看護学校や看護師の就職・転職に際して出される小論文。出題されるテーマが決まっておらず、また構成や段落など難しいルールが定められていることから、多くの方が苦戦を強いられているのではないでしょうか。
そこで当ページでは「1、小論文の評価ポイント」「2、小論文の基本的なルール」「3、過去に出題されたテーマ」「4、小論文の段落構成」「5、構想のポイント」の5つの項目をもとに、小論文の上手な書き方について詳しくご説明します。
どのように小論文を書いていいのか分からないという方は、最後までしっかりお読みいただき、参考にしていただければと思います。
1、小論文の評価ポイント
まず始めに、小論文の評価ポイントについてご説明します。小論文は作文とは違い、論理的かつ簡潔に自分の想いや考えが記述されているかが評価の基準となります。細かく示せば非常に多くの評価ポイントがありますが、以下の5つをしっかり抑えておけば、減点を免れるだけでなく、“質の高い小論文”として評価されますので、必ず抑えておきましょう。
①文章の内容がテーマに沿っているか
これは当然と言えば当然ですが、看護系小論文のテーマは時として“人間の欲望について”など哲学的なものが出されることがあります。この場合でも、脱線せずテーマに沿った内容を記述しなければいけません。また、自分の意見を示す必要があります。
②論理的に説明されているか
小論文は作文とは違い、自分の意見やその理由を述べるというように“論理的”な記述形式に沿って記述しなければいけません。また、自分の意見に対する理由に“説得力”があるかも評価のポイントとなるため、“論理的思考”を働かせながら記述する必要があります。
③具体例が示されているか
小論文では上述のように、自分の意見やそれに対する理由を説明しますが、理由を説明する際には、実体験を交えるなど具体的に示す必要があります。また、自分なりの気づきや新しい発想をもとにした内容であれば、さらに評価が上がります。
④文章の構成が簡潔で読みやすいか
小論文の構成は概ね決まっています。その構成通りに記述することで通常は読みやすい文章に仕上がりますが、脱線するなど明瞭・簡潔さに欠けると評価は下がります。
⑤誤字・脱字、誤用がないか
文字の誤字や脱字、送り仮名や文法の誤り、熟語や慣用句の誤用があると評価が下がります。記述後にはしっかり確認し防止に努め、詳細を知らない熟語や慣用句の使用は控えましょう。
2、小論文の基本的なルール
小論文では、主語を男女関係なく第一人称に「私」を使用するなど、ルールが決められています。これらを遵守することで減点を抑えることができます。「文法上の間違い」や「句読点の位置」など、“避けられない減点”はあまり考慮しなくても構いませんが、以下に挙げるルールは考慮し、減点を最小限に抑えられるよう努めてください。
①語尾を統一する
小論文では、話し言葉ではなく、“堅い文章”が求められます。語尾には「だ・である」を用い、「です・ます」などと混同しないよう、一貫して「だ・である」で記述してください。
②一文の長さを短くする
小論文は簡潔で読みやすい文章である必要があります。主語が長くなったり、句読点が多く文章が長い場合には読みにくくなってしまうため、一文は50文字以下に抑えましょう。ただし、短文が連続する場合には幼稚な文章にみえてしまうため、読みやすい文であれば50文字を超えても問題はありません。
③婉曲な表現を使用しない
読みにくく意図が見えにくい文章になってしまうため、「~でなければならないだろう(推量)」、「~でなければならないのではないだろうか(推量+疑問)」、「~でなければならないかもしれない(不確実な推量)」、「~でなければならないと言われている(責任転嫁)」、「おおよそ~でなければならない(ぼかし)」など、婉曲な表現は使用しないよう注意してください。
④否定的な表現(言い訳・断り書き)は使用しない
時として、難しいテーマや自身の実体験にはないテーマが出題されます。このテーマに対して、「私には理解できないが~ではないだろうか」、「私には難しくてよく分からないが~だと思う」のように、否定的な表現を使用してはいけません。
⑤同じ内容・表現の繰り返しを避ける
文字数を稼ぐために同じ内容を繰り返し記述したり、「その問題は未だ未解決である」というように、同じ表現(“未だ”と“未”解決は重複表現)を繰り返してはいけません。
⑥原稿用紙の使い方を守る
看護系小論文は、教育機関や医療施設によって“縦書き”と“横書き”の2つの原稿用紙が用いられます。段落においては、どちらも変わらず、内容が変わる場合には「改行(一マス空ける)」しなければいけません。また、数字においては、縦書きの場合は「一〇〇」または「百」というように漢数字で表記するなど、原稿用紙の基本的な使い方・ルールを守る必要があります。
⑦文字数は規定の80%以上埋めること
看護系小論文の多くは800文字ですが、最低80%以上(640文字以上)、できれば90%以上(720文字以上)記述しましょう。なお、文字数がオーバーした場合には減点または採点対象外とされる場合があるため、必ず規定文字数以内に抑えるようにしてください。
3、過去に出題されたテーマ
看護系小論文の出題形式は「課題作文型」と「課題文・資料分析型」に分けられます。
「課題作文型」とはテーマに対する自分の考えや意見を述べるもので、「課題文・資料分析型」は現代文や英文などの課題文についての回答や要旨のまとめ、統計資料やアンケート結果をもとに自分の考えや意見を述べるものです。
一般的に、看護系専門学校においては「課題作文型」、看護系大学においては「課題文・資料分析型」が出題され、就職・転職における採用試験では「課題作文型」が出題されます。
しかしながら、教育機関や医療施設によって異なりますので、希望する教育機関・医療施設の過去問を取り寄せ、出題傾向を把握しておく必要があります。ただし、急に出題傾向が変わることもありますので、「課題作文型」・「課題文・資料分析型」どちらも書けるよう、しっかり準備しておきましょう。以下に過去に出題されたテーマの一例をご紹介します。
3-1、課題作文型
課題作文型のテーマは多岐に渡り、「看護・医療」・「自分」「コミュニケーション」「社会・時事」「哲学」「自然・環境・健康」のジャンルから出題されます。
看護系専門学校・看護系大学における入試試験ではジャンル問わず出題されますが、就職・転職に際しては主に「看護・医療」に関するテーマが出題されます。
■看護・医療
・あなたの看護観とは何か
・あなたの看護師像とはどのようなものか ・看護師を目指すキッカケ ・看護師の仕事と医師の仕事の違いについて ・看護とマナーについて ・医療人になるために今求められていること ・医療ミスを無くすためにすべきこと ・看護を行う上で、あなたが最も大切にしていることはなにか ・医療従事者になるにあたっての心構え ・再生医療について ・セカンドオピニオンを希望する患者への対処 ・重篤な病気にかかった時の家族の存在とはどのようなものか ・チーム医療の現状と課題 ・認知症患者が安心・安全に生活するために必要なこと ・臓器移植は人類に何をもたらすのか |
■自分
・言われて嬉しかった言葉
・これからの人生で大切にしたいこと ・仕事のやりがいについて ・今まで一番頑張ったこと、それによって学んだこと ・今までに行った自分自身を向上させるための取り組みとその効果 ・10年後の自分への手紙 ・信頼を得るために必要なこと ・家族の中でのあなたの役割 |
■コミュニケーション
・優れたコミュニケーションとはどのようなものか
・人と接する中で気をつけること ・メールによるコミュニケーションについて ・SNSによるコミュニケーションの欠如について ・現代社会における若者の人間関係に対するあなたの考え ・第一印象が与える影響 |
■社会・時事
・老人と社会のありかたについて
・少子化社会にどのように対応するか ・社会性について ・歩きスマホのマナー・事故に対する対策 ・女性の社会進出について ・世界には低年齢で亡くなる子どもがたくさんいることについて ・「いじめ」問題について ・赤ちゃんポストについて ・超高齢化社会における看取りについて ・情報化社会と医療について ・障害者差別について ・インターネットのモラル・ルールについて ・SNSの利用と社会問題について ・情報化社会における他者の個人情報保護 ・高齢化社会に問題とこれからの若者のあり方 ・科学技術の進歩が人々に与える恩恵と弊害 |
■哲学
・あなたの考える「癒す」・「癒される」について
・病気になったときどのような気持ちで生きるべきか ・主体的に学ぶとは ・心の豊かさについて ・あなたにとって「絆」とはなにか ・命の尊厳とは ・豊かな生活とはなにか ・「私は人を見かけ、心(性格)どちらで判断しているのか」について ・あなたの考える「自立」とは ・「学習する」とはどのような意味を持つか ・「生命」について ・「嘘」と「良心」について ・「ゆとり」について ・社会的に大人であるとはどういうことか |
■自然・環境・健康
・心の健康について
・心身ともに健康な生活を維持するために必要なこと ・「心の病」「身体の病」についてあなたの思うこと ・地球規模での環境問題について ・地球温暖化について ・大気汚染が人体に与える影響 ・地球環境と健康の関係 |
3-2、課題文・資料分析型
続いて、過去に出題された課題文・資料分析型のテーマをご紹介します。課題文・資料分析型は、日本語または英語の課題文の読解、グラフや表の読み取りを行い、自分の意見を述べるものです。ジャンルは多岐に渡りますが、概ね「健康」「看護」「医療」をテーマにしたものが多いのが実情です。
なお、課題文・資料分析型は主に看護系大学で出題され、看護系専門学校や就職・転職ではほとんど出題されません。
・子供への寛容さがなくなった親に対する解決策
・世界の子供の「自由度」を比較した文と図の説明とあなたの考え ・いじめの孤立・点在する集団内の対等性に関するあなたの考え ・男女別・年齢別日本人口における日本社会の課題 ・たばこ規制における商業的規制の必要性に対するあなたの考え ・末期医療において患者が治療を選択するために看護師が行うべき支援 ・高齢者の社会参加を支援するための方策 ・臓器移植法改正に対するあなたの考え ・文より筆者の主張に対するあなたの考え ・「家族難民」の増加を防ぐ方策に対するあなたの意見 ・「自らを不幸に追いやらないための方法」についてのあなたの考え ・最近の青年の問題行動に対する方策 ・高校生の薬物使用の実態に対するあなたの考え |
4、小論文の段落構成
看護系小論文は、「①序論」「②本論1」「③本論2」「④結論」と段落の構成は概ね決まっています。文字数は800文字が多いことから、①序論(100文字)、②本論1(300文字)、③本論2(300文字)、④結論(100文字)といった構成だと書きやすいのではないでしょうか。
各段落の文字数はテーマによって異なりますので、変動しても問題はありません。しかしながら、序論や結論が多く本論が少ないといった構成では、意図が読み取りにくくなるため、おおよそ「100:300:300:100(文字)」の構成が妥当です。
以下に、「看護観」をテーマにした場合の段落構成と、各段落の簡潔な内容についてご説明します。
①序論
冒頭では、テーマに対する自分の考えを簡潔に示します。看護観であれば、“その人らしさを生かした看護を行うことが私の看護観である。”というように簡潔に述べることで、以降の文章がより明瞭になり、読み手に分かりやすい文章に仕上がります。
②本論1(説明)
次に、自分の考えに対する説明を実体験や著名人の引用などをもとに述べます。前段落で示した看護観、“その人らしさを生かした看護を行うこと”に沿った内容(なぜそうしようと思うようになったのか、など)を補足的に説明してください。
③本論2(具体例)
次に、前段落で述べた説明の補足や反論など、自分の考えに対する内容を具体的に述べます。
④結論
最後に、テーマに対する自分の考えを再度提示します。また、今後の試みや目標、解決策などを述べ、文章を締めくくります。
[①序論]
私の看護観は、対象がどのような状況であっても、その人らしくいきていられるようにサポートし、その人らしさを生かした看護を行うことである。 [②本論1-1] 私がこの看護観を抱くようになったのは、実習で受け持ったA氏との関わりからである。A氏は病院に行くことが嫌いで自宅で嘔吐を繰り返していたが、受診もせずに過ごしていた。その後、嘔吐を見られてから20日後に外来を受診し、胃癌と肝転移と診断された。そして、化学療法目的で入院となり、入院翌日から化学療法が開始された。 [②本論1-2] 私はA氏の状態が終末期にあたるため、受け持ち時はどうA氏と接してよいか分からず、A氏のヘッドサイドに足を運ぶことしか出来なかった。そのため、A氏の思いや特徴、A氏らしさを捉えることが出来ない状態であった。その後、訪室の回数を増やし、コミュニケーションを図るように関わった。すると、A氏の気持ちや思いに少しずつだが気付くことができるようになっていた。 [②本論1-3] ある朝、訪室するとA氏はベットに座っていた。「今日は遠くまで洗面に行ったのですか」と聞くと「そうだな、そろそろ行くか、頭でも洗いに」と点滴スタンドを押し洗面所へ行き、固定石鹸で頭を豪快に洗っていた。「夏場はよく公園の水道でこうやって頭を洗っていたよ」と言い、「さっぱりした」という発言が聞かれた。その姿や表情、発言はまさにA氏本来の姿だと感じた。そこで、A氏はベット上での洗髪よりも、A氏らしさを考え、自分で洗髪できるようにサポートする方法を計画した。後日、A氏に洗髪を促すと「こんな寒い日に洗わないよ」ときっぱり言われた。私は、清潔保持とA氏にさっぱりしてもらいたいと考えていた。しかし、その日は朝から曇り空で天候まで考えていなかった。私は援助が単なる自己満足の押し付けになってしまったと気付いた。 [③本論2] 援助を行うにしても、対象は一人一人違う。その対象の特徴や生活背景なども把握し、対象のペースやタイミング、その日の体調や天候など実施する環境も考慮した個別性のある看護ができなくてはいけない。また、援助の必要性を説明し、対象が納得してくれることが大事であるとA氏に気付かされた。 [④結論] 今後、看護者としての専門的な能力だけでなく、一社会人としての、学問、知識を広く身につけていきたい。また、芸術・文化に関する教養も高め、豊かな心やたしなみを持った人に成長していく必要性を感じた。そして、今までの学びや体験を最大限に活かし、その人らしい人生を全うできる対象に合った看護を行い、対象を支えていきたいと思う。 |
当文章は全国看護学生作文コンクールで受賞したものです。作文と表記されていますが、小論文の構成やルールと同一であるため、参考にするのに申し分ありません。
なお、規定文字数が1000文字~1200文字になっているため、「②本論1」を短くすることで、800文字以内に収めることができます。他の受賞作品においては「国際看護支援センター」よりご覧ください。
5、構想のポイント
小論文の規定時間は教育機関や医療施設によって異なり、またテーマによっても異なりますが、概ね50分~90分です。時間内に800文字程度の文章を書くのは容易ではないため、時間を上手く使うことが非常に重要です。
基本的には、「構想(2):記述(7):確認(1)」の割合で時間を使うことで、制限時間内にまとめることができ、さらに誤字脱字を最小限に減らすことができます。
小論文を書くにあたって最も重要となるのが「構想」であるため、10分~20分程度の時間を使って、しっかりと記述内容を考えることをお勧めします。
- テーマに対する材料を箇条書きにする
(1)意見・見解…設問の主旨に対する自分の意見や見解を打ち出す。
(2)知識・情報…主題に関する知識や情報を選び出す。 (3)体験・経験…身近で具体的な体験や経験、出来事を思い起こす。 (4)連想…ある事項から関連する物事や考えを思い浮かべる。 (5)引用…他人の説や事例を例に引いて使う。ことわざや格言なども含む。 (6)資料…具体的な資料やデータを用いる。 |
- 課題文の重要語句を抽出・マークする
- 自分の考えに対する理由を考え書き記す
- 段落構成の大まかな枠組みを決める
このように、一気に書いていくのではなく、1つ1つ情報を抽出した後に書き始めることで、頭の中が整理でき、より早くより論理的に書くことができます。それゆえ、必ず10分~20分の時間を費やして構想するようにしましょう。また、最後に見直しをするのを忘れないでください。
まとめ
読者の心を掴む小論文を書ける人はそうそういません。また、試験官や採用担当者は、「加点方式」ではなく、「減点方式」を用いて小論文を評価しているのが実情です。よって、まずは減点対象を減らすことに重点を置いて小論文の勉強に取り組んでください。
その後は、さまざまなテーマをもとに小論文を書き、他者にみてもらいましょう。この積み重ねが質の高い小論文を書くために必要不可欠です。可能な限り多くの書き、小論文に慣れてくださいね。