ギランバレー症候群は、急性に末梢神経障害をきたす疾患で、その約70%は先行する感染症が認められます。多くは自然回復しますが、一部は重篤化すると言われています。今回はギランバレー症候群の病態を学び、看護計画の立案につなげます。
1、ギランバレー症候群とは
ギランバレー症候群は、上気道感染や下痢をきっかけとして急性の運動麻痺を起こす病気です。発症は急激ですが、約90%の症例で4週間以内に症状はピークを迎え、進行が停止してから2~4週間で回復し始め、30週以内に自然回復するとされています。
1-1、ギランバレー症候群の診断基準
ギランバレー症候群の診断は類似する症状の疾患の除外診断を含め、下の診断基準を満たす必要があります。他にも同診断基準には「診断に必要な最低限の特徴」として2つあげられていますが、より細かく「臨床を強く支持する特徴」(8項目)も提唱されています。
<ギランバレー症候群の診断基準>
I、診断に必要な特徴
A二肢以上の進行性の筋力低下
その程度は軽微な両下肢の筋力低下(軽度の失調を伴うこともある)から、四肢、体幹、球麻痺、顔面神経麻痺、外転神経麻痺 までを含む完全麻痺まで様々である。 B深部反射喪失 全ての深部反射喪失が原則である。しかし、他の所見が矛盾しなければ、上腕二頭筋反射と膝蓋腱反射の明らかな低下と四肢遠位部の腱反射の喪失でもよい。 |
引用:ギランバレー症候群(GBS)・慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)の診断基準より抜粋(一般社団法人日本神経治療学会神経免疫疾患治療ガイドライン参考資料|祖父江元 他|2003年)
1-2、ギランバレー症候群の分類
ギランバレー症候群は、髄鞘が一時的に障害される脱髄型と、軸索が一時的な障害を受ける軸索型の2病型に分類されます。日本では脱髄型と軸索型はほぼ同じ頻度で起こるとされています。ギランバレー症候群の大半は良性の変化を遂げますが、病型により症状と予後は若干異なります。
<ギランバレー症候群の分類>
病型 | 関連する自己抗体 | 症状 | 予後 | |
脱髄型 | 急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー
(AIDP) |
運動麻痺
感覚障害 |
やや回復が遅い | |
軸索型 | 急性運動性軸索性ニューロパチー
(AMAN) |
・抗GM1抗体
・抗GalNac-GD1a抗体 ・抗GD1a抗体 |
運動麻痺 | 良好~
やや回復が遅い |
急性運動感覚性軸索性ニューロパチー | 運動麻痺
感覚麻痺 |
回復が遅い | ||
(特殊型)
|
Fisher(フィッシャー)
症候群
|
抗GQ1b抗体 | 外眼筋麻痺
運動失調 腱反射消失 |
良好 |
引用:病気がみえる<vol.7> 脳・神経(MEDIC MEDIA|医療情報科学研究所|2011年3月3日)
2、ギランバレー症候群の原因
ギランバレー症候群は何らかの感染症を引き金として発症することが全体の約70%を占め、免疫が発症に関与していることがわかっています。発症機序としては、まず病原体に感染して免疫系が活発になり、病原体に対してB細胞による抗体産生が起こります。そして末梢神経の軸索・髄鞘にも抗体が結合します。すると軸索・髄鞘も免疫系の攻撃を受けるようになり、軸索変性や脱髄を起こし、感染後2~3週間で運動麻痺が出現します。
<ギランバレー症候群の原因となる病原体>
・カンピロバクター
・サイトメガロウイルス ・EBウイルス ・マイコプラズマ (カンピロバクターが最も多いとされている) |
3、両側の麻痺が特徴的な症状
ギランバレー症候群の主な症状は運動麻痺で、上行性かつ左右対称に広がり、その範囲は上肢や頭部にまで広がることがあります。運動障害の中には呼吸筋も含まれるため、呼吸障害が著しい場合にはレスピレーター管理となることもあります。しびれを主とする感覚障害についてはないか、あっても軽度ですむことが多いとされています。
ギランバレー症候群は予後良好な疾患といわれていますが、一部は重症化して筋力低下や麻痺などの後遺症が残り、重度の場合には自力での歩行困難となり、車椅子生活を強いられることもあります。また、自律神経障害による血圧異常や不整脈が関連し、死に至ることも(稀ですが)あります。
<ギランバレー症候群の急性抹消神経障害>
①運動麻痺
四肢の筋力低下による歩行困難、ふらつき 呼吸筋麻痺による呼吸障害 → レスピレーター管理を要することもある 嚥下障害 構音障害 ②感覚障害 しびれ(特に四肢末端に強く現れる) ③自立神経障害(まれ) 血圧・脈拍異常など |
ギランバレー症候群発症後に両手と下半身の感覚障害の残ってしまった、漫画「ふんばれ、がんばれ、ギランバレー」の作者、たむらあやこさんのドキュメンタリーが2017年2月17日にNHK 北海道 クローズアップで放映されました。番組ギランバレー症候群の漫画家・たむらあやこ内で、病気を告知された時の状況や申告な障害についての問題を、葛藤しながらも軽いタッチで描いていく様子が紹介されています。
4、ギランバレー症候群の治療
ギランバレー症候群は、軽症例では保存的治療が中心ですが、中等症例では積極的に免疫グロブリン療法・血液浄化療法を用いた治療を行います。
免疫グロブリン療法 | ヒト免疫グロブリンを投与する
(ステロイドと併用すると効果が高くなるといわれている) |
血液浄化療法 | 血液中から有害物質を取り除いて、本人に戻す |
全身管理 | 特に重症例において、呼吸・循環の全身管理を行う |
5、ギランバレー症候群患者への5つの看護
ギランバレー症候群の患者の中には、呼吸筋麻痺や自律神経障害によって死に至るケースもあります。看護師はまず、早期に症状の変化に気づいて対処することで、患者を守ることが役目です。また、症状の進行具合をよく観察し、できるだけ後遺症を遺さずに社会復帰できるように、リハビリや精神的なケアも求められます。そこで、ギランバレー症候群の患者の看護問題として考えられるものを5つ挙げてみました。
<ギランバレー症候群患者に挙げられる5つの看護問題>
①呼吸筋麻痺による呼吸障害により、生命に危険を及ぼす可能性がある
②下肢の筋力低下により、セルフケア行動が障害される ③感覚障害により、外傷の危険性がある ④急速に運動麻痺・感覚麻痺がおこることによる精神的苦痛と不安を生じる ⑤運動麻痺によって嚥下機能が障害され、誤嚥性肺炎を起こす可能性がある |
どれも同時に必要なことですが、今回は5つの中から①に的をしぼって看護計画を立案していきます。
■看護問題
呼吸筋麻痺による呼吸障害により、生命に危険を及ぼす可能性がある
■看護目標
呼吸状態の異常を早期に発見し、合併症を防ぐ
■看護計画
O-P.
①バイタルサイン(特に呼吸回数、深さ、SpO₂、顔色)
②呼吸筋を含む全身の運動麻痺の程度 ③画像データ(X-P・CTなどから肺炎所見の有無) ④採血データ(感染徴候) ⑤血液ガスデータ ⑥呼吸困難の程度(自覚症状の有無・程度) |
T-P.
①運動麻痺の程度を考慮し、ナースコールのボタンを押しやすい位置に工夫する。
②症状がピークを越すまで、ナースステーション近く(重症部屋)での管理とする。③医師の指示により、モニター管理とする。 ④食事前後の口腔ケアを行い、肺炎予防に努める。 ⑤食後30分はファウラー位をとる。 ⑥異常があった場合はすみやかに担当医師に連絡、状態により院内放送をかける。 ⑦⑥の場合、緊急挿管とレスピレーター管理ができるように、セッティングする。 |
E-P
①呼吸困難感が生じた場合、食事で誤嚥した場合にはすぐにナースコールを押すように伝える。
②疾患の一般的な経過と患者本人の現在の状態を説明する。 |
まとめ
一般的に良性の経過をたどると言われているギランバレー症候群ですが、最悪の経過を遂げる人もいるため、今回提案した5つの目標のうち①は特に重要です。また、麻痺が出現して進行していく過程ではただセルフケアの介助を行うのではなく、患者の精神的な負担を十分に考慮したいですね。
参考サイト
ギランバレー症候群(慶応義塾大学病院医療・健康情報サイトKOMPAS|慶応義塾大学病院神経内科|2014年1月17日)