近年、病気の治療や健康の維持・増進に果たす栄養の役割が見直されています。そして、栄養のことは栄養士にだけまかせるのではなく、医師や看護師・その他コメディカルを含めた栄養をサポートするチーム、NSTを立ち挙げて活動する医療機関も増えて来ました。NSTとは何をすることが目的のチームで、その役割や意義は何かお伝えします。
1、NST(栄養サポートチーム)とは
1-1、栄養療法と経腸栄養
NSTは、Nutrition Support Team=栄養サポートチームの略称で、医療機関において患者の栄養をあらゆる職種の視点で管理・支援しようというチームのことです。これまで管理栄養士に任せきりにしていた患者の栄養管理を、医師や看護師も積極的に介入することで、治癒や全身状態を良好に保つことが目的です。
なぜ栄養が注目を浴びるようになったのかというと、栄養状態の悪い患者はどんなに薬剤を投与しても治癒せず、手術後などは創部の癒合が遅れ、合併症を起こす率の高いことがわかったからです。そして、栄養摂取の経路として、経静脈栄養よりも経腸栄養の重要性が見直されてきたのです。
以前は食事が摂取できない、もしくは消化管の安静のために絶食が必要な患者は、中心静脈栄養を行うことが当然とされていました。しかし、近年はこのような経静脈栄養は消化管(腸)を使わないために腸内細菌のバランスが崩れてしまい、免疫力の低下がみられることがわかりました。経管栄養専用ではなく、経口摂取用の高カロリーの栄養剤の開発も進み、経腸栄養を積極的にすすめる動きになりました。
また、高齢患者の増加に伴い、褥瘡を持ち込んで入院するケースも多くなりました。しかし、既に褥瘡の発生している高齢者はADLが低くて嚥下機能の低下も著しいため、低栄養を改善するのは非常に難しい問題です。患者が嚥下しないことには食べ物は口腔から先に進みませんし、無理に経口摂取を促せば誤嚥性肺炎の悪化につながります。
このように、経腸栄養を優先しつつ患者個人の嚥下・消化機能に合わせた最良の方法を選んで支援するのが、NSTの活動です。もし病院食だけでは栄養が不足するのであれば、食事をハーフ食にして高カロリーの栄養剤を足すなど、いくつかの方法を掛け合わせる方法もあります。どの方法をとるかは、下のように消化機能・嚥下機能のアセスメントを行って検討します。
引用:経腸栄養の選択基準(株式会社大塚製薬工場)
1-2、NSTの主な対象
栄養療法は全ての患者において検討されるべき基本事項であり、その成果が疾患や創傷治癒に現れます。では、成人の一般病棟において積極的にNSTが介入すべきなのは、どのような状態の患者でしょうか。(ここでは、入院中の患者に的を絞っています。)
<NSTの対象>
・褥瘡のある患者、もしくは寝たきりなどの褥瘡発生のリスクが高い患者
・嚥下機能に障害がある患者 ・低栄養の患者 ・抗癌剤などの副作用によって、経口摂取が困難な患者 ・口腔疾患によって咀嚼・嚥下が十分にできない患者 ・糖尿病など疾患の性質上、教育が必要な患者 |
このように、NSTが介入すべきなのは褥瘡の発生している寝たきりの高齢患者だけではなく、抗癌剤治療中や糖尿病患者まで、まちまちです。
2、NSTの看護師の役割
2-1、NSTのチーム構成
NSTのチーム構成は、食事とは一見何も関係がなさそうな部署も含みます。
それは、患者の栄養を取り巻く環境は食事を調理するだけではなく、様々な情報をもとにその患者に必要な栄養を摂り込む必要があり、それをサポートするためには各職種がお互いの情報と専門知識を持ち寄って、その患者にとって最良の栄養方法を検討する必要があるからです。言語療法士は嚥下機能や口腔ケアに関与しますので、嚥下機能の評価や食事形態を検討するために欠かせない存在ですし、どんなによい製品であってもコスト的な問題もありますので、医事課スタッフが会議には出席することもあります。
<NSTの主なチーム構成>
・管理栄養士
・医師 ・看護師 ・薬剤師 ・歯科衛生士 ・臨床検査技師 ・言語療法士(ST) (・医事課) |
これらコメディカルが集まって個々の症例に対する栄養スクリーニングを行い、栄養状態の評価と改善策を検討します。多くの医療機関では、症例検討の後に患者のベッドサイドで行うNST回診も導入しています。
引用:NST(栄養サポートチーム)の活動とその意義(一般財団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会発酵乳、乳酸菌飲料公正取引協議会)
2-2、NSTにおける看護師の役割
では、この中で看護師はどのような役割があるのでしょうか。NSTにおいて私達が実践可能なこと、まずは栄養にどう介入していけばよいのかという点から検討すると、下記のことが挙げられます。
<看護師の役割>
・栄養に障害のある患者の抽出および情報提供
・経静脈栄養、経管栄養の実施とルートの適切な管理 ・患者の全身状態(栄養状態を含む)に関する医師への情報提供・助言 ・患者と家族に対する栄養療法の指導、必要時退院指導 ・食事摂取の直接介助と、誤嚥などの対応 ・コメディカルとの連携 |
治療方針は医師が決定するため、看護師は医師が治療方針の選択に必要となる情報を提供すること、そして決定した栄養療法を実行することが大きな役目です。医師と薬剤師、医師と言語療法士が直接会話を交わすことよりも、間に看護師を介してコミュニケーションをとることが多いので、各職種の橋渡しも大切な役割です。
3、NST 看護師資格
NSTに関する資格には、一般社団法人日本静脈経腸栄養学会における「栄養サポートチーム専門療法士」が存在します。
受講資格は管理栄養士・看護師・薬剤師・臨床検査技師・言語聴覚士・理学療法士・作業
療法士・歯科衛生士・診療放射線技師として5年以上の実務経験があること、日本静脈経腸栄養学会の指定単位数の研修を受講し、認定教育施設において合計40時間の実地研修を修了していることとなっています。受験は年1回行われ、5年ごとの更新制です。
栄養サポートチーム専門療法士の受験要綱や認定教育施設については、同学会の栄養サポートチーム専門療法士認定規程を参照してください。
4、NST 看護研修・研究
一般社団法人日本静脈経腸栄養学会では、栄養サポートチーム専門療法士の講習・検定だけを行っているのではなく、認定を持たない医療従事者向けの研修も行っています。
同学会の看護師部会でも、毎年セミナーを開催しています。医師が講師となるセミナーでは、看護師はどうしても受け身の姿勢になりがちです。しかし、資格を有した看護師から教わると目線が近くなります。栄養のことを学ぶのであれば、栄養専門の学会である日本静脈経腸栄養学会のセミナーに重点をおきつつ、看護協会や各種セミナーを合わせて受講するとよいでしょう。
まとめ
NST・栄養療法という言葉を聞くようになり、大分経ちます。しかし、嚥下機能が低下して栄養状態が低下している患者の全てに経鼻経管栄養チューブを挿入したり、胃瘻・腸瘻の増設を進めることは、QOLや尊厳の観点からも安易にできることでもありません。どのような経路でどれだけの栄養を摂取すればいいのか、それぞれの患者によって違います。
日本静脈経腸栄養学会は1998年に発足され、これまで20年近い活動をしていることになりますが、国内の医療識関における取り組みや知識には大きな隔たりがあります。様々な学会や研究会といった教育の場で情報交換をし、自身の知識とスキルを磨きたいですね。
参考サイト
日本静脈経腸栄養学会 栄養サポートチーム専門療法士認定規程(一般社団法人日本静脈経腸栄養学会)
NST(栄養サポートチーム)の活動とその意義(一般財団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会発酵乳、乳酸菌飲料公正取引協議会|竹内理恵)
経腸栄養の選択基準(株式会社大塚製薬工場)