高齢社会においては、医療とリハビリ・介護は切っても切れない関係です。個々のADLの状態に合わせて介入して効果を判定するためには、ADLを一定の基準で評価することが必要です。ADLを評価する目的から、医療機関で主に使用されているBarthel IndexとFunctional Independence Measureの評価項目まで、まとめてお伝えします。
1、日常生活動作(ADL)意味とは
ADL:Activities of daily livingは、「日常生活動作」もしくは「日常生活活動度」と訳され、人が日常生活を送る中で必要な食事・排泄・入浴に関する動作を、どこまで自立しているかを示す言葉です。最も基本的な生活動作をADLに対してbasicADL:BADLともいいます。
更にこのADLから派生した概念として、IADL:Instrumental Activities of Daily Living、「手段的日常生活動作」もあります。これはただ食事や排泄といったADLではなく、より高度な動作を示し、お金の管理を含めた買い物や料理・洗濯・掃除等の家事全般に加え、服薬管理や公共の交通機関の利用など、生活していく上では必要となる動作のことを言います。
2、ADL 評価(FIM・BI)
ADLを評価する方法にはいくつかの種類があり、日本で採用されている主なADLの評価方法は以下の4つ。それぞれ異なった特徴がありますので、比較してみましょう。
<ADLの評価分類>
①Barthel Index:BI(バーセルインデックス)
基本となる生活動作を10項目にしぼり、(食事・移動・整容・トイレ・入浴・歩行・
階段・着替え・排便・排尿の)それぞれの項目で不能から自立までの2~4段階に分け て評価する方法です。採点方法には20点満点と100点満点の方法がありますが、点数 が高いほど自立していることを示します。 |
②Katz Index(カッツインデックス)
基本となる生活動作をBIより更に6項目(入浴・更衣トイレの使用・移動・排尿・排便・食事)にしぼり、自立度によってAからGまでの7段階で判定を行うものです。 |
③DASC-21(ダスク21)
認知症のスクリーニングのための21の質問の中に、基本的ADL項目(入浴・更衣・排泄・整容・食事・移動)を含めたもので、認知機能障害と生活障害を一度に評価するために用いられています。 |
④Functional Independence Measure :FIM(機能的自立度評価表)
運動ADL13項目と認知ADL5項目で構成されており、各項目全介助の1点から完全自立の7点で評価する方法です。対象となる疾患を選ばず7歳以上を評価の対象としていることから世界中で使用されている方法で、日本国内では回復期リハビリテーション病棟における評価に使用されています。 |
ADLの評価方法はどれが間違いでどれが優れているというものはありませんが、ADLのみならBarthel Index、運動機能と認知機能を合わせて評価とする場合にはFunctional Independence Measureを採用されることが多いので、この2つの評価方法は覚えておくと良いでしょう。(評価の各項目については、次項目でお伝えします。)
3、ADL 項目
ADL評価の項目は、評価方法によって項目や配点が異なります。また、日常生活動作に重点をおくか認知機能におくかでも異なりますが、ここでは主な評価方法であるBarthel IndexとFunctional Independence Measureの評価項目をお伝えします。
<Barthel Index>
BIはADLの評価のみ10項目で構成されており、各項目の合計点で評価します。最低は0点、上記の配点方法は100点満点となっています。点数の高い方が自立度が高いことを意味しています。
①食事 | 10:自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える
5:部分介助(たとえば、おかずを切って細かくしてもらう) 0:全介助 |
②車椅子からベッドへの移動 | 15:自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(非行自立も含む)
10:軽度の部分介助または監視を要する 5:座ることは可能であるがほぼ全介助 0:全介助または不可能 |
③整容 | 5:自立(洗面、整髪、歯磨き、ひげ剃り)
0:部分介助または不可能 |
④トイレ動作 | 10:自立、衣服の操作、後始末を含む
ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む 5:部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する 0:全介助または不可能 |
⑤入浴 | 5:自立
0:部分介助または不可能 |
⑥歩行 | 15:45m以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わない
10:45m以上の介助歩行、歩行器の使用を含む 5:歩行不能の場合、車椅子にて45 m以上の操作可能 0:上記以外 |
⑦階段昇降 | 10:自立、手すりなどの使用の有無は問わない
5:介助または監視を要する 0:不能 |
⑧着替え | 10:自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む
5:部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える 0:上記以外 |
⑨排便コントロール
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10:失禁なし、浣腸、坐薬の取り扱いも可能
5:ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取り扱いに介助を要する者も含む 0:上記以外 |
⑩排尿コントロール
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10:失禁なし、収尿器の取り扱いも可能
5:時に失禁あり、収尿器の取り扱いに介助を要する者も含む 0:上記以外 |
<Functional Independence Measure>
FIMの特徴は運動と認知の評価項目が存在するところにあり、大項目としてⅠ運動・Ⅱ認知に分かれています。その次に中項目として運動ADLと認知機能それぞれに対して①~④と⑤~⑥の中項目が存在します。更にその中項目に対して小項目が存在します。
<FIMの評価項目>
大項目:I運動ADL、Ⅱ認知機能
中項目:Ⅰ①セルフケア②排泄③移乗④移動、Ⅱ⑤コミュニケーション⑥社会認識
小項目:①に対し食事、整容、入浴、更衣(上半身)、更衣(下半身)、トイレ動作
②に対し排尿、排便
③に対し ベッド・いす・車いす、トイレ、風呂・シャワー
④に対し歩行・車いす、階段
⑤に対し理解、表出
⑥に対し社会的交流、問題解決、記憶
運動ADL13項目と認知ADL5項目で評価し、小項目1つずつに完全自立の7点から全介助の1点の配点で評価とします。これを一覧にまとめているものが厚労省から発表されていますので、臨床現場で評価する際には、この表をもとに行えばOK。完全に暗記する必要はありません。
出典:厚生労働省
4、ADL 看護
ADLを評価する方法がいくつも存在するということは、それだけADLの評価は必要だということです。では、なぜ一人ずつにADLの評価を、それも入院中に何度も行う必要性があるのでしょうか。その目的がわかっていないと、ただルーチン業務として「評価すること」が目的になってしまいかねません。
<ADL評価の目的>
①患者本人の自立度と、看護(介護)の必要度を把握する
②どの部分に対する介入が必要か、コメディカルと情報共有する ③結果を活かし、看護計画・リハビリ計画を立案する ④治療やリハビリの効果判定に使用する ⑤今後の予測、介入の余地を検討する |
Functional Independence Measureでは各項目に対して全介助から完全自立までの7段階で評価しますので、かなり評価項目が細かくなっています。それだけ評価がきっちりされることで、今の状態と入院中の状態、退院時の状態がどのように変化していくかを数値化することができます。看護師は今の点数から⑤今後の予測を立て、どの項目に重点的な介入が必要か把握することで、③看護計画の立案に活かすことができるのです。基準がしっかり定められていることで、誰が評価してもほぼ同じ結果を得ることができ、コメディカルとも情報共有することができるため、退院に向けての入所施設などの検討にも役立ちます。
私達が忙しい業務の中で個々の患者のADLを評価する目的は、その結果を患者ごとに異なる個別の介入をして看護に活かすためです。目的をもち、ルーチン業務として行うことのないようにしたいものですね。
まとめ
ADLの評価はどの方法をとっても、評価することで終わっては意味がありません。評価した結果かから今後を見据え、どのような看護が必要かを考える材料にするべきです。ただ、正しい評価方法を知らなくてはスタッフと足並みをそろえることもできませんし、正しい治療判定を行うことができませんから、今回ご紹介した主な評価方法であるBarthel IndexとFunctional Independence Measureは使えるようにしておきましょう。
<参考サイト>
Functional Independence Measure(FIM)によるADL評価(厚生労働省|2017年11月10日)
ADLの評価法(一般社団法人日本老年医学会)
FIM 機能的自立度評価法(慶應義塾大学 医学部リハビリテーション医学教室|)