「自己効力感」という言葉を聞いたことはありますか?「自己効力感」という言葉は、元々は心理学で用いられていましたが、看護をする上でも非常に重要な概念になります。自己効力感の意味や看護理論との関係、看護計画への活かし方、看護研究や文献・論文をまとめました。
これから糖尿病の患者を看護する時、セルフケア不足の患者の看護をする時には、「自己効力感」を意識して、実際の看護に取り入れてみてください。
1、自己効力感とは
自己効力感は、カナダ人の心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、セルフエフィカシー(self-efficacy)と言うこともあります。バンデューラは、自己効力感とは個人の行動遂行能力に対する確信の程度と定義づけています。
簡単に言うと、ある行動を遂行できるという自分の可能性を認識している程度、「私にもできるんだ!やればできる!」と思える程度のことですね。そして、自己効力感の先行要因には、自分の行動がもたらす結果を予測する「結果予期」と行動遂行に対する自分の能力を予測する「効力予期」の2つがあります。
禁煙を例に挙げて考えてみましょう。
「禁煙して、タバコを吸わない生活を実現できる」と思えるかどうかが結果予期。そして、そのために「禁煙生活を頑張る、タバコを吸いたくても我慢できる」と思えるかどうかが効力予期になります。この結果予期と効力予期の2つを強く思えることが、自己効力感を高めることにつながります。
2、自己効力感と看護理論
自己効力感は看護をする上でとても大切な概念です。ドロセア・オレムが提唱した看護理論を例にとって、自己効力感と看護理論の関係について考えていきましょう。
オレムは、「セルフケアとは個人が生命、健康、安寧を維持する上で自分自身で開始し、遂行する諸活動の実践である」とセルフケアを定義づけています。
そして、セルフケア不足の患者には、次の3つの看護システムで看護介入していくべきとしています。
・全代償的看護システム | セルフケアが全くできない患者に対して、全面的に看護師がケアをすること |
・一部代償的看護システム | セルフケアが一部出来ない患者に対して、できない部分だけ看護師がケアすること |
・支持・教育的看護システム | セルフケアできる患者に対し、より良く・正しくできるように指導すること |
このセルフケア不足の患者に対してケアする上で、自己効力感を高める看護を取り入れるのは非常に重要です。特に、リハビリ等によってADLが徐々に拡大しているような患者の場合、今まで看護師にケアしてもらっていたことが当たり前になり、自分ではセルフケアを積極的にしようとしないことがあります。
そのようなセルフケア不足の患者に対し、「自分でもセルフケアができる」と感じるようなケア、つまり自己効力感を高めるケアをすることで、セルフケア不足を解消することができるのです。様々な看護理論がありますが、自己効力感と結びつけて考えると、看護理論をより深く理解でき、看護理論を具体的な看護計画に反映させることができます。
オレムの看護理論については、「セルフケアの看護|オレムの看護理論や看護目標・看護計画・看護研究」でも説明しています。
3、自己効力感を高める看護計画のポイント
看護をする上で、患者の自己効力感を高めることは非常に重要です。ここでは、糖尿病の自己管理ができない患者に対する看護計画を例に挙げて、看護計画の中にどうやって自己効力感を高めるケアを入れれば良いのかを説明していきます。
まずは、自己効力感を高めるためのポイントを確認しておきましょう。
<自己効力感に関係するもの1)>
1.達成体験=患者自身が何かを達成した、成功した経験をする
2.代理体験=患者以外の人が何かを達成したことを観察したり、成功体験を聞く 3.言語的説得=言葉での励まし 4.生理的情緒的状態=心身の状態を整えて、ネガティブな方に向かないようにする 5.行動に対する意味付けや必要性 6.達成するための方略=達成するための方法 7.原因の帰属=原因は何か 8.ソーシャルサポート 9.認知能力=過去や未来という時間を関連付けること、反省する能力 10.健康状態 |
これを踏まえて、糖尿病の自己管理ができていない患者の看護計画を立ててみましょう。看護目標は「糖尿病の自己管理ができるようになる」ですね。
<OP(観察項目)>
・バイタルサインや血糖値
・食事量 ・運動習慣の有無 ・生活習慣 ・家族構成 ・協力者の存在の有無 ・普段の言動や表情 ・自己管理の重要性の理解度 ・認知の能力 |
バイタルサインや血糖値のデータを観察することで、その患者の健康状態を把握し、自己効力感を高めることにつなげます。また、認知能力や理解度を観察することも、自己効力感へのアプローチにつながります。
<TP(ケア項目)>
・自己管理ができている患者に面会させて、成功体験を聞いてもらう
・自己管理ができるように励ます ・利用できるソーシャルサポートを紹介する ・自己管理できない原因を患者と共に考える ・1日ごとに目標を立て、達成感を頻回に味わえるようにする ・1日の血糖値や体重、食事量、運動量などをノートに記入してもらう ・患者にとってやりやすい自己管理の方法を提案する ・患者会や糖尿病教室を紹介する |
自己効力感を高めるためには、患者自身が成功体験を積み重ねられるためのケアを行い、同じ糖尿病でも自己管理ができている人たちの話を聞く機会を作ることが大切です。また、患者会や糖尿病教室、その他のソーシャルサポートを紹介することで、自己効力感を高めることができます。
<EP(教育項目)>
・食事指導を栄養士と共に行う
・運動療法の指導を行う ・自己管理の重要性を説明する ・家族にも自己効力感を説明し、高めることの重要性や工夫を伝える |
糖尿病の自己管理では、食事指導と運動療法の指導が大切ですが、同時に自己効力感を高めるために、「なぜ自己管理が必要なのか」という動機づけも重要になります。糖尿病の看護計画は自己管理だけではなく、合併症の予防や感染症の予防、低血糖の予防などもありますが、自己効力感を高めて自己管理ができるようになれば、他の看護計画も立案しやすくなるはずです。糖尿病の看護については、「糖尿病の看護 看護の視点とアプローチをする方法とは」でも説明しています。
4、自己効力感の看護研究、文献・論文
自己効力感という概念を活かした看護をするためには、自己効力感に関する看護研究や文献・論文を読んでおくと良いでしょう。
自己効力感に関する看護研究や文献、論文をご紹介します。
〇自己効力感を高める看護-糖尿病にて入退院を繰り返される患者様からの学び(看護教育52巻8号|川上勝利|2011年8月)
〇糖尿病患者の自己管理行動に関連する要因について―自己効力感、家族サポートに焦点を当てて(日本糖尿病教育・看護学会誌3巻2号|服部真理子、吉田亨、松嶋幸代、伴野祥一、河津捷二|1999年9月)
〇がん患者用自己効力感尺度作成の試み(看護研究31号3巻|塚本尚子|1998年6月)
〇外来がん化学療法患者における自己効力感の関連要因(日本がん看護学会誌24巻3号|林亜希子、安藤詳子|2010年)
〇自己効力感の概念分析(日本看護科学会誌vol.20 No.2|江本リナ|2000年)
〇循環器系疾患患者の自己管理行動および自己効力感に影響する要因(富山医科薬科大学 看護学会誌第4巻2号|直成洋子、泉野潔、澤田愛子、高間静子|2002年)
〇血液透析患者の自己管理行動及び自己効力感に影響を及ぼす因子(日本生理人類学会誌3巻3号|川端京子、石田宣子、岡美智代|1998年)
まとめ
自己効力感は心理学用語ですが、看護をする上で非常に重要な概念になります。自己管理が必要な患者、セルフケア不足の患者などの看護をする時には、自己効力感を高めることを意識して看護計画を立てると、看護目標を達成しやすくなるはずです。
参考文献
1)自己効力感の概念分析(日本看護科学会誌vol.20 No.2|江本リナ|2000年)