進行性核上性麻痺とは、パーキンソン病関連疾患の1つで、転びやすくなる、眼球の運動障害、認知症、嚥下障害などの症状が現れる神経疾患です。進行性核上性麻痺の基礎知識や症状、予後、看護過程、看護問題、看護計画をまとめましたので、進行性核上性麻痺の患者の看護をする時の参考にして下さい。
1、進行性核上性麻痺とは
進行性核上性麻痺とは、パーキンソン病関連疾患の1つで、脳の特定部位の神経細胞が変性・減少することで、神経症状が見られるようになります。
進行性核上性麻痺は脳の黒質や中脳、視床下核、淡蒼球、小脳歯状核などで、タウというタンパク質が変性し、脳内に蓄積していくことで、その部分の神経細胞が減少・脱落して、神経症状が現れるようになります。進行性核上性麻痺の発症率は、10万人当たり5~20人とされていて、ほとんどの患者は50歳以上で発病します。1)
2、進行性核上性麻痺の症状
進行性核上性麻痺の症状は、転倒しやすさと眼球の運動障害、認知症、パーキンソニズム、嚥下障害・構音障害などが現れます。
■転倒しやすい
進行性核上性麻痺の特徴的な症状の1つに、転倒しやすいことがあります。進行性核上性麻痺は発症後初期段階から転倒を繰り返します。特に、パーキンソニズムや認知症などの症状があるために、とっさに手が出なかったり、注意力が散漫になるため、進行性核上性麻痺の患者は転倒を繰り返し、転倒によってけがをしやすくなります。
■眼球の運動障害
進行性核上性麻痺は眼球の運動障害の症状も現れます。初期は眼球の上下運動が障害され、病気が進行すると、水平方向の眼球運動も障害されるようになります。さらに進行すると、眼球は正中位で動かなくなります。この眼球運動の障害も転びやすくなる原因の1つになります。
■認知症
進行性核上性麻痺を発症して1~2年が経過すると、認知症のような症状が現れます。ただ、進行性核上性麻痺の認知症は、アルツハイマー病のような症状とは少し異なり、記憶障害や失見当識の症状は軽度です。
進行性核上性麻痺は前頭葉が障害されるために、全く動かない・話さないという時があったり(動作の開始障害)、同じことを繰り返す時があったり(終了の障害)します。また、把握反射や視覚性探索反応、模倣行動なども進行性核上性麻痺の認知症の特徴的な症状になります。
■パーキンソニズム
進行性核上性麻痺は、パーキンソン病関連疾患の1つですので、パーキンソン病と似たような症状が出ます。ただ、すべてが同じような症状というわけではありません。進行性核上性麻痺の初期では、動きは緩慢ではあるものの、関節が動かしにくいということはありません。また、パーキンソン病では四肢に筋強剛が見られますが、進行性核上性麻痺では四肢よりも頚部や体幹に筋強剛が強く出るのが特徴です。
そのため、進行すると、頚部が後屈し、体幹が後ろにのけぞるような不安定な姿勢になっていき、最終的には寝たきりになります。
進行性核上性麻痺は、パーキンソン病と同じようなすくみ足や小刻み歩行は見られますが、振戦はほとんど見られません。また、進行性核上性麻痺では、一見動かないように見える患者が突然立ち上がることがよく見られますので、注意が必要です。
■嚥下障害・構音障害
進行性核上性麻痺は、病気が進行するにつれて、構音障害や嚥下障害がみられるようになり、嚥下障害が進行すると、経管栄養での栄養管理が必要になります。
3、進行性核上性麻痺の予後
進行性核上性麻痺の根本的な治療は、まだ確立されていません。そのため、進行性核上性麻痺を発症すると、完治することはなく、徐々に進行し、最終的には死に至ります。
進行性核上性麻痺は発症後2~3年で車イスが必要になり、4~5年で臥床状態になります。発症から全経過は平均で5~6年となっていますが、羅病期間が10年以上ある患者も少なくありません。死因は肺炎や痰詰まりによる窒息が多くなっています。
4、進行性核上性麻痺の看護過程
進行性核上性麻痺の患者は、訪問看護を利用しながら、自宅で療養生活を送るケースも多いので、病棟で入院している時の看護だけではなく、退院後自宅で療養することを念頭に置いて、看護をしていく必要があります。
4-1、進行性核上性麻痺の看護問題
進行性核上性麻痺は病気の進行状態によって、看護問題が異なりますが、ここでは進行性核上性麻痺の代表的な4つの看護問題を説明していきます。
■転倒リスク状態
進行性核上性麻痺の最大の看護問題は、転倒のリスクがあることです。入院中の進行性核上性麻痺の患者の15%が転倒し、しかも月平均2.1回の転倒が見られ、転倒者の1/4以上で外傷が見られたというデータがあります。2)
看護師は患者の安全を守るため、患者が転倒しないように看護介入していく必要があります。
■誤嚥のリスクがある
進行性核上性麻痺は嚥下障害が出てくるため、誤嚥のリスクがあります。早期から嚥下障害がある患者は予後不良である傾向がありますし、死因は誤嚥による肺炎であることが多いため、看護師は誤嚥が起こらないようにケアしていかなければいけません。
■褥瘡ができるリスクがある
進行性核上性麻痺は発症から5年前後で臥床状態となるため、褥瘡が発生するリスクが高くなります。褥瘡が発生すると、そこから感染が起こることもありますので、褥瘡が発生しないように看護介入をしていきましょう。
■便秘になりやすい
進行性核上性麻痺を発症すると、車イス→臥床という経過をたどり、体を動かさなくなります。また、嚥下障害のために食事量が少なくなるなどの要因がありますので、便秘になりやすいのです。
4-2、進行性核上性麻痺の看護計画
進行性核上性麻痺の看護計画を、先ほどの看護問題に沿って立案していきます。
■転倒リスク状態
看護目標 | 転倒しない |
OP(観察項目) | ・歩行状態
・歩行時の姿勢 ・行動の観察 ・病衣や履物 |
TP(ケア項目) | ・見守り歩行
・ベッド周囲の環境整備を行う ・排泄時や入浴時は目を離さない ・必要時は体幹ベルトや安全ベルトを使用する ・ナースコールを手元においておく ・離床センサーを用いる |
EP(教育項目) | ・離床の時にはナースコールを押して呼ぶように何度も伝える
・家族に転倒のリスクを説明する ・自宅でもできる転倒予防法を指導する |
■誤嚥のリスクがある
看護目標 | 誤嚥を起こさない |
OP(観察項目) | ・バイタルサイン
・意識レベル ・嚥下障害の程度 ・呼吸状態 ・四肢冷感やチアノーゼの有無 ・経口摂取量 ・口腔残渣の量 ・血液検査のデータ(WBCやCRP) ・胸部レントゲン |
TP(ケア項目) | ・食事前には姿勢を整える
・食事以外の時間も誤嚥しにくい体位(側臥位やファーラ―位)を保つ ・食形態を調整する ・とろみをつける ・患者のペースで食事介助をする ・口腔ケアをする ・アイスマッサージや嚥下体操を行う |
EP(教育項目) | ・ゆっくり食べ、しっかり飲み込むように指導する
・家族にアイスマッサージや嚥下体操の方法を指導する ・家族に体位の整え方を指導する |
嚥下障害の看護に関しては、「嚥下障害のある患者の看護|看護目標と看護計画(OP・TP・EP)」を参考にしてください。
■褥瘡ができるリスクがある
看護目標 | 褥瘡が発生しない |
OP(観察項目) | ・全身の皮膚の状態 ・ADLの自立度 ・自力での体位交換の可否 ・排泄の状態 ・関節拘縮の有無 ・疼痛や掻痒感の有無 ・栄養状態 ・血液検査データ |
TP(ケア項目) | ・適宜体位交換を行う ・エアマットを使用する ・骨突出部の除圧を行う ・皮膚の清潔を保つ ・排泄ケアを行う ・衣類やシーツのしわを伸ばす |
EP(教育項目) | ・家族に除圧の方法を指導する
・体位交換の必要性を伝える ・褥瘡のリスクを説明する |
■便秘になりやすい
看護目標 | 2~4日に1回は有形便が出る、腹部緊満感がない |
OP(観察項目) | ・食事摂取量
・水分摂取量 ・腸蠕動音 ・腹部緊満感 ・排便のサイクル ・便の性状や量 |
TP(ケア項目) | ・トイレ誘導を行う
・転倒に留意しながら、可能な範囲で体を動かす ・下腹部をマッサージする ・温罨法を行う ・摘便をする ・医師の指示の下剤や浣腸を行う ・発酵食品や食物繊維を多めにした食事を用意する |
EP(教育項目) | ・水分摂取量を多めにするよう伝える
・便意は我慢しないように説明する |
まとめ
進行性核上性麻痺の基礎知識や症状、予後、看護過程、看護問題、看護計画をまとめました。進行性核上性麻痺は、発症初期段階からの転倒が多く、しかも転倒による外傷も多いので、看護師は転倒に注意して看護を行っていく必要があります。
また、進行性核上性麻痺という疾患は家族にも負担が大きい疾患ですので、公的な社会資源を紹介したり、MSWに介入してもらうなど、家族看護も行っていくようにようにしてください。
参考文献
1)PSP 進行性核上性麻痺 ケアマニュアル 第4版|「神経変性疾患領域における基盤的調査研究」班|2017/04
2)進行性核上性麻痺患者の転倒・転落―他施設共同研究―|村井敦子、饗場郁子、齋藤由扶子、沼崎ゆき江、外尾英樹、松下剛、松岡幸彦、湯浅龍彦|医療58巻4号|2004/04