不整脈の原因となる心筋の部位を、カテーテルを用いて高周波により加熱し、ピンポイントに凝固・壊死させる(焼灼する)ことで、不整脈を根治する治療法カテーテルアブレーション術。WPW症候群や通常型心房粗動などでは、すでに確立された治療法であり、第一選択となっていますが、まれではありますが重篤な合併症が起こる場合があるため注意が必要です。カテーテルアブレーション術を受ける患者に起こりうる6つの合併症と、看護のケアの実際をここで学びましょう。
1、カテーテルアブレーションとは
アブレーションとは、「取り除くこと、切除すること」を意味します。カテーテルアブレーション(カテーテル焼灼術)とは、不整脈の原因となる心筋の部位を、カテーテルを用いて高周波により加熱し、ピンポイントに凝固・壊死させる(焼灼する)ことで、不整脈を根治する治療法のことです。この治療は、危険な不整脈を引き起こすことがあるため、専門医と看護師、検査技師の細かな連携で慎重に行わなければならない治療法でもあります。
2、カテーテルアブレーションの適応
WPW症候群や通常型心房粗動では、すでに確立された治療法であり、第一選択となっています。房室結節リエントリー性頻拍、特発性心室頻拍でも高い効率が示され、薬剤無効であれば適応があります。一方、心房細動や器質的心疾患を伴う心室頻拍のカテーテルアブレーションは開発途上であり、不整脈やその他の症状の重症度、患者背景などを総合的に評価して適応を決めいていきます。不整脈の生じるメカニズムは、①異常自動能、②撃発活動、③リエントリーの3つに分類され、①と②においては異常な興奮を起こす病変部を、③においてはリエントリー回路を断ち切る部位を標的にします。
出典:図4リエントリー(副伝導路)|国立循環器研究センター循環器病情報サービス
3、カテーテルアブレーションの治療方法
大腿静脈や鎖骨下静脈から数本の電極カテーテルを心腔内に挿入し、心内心電図を記録します。
出典:カテーテルの参考写真(国立循環器研究センター循環器病情報サービス)
必要があれば電気刺激で頻脈を誘発します。頻脈の機序を診断し、至適なアブレーション部位を探します。これを心内マッピングといいます。アブレーション部位は不整脈の発生源やリエントリーの成立に必要な必須回路です。部位が確定すれば、高周波通電を行います。アブレーション用カテーテルの先端は温度センサーを内蔵しており、50~60℃の設定で30~60秒通電します。1階の通電で焼灼できるのは直径6mm、深さ4mm程度の半球状の領域です。不整脈を根絶するまで、高周波通電を数回から十数回繰り返します。治療にかかる時間は、治療する不整脈や患者の状況によって違い、1時間程度から数時間以上かかるも場合まで様々です。カテーテルアブレーションは、静脈麻酔薬で深く眠っている状態で行う場合、鎮静薬によって半覚醒状態で行う場合や、カテーテル挿入部位の局所麻酔のみで行う場合があります。術中は危険な不整脈を起こした場合に備えて、電気的除細動器、救命用機材も準備しておきましょう。最近はカルト(CARTO)システム(磁場を用いた心筋内興奮伝播立体表示システム)が多く利用されるようになり、頻脈の起源が複数ある場合でも、ほぼ100%診断がつくようになりました。これによって、今までアブレーション治療が確立していなかった心房粗動に対しても、施設によっては治療が始められています。カテーテルアブレーション術の詳しい方法については、以下の動画をご覧ください。
https://youtu.be/D5Db2G2PR7c
出典:国循 心房細動の高周波カテーテルアブレーション治療(国循)
4、カテーテルアブレーションの合併症
■内出血
カテーテル刺入部からカテーテルを抜去するとき、なかなか止血できず内出血する場合があります。内出血により疼痛を伴うこともありますが、徐々に吸収されていくにつれ疼痛も軽減していきます。
■心臓穿孔
X線透視下で慎重に作業していても、まれにカテーテルの先端が心臓壁を穿孔してしまうことがあります。出血した血液は心臓内にたまっていき、心タンポナーデを引き起こすことも。十分に拡張できなくなった心臓は、ポンプ機能が低下し心不全を起こすため、心膜からドレナージします。
■血管損傷
カテーテルを血管内に挿入していく際に、途中で血管壁を損傷することがあります。大腿動脈など太い血管を刺したときに起こりやすく、血管壁が二層に避けて血液がたまる仮性動脈瘤や、動脈と静脈が繋がってしまう外傷性動脈廔を生じた場合は外科的手術で修復します。
■気胸
内頚静脈など肺に近い血管を進めていく際、胸膜を損傷し気胸を起こすことがあり、気胸を生じた際は胸腔ドレナージを行います。気胸の看護については、「気胸の看護|重症度に合わせた対処法と術後・入院生活のフォロー」をご覧ください。
■房室ブロック
カテーテルが正常に働いていた刺激電動系を損傷すると、不整脈を起こします。心房から心室への刺激電動系が傷つくと房室ブロックを起こしますが、自然に回復することがほとんどです。自然に回復しない場合はペースメーカー適応になります。
■血栓塞栓症
カテーテルなどの異物が血液に触れる際、血液が凝固しやすくなります。穿刺している血管の血流が悪くなるため、穿刺した箇所より末梢側に炎症を起こすことも。予防的に、検査中はヘパリンを使用し血栓形成を防ぎます。
5、カテーテルアブレーションの看護ポイント
5-1、出棟前の看護
■出棟時の準備
通常は病棟看護師から検査室看護師に申し送りをします。
・現病歴、既往歴、主訴、服薬状況
・今まで行われた検査での異常の有無(貧血、肝・腎障害) ・検査同意書にサインがなされているか ・感染症の有無 ・薬剤性アレルギーの有無 ・入れ歯や装具などの有無 |
5-2、術後看護アセスメント
■全身状態と循環状態
アブレーション術後はバイタルサインを測定した後、心電図モニターを装着します。その際以下の症状を確認しましょう。
・止血部から出血はないか
・穿刺部の疼痛の有無 ・神経障害の有無 ・検査に伴う迷走神経反射の有無(徐脈、気分不快、血圧低下) ・胸部症状、動悸の有無 ・血圧、脈拍、波形の異常、末梢動脈触知の有無 ・穿刺部よりも末梢の循環状態 ・穿刺肢は屈曲しないよう説明する ・造影剤使用による薬剤性アレルギーの有無 ・造影剤を使用している場合、水分制限がなければ、排泄促進のため水分摂取を促す |
■精神的状況
カテーテルアブレーション術は同一体位での安静保持や、指示に応じた体位変換が必要です。大腿動脈から穿刺する場合は、穿刺後も止血のため安静度が制限されます。強い身体拘束感に対する不安を確認しましょう。
・カテーテルアブレーション術への不安や恐怖の訴え
・体動の制限や指示に対しての理解度と遵守の状況 |
まとめ
不整脈に対して高い効率を示しているカテーテルアブレーション術ですが、まれではあっても重篤な合併症を引き起こすこともあるため、専門医と看護師、検査技師の細かな連携で慎重に行わなければならない治療法でもあります。また術後は止血のため飲水や安静度に制限があるため、患者は苦痛を感じます。術前から、術後の状態が具体的にイメージできるよう、入念に説明を行い、安心してアブレーション術を受けられるよう支援していきましょう。
参考文献
循環器 成人看護学3(系統看護学講座専門分野)(医学書院196-197|吉田俊子|2015年1月6日)
不整脈とアブレーション治療(国立循環器研究センター循環器病情報サービス|2011年)
カテーテルアブレーション(一般社団法人日本不整脈心電図学会|宮内靖史)