従来開腹して行っていた手術を、腹腔鏡の観察下で行うものを、腹腔鏡下手術といいます。腹腔鏡下胆嚢摘出術、通称ラパ胆は腹腔鏡下手術のさきがけでもあり、その後、胃、大腸、腎臓、副腎などの手術に広く応用されている術式でもあります。胆嚢結石、急性胆嚢炎、胆嚢ポリープ、胆嚢腺筋腫症などの症例にラパ胆が選択されます。ラパ胆を受ける患者さんの術後合併症、観察ポイントについて考察していきましょう!
1、腹腔鏡下胆嚢摘出術(ラパ胆)とは
従来開腹して行っていた胆嚢摘出手術を、腹腔鏡の観察下で行うものを、腹腔鏡下胆嚢摘出術、通称ラパ胆(laparoscopic cholecystectomy)といいます。原則として全身麻酔下で施行されますが、開腹手術と比較すると創が小さく創痛も少なく低侵襲な術式です(腹部に1~2cmの傷を3~4ヶ所開ける)。入院期間も短くて済むため患者にはメリットがあります。最近では整容性を追求し、術者の操作を1つの孔から行う単孔式内視鏡手術なども行われています。近年ではさらに低侵襲の手術ロボットの導入も進んでいて、新しい技術が臨床で応用され始めています。
2、ラパ胆の適応
胆嚢結石、急性胆嚢炎、胆嚢ポリープ、胆嚢腺筋腫症などにラパ胆が適応となります。胆のう癌は原則として開腹手術が適応です。これは腹腔鏡下胆嚢摘出術によって起こりやすい腹膜播種を避けるためでもあります。
3、ラパ胆の合併症
■胆嚢の働きについて復習
胆嚢は肝臓で作られる胆汁を貯蓄、濃縮し、放出する器官です。胆道を介して肝臓と十二指腸乳頭部につながっています。
出典:図1 肝臓と周辺の臓器の構造(国立がん研究センターがん情報サービス|2015年8月21日更新)
胆汁は通常5倍から10倍に濃縮されます。胆汁の排出経路と作用については以下の通りです。
1、肝細胞で胆汁が作られる
2、作られた胆汁は、胆嚢で貯留・濃縮される(水分吸収・粘液分泌) 3、十二指腸下行部に食物(特に脂肪)が入ると、コレシストキニン(CCK)が分泌され、胆嚢が収縮すると同時に、Oddi括約筋が弛緩する 4、胆汁が十二指腸に排出 5、小腸での脂肪の消化・吸収を促進 |
■胆汁の働きについて復習
胆汁とは、肝臓でたえず生成される黄褐色の液体で、小腸における脂肪の消化・吸収を促進する機能と、肝臓内の老廃物を肝臓外に排出する機能を持ちます。胆汁自体に消化酵素は含まれません。
ラパ胆の合併症は、術中と術後に起こるものに分けられます。
3-1 術中合併症
■心肺機能低下
腹腔鏡下手術では、視野確保のためにCO2を使い腹腔を膨らませます。このことを気腹といいますが、気腹により腹圧が上昇し、静脈環流量が減少するため、心肺機能が低下します。そのため術前検査で、患者の心肺機能を評価する必要があります。
出典:くわしく知ろう内視鏡外科手術(医療法人東和会 第一東和会病院)
■胆道、周囲血管損傷
ポート留置や視野外での不適切な操作が原因となり起こります。術前から胆道の走行を確認することや、術中にも胆道造影により早期に胆道損傷に気づくことが重要です。
■深部静脈血栓症
気腹による腹圧の上昇のため、下大静脈が圧排され、下肢静脈がうっ滞することで起こります。弾性ストッキングや間欠的下肢加圧装置の着用により予防します。
3-2 術後合併症
■下痢
胆汁を蓄える働きをする胆嚢を摘出してしまうので、脂肪の消化・吸収が不安定になり、便中の水分が増加することにより下痢が起こりやすくなります。油分が多いものを控え、食生活に気を付けてもらわなければいけませんが、たいていは術後1か月で体が順応してきます。
4、ラパ胆のドレーンの注意ポイント
ドレーンとは、体内に貯留した体液や空気を体外に排出するための管のことをいいます。ドレーンを使って、体外に体液や空気を排出することをドレナージといい、その種類には以下の二つがあります。
■閉鎖式ドレナージ
排液がドレーンからチューブを通じて排液バッグまで誘導されるもの。
■開放式ドレナージ
ドレーンから 直接体表面に誘導され、排液バッグではなくガーゼなどに吸収されるもの。
ラパ胆の場合、術後1~3日までドレーンを留置することがありますが、必ずしもドレーンを留置するわけでもないので、腹部の観察が必須となります。
ドレーンをきちんと管理するためには、必ず以下の項目を確認するようにしましょう。
・ドレーンは皮膚に固定されているか
・ガーゼやテープが血液や体液で汚染されてはいないか ・挿入部位からドレーンバッグまでの落差が保たれているか ・ドレーンチューブにねじれや屈曲がないか ・ドレーンバッグが床に接触していないか ・移動時ドレーンが体にからまっていないか ・体動時、ドレーンが引っ張られないよう ・ドレーンが床に接触していないか |
■ドレーン排液が胆汁様になると注意
ラパ胆の合併症として、胆汁漏があります。純粋な胆汁漏では、黄色空茶褐色で粘性のある排液がみられます。薄い黄色調の排液では、胆汁漏なのか、漿液性排液なのか判断するのが難しいことがありますが、その際はガーゼに排液を落として、粘性を見て判断します。術後早期~数日後に起こりやすく、かつ腹痛や発熱がある場合は腹膜炎の可能性もあるのでドクターに報告します。
■ドレーンが閉塞・屈曲・破損していた時の対応
ドレーンが閉塞・屈曲・破損していると、効率よくドレナージが行えません。そのため、訪室するたびに、ドレーンチューブに問題がないか、排液の色、量、性状、臭いなどを必ず確認します。持続吸引機などの陰圧がかかっていない場合は、ドレーンの破損を疑います。ドレーンに問題があると気づいた場合は、まず患者のバイタルサインをチェックし、破損している場合は破損部を滅菌ガーゼで多い医師に報告します。血塊やフィブリン塊でチューブ内が閉塞している場合は、ミルキングローラーやアルコール綿を使ってチューブをしごいて流します。ドレーンのタイプによって、ミルキングして良いものとだめなものがあるので、必ず確認しましょう。ねじれや屈曲がある場合だと、固定やセッティングを再度修正するとねじれにくくなります。
まとめ
従来の開腹手術よりも低侵襲ですが、高度な技術が要求される腹腔鏡下手術。腹腔鏡下胆嚢摘出術、通称ラパ胆は腹腔鏡下手術のさきがけでもあり、今では胃、大腸、腎臓、副腎などの手術に広く応用されている術式でもあります。低侵襲とはいえ、全身麻酔下で行うので術後の合併症は必ずしも少ないとはいえませんし、術後の展開も早く1週間で退院という流れも多いので、観察項目とやるべき処置を絞って効率よく受け持ちができるように、再度ラパ胆について復習してみてはいかがでしょうか。
参考文献
チーム医療を担う医療人共通のテキスト 病気がみえるvol.1消化器 第5版(株式会社メディックメディアp354,371|医療情報科学研究所|2016年3月26日)
解剖生理からケアまで網羅!必修事項がサクッとわかる消化器外科看護まるごと図解ブック(株式会社メディカ出版 p210|毛利靖彦、楠正人|2014年3月24日)
消化器疾患看護の専門性を追求する消化器外科NURSING6(株式会社メディカ出版|p34|2016年6月1日)
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