動脈ライン(Aライン)は、集中治療における重傷者のモニタリングを目的として行われる、観血的血圧測定の一つの方法です。患者の状態を随時モニタリングができ、必要な時に患者に苦痛を与えることなく患者の血液サンプルを得ることもできます。特に動脈血から得られる血液ガスからは、酸塩基平均値、アシドーシス・アルカローシス、代償反応という全身状態の把握に必要な情報を得ることができます。
1、動脈ライン(Aライン)とは
動脈ラインは、動脈に直接針を挿入、そして留置して血圧を測定します。動脈にAラインが挿入してある場合は、採血システムの種類であれば、直接そのラインから動脈血を採取し、動脈血のガスの分析ができます。看護師として、医師が行うAラインからの採取の介助、直接穿刺による動脈血の採取の介助が手技のメインでありましたが、保健師助産師看護師法の一部改正によって、平成27年の10月1日より、動脈血ガス分析関連として、特定行為にあたる直接動脈穿刺による採血またAラインの確保が条件付きで看護師も行えるようになりました。
特定行為とは、診察補助のうち、看護師が手順書で行う場合、実践的な理解力、思考力および判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要される行為のことを意味します。「特定行為研修」の受講をした看護師のみ、特定行為を行えるようになりました。下記の表は特定行為の一部の例です。
特定行為区分 | 特定行為 |
呼吸器 (気道確保に係るもの)関連 | 経口用気管チューブ又は経鼻用気管チュー ブの位置の調整 |
呼吸器(人工呼吸療法に係る もの)関連
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侵襲的陽圧換気の設定の変更
非侵襲的陽圧換気の設定の変更 人工呼吸管理がなされている者に対する 鎮静薬の投与量の調整 人工呼吸器からの離脱 |
呼吸器(長期呼吸療法に係る もの)関連 | 気管カニューレの交換 |
循環器関連 | 一時的ペースメーカの操作及び管理
一時的ペースメーカリードの抜去 経皮的心肺補助装置の操作及び管理 大動脈内バルーンパンピングからの離脱 を行うときの補助頻度の調整 |
心囊ドレーン管理関連 | 心嚢ドレーンの抜去 |
胸腔ドレーン関連 | 低圧胸腔内持続吸引器の吸引圧の設定及 び設定の変更
胸腔ドレーンの抜去 |
動脈血液ガス分析関連 | 直接動脈穿刺法による採血 橈骨動脈ラインの確保 透析管理関連 急性血液浄化療法における血液透析器又 は血液透析濾過器の操作及び管理 |
このほかにも、中心静脈カテーテルの抜去など、医師のみが行っていた行為も記載されています。すべての現場での運用はまだまだこれからですが、Aラインに関する看護技術や知識がさらに必要になったことは間違いがありません。
2、Aラインの目的
Aラインの目的は、動脈にカテーテルを留置することで、持続的な血圧や脈などの血行動態の把握が可能になります。また、血液ガス分析のための動脈血の採取が迅速に行えます。このほかにも、悪性腫瘍に対する抗がん剤の注入や、血液透析のルートとしてなど治療目的で挿入されることもあります。Aラインから動脈血を採取し、血液ガスの分析はよく行われる検査の一つです。血液ガスの分析の注意点として、採決後は数分以内に検査しないとPaO2血が低下することです。必ず迅速に測定する必要があります。
3、挿入部位
挿入部位の選択は、医師にもよりますが、血圧が保たれ橈骨動脈において脈圧がしっかり触れていれば①橈骨動脈②上腕動脈③大腿動脈の順に選択されます。
①橈骨動脈:手関節の掌側で橈骨茎状突起の内側近位部
出典:The New England Journal of Medicine
②大腿動脈:恥骨結合と上前腸骨棘との間で、大腿静脈の外側で大腿神経の内側
③上腕動脈:肘窩内側で内側上顆の外側、上腕二頭筋腱内側
4、看護手順とポイント
①Aラインに組こまれているシリンジで、Aライン内のヘパリン生理食塩益を一時的に引く。(※引いた後は、血液が逆流しないように患者側をoffすることを忘れない。)
②採血用シリンジに専用ニードルを接続し、指示された採決量まで内筒を引いておく。
③Aラインの採血用のソケットを開け、アルコール綿で消毒する。採血用シリンジを接続する。(※カチッと音がするまで押してはめる。血液ガス専用のシリンジを挿入すると、自動的に血液がシリンジ内に逆流し、採血できる。)
④採血用シリンジの接続を外して、ソケットを再度アルコール綿で消毒し、キャップをもとに戻す。(※Aライン内のシリンジで引いたヘパリン入り生理食液は、動脈血内に戻す。)
⑤採血した血液は回転混和しながら運搬、検査部にすぐ渡すか、血液ガス分析装置にセットする。(回転混和することで、ヘパリンを行きわたらせ、凝血を防ぐため。)
5、看護のポイント
動脈穿刺中は、血流が多く出血が起こりやすいリスクがあります。痛み・刺激に対して、患者の身体が動くことや、ショック状態に陥る場合もあります。看護師は、患者のバイタルサインだけでなく、患者の言動、顔色、体動などにも注意して常に観察しましょう。
Aライン留置における起こりやすい合併症 | 看護のポイント |
一時的な末梢循環不全 | 末梢不全を起こさないように、2時間以上は圧迫止血を行わないことが重要です。そのために、圧迫開始時刻を記入するなど対策が必要です。看護師は、末梢循環不全の徴候がないかを観察しましょう。(脈圧・手先のしびれ・冷や汗・冷感など) |
血種また出血 | 迫止血を確実に行いましょう。少なくとも5分間は圧迫を継続し、止血を確認後、圧迫止血用絆創膏で圧迫止血を継続しましょう。 |
感染 | Aラインが留置されていた期間が、長ければ長いほど感染のリスクが高まります。挿入部や周囲の発赤や腫脹そして疼痛などの観察も重要です。 |
大出血 | |
敗血症 | 挿入部の観察だけでなく、バイタルサインの観察や血液データから全身に感染が起きていないか早期に発見に努めましょう。 |
慢性的循環不全 | |
偽動脈瘤の形成 | |
血栓症 | |
動静脈瘻 | |
空気血栓 | 不注意によって活栓が解放されたままであったり、圧モニタリングラインの偶発的な外れや採血や投薬またフラッシュの際に残存気泡が血液に入り、細い血管を塞ぐリスクがあります。部位としては、脳や心臓などに多く発症するため、注意が必要です。脳の症状である、意識レベルの低下や見当識障害。そして、心臓に関する症状の胸痛や冷感、四肢の循環障害なども観察しましょう。 |
5-1、Aライン0点
Aラインの0点とは、圧トランスデューサペントポート(液体―大気接点)の位置を圧力測定する心房/心室と同じ高さにすることです。同じ高さにすることで、正確に血圧をモニタリングできるからです。例えば、心臓のモニタリングにおいては右心房の位置でゼロにします。これは、中腋窩と第4肋間腔の交点(Phlebostatic axis)にあります。閉塞型ルアーキャップを外し、三方活栓のハンドルを回して、圧トランスデューサーのペントポートを大気開放し、読みがゼロとなるように血圧監視装置を調節してください。
5-2、波形
循環管理に関するモニターを理解し、アセスメントし患者管理に生かすことは大切なことです。最初からすべてを理解するのは、不安になってしまうと思います。まず、正常な波形を理解し、そこから知識を深めていきましょう。正常な動脈圧の波形はFig.1に示された部分から成り立っています。例えば、大動脈弁疾患がある場合、波形に変化が出ます。穏やかな上行脚や重複切痕の不明瞭化などです。
波形から、心臓の収縮期と拡張期圧が測定できます。これらのデータから、平均動脈圧、心収縮力や動脈のコンプライアンスも推測できます。Fig.2では、心臓の一回拍出量の評価の方法が示してあります。収縮期の面積から一回拍出量が推測でき、リアルタイムモニタリングからの情報は、患者を看護するうえでも有効です。
まとめ
Aラインの管理は、患者の身体状況を正確に知るために重要です。もちろんモニターを読めることも大事ですが、穿刺部位の固定、O点調整や採血時の手技などの技術を創造していくことがまず大事になります。なぜ、Aラインの留置が治療上に必要なのか、その目的を理解すること。そして、技術の根拠を理解していくことが安全性の向上につながります。一つ一つの手段を大切にし、Aラインの安全性また効率性が高い管理ができるように心がけましょう。
参考文献
厚生労働省令第33号(2016/03/13)
The New England Journal of Medicine (2006/04/13)
丸石製薬株式会社 循環モニターの評価法(大阪市立総合医療センター麻酔科 三浦由紀子、奥谷 龍 2011)