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血栓溶解療法(t-PA治療)の看護計画や脳梗塞患者への投与注意点

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血栓溶解療法(t-PA治療)の看護

高齢社会に入った日本で問題となっているのが、介護問題です。介護の必要な患者の3~4割は脳卒中が原因とされており、脳梗塞が全体の7~8割を占めると言われています。血栓溶解療法は、脳梗塞を発症した患者の超急性期において行う新しい治療法です。血栓溶解療法について学び、看護計画を立案します。

 

1、血栓溶解療法(t-PA治療)とは

1-1、これまでの脳梗塞治療

脳梗塞は➀ラクナ梗塞➁アテローム血栓性脳梗塞➂心原性脳塞栓症に大別されています。これらが原因となって脳の血管を詰まらせることで、様々な症状・後遺症を引き起こします。これまでも脳梗塞に対する治療が研究され、様々な治療法が導入されました。以下がこれまでの主な治療方法です。

 

■これまでの脳梗塞急性期の治療

➀少量ウロキナーゼ療法 : 血栓を溶かして血液の流れを改善

➁抗凝固療法      : 血栓が作られるのを防ぐ

➂抗血小板療法     : 血液を固める作用のある血小板の機能を抑制する

➃血液希釈法      : 血液の粘度を下げ、梗塞周辺の血流を改善する

⑤脳浮腫軽減療法    : 脳浮腫を予防する

➅脳保護療法      : 脳神経細胞の障害の進行を抑える

 

これらも麻痺などの症状の進行を抑える効果がありましたが、どちらかというと「これ以上の進行を遅らせること」が目的であり、「治す」という治療ではありませんでした。

 

1-2、新しい脳梗塞治療法~t-PA静脈療法~

以前の脳梗塞治療が消極的治療であるとすると、新しい治療は積極的治療です。既にできてしまった血栓を溶かし、脳血流を再開させること(再灌流)を目的としている、活気的治療法なのです。どういう治療かというと、超急性期に血流を改善させることによって、以前なら壊死するのを止められなかった不完全な梗塞巣(ペナンプラ)を助けよう、というものです。

そこで出て来るのが、t-PAという薬です。t-PAは組織プラスミノーゲン・アクチベータといい、血栓そのものに作用して溶かす薬です。脳梗塞は、血流再開までの期間が短ければ短いほど回復は良好で、後遺症も軽く済ませることができます。t-PAは2005年10月に脳梗塞の超急性期治療薬として厚生労働省に承認され、画期的な治療薬となりました。

 

2、血栓溶解療法(t-PA治療)の適応について

血栓溶解療法は、ワーファリンのように血液をサラサラにするという程度ではありません。革命的な治療法である反面、出血という最大の合併症と隣り合わせの治療です。そのため、全ての脳梗塞の患者が血栓溶解療法の対象とはなりません。

・出血リスクがもとから存在する人

・既に時間の経過した脳梗塞で期待できる効果の低い人

これらに該当する場合は使えません。出血リスクの高い人の場合は、脳梗塞の治療のせいで命に関わることも出てきます。また、効果の期待できないような人にそれだけの危険な薬を「ダメもと」で使うことはできないからです。

 

■血栓溶解療法の適応

・発症後4.5時間以内の虚血性脳血管障害

・症状の急速な改善がない

・軽症ではない

(以前は発症後3時間以内とされていましたが、2008年の欧米での大規模研究の結果を受け、2012年9月からは4.5時間に拡大されました。)

 

3、血栓溶解療法(t-PA治療)投与方法・時間

日本脳卒中学会によると、t-PAの投与方法は下記の基準になります。

アルテプラーゼ0.6mg/㎏(34.8国際単位/㎏)の10%を1~2分かけてボーラス投与

残りを1時間で点滴静注

 

4、血栓溶解療法(t-PA治療)における注意点

血栓溶解療法を行う前には、必ず対象患者が出血性リスクのないことを確認する必要があります。極端な話、脳梗塞と思った症例が実は脳出血やくも膜下出血だった場合、血栓溶解療法を行うことで、逆に致命的になるということです。ただし、禁忌には絶対的な禁忌と、状況に応じて検討すべきとう相対的禁忌があります。以下は、AHA(アメリカ心臓協会)の提唱している基準で、それぞれ「除外基準」・「相対的除外基準」としています。

 

4-1、血栓溶解療法の禁忌

■除外基準

➀過去3か月以内の頭部外傷または脳卒中既往歴

➁くも膜下出血を示唆する症状

➂過去7日以内の圧迫不能部位の動脈穿刺

➃頭蓋内出血の既往歴

⑤血圧上昇(収縮期>185mmHg または拡張期>110nnHg

➅診察での活動性出血の所見

⑦急性出血傾向(以下を含むがこれらだけではない)

(1)血小板数<100000/㎣

(2)48時間以内のヘパリン投与によるaPTT>正常値上限

(3)現在抗凝固療法を受けており、INRが>1.7、またはプロトロンビン時間が>15秒

➇血糖値が<50mg/dl(2.7mmol/L)

➈CT所見が複数の脳葉におよぶ脳梗塞(大脳半球の1/3以上が低吸収域)を示す

 

■相対的除外基準

➀非常に軽度で急速に改善している脳卒中症(自然に消失している)

➁発作後に残存する神経学的障害を伴う痙攣

➂過去14日以内の大手術または重篤な外傷

➃最近の消化管出血または尿路出血(過去21日以内)

⑤最近の急性心筋梗塞(過去3か月以内)

(AHA ACLS-EPマニュアル リソーステキストより)

 

5、血栓溶解療法(t-PA治療)の副作用

血栓溶解療法の副作用は、出血性脳梗塞です。脳梗塞では、脳の血管が詰まったことによってその先の血管ももろくなります。治療によって再灌流を果たすと、この血流に耐えきれず、血管の壁が破れて出血を起こし、今度は出血性脳梗塞となり、致死的な合併症となります。数%未満ではありますが、消化器・膀胱・肺などの臓器出血を起こしたり、出血に伴う貧血・血圧低下・発汗・熱感・発熱もあります。出血と別の副作用には、アナフィラキシーや不整脈・血管浮腫・頭痛などが報告されています。

 

6、血栓溶解療法(t-PA治療)の看護

血栓溶解療法は超急性期の治療なので、T(テンポラリー)として経時記録形式をとることも多いかと思います。t-PA(グルトパ®)静注後は24時間は出血傾向が続きます。ここでは、出血リスクを早期に発見し、対応するための計画を立案していきます。

 

6-1、看護問題

血栓溶解療法により、全身における出血のリスクがある

 

6-2、看護目標

出血徴候を早期に発見できる

 

6-3、看護計画

■O-P

1.バイタルサイン

2.意識レベル・神経学的評価(GCS・JCS・瞳孔など)

3.麻痺の有無・経時的変化の有無

4.頭痛の有無

5.嘔気・嘔吐の有無

6.出血傾向の有無

(末梢ライン挿入部・採血痕・口腔内からの出血、尿の性状、その他全身の皮下出血)

7.転倒・転落アセスメントスコア

8.患者の疾患・治療に対する理解度

9.せん妄の有無・程度

10.採血データ(とくに凝固機能)

 

■T-P

1.血圧が医師の指示範囲内を超えないよう、適宜指示薬を使用しコントロールする

2.周囲に危険なものを置かないように環境整備する

3.転倒・転落アセスメントに応じて、離床センサーやベッド下にマットレスを設置する。

4.口腔ケアは口腔ケア用スポンジブラシを使用し、愛護的に行う

5.採血や処置後の止血は圧迫止血をし、必ず止血を確認する

6.介助の必要な場合は適宜トイレ介助を行い、転倒による出血を防ぐ

 

■E-P

1.本人・家族へ、治療前にt-PAによる効果と副作用を説明する

2.移動する際には必ずナースコールを押すように説明する

3.愛護的な口腔ケアを指導する

 

まとめ

脳梗塞は、t-PA導入によって劇的な治療効果をあげるようになりました。しかし、リスクの非常に高い治療であることを念頭に置き、患者・家族からの既往歴や服用中の薬剤の情報収集により適応を見極め、投与後も出血させないよう予防に努める必要があります。また、適応基準や禁忌については各医療機関でガイドラインを設けていることも多いため、必ず所属機関のマニュアルを確認しましょう。

 

参考文献

t-PA静注療法とは何ですか?(国立循環器病研究センター|2007/07/01)

日本脳卒中学会

血栓溶解療法(静脈内投与)(脳梗塞急性期 脳卒中治療ガイドライ|2009)

国立病院機構 京都医療センター 

rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法マニュアル(虚血性脳血管障害急性期|2012)T

 


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