近年、食生活の欧米化に伴い狭心症などの虚血性心疾患は増加しています。虚血性心疾患は突然死の原因にもなりうる可能性が高く、心臓が原因とされる突然死としては、急性心筋梗塞、狭心症、心筋症、心不全、不整脈、弁膜症などが挙げられます。突然死は発症してから死亡まで24時間以内と定義され、年間5万人以上の方が死亡しており、その原因の6割以上を心臓突然死が占めています。突然死と不整脈には深い関わりがあり、不整脈をコントロールするためにしばしばICDが用いられます。ここでは、ICDについて詳しく説明していきます。
1、ICDとは
ICD(Implantable Cardioverter Defibrillator)とは、植込み型除細動器のことを言います。致死性の不整脈(心室頻拍や心室細動)などの治療を行う体内植込み型の装置で、心臓の脈を監視し、不整脈の発作が出た場合に、電気ショックを発生させてその不整脈を抑える働きをします。不整脈そのものを治療する装置ではありませんが、発作による突然死を防ぐ目的で用いられます。ICD本体には、心臓のリズムが正常かどうかを監視するための非常に精密なコンピュータが内蔵されていて、さまざまな不整脈に対応できる治療プログラムが設定されています。異常を感知した場合には、どのタイプの不整脈かを即時に診断し、そのプログラムに沿った治療が行われます。ICDの普及により、以前は救うことの難しかった命を、90%以上の高い確率で救うことが出来るようになったと言われています。
2、ICDとペースメーカーの違い
ICDは本体と接続した細い電線(リード線)で構成されていて、患者の不整脈の状態によりリード線が1本のものと、2本のものが使い分けられています。見た目はペースメーカーとよく似ていていますが、その働きと使用の目的が異なります。ICDはリード線の先を心臓に取り付け、本体とリードを接続することで心臓の動きを監視していて、命に関わるような不整脈の発作が起きた場合に、本体から電気的な刺激を心臓に伝え治療を行うしくみになっています。ペースメーカーは除脈の治療に用いられ、徐脈が起きた際に心臓の動きに合わせて、電気的な刺激を流すことで必要な心拍数を維持する働きを持っています。また、ICDはペースメーカーと同じ徐脈に対する治療機能も持ち合わせています。ICD本体は約70g程度で折り畳み式の携帯電話ほどの大きさですが、ペースメーカーと比べると大きくなります。ICDには電池の寿命があり、作動状況によもよりますが大体4~5年ぐらい、寿命が来た場合は交換が必要となります。
3、ICDの適応条件
ICDの適応条件について、ACC/AHA ガイドラインに基づき以下のように表記しています。
・クラスⅠ:有益であるという根拠があって、適応であることが一般に同意されている
・クラスⅡa:有益であるという意見が多いもの ・クラスⅡb:有益であるという意見が少ないもの ・クラスⅢ:有益でないまたは有害であり、適応でないことで意見が一致している |
■心室細動
≪クラスⅠ≫
①臨床的に心室細動が確認されている患者
②器質的な心臓疾患に伴う持続性の心室頻拍があって、かつ以下の条件を満たす患者
・失神を伴う場合
・血圧が80 mmHg 以下、または脳虚血症状や胸痛の訴えがある場合 ・多形性の心室頻拍 ・血行動態が安定している単形性心室頻拍の患者で、薬物治療で効果がない場合や、副作用により使用できない場合、薬効評価ができない場合、カテーテルアブレーションが無効な場合 |
≪クラスⅡa≫
①カテーテルアブレーションにより持続性心室頻拍が誘発されなくなった場合
②薬効評価で有効な薬剤が見つかっている場合
≪クラスⅢ≫
①急性虚血,電解質異常,薬剤などが原因となる頻拍で、その原因を除去すれば、心室頻拍・心室細動の再発を抑制することができる場合
②抗不整脈薬やカテーテルアブレーションではコントロール不良で、頻回に心室頻拍または心室細動繰り返す場合
③根治可能な原因に起因する心室細動または心室頻拍(WPW 症候群に関連した心房性不整脈や特発性持続性心室頻拍など)
④余命6 ヶ月未満の場合
⑤精神障害などがあり治療法に対し患者の同意や協力が得られない場合
⑥NYHA クラスⅣの心移植の適応とならない薬剤抵抗性の重度うっ血性心不全患者
■非持続性心室頻拍
≪クラスⅠ≫
①冠動脈疾患、拡張型心筋症に伴う非持続性心室頻拍があり、左室機能低下(左室駆出率≦35 %)があり、さらに電気生理検査によって持続性心室頻拍または心室細動が誘発され、かつそれらが抗不整脈薬によって抑制されない場合
≪クラスⅡa≫
①冠動脈疾患,拡張型心筋症に伴う非持続性心室頻拍があり、左室機能低下(左室駆出率≦35 %)を有し、さらに電気生理検査によって持続性心室頻拍または心室細動が誘発される場合
③肥大型心筋症に伴う非持続性心室頻拍があり、突然死の家族歴を有し,かつ電気生理検査によって持続性心室頻拍または心室細動が誘発される場合
≪クラスⅡb≫
・該当なし
≪クラスⅢ≫
■器質的心疾患を伴わない非持続性心室頻拍
≪クラスⅠ≫
・該当なし
≪クラスⅡa≫
①慢性心不全(冠動脈疾患または拡張型心筋症に基づくもの)で、十分な薬物治療を行ってもNYHA クラスⅡまたはクラスⅢの心不全症状を有し、左室駆出率が35 % 以下の場合
≪クラスⅡb≫
①発症から1ヶ月以上または冠動脈血行再建術から3ヶ月以上経過した左室駆出率が30 % 以下の心筋梗塞
≪クラスⅠ≫
①器質的心疾患に伴う原因不明の失神があり、電気生理検査によって血行動態の破綻する持続性心室頻拍または心室細動が誘発され、薬物治療が無効または使用できない場合
≪クラスⅡa≫
①心機能低下を伴う器質的心疾患および原因不明の失神があり、電気生理検査により血行動態の安定した持続性心室頻拍が誘発される場合で、薬物療法またはカテーテルアブレーションが無効または不可能な場合
②心機能低下を伴う器質的心疾患と原因不明の失神があり、電気生理検査により血行動態の破綻する持続性心室頻拍または心室細動が誘発され、薬効評価がなされていないか不可能な場合
≪クラスⅡb≫
①拡張型心筋症,肥大型心筋症に伴う原因不明の失神があるが、電気生理検査により血行動態的に破綻する持続性心室頻拍または心室細動が誘発されない場合
≪クラスⅢ≫
①原因不明の失神で、電気生理検査により持続性心室頻拍または心室細動が誘発されない場合
■Brugada 症候群
≪クラスⅠ≫
①心停止蘇生例
②自然停止する心室細動または多形性心室頻拍が確認されている場合
≪クラスⅡa≫
①Brugada 型(coved 型ST上昇)心電図所見を示し、失神の既往または突然死の家族歴があり、電気生理検査によって多形性心室頻拍あるいは心室細動が誘発される場合
≪クラスⅡb≫
①Brugada 型(coved 型ST 上昇)心電図所見を示し、失神の既往または突然死の家族歴があり、電気生理検査によって多形性心室頻拍あるいは心室細動が誘発されない場合
≪クラスⅢ≫
①Brugada 型(saddle-back 型ST 上昇)心電図所見を示すが、心室細動・失神の既往及び突然死の家族歴がなく、電気生理検査によって心室頻拍あるいは心室細動が誘発されない場合
■先天性QT 延長症候群
≪クラスⅠ≫
①心停止蘇生例,または心室細動が臨床的に確認されている場合
≪クラスⅡa≫
①β遮断薬などの治療法が無効な再発性の失神があり、かつtorsades de pointes が確認されるか,または突然死の家族歴がある場合
≪クラスⅡb≫
①β遮断薬などの治療法が無効な再発性の失神がある場合
4、ICD埋め込み術
手術は全身麻酔下または局所麻酔下で行われます。通常、左胸部に植込まれ、手術の時間はだいたい2~4時間ほどです。まず胸部を数センチ切開してICD本体を留置するポケットを作ります。その後、鎖骨下を通っている静脈を通じて、右心室内にリードを留置します。リードを留置したのち、ICDが働く事を確認するため心室細動を起こし、確実に頻脈を停止できる事を確認します。手術中の合併症として、心不全やポンプ失調、血胸や気胸、血栓症や塞栓症、電極による穿孔などが挙げられます。
まとめ
ICDは突然死を防ぐための1つの手段として用いられます。しかし、ICDを使用する場合には、さまざまな適応条件があり、また、手術が必要となるため、侵襲的な処置が必要となります。そのため必然的に合併症のリスクが高まり、その看護にあたっては、リスクを予測した観察・看護が必要となります。現場での看護に生かすことができるようICDへの理解を深め、適切な看護が提供できるよう準備をしっかりとしていくことが重要です。
≪参考文献≫
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告)不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)(一般社団法人日本循環器学会|2011年)
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