就職・転職の面接時や、看護学校の授業、就職後の教育プログラムなどで、「私の看護観」と題して、作文やレポートを制作する機会がたくさんあります。
作文やレポートを制作するにあたり、看護観とは何か、どのように書けば良いのか等、初めての方や経験の浅い方は特に、分からないことが多いのではないでしょうか?
そんな方のために、当ページでは看護観の意味やレポートを書く上でのお勧めの構成やポイントなど、一挙に紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
1、看護とは
「看護観とは何か」を知るためには、まず看護の定義を知らなければいけません。イギリスの看護学者、フローレンス・ナイチンゲールは「看護はすべての患者に対して生命力の消耗を最小限度にするよう働きかけることを意味する」と述べ、アメリカの看護理論家、ヴァージニア・ヘンダーソンは「看護とは、さまざまな諸活動において、健康・不健康問わず、患者の健康維持または健康回復に役立つ諸活動である」と述べています。
このように、人によって看護の定義は異なり、細かく定義すれば十人十色の看護が存在しますが、病棟においては、おおむね「患者が元の生活レベルにまで戻っていけるように援助する」ということが、看護の包括的な定義になるのではないでしょうか。
2、看護観とは
上記で十人十色の看護が存在すると述べましたが、まさにこれが「看護観」です。看護観というのは、「看護に対する考え」であるため、たとえば、「笑顔を絶やさない」、「思いやりの心で接する」、「安心感を与える」、「相手の立場に立って行動する」なども立派な看護観です。ゆえに、看護観に正解も不正解もありません。
漠然と「こうしたい」という想いはあっても、「なぜそうしたいのか」、「どのように支援したいのか」など、具体的な想いは意識して考えなければすぐに忘れてしまいます。それゆえ、初心を忘れないように、また、具体的な看護への想いを忘れないようにするために、多くの教育機関・医療機関が、レポートや作文、小論文という形で提出を義務づけているのです。
2-1、自分の看護観とは?
自分の中で「こうしたい」という漠然な気持ちを持っていても、レポートなどでは読み手に正確に伝えなければいけないため、具体的な内容でなければいけません。では、どのように具体的な内容にすればよいのでしょうか?
まずは一度、自分がなぜ看護師の道を歩もうとしているのか(歩んでいるのか)など、軸となる看護観を思い返し、次にその看護観と関連の深い出来事を振り返ってみましょう。
まずは以下のように、看護師の志望動機や目標などを思い返してみてください。
・なぜ看護師になろうと思ったのか?
・どんな看護師になりたいのか?
・患者さんに対してどのような気持ちがあるのか?
・患者さんの対してどのような援助がしたいのか?
次に、それらの気持ちが芽生えた、または促進させた出来事を振り返ってみましょう。
・人間の生死に触れる
・理想と現実のギャップ
・患者家族の苦難や絶望
・患者の支援に貢献できた例
・患者の支援に貢献できなかった例
・同業者の行動をみて感じたこと など
3、レポートの構成
看護観に関するレポートは、文字数が多い場合には、段落に分けて書いていきます。構成はさまざまありますが、最も簡単なものとして、①看護観(簡略的)、②経験・事例、③看護観(具体的)、④今後の試み、の4の項目を骨組みがあります。
500文字以上の文章の場合、この4つの項目に沿って書いていけば、途中で混乱することなくスムーズに書けるため、書き方が分からない方は、この構成に沿って書いていきましょう。
①看護観(簡略的)
まず始めに、たとえば、“その人らしさを生かした看護を行うことが私の看護観である。”というように、自分の看護観を端的に述べましょう。こうすることで、読者にとって分かりやすい内容になり、それ以降の文章に入っていきやすくなります。もちろん、最初に看護観を述べる必要はなく、次の経験・事例から書き始めても問題はありませんが、読みやすくするなら、看護観を先に述べる方が有効です。
②経験・事例
次に、自分が実際に経験したことについて書いていきます。ここでの注意点は、前段落で示した看護観、“その人らしさを生かした看護を行うこと”に沿った内容(なぜそうしようと思うようになったのか、など)を、経験を踏まえて書かなければいけません。つまり、看護観の補足的内容が当段落にあたります。また、文字数が長い場合には、一人の患者に絞った事例などを述べることで、充実した内容になります。
③看護観(具体的)
次に、冒頭で述べた看護観を具体的に書いていきます。冒頭で述べた看護観、“その人らしさを生かした看護を行うこと”をさらに具体的に説明するために、“患者の心身の状態や病状は一人一人違うため、各患者の特徴や生活背景、ペースやタイミング、その日の体調や天候など実施する環境も考慮した個別性のある看護を行うこと”のように書いていきます。
④今後の試み
最後に、自分の看護観を踏まえた上で、今後はどのようにしていきたいか、試みや目標を書いていきます。ここでも“その人らしさを生かした看護を行うこと”に沿った内容でなければいけません。
3-1、構成の例
上記で解説した4つの段落は、1000文字程度のレポートでは以下のようになります。
[①看護観(簡略的)] 私の看護観は、対象がどのような状況であっても、その人らしくいきていられるようにサポートし、その人らしさを生かした看護を行うことである。 [②経験・事例1] 私がこの看護観を抱くようになったのは、実習で受け持ったA氏との関わりからである。A氏は病院に行くことが嫌いで自宅で嘔吐を繰り返していたが、受診もせずに過ごしていた。その後、嘔吐を見られてから20日後に外来を受診し、胃癌と肝転移と診断された。そして、化学療法目的で入院となり、入院翌日から化学療法が開始された。 [②経験・事例2] 私はA氏の状態が終末期にあたるため、受け持ち時はどうA氏と接してよいか分からず、A氏のヘッドサイドに足を運ぶことしか出来なかった。そのため、A氏の思いや特徴、A氏らしさを捉えることが出来ない状態であった。その後、訪室の回数を増やし、コミュニケーションを図るように関わった。すると、A氏の気持ちや思いに少しずつだが気付くことができるようになっていた。 [②経験・事例3] ある朝、訪室するとA氏はベットに座っていた。「今日は遠くまで洗面に行ったのですか」と聞くと「そうだな、そろそろ行くか、頭でも洗いに」と点滴スタンドを押し洗面所へ行き、固定石鹸で頭を豪快に洗っていた。「夏場はよく公園の水道でこうやって頭を洗っていたよ」と言い、「さっぱりした」という発言が聞かれた。その姿や表情、発言はまさにA氏本来の姿だと感じた。そこで、A氏はベット上での洗髪よりも、A氏らしさを考え、自分で洗髪できるようにサポートする方法を計画した。後日、A氏に洗髪を促すと「こんな寒い日に洗わないよ」ときっぱり言われた。私は、清潔保持とA氏にさっぱりしてもらいたいと考えていた。しかし、その日は朝から曇り空で天候まで考えていなかった。私は援助が単なる自己満足の押し付けになってしまったと気付いた。 [③看護観(具体的)] 援助を行うにしても、対象は一人一人違う。その対象の特徴や生活背景なども把握し、対象のペースやタイミング、その日の体調や天候など実施する環境も考慮した個別性のある看護ができなくてはいけない。また、援助の必要性を説明し、対象が納得してくれることが大事であるとA氏に気付かされた。 [④今後の試み] 今後、看護者としての専門的な能力だけでなく、一社会人としての、学問、知識を広く身につけていきたい。また、芸術・文化に関する教養も高め、豊かな心やたしなみを持った人に成長していく必要性を感じた。そして、今までの学びや体験を最大限に活かし、その人らしい人生を全うできる対象に合った看護を行い、対象を支えていきたいと思う。
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なお、200文字~400文字程度の短文の場合には、②経験・事例の部分を端的にまとめて書きましょう。そうすることで、短文であっても非常に質の高い文章に仕上がります。
4、看護観の書き方のポイント
作文・小論文や課題レポートなどで自身の看護観を書く際、ダラダラと書いてしまっては良い文章に仕上がりません。
そこで、「想いを明確にすること」、「自分本位にならないこと」、「一貫した内容で書くこと」、「主観的に書くこと」の4つのポイントを抑えることで、質の高い文章に仕上げることができるため、これらのポイントをしっかりと抑えておきましょう。
4-1、想いを明確にすること
看護観を相手に伝える際、最重要となるのが「明確化」です。特に、①なぜ患者を支援したいのか、②どのように患者を支援したいのか、この2つの事柄を具体的かつ明確に示すことが重要で、文字数が多くなればなるほど重要度は増していきます。
さらに言えば、①何を、②誰に、③どのようにしたいのか、④(それは)どのようなプラス効果をもたらすのか、⑤なぜそうしようと思ったのか、の5点を具体的に述べると、読み手にとって分かりやすく、自分の看護観を正確に伝えることができるため、必ず具体的に説明してください。
4-2、自分本位にならないこと
①なぜ患者を支援したいのか、②どのように患者を支援したいのか、などを考える際、それらは自分のみを軸として考えてはいけません。
自分が「こうしたい」と思っていることでも、それは患者にとって迷惑なことかもしれません。迷惑であればいくら頑張っても自己満足にしか過ぎません。それゆえ、必ず対象のことを優先した内容にしてください。
4-3、一貫した内容で書くこと
文字数が多くなればなるほど、伝えたい看護観と異なる話を述べてしまうことがあります。そうすると、ただただ話が長いだけで、内容が薄くなってしまいます。文字数が多くなると特に、経験・事例の話が長くなってしまいます。
その際に、話が脱線しやすく、そうなってしまっては、肝心の看護観が読み手に伝わりにくくなってしまいます。それゆえ、経験・事例の段落は特に、伝えたい看護観に関連の深い、一貫した内容にしてください。
4-4、主観的に書くこと
稀に、“看護師の在り方”のように、客観的に書く人がいますが、看護観とは、「自分にとって看護とは何か」であるため、“看護師とはこうあるべきだ”というような内容は論外です。必ず主観的に書くようにしてください。
4-5、独自性を出すこと(応用編)
就職や転職の時には特に、看護観に限らず、「独自性」というものは評価の対象になります。看護観ではよく、「笑顔を絶やさない」、「思いやりの心で接する」、「安心感を提供する」、「相手の立場に立って行動する」といった考えを述べる人がいます。
看護観は十人十色であるため、「笑顔」「思いやり」「安心感」「相手の立場」といった看護観がダメだと言っているわけではありません。しかしながら、それらのキーワードを使う人が多いため、独自性を出すのなら、違った言い方をするのが得策です。
4-6、言葉の意味を具体的に説明すること(応用編)
たとえば、あなたの看護観が「寄り添う」であった場合、何に寄り添うのか分かりません。それが「気持ち」であった場合でも、どのような気持ちなのか分かりません。
500文字以上の長文であれば、経験・事例など文脈から意図が読み取れますが、面接時の口頭や200文字以下の短文の場合には、疑問が残ってしまうことがあるため、聞き手・読み手に正確に伝えられるよう、自分の看護観が「寄り添う」のような曖昧なキーワードの場合には、言葉の意味を具体的に説明しましょう。
まとめ
ここまでしっかりと読んだ方は、看護観とは何か、レポートの構成や書き方など、理解できたと思いますが、看護やレポートの“本意”は絶対に忘れないようにしてください。看護師の仕事は自己満足になりがちで、親切の押し売りが多いのが実情です。
ですが、看護というのは、患者の事を第一に考え援助していくことであり、レポートは看護観を振り返る目的として行われます。そのため、レポートを通して自分の看護観を再認識し、作成後はしっかりと心に留め、初心を忘れずにケアを行っていってください。