腎臓の働きが著しく低下し、血液中の余分な水分や老廃物などを体外に自力排出できない患者に対して行われる血液透析。ダイアライザーと呼ばれる透析器を用いて、血液の浄化を行う血液透析は、腎臓の代替となる治療法として定着しており、一般的な血液透析(HD)から、血液濾過透析(HDF)や持続的血液濾過透析(CHDF)など、さまざまな血液浄化法が確立されています。
今回は、数ある血液浄化法の中から「持続的血液濾過透析(CHDF)」を取り上げ、概要や適応疾患、設定値、施行中の各異常の原因と対処法など詳しくご説明していきます。
1、代表的な血液浄化法
冒頭で述べたように、代表的な血液浄化法は「血液透析(HD)」「血液濾過透析(HDF)」「持続的血液濾過透析(CHDF)」などがあります。
多くは一般的な「血液透析」が施行されますが、病状や病態によって「血液濾過透析」、「持続的血液濾過透析」が使い分けられます。以下に、それぞれの血液浄化法の概要を簡潔にご説明します。
■血液透析(HD)
血液透析は“拡散”の原理を利用して血液内の老廃物や水分を除去する療法のことです。“拡散”は濃度差によって水と物質の移動が行われ、これにより血液内の老廃物や水分(小分子量物質)を除去していきます。
■血液濾過透析(HDF)
血液濾過透析は血液透析の原理の“拡散”に加え、圧力によって水と物質の移動が行われる“濾過”の性能を併せ持つ療法で、血液透析では除去しきれない中~高分子量物質も除去することができます。
よって、血液透析よりも人間の腎糸球体機能に近い治療モードと言え、血液透析で問題視される血圧の低下(貧血)を抑えることができます。また、分子量の大きい物質が原因となって起こる掻痒症、関節痛、いらいら感、栄養障害といった合併症の改善も期待できます。
■持続的血液濾過透析(CHDF)
持続的血液濾過透析(CHDF)は血液濾過透析(HDF)を24時間持続的に行う療法のことで、急性腎不全、多臓器不全症候群、急性膵炎といった緊急を要する症状に対して施行されます。
持続的に少量ずつ水分や物質の除去を行うことで透析効率を落とし、全身状態に与える影響(特に心血管系)が少ないため、日本ではCHDFを施行可能な医療施設では積極的に行われています。なお、血液透析と血液濾過透析は透析室で行われますが、持続的血液濾過透析は特殊な浄化法であるため主にICUで行われます。
2、CHDFで除去可能な物質
CHDFは小分子量物質(500ダルトン以下)だけでなく、中分子物質(500~5000ダルトン)や高分子量物質(5000ダルトン以上)の除去能に優れていることで、血液中に存在するさまざまな物質を除去することができます。
下表は血液中に含まれるさまざまな物質(成分)とその分子量を示しており、CHDFでは小分子~高分子量物質を除去することができるため、下表にある物質の多くが除去可能です。
物質名 | 分子量
(値:ダルトン) |
物質名 | 分子量
(値:ダルトン) |
ナトリウム | 23 | アミラーゼ | 50,000~60,000 |
カリウム | 39 | トリプシン | 23,000~26,000 |
尿素 | 60 | リパーゼ | 48,000 |
クレアチニン | 113 | ホスフォリパーゼA2 | 13,000~14,000 |
ブドウ糖 | 180 | 補体C1q | 410,000 |
ビリルビン | 585 | 補体C3 | 190,000 |
アミノ酸 | 75~204 | 補体C4 | 200,000 |
ヘパリン | 15,000 | 補体C5 | 190,000 |
アンチトロンビンーⅢ | 65,000 | 補体C3a | 90,000 |
プロテインC | 62,000 | 補体C3b | 180,000 |
ミオグロビン | 12,000 | TNF―α | 17,000 |
アルブミン | 68,000 | IL-1 | 17,000 |
ヘモグロビン | 68,000 | IL-2 | 15,000 |
タンパク質 | 150,000 | IL-6 | 21,000 |
フィブリノーゲン | 400,000 | IL-8 | 8,000 |
フェノバルビタール | 232 | IL-10 | 19,000 |
アセトアミノフェン | 151 | IL-1Ra | 14,000 |
ジゴキシン | 781 | IFNーr | 20,000 |
ヒスタミン | 97 | 顆粒エラスターゼ | 33,000 |
セロトニン | 146 | エンドトキシン | 1,000,000 |
パラコート | 257 | IgG | 150,000 |
グリホサート | 167 | IgA | 170,000 |
スミチオン | 297 | IgM | 900,000 |
3、CHDFの適応疾患
CHDFはHDFの1/50~1/20程度の速度で浄化を行うため、生体負担が少なく、循環動態の不安定な症例にも広く施行されます。
また、高効率の浄化性能により、脳浮腫といった臓器障害を悪化する可能性のある症例にも適応となるなど、適応疾患の幅は非常に広く、透析液の供給設備のない施設でも実施可能であることから、日本では率先的にCHDFが行われています。
■除水を目的とした症例
過剰な水分を除去することで体液量の調整を行い、「全身浮腫」「急性肺水腫」「うっ血性心不全」などに適応となります。
■溶質除去を目的とした症例
血液中の不要物質を除去することで血液の浄化、電解質や酸塩基平衡を是正(K,Ca,HCO3などの正常化)し、少ない生体負担の観点から重症症例である「急性腎不全」「多臓器不全」「敗血症」「急性膵炎」「劇症肝炎」のほか、「薬物中毒」にも適応となります。
なお、CHDFは主に急を要する症例に対する血液浄化法であり、尿素質素やクレアチニンなどの小分子量物質、サイトカインやエンドトキシンなどの中~高分子量物質の病因物質など広範囲に除去できることから、救急・集中治療領域において第一選択と考えられています。
≪救急・集中治療における有効性≫
①組織酸素代謝失調の改善、②Humoral Mediatorの除去、③ホメオスタシスの除去、④余剰水分除去による栄養管理、⑤肺間質浮腫除去による酸素化改善、⑥アシドーシスに対する持続的治療、⑦循環不全における血液浄化 |
4、CHDFの設定
CHDFでは、「血液流量(QB)」「濾液流量(Qs)」「補液流量(QF)」「透析液流量(QD)」の条件を設定する必要があり、この設定により除去できる物質の種類や透析効率が大きく異なります。
また、設定を大きく間違えば生命に危険を及ぼすこともあるため、患者の病状や病態によって設定値を適切に変更しなければいけません。
■血液流量(QB)
血液ポンプの速度を指し、一般的には60~100ml/hに設定します。サイトカイン物質の大量に除去するために補液流量(QF)を高くする際には、血液の濃縮による回路凝固が起こりやすくなるため、血液流量(QB)を150~200ml/hに上げることもありますが、基本的には60~100ml/hに設定します。
■濾液流量(Qs)
濾液ポンプの速度を指し、一般的には血液流量(QB)の30%以下を目安に設定します。濾液流量(Qs)はフィルターから破棄される水分量のことで、30%以上に設定すると、溶血や血液濃縮の危険性があるため、30%以下、概ね20~25%で設定されています。
■補液流量(QF)、透析液流量(QD)
それぞれ補液ポンプと透析液ポンプの速度を指し、一般的には補液流量(QF)と透析液流量(QD)の合計で600~2100ml/h(概ねQF:800ml/h、QD:500ml/h)に設定します。また、「Qs‐(QF+QD)」が除水流量となります。
補液流量(QF)は中分子量物質の除去量に反映し、補液流量(QF)が多いほど中分子量物質を効率的に除去することができるため、サイトカイン物質を積極的に除去する際には1000ml/h以上に設定することがあります。
また、透析液流量(QD)は小分子量物質の除去能に起因し、透析液量(QD)が多いほど小分子量物質を効率的に除去することができるため、高カリウム血症など小分子量物質を早急に除去する必要がある際には1000ml/h以上に上げる場合があります。
5、CHDFのブラッドアクセス部位の比較
ブラッドアクセスとは血液の循環を行うためのカテーテルの挿入口(血液の出入り口)のことを言います。
圧迫止血のしやすさやアクセスのしやすさにより、大腿静脈がブラッドアクセス部位の第一候補となりますが、内頚静脈や鎖骨下静脈も選択肢に挙げられ、それぞれの部位に利点・欠点が存在します。
穿刺部位 | 利点 | 欠点 |
大腿静脈 | ・アクセスが容易
・穿刺が容易 ③圧迫止血が容易 |
・穿刺部位が不潔になりやすい
・体動制限あり(座位不可) |
内頚静脈 | ・感染が少ない
・体動制限がなく負担が少ない ・圧迫止血が容易 |
・カテーテルの固定がやや不安定 |
鎖骨下静脈 | ・穿刺・挿入の違和感が少ない
・感染が少ない |
・穿刺が難しい(鎖骨下動脈穿刺のリスクがある)
・気胸のリスクがある |
一昔前までは鎖骨下静脈も選択肢に挙げられていましたが、リスクが高く、狭窄による静脈高血圧になる恐れがあるため、現在ではほとんど選択されていません。
また、内頚静脈は感染症のリスクが少ないなど利点が多く存在するものの、大腿静脈の方が脱血不良となる頻度が少ないなどの観点から、現在では大腿静脈が第一選択として取り上げられています。
6、CHDFで特に気をつけるべき異常・合併症
CHDFは血管(血液)に直接処置するため、装置の異常や患者のバイタルサインなど、さまざまなことに注意しなければいけません。特に、「脱血不良」と「感染症」はCHDF施行中によく起こるため、この2つはしっかりと抑えておきましょう。
■脱血不良
脱血不良とは、正常に血液浄化が行われていない状況の事を指し、多くは体位変換の際などにカテーテルの入っている静脈(大腿静脈や内頚静脈)が曲がり、血液が十分に吸い出せない、またはシャント・カテーテルが詰まることで血流が阻害されることが原因です。
対処としては、足(大腿静脈)や首(内頚静脈)などカテーテルを挿入している部位を少し動かす、またはカテーテルを少し動かすことで改善されます。カテーテルを動かす際には少しだけ抜いたり、回転させることで改善を図ることができます。
■感染
血管(静脈)に直接カテーテルを挿入することで、感染リスクが高く、特に大腿静脈に穿刺する場合は穿刺部位が不潔になりやすいため、感染リスクはさらに高まります。
血液透析全体における合併症は、①高血圧、②低血圧、③貧血、④二次性甲状腺機能障害、⑤アミロイド骨関節症、⑥高カリウム血症など様々ありますが、中でも感染リスクが高く、死亡事例も多いため、細心の注意を払って操作ならびに患者の観察を行う必要があります。
なお、感染兆候が見られる場合には直ちにカテーテルを抜去し、抗生剤を投与するなど、感染症の治療を率先的に行います。
7、圧力アラームの原因・対処
また、透析装置のアラームについてもしっかり把握しておく必要があります。透析装置は「動脈圧」「静脈圧」「濾過圧」「TMP」などの圧力を測定しており、何かしらの異常がある場合にはアラーム(警報音)が鳴る構造になっています。
つまり、各圧力は、適切に透析が行われているかを知覚的に把握するための重要なカギなのです。よって、アラーム発生の原因や対処法をしっかり熟知しておきましょう。
■動脈圧(入口圧)
動脈圧は血液が最初に通る動脈チャンバーの動脈ラインで測定しており、血液が適切にとれているかを判断する基準となります。回路の屈曲やカテーテルの狭窄、長時間のCHDFならびにフィルター入口の抵抗増などにより静脈圧の上昇がみられる場合があります。
アラーム | 原因 | 対処 |
上限 | 回路凝固 | 回路の交換 |
回路の屈曲 | 回路の屈曲の確認・是正 | |
カテーテル先当たり | 体位変換
カテーテル位置の変更 |
|
下限 | 回路外れ | 回路の接続部の確認 |
■静脈圧(返血圧)
静脈圧は静脈チャンバーから返血側のカテーテル先端までの圧力を反映しており、カテーテルが血管内に正確に挿入されているかを判断する基準となります。返血側のカテーテルの狭窄(血塊など)、静脈チャンバー内の血栓などにより静脈圧が上昇し、反対に回路外れにより静脈圧の下降がみられます。
アラーム | 原因 | 対処 |
上限 | 回路凝固 | 回路の交換 |
回路の屈曲 | 回路の屈曲の確認・是正 | |
カテーテル先当たり | 体位変換
カテーテル位置の変更 |
|
下限 | 回路外れ | 回路の接続部の確認 |
■濾過圧
濾過圧は血液濾過器から返血側カテーテルの先端までの圧力を反映しており、膜の状態や濾過ポンプの速度によって圧力が変動します。
アラーム | 原因 | 対処 |
上限 | 回路凝固 | 回路の交換 |
回路の屈曲 | 回路の屈曲の確認・是正 | |
カテーテル先当たり | 体位変換
カテーテル位置の変更 |
|
下限 | 回路外れ | 回路の接続部の確認 |
過濾過 | 濾過速度を下げる |
■TMP(膜間圧差)
TMPは膜内外の圧力差を表しており、「TMP=(入口圧+返血圧)÷2-濾過圧」で求められます。膜の凝固や過濾過によりTMPが上昇し、反対にリークや機器の故障などによってTMPが下降します。
アラーム | 原因 | 対処 |
上限 | 膜凝固 | 回路の交換 |
過濾過 | 濾過速度を下げる | |
下限 | 血液濾過器のリーク(漏れ) | 回路の交換 |
機器の故障 | 機器の交換 |
その他にも、補液・濾液・透析液の計量異常や電源供給の遮断、シリンジサイズ検出不良など、機器におけるトラブルは非常に多く、場合によっては早急に対処しなければ命に関わることもあります。
それゆえ、CHDFなどの血液浄化法を行う際には、患者のバイタルサインはもちろん、機器を適切に操作し、トラブル時には迅速に対処しなければいけません。
まとめ
現在の日本では、CHDFは効果的な血液浄化法として特に血液浄化に際して急を要する患者に対して積極的に施行されています。
数ある血液浄化法の中でも回路構造や設定値などは複雑かつ把握困難ではありますが、非常に有効な血液浄化法であるため、透析領域またはICU勤務の看護師は必ず熟知しておかなければいけません。
当ページでご説明した内容をしっかり把握し、今後の看護に役立てて頂ければ幸いです。