③胸壁の解剖学的変化

④穿刺による合併症のリスクが高い

⑤出血性素因、凝固障害

⑥コントロール不良の咳嗽

 

2、胸腔穿刺の部位・手技

気胸というのは、貯留物が空気の場合です。そして、胸水というのは、貯留物が液体の場合で、中身はただの水ではなく、膿(膿胸)や血液(血胸・癌性胸水)のこともあります。

同じ「胸腔穿刺」でも、内容物が空気か液体かによって、穿刺する場所が変わります。

まず、気胸と胸水、どう違うのか画像で確認してみましょう。

出典:やさしイイ呼吸器教室(滋賀医科大学呼吸器内科|講師/教育医長 長尾大志)

 

気胸の場合は、肺は虚脱して小さくなり、入り込んだ空気は自然と上に溜まります。写真でも、左胸の鎖骨当たりに空気が入っていることがわかります。一方、胸水というのは内容物が水ですから、気胸とは逆に下へ溜まります。胸腔が下から押し上げられてしまっているのがわかりますね。ですから、穿刺するなら気胸は上、胸水なら下、となります。

胸腔は肋骨で覆われていて、直接触ることはできません。ですから、肋骨と肋骨の合間をぬって穿刺し、空気を抜いたり(脱気)液体を排出します。しかし、周囲の臓器への誤穿刺の恐れがありますので、むやみに「上の方」「下の方」というわけには行きません。

 

■穿刺する位置

 

ドレナージチューブ抜去の目安は、胸水なら排液量が100ml/日以下、気胸の場合はair leakがみられなくなることです。まずは水封として1日様子をみて、状態の悪化がなければ更に1日クランプし、胸部レントゲン写真などで確認してから抜去となります。

出典:泉工医科工業株式会社(メラDバッグ1000m)

出典:泉工医科工業株式会社(メラサキューム)

 

3、胸腔穿刺の合併症

胸腔穿刺は穿刺針で刺して胸腔にアプローチする手技ですから、エコーのようにノーリスクというわけではありません。穿刺する際には、事前に本人・家族へ必要性と合併症を説明し、同意書へサインをもらっておきましょう。(緊張性気胸の場合は、そのような余裕はないかもしれません。)

 

■胸腔穿刺の合併症

・出血:肋間動静脈損傷、内胸動脈損傷など

・気胸:肺への誤穿刺

・喀血:肺への誤穿刺(穿通性損傷)

・肝脾損傷:肝臓や脾臓への誤穿刺など

・誤挿入:ドレナージチューブ胸腔外(皮下組織内)への留置

・感染:不潔操作・膿胸・細菌性胸膜炎の胸壁への波及など

・血管迷走神経性失神

・再膨張性肺水腫、低血圧:高度な虚脱や虚脱時間が長い場合に起こり、発生するのは稀。

 

4、胸腔穿刺の看護手順

4-1、必要物品について

 

➀滅菌体内留置排液用チューブセット トロッカーカテーテル

(一時的な排液や試験穿刺目的の場合、透析用穿刺針で代用することもある)

②消毒セット(滅菌綿球・ポピドンヨード液・鑷子)

③滅菌穴あきドレープ・滅菌覆布

④滅菌手袋

⑤処置用シーツ

⑥局所麻酔薬・10mlシリンジ・23G注射針(・18G針)

⑦カテーテルチップ

⑧縫合セット(持針器・クーパー・縫合糸)

⑨滅菌ガーゼ

⑩滅菌Yガーゼ

⑪固定用テープ・挿入部用透明ドレッシングテープ

⑫排液バッグ メラDバッグ(蒸留水を入れて準備、指示があれば低圧持続吸引機も)

⑬検体スピッツ(胸水の細胞診提出用)

⑭メス(穿刺セット・縫合セットに入っていない場合)

⑯鉗子(無鉤)

⑰油性マジック

⑱膿盆

⑲エコー

⑳モニター

㉑バスタオル

 

4-2、胸腔穿刺の手順

 

①モニター類を設置して患者に装着し、処置前のバイタルサインを測定する。

②手指消毒を行ってから排液バッグを開封し、水封室の指示量まで滅菌蒸留水を注入する。

③医師から指示のあった場合、低圧持続吸引機をコンセントにつなぎ、セットしておく。

④4-1の物品を患者のもとへ運び、ワゴンの上に滅菌覆布を敷き、清潔操作で並べる。

⑤処置開始前に、名前の確認と同意を得ているか最終確認を行う。

⑥医師が体位を決定したら病衣をまくってバスタオルで覆い、プライバシーの配慮と保温に努める。

⑦処置用シーツを敷く。

⑧穿刺部位をポピドンヨード液で円を描くように、2回消毒する。

⑨消毒部位を乾かしてから、穴あきドレープをかける。

⑩局所麻酔をする。

⑪カテーテルの太さに合わせて、メスで皮膚を小切開する。

⑫カテーテルを挿入する。

⑬カテーテルの先端部が目的部位まで挿入されたら、内針を抜いて空気が胸腔内へ入らないように速やかにクランプする。

(検体を採取するときは、クランプ前にカテーテルチップに吸い、スピッツへ移す。)

⑭カテーテルとコネクターをつなぎ、排液バッグにつなぐ。

(持続吸引機につなぐ場合、最初は低圧から開始する。)

⑮クランプを解除し、排液・排気(脱気)を確認する。

⑯カテーテルを縫合固定する。

⑰カテーテルの太さ・挿入の長さ・何針で固定したかを確認し、記録する。

⑱滅菌ドレープを取り除く。

⑲止血を確認してから、Yガーゼとフィルムドレッシングで挿入部を覆い、固定用テープを貼付する。

⑳余分な消毒液を拭き取る。

㉑患者に処置が終わったことを告げ、病衣を整える。

㉒バイタルサインを測定する。

㉓物品を片付ける。

㉔胸部レントゲン写真を撮影し、医師はカテーテル先端の位置を確認する。

㉕記録する。(カテーテルの太さ・挿入の長さ・何針で固定したか、バイタルサインなど)

 

※注1:穿刺目的によってカテーテルの太さが異なるため、前もって確認しておく。

※注2:物品はタイミングを見て手渡す方法もあるが、先にワゴンの清潔野に出しておく方がスムーズで、処置中に患者への声掛けや観察に集中できる。

※注3:ドレーンチューブは、身体に沿わせて必ず2か所以上固定する。

※注4:適宜バイタルサインを測定する。

※注5:適宜患者への声かけを行う。

 

まとめ

胸腔ドレーンをめぐる看護は、挿入の介助について終わりではありません。管理を怠ると胸腔内に空気が入り込んだり、ドレーンの位置がずれてしまい本来の目的を果たさないどころか、危険な合併症を引き起こすこともあります。挿入時の介助だけではなく、挿入後のドレーン管理にも十分な注意が必要です。

 

参考文献

手技:胸腔穿刺およびドレナージ(日本内科学会雑誌第102巻第5 号シリーズ|内科医に必要な救急医療|2013)

胸腔穿刺(MSDマニュアルプロフェッショナル版|滋賀医科大学 呼吸器内科 講師/教育医長長尾大志)

やさしイイ呼吸器教室(滋賀医科大学呼吸器内科)

脊髄小脳変性症の患者の看護|脊髄小脳変性症の症状と看護問題や看護のポイント

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徐々に身体が動かなくなってしまう難病、脊髄小脳変性症の少女を描いた『一リットルの涙』はドラマなど様々なメディアで取り上げられました。

脊髄小脳変性症は難病として指定されています。病型が多数あり、症状や進行にも個人差がありますが、まだ原因が解明されていないものもあります。全国で脊髄小脳変性症の患者は約3万人を超えていると言われています。ここでは、その脊髄小脳変性症について説明していきたいと思います。実際の看護に生かせるよう病態や治療法などについての知識を深めていきましょう。

 

1、脊髄小脳変性症とは

脊髄小脳変性症(SCD)とは運動失調または痙性対麻痺を主症状とする疾患の総称で、遺伝性疾患と非遺伝性(孤発性)疾患に大別され、孤発性疾患が全体の2/3を占めると言われています。原因が感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫疾患の場合は除外されます。

 

1-1、遺伝性疾患について

■劣性遺伝

フリードライヒ失調症、ビタミンE単独欠乏症失調症、セナタキシン欠損症、シャルルヴォアサグエ型痙性失調症など

 

欧米ではフリードライヒ失調症が最も多いですが、日本人にはおらず、劣性遺伝の脊髄小脳変性症の日本の発症率は数パーセントです。劣性遺伝の脊髄小脳変性症は、小児期で発症することが多く、眼球失行やビタミンE欠乏など特有の症状を伴います。

 

■優性遺伝

脊髄小脳失調症1型(SCA1)、脊髄小脳失調症2型(SCA2)、脊髄小脳失調症3型(SCA3)/多系統障害、脊髄小脳失調症6型(SCA6)/純粋小脳失調、脊髄小脳失調症31型(SCA31)/純粋小脳変性症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体委縮症(DRPLA)/多系統障害など

 

遺伝子は、見つかった順番に番号が振られています。我が国では3型、6型、31型、赤核淡蒼球ルイ体萎縮症が多く、患者の約8割を占めると言われています。

 

■非遺伝性(孤発性)疾患

・皮質性小脳委縮症(CCA)

・多系統萎縮症(MSA):オリーブ小脳萎縮症、ビタミンE単独欠乏症失調症、シャイ・ドレーガ症候群

 

皮質性小脳萎縮症には、多くの疾患が含まれていますが、それらの疾患を特定する明確な特徴がありません。運動失調以外の症状が見られないことから純粋小脳変性症とも呼ばれています。

皮質性小脳萎縮症に比べ、多系統萎縮症は多様な症状が見られ、脳内の細胞に特異的な塊が見られますが、その機序はわかっていません。

出典:『脊髄小脳変性症』(社会福祉法人 恩賜財団 済生会)

 

2、脊髄小脳変性症の症状

症状は病型により異なりますが、失調症状を主体とし、パーキソニズム、自律神経症状などが見られます。

 

■失調症状

立ち上がった時や歩行時のふらつき、片足立ちができないなど体幹のバランスが不安定な状態(体幹失調)となります。また四肢の運動失調(四肢失調)やろれつが回らない(構音障害)などの症状がみられます。

 

■パーキソニズム

手足の震え、四肢の関節が動かしにくくなったり、表情が乏しくなるなどのパーキンソン様症状が見られます。

 

■自律神経症状

睡眠時の無呼吸、起立性低血圧、排尿・排便障害などの自律神経症状がみられる場合があります。

 

3、脊髄小脳変性症の治療

脊髄小脳変性症は進行性の疾患であり、現在、根本的な治療法は見つかっていません。主に症状に対する治療が行われます。

運動失調症状には甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が効果を示すことが知られており、経口TRH誘導体薬が使用されています。

パーキソニズムに対してはL-DOPAの合剤や各種パーキンソン薬が使用され、自律神経症状には交感神経作動薬や抗コリン薬、コリン作動薬など各症状に応じて様々な薬剤が用いられます。また、リハビリテーションが効果的な場合もあり、言語訓練や歩行訓練などのリハビリテーションが行われる場合もあります。

 

4、脊髄小脳変性症の看護問題

脊髄小脳変性症はゆっくりと進行していきます。病型や進行度合いにより、症状に違いはありますが、脊髄小脳変性症の看護では以下の問題点が挙げられます。

 

・運動失調による転倒のリスクがある

・ADLが制限される可能性がある

・言語障害によりコミュニケーションがとりにくい

・起立性低血圧を引き起こす可能性がある

・排尿・排便障害を引き起こす可能性がある

・患者および家族の予後についての不安・ストレスの増強

 

5、脊髄小脳変性症の観察項目

脊髄小脳変性症では以下の項目について観察、情報収集していきます。現在の患者の状態を正しく把握し、実際の看護につなげていきましょう。

 

・運動失調有無、部位、程度

・言語障害の有無、程度、コミュニケーションの方法

・ADLの程度、歩行の状態

・血圧(臥位、座位、立位、各体位での血圧、顔色の変化など)

・排尿・排便の状態(残尿感、腹部症状の有無など)

・患者の言動、表情

・精神的ストレスの有無

・患者、家族の理解度(疾患、治療、予後など)

 

6、脊髄小脳変性症の看護のポイント

脊髄小脳変性症の看護問題から、実際にどのような看護が必要になるのか考えてみましょう。

 

■運動失調による転倒のリスクがある

患者の周りの環境を整備します。危険物は排除し、患者にとってのリスクが最小限にとどめられるようベッドの高さや位置を調整しましょう。歩きやすい履物を準備し、患者の状態によって歩行器や杖が使用できるようにします。

 

■ADLが制限される可能性がある

患者自身でできること、援助が必要なことは何かを正しく見極めましょう。食事や更衣なども必要な場合は援助し、食事の内容や衣服の種類などが適切かなどについても観察していきます。病状が進行すると嚥下障害を引き起こす可能性があるため、誤嚥にも注意が必要です。

 

■言語障害によりコミュニケーションがとりにくい

患者の表情を良く観察しながら、ゆっくりと患者の話に耳を傾けましょう。コミュニケーションの時間を意識的に取ったり、言葉で伝わらない場合は筆談を用いるなどの工夫が必要です。

 

■起立性低血圧を引き起こす可能性がある

起立性低血圧による転倒のリスクが予測されます。環境整備はもちろん、ゆっくりと起き上がるなどの指導が必要となります。転倒のリスクがある場合は、移動の際の付き添いや車椅子の使用など転倒防止に努めます。

 

■排尿・排便障害を引き起こす可能性がある

患者の状態に応じ対応していきます。膀胱留置カテーテルを留置している場合は、感染予防に努めましょう。食事内容の見直しや水分摂取量の調節が必要になる場合もあります。

 

■患者および家族の予後についての不安・ストレスの増強

脊髄小脳変性症は進行性で、根本的な治療も見つかっていないことから、患者や家族は大きな不安を抱いていることが予測されます。疾患について正しい知識をもち、病気とうまく付き合っていけるようサポートしていく必要があります。また、入院生活が長期化する場合もあるため、ストレスの増強を最小限にとどめられるよう、患者や家族の話に耳を傾け、適宜声かけを行っていきましょう。

 

まとめ

脊髄小脳変性症の予後は病型により大きく異なりますが、ゆっくりと病状が進行していくことが多く、いずれの病型も治療法が確立していません。病気の進行により合併症を引き起こしたり、ADLが制限されることがあるため、患者の状態をしっかりと把握し、個々の患者に合った看護を提供していくことが大切です。また、予後や疾患への不安に対する精神的ケアも看護師の重要な役割となります。患者に寄り添ったケアの提供を目指していきましょう。

 

参考文献

難病センター『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18) 』(難病情報センター|平成29年4月24日)

脊髄小脳変性症としての多系統萎縮症(脊髄小脳変性症と多系統萎縮症の患者の集い|平成23年10月18日)

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