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胸腔穿刺の看護|穿刺部位や手技、その合併症や看護手順

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胸腔内に空気や水が貯留した結果、呼吸状態・循環動態が悪化してしまうことがあります。そこで、穿刺をして貯留したものを体外に排出する手技が、胸腔穿刺です。貯留物が空気か水かによって穿刺部位が異なりますし、胸腔穿刺をめぐる合併症もあります。まず、胸腔穿刺が適応となる病態(状態)・合併症を学び、看護師が介助に付く際に必要な手技や必要物品を学びます。

 

1、胸腔穿刺とは

胸腔穿刺・胸腔ドレナージは、胸腔内に貯留した空気や液体を体外に排出するための手技で、大きく分けると2つの目的があります。

 

■胸腔穿刺の目的

➀診断的胸腔穿刺:貯留した液体物を採取し、検体を調べることで病因を判定する

➁治療的胸腔穿刺:閉塞性ショック状態や呼吸困難などを軽減させる

胸膜癒着術を行うために穿刺する

 

治療的胸腔穿刺のうち、絶対適応となるのは下の6つです。胸腔内を空気や液体が占めて胸腔内圧が上昇すると、前負荷を減少させるために心拍出量が低下します。すると、呼吸困難だけではなく循環動態に変調をきたし、ショック状態に陥ることがあります。呼吸困難が進行していて、かつ血行動態が不安定な場合は、緊急で穿刺が必要となります。特に緊張性気胸の場合は、胸部レントゲン写真や胸部CTなどの画像診断を撮影する間もなく、身体所見だけで胸腔穿刺を実施することもあります。一方で、身体所見・画像所見によっては、安静や利尿剤投与で経過観察することもあります。

 

■絶対的胸腔穿刺の適応

①緊張性血気胸

②外傷性血気胸

③自然気胸

④胸水

⑤膿胸

⑥乳び胸

 

絶対的胸腔穿刺の適応はありますが、反対の絶対的禁忌はありません。状態によって、相対的に判断することになります。「相対的禁忌」は以下の通りです。

 

■胸腔穿刺の相対的禁忌

①胸水の位置が不明瞭である

②胸水の量が少なすぎる

③胸壁の解剖学的変化

④穿刺による合併症のリスクが高い

⑤出血性素因、凝固障害

⑥コントロール不良の咳嗽

 

2、胸腔穿刺の部位・手技

気胸というのは、貯留物が空気の場合です。そして、胸水というのは、貯留物が液体の場合で、中身はただの水ではなく、膿(膿胸)や血液(血胸・癌性胸水)のこともあります。

同じ「胸腔穿刺」でも、内容物が空気か液体かによって、穿刺する場所が変わります。

まず、気胸と胸水、どう違うのか画像で確認してみましょう。

出典:やさしイイ呼吸器教室(滋賀医科大学呼吸器内科|講師/教育医長 長尾大志)

 

気胸の場合は、肺は虚脱して小さくなり、入り込んだ空気は自然と上に溜まります。写真でも、左胸の鎖骨当たりに空気が入っていることがわかります。一方、胸水というのは内容物が水ですから、気胸とは逆に下へ溜まります。胸腔が下から押し上げられてしまっているのがわかりますね。ですから、穿刺するなら気胸は上、胸水なら下、となります。

胸腔は肋骨で覆われていて、直接触ることはできません。ですから、肋骨と肋骨の合間をぬって穿刺し、空気を抜いたり(脱気)液体を排出します。しかし、周囲の臓器への誤穿刺の恐れがありますので、むやみに「上の方」「下の方」というわけには行きません。

 

■穿刺する位置

 

ドレナージチューブ抜去の目安は、胸水なら排液量が100ml/日以下、気胸の場合はair leakがみられなくなることです。まずは水封として1日様子をみて、状態の悪化がなければ更に1日クランプし、胸部レントゲン写真などで確認してから抜去となります。

出典:泉工医科工業株式会社(メラDバッグ1000m)

出典:泉工医科工業株式会社(メラサキューム)

 

3、胸腔穿刺の合併症

胸腔穿刺は穿刺針で刺して胸腔にアプローチする手技ですから、エコーのようにノーリスクというわけではありません。穿刺する際には、事前に本人・家族へ必要性と合併症を説明し、同意書へサインをもらっておきましょう。(緊張性気胸の場合は、そのような余裕はないかもしれません。)

 

■胸腔穿刺の合併症

・出血:肋間動静脈損傷、内胸動脈損傷など

・気胸:肺への誤穿刺

・喀血:肺への誤穿刺(穿通性損傷)

・肝脾損傷:肝臓や脾臓への誤穿刺など

・誤挿入:ドレナージチューブ胸腔外(皮下組織内)への留置

・感染:不潔操作・膿胸・細菌性胸膜炎の胸壁への波及など

・血管迷走神経性失神

・再膨張性肺水腫、低血圧:高度な虚脱や虚脱時間が長い場合に起こり、発生するのは稀。

 

4、胸腔穿刺の看護手順

4-1、必要物品について

 

➀滅菌体内留置排液用チューブセット トロッカーカテーテル

(一時的な排液や試験穿刺目的の場合、透析用穿刺針で代用することもある)

②消毒セット(滅菌綿球・ポピドンヨード液・鑷子)

③滅菌穴あきドレープ・滅菌覆布

④滅菌手袋

⑤処置用シーツ

⑥局所麻酔薬・10mlシリンジ・23G注射針(・18G針)

⑦カテーテルチップ

⑧縫合セット(持針器・クーパー・縫合糸)

⑨滅菌ガーゼ

⑩滅菌Yガーゼ

⑪固定用テープ・挿入部用透明ドレッシングテープ

⑫排液バッグ メラDバッグ(蒸留水を入れて準備、指示があれば低圧持続吸引機も)

⑬検体スピッツ(胸水の細胞診提出用)

⑭メス(穿刺セット・縫合セットに入っていない場合)

⑯鉗子(無鉤)

⑰油性マジック

⑱膿盆

⑲エコー

⑳モニター

㉑バスタオル

 

4-2、胸腔穿刺の手順

 

①モニター類を設置して患者に装着し、処置前のバイタルサインを測定する。

②手指消毒を行ってから排液バッグを開封し、水封室の指示量まで滅菌蒸留水を注入する。

③医師から指示のあった場合、低圧持続吸引機をコンセントにつなぎ、セットしておく。

④4-1の物品を患者のもとへ運び、ワゴンの上に滅菌覆布を敷き、清潔操作で並べる。

⑤処置開始前に、名前の確認と同意を得ているか最終確認を行う。

⑥医師が体位を決定したら病衣をまくってバスタオルで覆い、プライバシーの配慮と保温に努める。

⑦処置用シーツを敷く。

⑧穿刺部位をポピドンヨード液で円を描くように、2回消毒する。

⑨消毒部位を乾かしてから、穴あきドレープをかける。

⑩局所麻酔をする。

⑪カテーテルの太さに合わせて、メスで皮膚を小切開する。

⑫カテーテルを挿入する。

⑬カテーテルの先端部が目的部位まで挿入されたら、内針を抜いて空気が胸腔内へ入らないように速やかにクランプする。

(検体を採取するときは、クランプ前にカテーテルチップに吸い、スピッツへ移す。)

⑭カテーテルとコネクターをつなぎ、排液バッグにつなぐ。

(持続吸引機につなぐ場合、最初は低圧から開始する。)

⑮クランプを解除し、排液・排気(脱気)を確認する。

⑯カテーテルを縫合固定する。

⑰カテーテルの太さ・挿入の長さ・何針で固定したかを確認し、記録する。

⑱滅菌ドレープを取り除く。

⑲止血を確認してから、Yガーゼとフィルムドレッシングで挿入部を覆い、固定用テープを貼付する。

⑳余分な消毒液を拭き取る。

㉑患者に処置が終わったことを告げ、病衣を整える。

㉒バイタルサインを測定する。

㉓物品を片付ける。

㉔胸部レントゲン写真を撮影し、医師はカテーテル先端の位置を確認する。

㉕記録する。(カテーテルの太さ・挿入の長さ・何針で固定したか、バイタルサインなど)

 

※注1:穿刺目的によってカテーテルの太さが異なるため、前もって確認しておく。

※注2:物品はタイミングを見て手渡す方法もあるが、先にワゴンの清潔野に出しておく方がスムーズで、処置中に患者への声掛けや観察に集中できる。

※注3:ドレーンチューブは、身体に沿わせて必ず2か所以上固定する。

※注4:適宜バイタルサインを測定する。

※注5:適宜患者への声かけを行う。

 

まとめ

胸腔ドレーンをめぐる看護は、挿入の介助について終わりではありません。管理を怠ると胸腔内に空気が入り込んだり、ドレーンの位置がずれてしまい本来の目的を果たさないどころか、危険な合併症を引き起こすこともあります。挿入時の介助だけではなく、挿入後のドレーン管理にも十分な注意が必要です。

 

参考文献

手技:胸腔穿刺およびドレナージ(日本内科学会雑誌第102巻第5 号シリーズ|内科医に必要な救急医療|2013)

胸腔穿刺(MSDマニュアルプロフェッショナル版|滋賀医科大学 呼吸器内科 講師/教育医長長尾大志)

やさしイイ呼吸器教室(滋賀医科大学呼吸器内科)


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