「カットダウン法でやります」、医師からそのような言葉を聞いて、「カットダウンとは?どんな方法?」と疑問に思って、慌てた経験はありませんか?
今後は慌てずに、適切に対応できるようになるために、カットダウンの基礎知識や目的・適応、CVポート造設時の手順や看護のポイントなどをまとめましたので、臨床現場での参考にして下さい。
1、カットダウンとは
カットダウンとは血管確保やカテーテル挿入法1つで、外科手術的に皮膚を切開して、血管を露出させ、血管を小切開してそこにカテーテルを挿入します。
カットダウンはカテーテルを挿入したい血管の上の皮膚をメスで切開し、電気メスと筋鉤などで皮下脂肪組織を剥離していきます。筋膜に達したら、筋膜を切開して、血管を露出させ、血管を周辺組織から注意深く剥離します。
血管を切開し、カテーテルを挿入したら、血管を結紮してカテーテルを固定し、血管を確保します。
2、カットダウンの目的
カットダウンの目的は、確実に血管を確保することです。
カットダウン法は皮膚を切開して、血管を周辺組織から剝離した状態でカテーテルを挿入しますので、経皮的なアプローチでは、静脈確保・カテーテル挿入が難しい場合でも、カットダウンなら、確実に血管を確保することが可能です。
3、カットダウンの適応
カットダウン法は誰でも適応になるわけではありません。通常の点滴のための静脈ラインを確保する目的では、カットダウン法は適応になりません。経皮的に静脈を確保できる場合は、カットダウンの適応にはならないのです。
カットダウンの適応は次のようなケースです。
■救急医療で確実に静脈確保が必要な場合
カットダウンが頻回に行われるのは、救急医療の現場です。特に、三次救急の現場では、大量出血や高度脱水で血管が虚脱していて、経皮的な静脈確保が困難なケースが少なくありません。
静脈確保に時間がかかると、それだけ輸液投与が遅くなりますので、患者の命は危機に瀕することになります。
そのため、カットダウン法によって、確実に血管確保をする場合があります。大腿静脈など太い静脈をカットダウン法で確保すれば、迅速に大量の輸液投与が可能になります。
また、早急にPCPS(ercutaneous cardio pulmonary support=経皮的心肺補助装置)やECMO(extracorporeal membrane oxygenation=体外式膜型人工肺)などを装着したい時も、カットダウン法が用いられることがあります。
しかし、救急医療現場での輸液路の確保という目的では、カットダウンよりも骨髄内輸液針による骨髄路確保が選択されることも少なくありません。
■CVポートを安全に留置したい場合
抗がん剤治療や中心静脈栄養のためにCVポートを留置する場合も、カットダウン法が適応になります。
CVポートは鎖骨下静脈からのアプローチが一般的でしたが、鎖骨下静脈からのアプローチは気胸や動脈誤穿刺、カテーテルピンチオフ等のリスクがあるために、現在は違うアプローチが行われることが増えてきています。その中の1つがカットダウン法による橈側皮静脈へのアプローチです。
■その他確実にカテーテルを静脈に挿入したい場合
救急医療での静脈確保やCVポート留置以外にも、何らかの理由でCV挿入が困難・不可能な場合は、一時ペーシングカテーテル挿入・スワンガンツモニター挿入・右心カテーテル法挿入などの目的で、カットダウンが適応になることがあります。
4、カットダウンの禁忌や合併症
4-1、カットダウンの禁忌
カットダウンは血管を露出させて切開し、そこにカテーテルを挿入する方法です。そのため、出血傾向がある患者にはカットダウンは禁忌になります。出血傾向がある患者にカットダウンを行うと、その部位から出血が止まらなくなり、止血できなくなるリスクがありいます。
4-2、カットダウンの合併症
カットダウンは確実に血管を確保できるというメリットがあります。また、橈側皮静脈からのCVポート造設は、鎖骨下静脈からのアプローチに比べて気胸や動脈誤穿刺などのリスクが少なく、安全にCVポートを植えこむことができます。
しかし、次のような合併症があります。
・皮下出血
・切開部の感染
・静脈炎
・カテーテルの切断
・点滴滴下不良
そのため、症例ごとに安全性と合併症をしっかりと天秤にかけて、カットダウンを行うべきかどうかを検討する必要があります。
5、カットダウンでCVポートを造設する手順と看護のポイント
CVポートを留置する時、鎖骨下静脈からのアプローチではなく、カットダウンで橈側皮静脈からアプローチする方法が行われることがあります。
ここでは、カットダウンで橈側皮静脈からCVポートを造設する手順と看護のポイントを確認しておきましょう。
5-1、カットダウンによるCVポート造設の必要物品
・CVポートキット
・静脈切開セット
・滅菌手袋や滅菌ガウン
・消毒セット
・局所麻酔薬
・シリンジや針
・膿盆
・ヘパリンや生理食塩水
・固定用フィルムやテープ
5-2、カットダウンによるCVポート造設の手順
①切開部のマーキングを行う
大胸筋三角筋溝の位置を確認してマーキングをし、そこから5~10mm外側に撓側皮静脈が走行しているので、その部位をマーキングする。ポート埋め込み部のマーキングも行う。事前にエコーを用いて、血管の走行を確認しておくと良い。
②切開部分の消毒を行う
③穴あき滅菌ドレープを切開部にかける
④CVポートキットを開封し、プライミングを行っておく
④切開部とポケット作成部位に局所麻酔薬を注射する
⑤メスを用いて、マーキングに沿って皮膚を切開する
⑥電気メスと筋鉤を用いて、脂肪組織を剥離していく
⑦筋膜に達したら、筋鉤を使って筋膜下脂肪組織を探す
⑧筋膜を切開し、撓側皮静脈周辺の組織を剥離する。この時、撓側皮静脈を損傷しないように注意する。
⑨撓側皮静脈を周辺組織から剥離し終えたら、末梢側と中枢側に糸を通す
⑩血管を切開して、カテーテルをゆっくりと挿入していく
⑪カテーテルを挿入したら、透視下でカテーテルの先端部位を確認する。カテーテルの先端が上大静脈に達するまでカテーテルを進める。
⑫逆血を確認しておく
⑬血管にかけておいた末梢側と中枢側を結紮する。この時カテーテルの内腔を潰さないように注意する
⑭ポートを留置する皮下ポケットを作成する。用手的に作成すると、疼痛が少なくて済む。
⑮ポートとカテーテルを接続する
⑯ポートを皮下に埋め込む
⑰切開部を縫合する
5-3、カットダウンによるCVポート造設の看護のポイント
カットダウンでCVポートを造設する時の看護のポイントを確認しておきましょう。
■バイタルサインのチェック
カットダウン自体はそれほど難しい手技ではありません。手術自体は1時間未満で終わることが多いです。
ただ、手術であることには変わりありませんので、看護師は急変リスクを考えて、バイタルサインを逐次チェックしておきましょう。
特に、CVポートを造設する患者は抗がん剤治療やIVHが必要など全身状態が良くない患者が多いので、バイタルサインをしっかり観察しておきましょう。
■精神的なケア
カットダウンは局所麻酔で行う手術です。医療職者にとっては簡単な手術という認識でも、患者はCVポート造設の手術を行うことに大きな不安を感じていることが多いです。
そのため、看護師は手術前にしっかりと説明を行い、不安を傾聴して不安の解消に努めると共に、手術中は常に患者への声掛けを行うようにしてください。声掛けを頻回に行うことで、精神的なケアができると同時に、患者の変化・急変を迅速に把握することができます。
■合併症の早期発見
カットダウンによるCVポート造設が終わったら、合併症がないかどうかを観察する必要があります。感染兆候はないか、皮下出血はないか、点滴の滴下不良はないかなどを観察しながら看護をするようにしましょう。
まとめ
カットダウンの基礎知識や目的・適応、CVポート造設時の手順や看護のポイントなどをまとめました。カットダウンは救急医療ではもちろん、その他の診療科でもCVポート造設時などで使われる手技です。
看護師は適切に対応できるように、必要物品や手技の手順、看護のポイントなどを確認しておきましょう。
参考文献
・宮内雅人「5 外傷における初期輸液」レジデント2010年5月3巻5号
・良田大典 松島英之 中村有佑 佐藤元彦 小松優治 權雅憲「皮下埋没型中心静脈カテーテル留置術のアプローチ方法」日臨外会誌 77( 9 ),2138―2142,2016
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