腰痛を訴える患者はたくさんいます。たかが腰痛と思うかもしれませんが、腰痛によって患者のQOLが大きく低下することもあります。腰痛によって発生する看護問題をしっかり把握し、看護計画を立ててケアをしていかなくてはいけません。
腰痛の原因や看護問題、看護計画、また緩和ケアで重視すべきことなどをまとめましたので、腰痛の患者の看護をする時の参考にしてください。
1、腰痛の原因
腰痛の原因は、主に5つに分類することができます。
①整形外科疾患によるもの
②内臓疾患によるもの ③心・血管系疾患によるもの ④皮膚疾患によるもの ⑤精神的な問題によるもの |
分類 | 疾患 |
整形外科疾患 | 圧迫骨折、急性腰痛症(ぎっくり腰)、椎間板ヘルニア、変性すべり症等 |
内臓疾患 | 膵臓がん、膵炎、胆のう炎、腎盂腎炎、腎・尿路結石、子宮筋腫、卵巣嚢腫等 |
心・血管系疾患 | 心筋梗塞、狭心症、大動脈解離、腹部大動脈瘤等 |
皮膚疾患 | 褥瘡、帯状疱疹等 |
精神的な問題 | ストレス、不安、身体表現性障害等 |
腰痛の原因というと、整形外科疾患を思い浮かべることが多いですが、それ以外の疾患でも起こることがあります。時には、命に関わる深刻な疾患のサインになることもありますので、看護師は様々な原因を考慮してアセスメントをする必要があります。
2、腰痛の看護問題
腰痛がある患者には、どのような看護問題が発生するのかを考えて、看護計画を立案していかなければいけません。腰痛の患者の看護問題は、腰痛の原因や程度、患者の状態によって変わってきますが、主に次の4つが挙げられます。
・慢性疼痛(急性疼痛)
・転倒リスク状態 ・セルフケア不足 ・不使用性シンドロームリスク状態 |
■急性疼痛(慢性疼痛)
腰痛の痛みは患者にストレスを与え、不眠や食欲低下の原因となるものですから、看護問題として挙げる必要があります。急性疼痛か慢性疼痛はその患者によって違いますので、患者の状況を考慮して判断してください。
■転倒リスク状態
腰痛の程度によっては、歩行がうまくできず、転倒のリスクが大きくなることがあります。転倒すれば、骨折等の危険がありますので、転倒せずに過ごせるように看護介入していかなければいけません。
■セルフケア不足
腰痛が辛いと、セルフケアにも影響が出てきます。腰痛の程度によっては、トイレに行けなかったり、入浴が困難になることも少なくありません。日常生活においてセルフケアができるように看護問題として挙げて、ケアをしていく必要があります。
■不使用性シンドロームリスク状態
痛みが強いと、動くことができません。また、痛みが強くなることに恐怖を覚えて、自ら動こうとしないこともあります。腰痛によってベッド上から動かないと、筋委縮、関節拘縮、心機能低下、血栓塞栓症、せん妄などの廃用症候群を発症するリスクが高くなります。特に、高齢者は廃用性症候群のリスクが高いですから、不使用性シンドロームリスク状態を看護問題として挙げて看護介入をしていく必要があります。
これら4つの看護問題は、患者の状態によって優先順位が変わってきます。アセスメントをしっかり行って、4つの看護問題の優先順位を考えて下さい。
3、腰痛の看護計画
次に、腰痛の看護計画を説明していきます。先ほど説明した4つの看護問題に基づいて、看護目標を設定し、看護計画を立案していきましょう。
■急性疼痛
まずは、疼痛の看護計画です。急性疼痛なのか、慢性疼痛なのかで看護計画の詳細は変わりますが、共通する部分も多いです。
ここでは、腰痛が発症したばかりの患者を想定して、急性疼痛で看護計画を立案します。
看護目標 | 疼痛が軽減し、睡眠や食事に影響を及ぼさない |
OP(観察項目) | ・疼痛の部位や持続時間 ・疼痛の程度(NRSなどを用いて) ・バイタルサイン ・睡眠状況・表情や言動・食事量 |
TP(ケア項目) | ・安楽な体位を取ってもらう
・気分転換を促す ・冷罨法 ・不安などの訴えを傾聴する ・医師の指示に従い鎮痛薬を投与する |
EP(教育項目) | ・痛みを我慢せずに伝えるように指導する ・痛みが強くなったら、すぐに伝えてもらうように指導する・鎮痛薬を使えることを伝えておく |
慢性疼痛の時も基本的には看護計画は同じですが、冷罨法ではなく温罨法を用いるのが一般的です。
■転倒リスク状態
看護目標 | 転倒せずに安全に入院生活を送ることができる |
OP(観察項目) | ・歩行状態やふらつきの有無 ・腰痛の程度・バイタルサイン・ベッド周囲や病室、病棟の環境(ベッドの高さや危険物、障害物はないかなど)・病衣や履物 |
TP(ケア項目) | ・必要時は歩行介助をする
・車イスや歩行器の使用を検討する ・ベッドの高さを調整する ・環境整備を行い、危険物・障害物は除去する ・動きやすい(歩きやすい)病衣や履物を用意してもらう ・必要時は離床センサーを使う |
EP(教育項目) | ・歩行に不安がある時にはナースコールで呼んでもらうように指導する
・転倒した時の危険性を説明する |
■セルフケア不足
今回は、腰痛によって入浴が困難で、トイレへの移動も難しいという患者を想定して、看護計画を立案します。
看護目標 | ・一部介助で入浴ができる ・ポータブルトイレで排泄できる |
OP(観察項目) | ・腰痛の程度(NRSなどを用いて)
・腰痛の持続時間 ・ADLの自立度 ・生活習慣 |
TP(ケア項目) | ・入浴は一部介助で行う
・浴室の安全を確保する ・入浴時は声掛けをし、見守りを行う ・ポータブルトイレを設置する ・必要ならポータブルトイレへの移動介助を行う ・プライバシーに配慮する |
EP(教育項目) | ・できることは自分でやってもらうように説明する
・セルフケアの重要性を説明する ・家族にも不要な手出しはせずに見守ることの重要性を説明する |
■不使用性シンドロームリスク状態
看護目標 | 廃用性症候群を予防できる |
OP(観察項目) | ・腰痛の程度(NRSなどを用いて) ・ADL・バイタルサイン・廃用性症候群の有無や程度・離床への意欲の程度 |
TP(ケア項目) | ・気分転換を促す
・離床を促す ・必要時は医師の指示に基づいて鎮痛薬を投与する ・歩行が困難なら歩行器や車イスを用意する ・腰痛から起こるストレスや痛みによる離床への不安を傾聴する ・関節可動域運動などベッド上でできる運動を行う |
EP(教育項目) | ・廃用症候群について説明する
・離床の重要性を説明する ・痛みが強くて離床ができない時は鎮痛薬を使えることを説明する ・離床が厳しい時はベッド上でできる運動を指導する |
4、腰痛を緩和ケアで看護する時のポイント
緩和ケア病棟に入院している患者は、腰痛を訴えることが多いです。膵臓がんや子宮がん、大腸がんなどは、進行すると腰痛を引き起こしますし、脊椎に骨転移することでも腰痛が出てくるからです。
緩和ケアで腰痛を訴える患者には、先ほど説明した4つの看護問題と看護計画に基づいたケアをするだけでなく、全人的なケアをする必要があります。なぜなら、腰痛は精神的なストレスや不安で発症し、さらに増悪することもあるからです。緩和ケアでは、基本的に全人的なケアが必要ですよね。これは腰痛の看護にも当てはまることです。
だから、緩和ケアでは腰痛からくる疼痛を薬剤や温罨法などでしっかり取り除くだけでなく、不安などを傾聴し、患者が穏やかに「自分らしく」過ごしていけるように看護していかなければいけません。
まとめ
腰痛の原因や看護問題、看護計画、緩和ケアでの看護のポイントをまとめました。腰痛は様々な原因があることを考慮してアセスメントしていかなくてはいけません。また、腰痛は患者のQOLを低下させるものですから、疼痛緩和のための看護をしながら、患者のADLが落ちないようにケアしていきましょう。