胸腔内に過剰な液体が溜まり、呼吸困難や胸痛が発生する胸水貯留が引き起こされた場合、液体を排出させるなどの処置を講じるほか、原因となる疾患の特定とケア、処置後の患者の状態の観察など、色々な課題が出てきます。
多岐に渡ると言われている胸水貯留の原因疾患や処置法を踏まえた上で、患者の観察やサポートのポイントを押さえて看護にあたる必要があります。
1、胸水貯留とは
胸膜では元々、液体の産生や吸収が行われており、健常な成人でも5~10ml程度の液体が存在していると言われています。この胸水は通常、呼吸をする際の肺と胸壁の間に生じる抵抗を減らすための潤滑剤としての働きを担っています。
しかし、胸水の産生が増加したり、吸収が減少することなどから、胸腔内に過剰な量の液体が溜まってしまうと、胸水貯留という病態に陥ってしまいます。
胸水貯留に陥った場合、咳、呼吸困難、胸膜痛などの症状が出てくると言われていますが、無症状のケースも多い傾向にあります。あるいは関連痛として、上腹部や首、肩に痛みが現れることもあります。
2、胸水貯留の原因疾患
胸水貯留という病態を引き起こす原因としては、多くの疾患が挙げられています。以下に、一般的に胸水貯留の原因に挙げられている疾患を示します。
■胸水の一般的な原因(最も多い順から記載)
- 心不全
- 腫瘍
- 肺炎
- 肺塞栓
- 手術(最近の冠動脈バイパス術など)
- 胸部外傷
- 肝硬変
- 腎不全
- 全身性エリテマトーデス(ループス)
- 膵炎
- 関節リウマチ
- 結核
- ネフローゼ症候群(尿タンパクと高血圧)
- 腹膜透析
- 薬物
胸水の種類には、タンパク質が豊富な滲出液と、水分の多い漏出液が挙げられます。漏出性胸水は非炎症性で静水圧亢進や膠質浸透圧低下によって生じるとされており、原因疾患はほとんどがうっ血性心不全と肝硬変と言われています。
一方、滲出性胸水は炎症性で、リンパ液灌流の低下や毛細血管透過性亢進によって生じるとされ、原因疾患には肺炎、悪性疾患、肺塞栓症、消化器性疾患が大半を占めると言われています。
3、胸水貯留の診断方法
胸水貯留をめぐる診断については、胸水の量を確認して胸水貯留の状態になっているかどうかを診断する方法と、胸水貯留を引き起こしている場合、その原因疾患を調べるための診断の2通りが存在します。
■胸水状態の診断
胸水貯留の一般的な診断方法としては、胸部X線検査で胸膜腔内の液体の量を確認する手段がとられます。しかし、胸部X線検査では液体の量が多くなければ診断ができない場合があります。
他にはより鮮明に肺や胸水の状況を確認することができるCT検査もあります。CT検査には、肺炎や腫瘍などの証拠が明らかになるメリットがあることも期待されます。
出典:心不全治療による胸水減少が遅れた症例 なぜ胸に水がたまるのですか。そのメカニズムを教えてください 日本心臓財団
■原因疾患の診断
胸水貯留を引き起こす原因疾患を調べるために、針を使って液体を抜き取る胸腔穿刺を行って胸水のサンプルを採取します。抜き取られた胸水の化学成分や細胞の種類、がん細胞の有無などを調べることができます。
それでも原因疾患が特定できない場合、胸腔鏡を使ってサンプルを採取したり、胸壁から観察用チューブを挿入して胸壁や肺の膜の組織サンプルを採取する方法をとったり、胸膜の針生検を実行するケースもあります。
4、胸水貯留の治療
胸水貯留という病態が引き起こされた場合、その治療方針は原因によって異なります。もし大量に貯留されている場合、換気・循環器系への影響を視野に入れ、胸水量を調整しなければいけませんし、どの疾患の影響で胸水貯留に陥っているのか原因を特定し、その原因疾患の治療を施すことも重要です。
胸水貯留時の具体的な処置法としてはドレナージや胸膜癒着術などが挙げられます。
■ドレナージ・穿刺
胸水が多く、息切れがある場合は、胸水を抜き取るドレナージが施されます。多くの場合は、胸腔穿刺が採用されます。胸腔穿刺は先にも述べた通り、胸水貯留の診断にも使われる手段ですが、1回で約1・5リットルの胸水を安全に抜き取ることが可能になる、有効な治療法でもあります。
さらに量の多い水を抜き取る場合は、胸壁からチューブを挿入する手段もあります。胸腔ドレナージの観察や、胸腔ドレナージに使われるチューブの胸腔ドレーンの挿入方法などについては「胸腔ドレーンの仕組みと管理とエアリーク・抜去における看護」をご覧ください。
治療を進める上では、例えば肺炎による胸水貯留になった際には抗生物質の静脈注射や血栓溶解薬の胸膜腔内注入をしたり、胸膜のがんによって胸水が貯留している場合は胸水を抜いてもすぐに再び溜まってしまうことから、抗腫瘍薬を投与して再び液体が貯留するのを防ぐなど、原因疾患に応じた処置を加えながら遂行していくケースも見受けられます。
■胸膜癒着術・ステロイドなど
胸膜のがんによる胸水貯留が生じた際に、胸水を抜いても再び液体が溜まってしまうことから、抗腫瘍薬の投与を施すことは先ほど述べた通りですが、それでも胸水貯留が続く場合は胸膜腔をふさぐ胸膜癒着術を施すケースがあります。
チューブで胸水を抜き取った後に胸膜刺激剤を注入して2層ある胸膜を癒着させ、液体が溜まる空間を無くす方法です。また、胸腔鏡検査を活用した胸膜癒着術もあります。他にも、がんにおける胸水貯留の場合、ステロイド投与によって胸水をコントロールする例も報告されています。
5、胸水貯留の患者を看護する際のポイント
原因疾患が多岐に渡っており、診断や治療法も複数ある胸水貯留ですが、胸水貯留を引き起こした患者を看護する際にポイントとなる事柄をまとめてみましょう。
■観察ポイント
まず、観察ポイントとしては、患者の呼吸状態や尿量をチェックしておくことが挙げられます。治療として穿刺が選択された場合、穿刺前と穿刺後の状態の確認も重要です。胸水の量、性状、色、臭いなども十分注意してチェックしましょう。バイタルサインや胸水の発生時期・経過などの情報も、看護を進める上で必要となりますので、確認しておいてください。
■サポート
必要に応じて患者が安静な状態でいられるようにサポートをしましょう。呼吸器系、循環器系への負担が大きくなるのを防ぐため、患者が労作をしなくてすむような環境を整える配慮を心がけてください。
さらに、咳がしやすくなる体位を避け、肺うっ血予防も兼ねて、ファーラー位や座位をとらせるなどの工夫も重要です。その際にも、枕を抱きかかえて座位をとらせるなど、できるだけ安楽に過ごせるように配慮することが重要です。
まとめ
胸水貯留そのものの診断や適切な処置を施すことは当然必要ですが、胸水を溜めることになった原因疾患を特定したり、疾患に合わせたケアを行うことも大きな課題となります。
患者の状態をしっかりと把握するために観察を続けたり、胸水貯留や疾患による苦痛を抱える患者の治療がスムーズに進むためのサポート、メンタル面のケアなど、幅広く配慮の利いた看護を実行することがポイントとなるでしょう。