徐々に身体が動かなくなってしまう難病、脊髄小脳変性症の少女を描いた『一リットルの涙』はドラマなど様々なメディアで取り上げられました。
脊髄小脳変性症は難病として指定されています。病型が多数あり、症状や進行にも個人差がありますが、まだ原因が解明されていないものもあります。全国で脊髄小脳変性症の患者は約3万人を超えていると言われています。ここでは、その脊髄小脳変性症について説明していきたいと思います。実際の看護に生かせるよう病態や治療法などについての知識を深めていきましょう。
1、脊髄小脳変性症とは
脊髄小脳変性症(SCD)とは運動失調または痙性対麻痺を主症状とする疾患の総称で、遺伝性疾患と非遺伝性(孤発性)疾患に大別され、孤発性疾患が全体の2/3を占めると言われています。原因が感染症、中毒、腫瘍、栄養素の欠乏、奇形、血管障害、自己免疫疾患の場合は除外されます。
1-1、遺伝性疾患について
■劣性遺伝
フリードライヒ失調症、ビタミンE単独欠乏症失調症、セナタキシン欠損症、シャルルヴォアサグエ型痙性失調症など |
欧米ではフリードライヒ失調症が最も多いですが、日本人にはおらず、劣性遺伝の脊髄小脳変性症の日本の発症率は数パーセントです。劣性遺伝の脊髄小脳変性症は、小児期で発症することが多く、眼球失行やビタミンE欠乏など特有の症状を伴います。
■優性遺伝
脊髄小脳失調症1型(SCA1)、脊髄小脳失調症2型(SCA2)、脊髄小脳失調症3型(SCA3)/多系統障害、脊髄小脳失調症6型(SCA6)/純粋小脳失調、脊髄小脳失調症31型(SCA31)/純粋小脳変性症、歯状核赤核淡蒼球ルイ体委縮症(DRPLA)/多系統障害など |
遺伝子は、見つかった順番に番号が振られています。我が国では3型、6型、31型、赤核淡蒼球ルイ体萎縮症が多く、患者の約8割を占めると言われています。
■非遺伝性(孤発性)疾患
・皮質性小脳委縮症(CCA)
・多系統萎縮症(MSA):オリーブ小脳萎縮症、ビタミンE単独欠乏症失調症、シャイ・ドレーガ症候群 |
皮質性小脳萎縮症には、多くの疾患が含まれていますが、それらの疾患を特定する明確な特徴がありません。運動失調以外の症状が見られないことから純粋小脳変性症とも呼ばれています。
皮質性小脳萎縮症に比べ、多系統萎縮症は多様な症状が見られ、脳内の細胞に特異的な塊が見られますが、その機序はわかっていません。
出典:『脊髄小脳変性症』(社会福祉法人 恩賜財団 済生会)
2、脊髄小脳変性症の症状
症状は病型により異なりますが、失調症状を主体とし、パーキソニズム、自律神経症状などが見られます。
■失調症状
立ち上がった時や歩行時のふらつき、片足立ちができないなど体幹のバランスが不安定な状態(体幹失調)となります。また四肢の運動失調(四肢失調)やろれつが回らない(構音障害)などの症状がみられます。
■パーキソニズム
手足の震え、四肢の関節が動かしにくくなったり、表情が乏しくなるなどのパーキンソン様症状が見られます。
■自律神経症状
睡眠時の無呼吸、起立性低血圧、排尿・排便障害などの自律神経症状がみられる場合があります。
3、脊髄小脳変性症の治療
脊髄小脳変性症は進行性の疾患であり、現在、根本的な治療法は見つかっていません。主に症状に対する治療が行われます。
運動失調症状には甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)が効果を示すことが知られており、経口TRH誘導体薬が使用されています。
パーキソニズムに対してはL-DOPAの合剤や各種パーキンソン薬が使用され、自律神経症状には交感神経作動薬や抗コリン薬、コリン作動薬など各症状に応じて様々な薬剤が用いられます。また、リハビリテーションが効果的な場合もあり、言語訓練や歩行訓練などのリハビリテーションが行われる場合もあります。
4、脊髄小脳変性症の看護問題
脊髄小脳変性症はゆっくりと進行していきます。病型や進行度合いにより、症状に違いはありますが、脊髄小脳変性症の看護では以下の問題点が挙げられます。
・運動失調による転倒のリスクがある
・ADLが制限される可能性がある ・言語障害によりコミュニケーションがとりにくい ・起立性低血圧を引き起こす可能性がある ・排尿・排便障害を引き起こす可能性がある ・患者および家族の予後についての不安・ストレスの増強 |
5、脊髄小脳変性症の観察項目
脊髄小脳変性症では以下の項目について観察、情報収集していきます。現在の患者の状態を正しく把握し、実際の看護につなげていきましょう。
・運動失調有無、部位、程度
・言語障害の有無、程度、コミュニケーションの方法 ・ADLの程度、歩行の状態 ・血圧(臥位、座位、立位、各体位での血圧、顔色の変化など) ・排尿・排便の状態(残尿感、腹部症状の有無など) ・患者の言動、表情 ・精神的ストレスの有無 ・患者、家族の理解度(疾患、治療、予後など) |
6、脊髄小脳変性症の看護のポイント
脊髄小脳変性症の看護問題から、実際にどのような看護が必要になるのか考えてみましょう。
■運動失調による転倒のリスクがある
患者の周りの環境を整備します。危険物は排除し、患者にとってのリスクが最小限にとどめられるようベッドの高さや位置を調整しましょう。歩きやすい履物を準備し、患者の状態によって歩行器や杖が使用できるようにします。
■ADLが制限される可能性がある
患者自身でできること、援助が必要なことは何かを正しく見極めましょう。食事や更衣なども必要な場合は援助し、食事の内容や衣服の種類などが適切かなどについても観察していきます。病状が進行すると嚥下障害を引き起こす可能性があるため、誤嚥にも注意が必要です。
■言語障害によりコミュニケーションがとりにくい
患者の表情を良く観察しながら、ゆっくりと患者の話に耳を傾けましょう。コミュニケーションの時間を意識的に取ったり、言葉で伝わらない場合は筆談を用いるなどの工夫が必要です。
■起立性低血圧を引き起こす可能性がある
起立性低血圧による転倒のリスクが予測されます。環境整備はもちろん、ゆっくりと起き上がるなどの指導が必要となります。転倒のリスクがある場合は、移動の際の付き添いや車椅子の使用など転倒防止に努めます。
■排尿・排便障害を引き起こす可能性がある
患者の状態に応じ対応していきます。膀胱留置カテーテルを留置している場合は、感染予防に努めましょう。食事内容の見直しや水分摂取量の調節が必要になる場合もあります。
■患者および家族の予後についての不安・ストレスの増強
脊髄小脳変性症は進行性で、根本的な治療も見つかっていないことから、患者や家族は大きな不安を抱いていることが予測されます。疾患について正しい知識をもち、病気とうまく付き合っていけるようサポートしていく必要があります。また、入院生活が長期化する場合もあるため、ストレスの増強を最小限にとどめられるよう、患者や家族の話に耳を傾け、適宜声かけを行っていきましょう。
まとめ
脊髄小脳変性症の予後は病型により大きく異なりますが、ゆっくりと病状が進行していくことが多く、いずれの病型も治療法が確立していません。病気の進行により合併症を引き起こしたり、ADLが制限されることがあるため、患者の状態をしっかりと把握し、個々の患者に合った看護を提供していくことが大切です。また、予後や疾患への不安に対する精神的ケアも看護師の重要な役割となります。患者に寄り添ったケアの提供を目指していきましょう。
参考文献
難病センター『脊髄小脳変性症(多系統萎縮症を除く)(指定難病18) 』(難病情報センター|平成29年4月24日)
脊髄小脳変性症としての多系統萎縮症(脊髄小脳変性症と多系統萎縮症の患者の集い|平成23年10月18日)