アスベストは身体に悪いことはわかるけれど、具体的にはよく分からないという人も多いと思います。
アスベストの基本情報やアスベストの症状、看護のポイントをケース別にまとめました。実際の看護の参考にしてください。
1、アスベストとは
アスベストとは日本語で石綿と言います。アスベスト(石綿=せきめん、いしわた)は、天然の繊維状ケイ酸塩鉱物です。簡単に言えば、繊維状の石です。
アスベストは、蛇紋石族と角閃石族に大きく分けることができ、さらに次の6種類があります。
・クリソタイル(白石綿)
・クロシドライト(青石綿)
・アモサイト(茶石綿)
・アンソフィライト石綿
・トレモライト石綿
・アクチノライト石綿
クリソタイルだけが蛇紋石族になり、あとは角閃石族になります。
アスベストは断熱性・耐火性・防音性・耐腐食性に優れているという特徴があり、以前は防音材、断熱材、保温材などに使われていて、ビルの建築などでは断熱・保温目的でアスベストを吹き付ける作業が行われていました。
引用:アスベスト(石綿)とはどのようなものか|アスベスト(石綿)とは|アスベスト(石綿)とは?|アスベスト(石綿)健康被害の救済|独立行政法人環境再生保全機構
しかし、アスベストの利用は昭和50年に原則禁止となり、2008年4月には2011年度を目途に全廃することが決まり、2011年度以降は日本ではアスベスト製品は製造されないことになりました。
アスベストの利用が禁止になった理由は健康被害が報告されたためです。アスベストは繊維がとても細いので、飛散しやすく、さらに吸い込みやすいのです。
アスベストを吸い込むと、30~40年後に呼吸器疾患を発症するリスクがあります。
2、アスベストの症状
アスベストは非常に細い繊維で、アスベスト吸い込むと、肺の末梢まで吸い込まれます。アスベストは繊維形成性(肺に膠原繊維を作る)と発がん性を持っていますので、様々な健康被害を引き起こします。
アスベストは吸い込んですぐに何らかの症状が出るわけではなく、アスベストを吸い込んでから平均で35年後に病気が発症して、症状が出てくることが多いです。
アスベストにばく露してから発症するまでのばく露量と潜伏期間には関係があることが分かっています。
引用:アスベスト(石綿)関連疾患|アスベスト(石綿)による健康被害|アスベスト(石綿)とは?|アスベスト(石綿)健康被害の救済|独立行政法人環境再生保全機構
アスベストによる健康被害には、次の疾患があります。
・悪性胸膜中皮腫
・肺がん(原発性肺がん)
・石綿肺
・びまん性胸膜肥厚
2-1、悪性胸膜中皮腫の症状
悪性胸膜中皮腫は、肺の周りの胸膜に悪性腫瘍ができる病気です。悪性胸膜中皮腫は肺がんの中でも1%以下で珍しいがんですが、男性の悪性胸膜中皮腫の80~90%はアスベストのばく露が関与していることが分かっています。
胸膜中皮腫の症状は息切れや胸痛、咳、発熱、体重減少、全身倦怠感などがあります。ただ、無症状のまま経過して、健診の胸部X線検査で偶然発見したというケースも珍しくありません。
2ー2、肺がん(原発性肺がん)の症状
アスベストを吸い込むと、肺がんを発症するリスクもあります。特に、喫煙者がアスベストを吸い込むと、アスベスト非ばく露+非喫煙者よりも肺がんを発症するリスクは50倍にもなります。
肺がんは無症状で健診で見つかる症例もありますが、咳、痰、血痰、発熱、呼吸困難感、動悸、胸痛などの症状が現れます。
2-3、石綿肺の症状
石綿肺は、アスベストを吸い込むことで肺が線維化する「じん肺」の一種です。
石綿肺の症状は労作時の息切れや咳、痰から始まり、呼吸機能が徐々に低下していき、HOT(在宅酸素療法)が必要になるケースもあります。
2-4、びまん性胸膜肥厚の症状
びまん性胸膜肥厚は、胸膜が線維化して肥厚する病気です。肥厚した部分が広がると、胸膜が硬くなって、肺がきちんと膨らまなくなります。
びまん性胸膜肥厚になると、呼吸困難感や胸痛が起こり、さらに肺炎など呼吸器感染症を繰り返し発症するなどの症状が現れます。
良性石綿胸水を発症した後に、びまん性胸膜肥厚を発症するケースが多いです。
3、アスベスト関連の看護のポイント
アスベストに関連した看護は、産業看護とアスベスト関連疾患発症後の看護の2つのフェーズがあります。
それぞれのアスベストに関連した看護のポイントを説明していきます。
3-1、産業看護のポイント
アスベストは現在日本では製造されていません。しかし、アスベストを使用した建物などはまだ残っていて、解体する時にはアスベストを吸い込むリスクはあります。
そのため、産業看護に従事する看護師は、以下のポイントに留意しておくようにしましょう。
■アスベストばく露を予防する
看護師は労働者のアスベストばく露を予防しましょう。
・マスクの正しい装着法を指導する
・作業場で飲食を禁止する
・作業着は自宅に持ち帰らないようにする
・上記ができているかを監視する
作業場でマスクを外して飲食をすると、それだけアスベストを吸い込むリスクが高くなります。また、作業着にはアスベストが付着している可能性があり、それを自宅に持ち帰ると、家族がアスベストを吸い込むリスクがあります。
看護師はそのことを労働者・現場管理者等に説明し、ばく露予防のための措置を行っていきましょう。
■健康診断の推進
看護師は作業者が定期的に健康診断を受けられるように、企業で健康診断をきちんと実施するように調整していく必要があります。
悪性胸膜中皮腫や肺がんは、早期発見なら手術で完治できることが多いですから、健康診断での早期発見が重要になります。
■禁煙指導
産業看護師は作業者の禁煙指導をしていきましょう。
アスベストによる肺がんは、喫煙していることでリスクが大幅に上がります。
そのため、作業者は禁煙することで、発症リスクを大幅に下げることができるのです。
3-2、アスベスト関連疾患発症後の看護のポイント
■診断時の看護のポイント
アスベスト関連疾患の人は、確定診断の前から「がんかもしれない」という非常に大きな不安を持っています。
また、確定診断後も患者や家族はショックを受け、治療に前向きに取り組むことができなかったり、精神的に不安定な状態になることもあります。
看護師は患者や家族の想いや考え、不安を傾聴し、精神的なケアを行っていかなければいけません。
・疾患や治療方法、予後に関する正確な情報提供を行う
・医師の説明をどのくらい理解できたかの把握し、必要なら何度でも医師に説明してもらえる場を調整する
・セカンドオピニオンを希望する患者には、セカンドオピニオンの相談ができる病院の情報提供を行う
これらのポイントに留意し、看護師は患者と家族が治療に関する適切な選択ができるように支援していきましょう。
■治療時の看護のポイント
アスベストによる悪性胸膜中皮腫や肺がんなどは、手術・化学療法・放射線療法を組み合わせて治療を行うことになります。
いずれの治療を行う場合にも副作用の出現に留意し、できる限り患者の苦痛を取り除くようなケアを行っていきましょう。
また、根治が望めない中で化学療法を続けると、QOLが低下することもあります。
そのような場合は、患者と家族に正確な情報提供を行い、QOLを考慮した緩和ケアに切り替えるという選択肢を提示することも必要です。
■在宅療養に向けての看護のポイント
石綿肺やびまん性胸膜肥厚では、退院後に在宅酸素療法(HOT)を導入しなければいけないことがあります。
在宅酸素療法の導入の際の注意点などを患者やその家族にしっかりと理解してもらうことはもちろんですが、在宅酸素療法導入への拒否感や呼吸困難感が増悪することへの不安、疾患の進行などの不安などもしっかりとケアしていきましょう。
また、中皮腫や肺がんの患者さんも在宅ケアを望む人もいます。その場合は、主治医と相談し、かかりつけ医への橋渡しや訪問看護ステーションとの連携などが必要になります。
まとめ
アスベストの基礎知識とアスベスト関連疾患と症状、ケース別の看護のポイントをまとめました。
アスベスト関連疾患はばく露から数十年経ってから発症する厄介な病気です。中皮腫や肺がんを発症した患者は不安・ショックが大きいですから、看護師は疾患だけでなく、患者の精神面に目を向けて、精神的なケアもしっかり行っていくようにしましょう。
参考文献
・長松康子・佐居由美「アスベストと悪性中皮腫における看護実践・研究に関する文献レビュー」看護聖路加看護学会誌 Vol.12 No.2 July 2008
・HOT患者様へのケア~在宅と病院との連携~|独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 慢性疾患看護専門看護師 平田聡子
・アスベスト健康被害に関するQ&A|一般社団法人日本呼吸器学会
・アスベスト(石綿)関連疾患|アスベスト(石綿)による健康被害|アスベスト(石綿)とは?|アスベスト(石綿)健康被害の救済|独立行政法人環境再生保全機構
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