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認知症認定看護師の役割と入学・資格取得に際する試験対策

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認知症認定看護師

認知症を発症している高齢者は2012年時点で約462万人、これは65歳以上の高齢者のうちの約15%で、さらに認知症の前段階である軽度認知障害を持つ高齢者は約400万人にのぼると厚生労働省研究班の調査で明らかになっています。

また、2015年1月に厚生労働省より発表された推計によれば、2025年には認知症患者が700万人にのぼると言われています。このように、認知症は高齢者にとって非常に身近な障害であり、医療機関における認知症認定看護師の必要性はますます高まっています。

認知症認定看護師になるためには、教育機関への入学試験に合格し、課程を修了した後に、認定試験に合格しなければならず、その道は長く険しいのが実情です。

ここでは、試験対策を中心に認知症認定看護師に関して詳しくご説明しますので、認定看護師を目指している方はぜひ最後までしっかりお読みください。

 

1、認知症認定看護師とは

認知症認定看護師は、日本看護協会によって2006年に認定が開始された資格のことで、

①認知症患者の権利擁護として意思表出能力を補完

②認知症の周辺症状を悪化させる要因への働きかけによる行動障害の予防や緩和

③認知症患者の状態把握を含む心身状態の総合的なアセスメント及びケアサポートシステムの立案

など、専門的な知識・裏付けのもとケアを行う認知症の看護におけるスペシャリストです。

認知症認定看護師は、豊富な知識と高い技術を有し、患者に対する直接的なケアのみならず、看護職員への指導や相談などを包括的に行うリーダーとしての役割を担っており、2015年時点では全国で472人が認定を受けていますが、認知症患者の急増に伴い、看護師の人数は深刻なほど不足状態にあります。それゆえ、認知症認定看護師の必要性はここ数年で軒並み高まっています。

 

認知症のメカニズムは未だ解明されておらず、また効果的な治療法も確立されていないため、他疾患との鑑別、重症度の評価など誤診が多発しているのが現状で、さらに徘徊や暴言といった認知症の症状に対する対処法は非常に難しいため、多くの看護師が対処にストレスを感じ、結果的に病院全体の看護の質・成果の低下を招いてしまいます。

ゆえに、全体の看護の質・成果を向上させるために、各医療機関における認知症認定看護師の存在は不可欠であり、特別養護老人ホーム、訪問看護ステーションなど、活躍の場は多岐に渡ります。

 

2、役割・活動内容

認定看護師は、医療従事者の間で看護のスペシャリストとして認知され、さらに現状においては病棟・病院の看護の質を高めることが出来る唯一の存在であるため、認知症認定看護師に期待される能力は多岐に渡り、患者のQOL向上に向けてさまざまな視点から包括的に看護を実践することが求められます。

 

認知症認定看護師に期待される能力

①認知症患者の意思を尊重し、権利を擁護することができる。

②発症レベルに関わらず、すべての段階において患者の状態像を統合的かつ適切にアセスメントし、各期に応じたケアの実践・体制づくり、家族のサポートを行うことができる。

③認知症の行動心理症状を悪化させる要因や誘因に働きかけ、予防・緩和することができる。

④患者にとって安心・安全・安楽な生活環境・療養環境を調節することができる。

⑤他疾患合併による影響をアセスメントし、健康管理(治療的援助を含む)を行うことができる。

⑥認知症に関わる保健・医療・福祉制度を正しく理解した上で、地域にある社会資源の活用・開発に寄与できる。

⑦認知症看護における専門的知識の習得ならびに技術向上のための自己研鑽に取り組み、柔軟にケアニーズの変化に対応できる。

⑧認知症看護の実践を通して役割モデルを示し、看護職に対して具体的かつ的確な指導が出来る。

⑨認知症看護に関する看護職の具体的な相談、認知症治療に関する患者・家族の相談に対応することができる。

⑩他職種と積極的に共働し、ケアサービス推進のための役割をとることができる。

 

このように、「実践」だけでなく、「指導」「相談」など、認知症における病棟・病院全体の看護の質向上を図ることが認知症認定看護師の役割です。

それに応じて、「各期に応じた療養環境の調節・ケア体制の構築」「行動心理症状の緩和・予防」「看護職員に対する認知症看護の指導」「患者・家族・看護職員へのコンサルテーション」など、活動内容も多岐に渡ります。

 

・各期に応じた療養環境の調節・ケア体制の構築

患者のADL(日常生活動作)を考慮し、安心・安全・安楽な生活環境を提供することが第一の役割です。規則正しい生活リズムが整えられるよう働きかけたり、自宅のような親しみのある環境に近づけたり、季節感を取り入れる工夫をし、居心地の良い環境を作るとともに、患者の症状に応じてケガや事故が起きないよう配慮します。

 

・行動心理症状の緩和・予防

認知症症状の1つである徘徊や暴言・暴力といった“行動”には、各患者の心理的側面が大きく関係しています。ゆえに、各患者の心理をアセスメントした上で、各患者に見合ったケアを見出し、症状の緩和や事故の予防を行います。

 

・看護職員に対する認知症看護の指導

安心・安全・安楽のための環境づくり、アセスメント・ケアの方法など、認知症看護に必要となる技術を看護職員に指導し、病院全体の看護の質の向上を図ります。また、各看護職員によってケア手順や内容に相違が生じないよう、マニュアルの作成・改変を行うのも認定看護師の大きな役割です。

 

・患者・家族・看護職員へのコンサルテーション

認知症の症状発現に関する身体的・精神的・社会的な影響に不安を抱える患者や家族に対して、不安の軽減・治療の細やかな説明など相談業務を行います。また、看護チームからのコンサルテーション業務など、アドバイザーとしての役割を担い、病院全体の看護の質向上に努めます。

 

3、認定取得へ向けた取り組み

認知症認定看護師になるためには、まず日本看護協会が指定する教育機関にて6か月615時間以上に及ぶ課程を修了し、その後に受けることができる認定審査に合格する必要があります。

教育機関への入学にはさまざまな要件があり、さらに入学試験に合格しなければならないため、誰でも簡単に入学できるというわけではなく、豊富な知識と経験が必要不可欠です。

認知症認定看護師を目指している方は、教育課程の入学要件やカリキュラム、近隣の教育機関をしっかりと把握しておきましょう。

 

教育課程の入学要件

①日本国の看護師免許を有すること。

②看護師免許を取得後、通算5年以上の実務研修(臨床経験)を有すること。

③そのうち3年以上、認知症者の多い医療・福祉施設(在宅ケア領域を含む)等での看護実績を有すること。

④認知症者の看護を5例以上担当した実績を有すること。

⑤現在、認知症者の多い医療・福祉施設(在宅ケア領域を含む)等で認知症者の看護実績に携わっていることが望ましい。

 

カリキュラム

科目 科目名 単位数 総単位数
共通科目 看護管理 15 135時間

(+15時間)

情報管理 15
看護倫理 15
臨床薬理学 15
リーダーシップ 15
文献検索・講読 15
指導 15
相談 15
医療安全管理 15
対人関係(選択) 15
専門基礎科目 認知症看護原論 15 90時間
認知症基礎病態論 15
認知症病態論

(認知症の原因疾患と治療)

45
認知症に関わる保健・医療・福祉制度 15
専門科目 認知症看護倫理 15 150時間
認知症者とのコミュニケーション 15
認知症看護援助方法論Ⅰ

(アセスメントとケア)

45
認知症看護援助方法論II

(生活・療養 環境づくり)

30
認知症看護援助方法論III

(ケアマネジメント)

30
認知症者の家族への支援・家族関係調整 15
演習/実習 学内演習 90 270時間
臨地実習 180

※単位は教育機関によって異なる

 

教育機関

都道府県 教育機関名
北海道 北海道医療大学 認定看護師研修センター
秋田県 日本赤十字秋田看護大学 教育研究開発センター

認定看護師教育課程認知症看護認定看護師コース

千葉県 地域医療機能推進機構本部研修センター
東京都 聖路加国際大学 教育センター
日本看護協会看護研修学校
神奈川県 神奈川県看護協会 認定看護師教育課程
山梨県 山梨県立大学 看護実践開発研究センター
長野県 長野県看護大学 看護実践国際研究センター
兵庫県 公益社団法人 兵庫県看護協会 認定看護師教育課程

 

3-1、教育機関への入学試験対策

上記の9つの教育機関で課程を履修するためには、まず入学試験に合格しなければいけません。入学試験は「学科試験」「小論文」「面接」で構成されており、配点割合は順に5:3:2となっています。

入学試験の合格率は例年20%~50%と低いため、合格するためには入念なリサーチと勉強が必要不可欠です。しかしながら、多くの方は業務に追われ、勉強に時間を割くことができないのが実情です。

それゆえ、「学科試験」・「小論文」・「面接」の内容とポイントを抑え、限られた時間と労力で取り組むことが重要となります。

 

学科試験

学科試験は、一般的に“専門科目Ⅰ(択一式)”と“専門科目Ⅱ(記述式)”で構成されており、主に「看護師国家試験出題基準」の中の認知症看護に関連した問題が出題されます。

専門科目Ⅰは認知症看護において正しい回答を選ぶ正誤問題で、専門科目Ⅱは状況設定問題と小論文です。

専門科目Ⅰ 「認知症の概念」「認知症看護の原理原則と倫理」「認知症の病態と治療」「認知症患者とのコミュニケーション」「認知症患者と家族に対する保健・医療・福祉制度」「認知症患者のケアマネジメント」「認知症患者の生活・療養環境づくり」など、認知症看護の実践に必要となる基礎知識が問われる。
専門科目Ⅱ 認知症患者と家族について当事者の視点からアセスメントを行い、適切な看護実践を展開する上で必要となる知識と記述能力が問われる。

 

学科試験の問題は教育機関によって異なるため、「看護師国家試験出題基準」だけでなく、入学を希望する教育機関の過去問題(前年度分)をしっかりリサーチする必要があります。

過去問題は主に、各教育機関が実施する“入試説明会”に参加することで閲覧または入手することができますので、必ず参加しておきましょう。

なお、「日本看護協会」の会員であれば、看護研究学校と神戸研修センターの過去問題(前年度分)をホームページより閲覧することができます。入学を希望する教育機関の出題傾向と異なる部分はあるものの、基礎となる傾向を知ることができるため、まだ会員ではない方は、この機会に会員登録するのも良いでしょう。

 

小論文

小論文では、出題されるテーマに対して、経験や実践をもとに自分なりに問題提起し、それに基づく根拠や今後の課題・展望などを論理的に示すことが求められます。

評価項目 評価基準
内容 ・経験や実践をもとに論理的に述べられている。

・今後の課題や展望について述べられている。

文章構成 ・論旨が明確で簡潔明瞭である

・誤字・脱字がない

・段落・改行が適切である

・文字数800文字以上、1200文字以内

 

小論文のテーマは教育機関ごとに異なり、さらに年度によっても変更されます。抽象的なものから具体的なものまでさまざまですが、認知症看護に関する一般的なテーマが出題されます。

制限時間60分間に800文字以上埋めることが推奨されているため、過去問題や認知症に関連した最近のニュースなどを題材に、自分の中で効率的に書くことが出来るテンプレートを作っておきましょう。

 

面接

面接では、主に事前に提出した書類(志望理由など)をもとに質問されます。他にも、「認定看護師の必要性」「理想の認定看護師像」「資格取得後のビジョン」など質問されることがあります。

基本的には、事前に提出した書類をもとに質問されるため、書類に書いたことは何を聞かれても矛盾なく答えられるように準備しておきましょう。なお、書いていることをそのまま述べるのではなく、さらに深く詳細を伝えられるよう、+αの答えを用意しておきましょう。

また、社会人としての姿勢や振る舞いなども評価の対象となるため、面接のマナーも事前にしっかりと心得ておきましょう。

 

3-2、認定審査対策

日本看護協会が指定する教育機関での課程を修了した後に行われる認定審査は、資格取得に際する直接的な試験であり、これに合格することで晴れて認定看護師になることができます。

認定審査は、客観式一般問題と客観式状況設定問題で構成されています。合格基準は105点以上であり、合格率は例年90%を超えているため、勉強を怠らなければ合格は難しくありません。

出題方式 問題数 配点
問題1:客観式一般問題 20問 50点
問題2:客観式状況設定問題 20問 100点
40問 150点

 

認定審査で出題される問題は主に、各教育機関で履修した「認定看護師教育基準カリキュラム」であり、合格率は全領域で90%以上、認知症領域では95%(年次によって99%以上)と非常に高いため、学んだことを復習すれば難なく合格できます。

しかしながら、勉強を怠れば不合格になる可能性は十分ありますし、履修カリキュラムの知識は認定看護師の技術力に直結するため、認定審査の事だけでなく、今後の業務も視野に入れ、しっかりと勉強しておきましょう。

なお、認定審査の過去問題は前年度分のみ、課程を履修した教育機関にて修了後に閲覧することができます。出題範囲や傾向を知ることができますので、事前に把握しておきましょう。過去問題の閲覧方法は各教育機関によって異なるため、閲覧を希望される方は履修した教育機関に問い合わせてください。

 

4、認知症認定看護師の求人・転職

2015年時点の認知症認定看護師数は472人で、高齢化が進んでいる昨今、需要がますます高まっています。

領域 人数(人) 領域 人数(人)
救急看護 921 透析看護 182
皮膚・排泄ケア 2,040 手術看護 314
集中ケア 939 乳がん看護 244
緩和ケア 1,641 摂食・嚥下障害看護 521
がん化学療法看護 1,282 小児救急看護 208
かん性疼痛看護 741 認知症看護 472
訪問看護 438 脳卒中リハビリテーション看護 494
感染管理 2,053 がん放射線療法看護 177
糖尿病看護 672 慢性呼吸器疾患看護 171
不妊症看護 137 慢性心不全看護 184
新生児集中ケア 341 14,172

 

また、認知症認定看護師472人の都道府県別内訳は以下の通りです。

  都道府県別、認定看護師数(人)
北海道東北 北海道(18)、青森(3)、岩手(1)、宮城(7)、秋田(13)、山形(1)、福島(5)
関東甲信越 茨城(3)、栃木(13)、群馬(5)、埼玉(19)、千葉(21)、東京(67)、神奈川(23)
東海北陸 新潟(8)、富山(6)、石川(9)、福井(6)、山梨(6)、長野(24)、岐阜(11)、静岡(9)、愛知(29)
近畿 三重(3)、滋賀(11)、京都(8)、大阪(32)、兵庫(37)、奈良(8)、和歌山(2)
中国四国 鳥取(6)、島根(4)、岡山(4)、広島(9)、山口(4)、徳島(0)、香川(3)、愛媛(4)、高知(4)
九州沖縄 福岡(9)、佐賀(1)、長崎(5)、熊本(7)、大分(3)、宮崎(0)、鹿児島(1)、沖縄(0)

 

認知症は高齢者の多くが発症する障害であり、病気の合併症として発現するケースも多々あります。非常に身近な障害であることから、認知症の予防や看護に精通した認知症認定看護師が存在する必要性はますます高まっています。

認知症認定看護師の活動の場は、病院、クリニック、介護・養護施設など多岐に渡り、今や各領域の認定看護師は各医療施設に一人以上就業していることが推奨されており、すべての医療施設で非常に高い需要があるため、求人・転職に困ることはまずありません。

 

まとめ

認知症認定看護師は、さまざまな業務の中で認知症患者のQOL向上を援助する看護のスペシャリストであり、多くの医療施設が求める人材です。また、認知症は高齢者と深く関わりを持つ障害であることから、多くの場で活躍することができます。

認定看護師の資格取得への道は長く、多大な費用がかかりますが、それを補って余りあるほどの便益(利益)が将来に渡って継続するため、認定看護師を目指している方や目指そうと考えている方は、ぜひ資格取得へ向けて頑張ってください。


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