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アルコール依存症の看護|治療・診断・離脱症状とその看護計画

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アルコール依存症

慢性的にアルコールを常用することによって依存形成し、健康や患者家族、社会的にも影響を及ぼしてしまうことをアルコール依存症といいます。患者は病気意識がないことが多く、入院に抵抗を感じたり、感情が不安定なため、看護するのにも困難を要します。ぜひ今回お話しする看護のポイントを実践に役立ててください。

 

1、アルコール依存症とは

慢性的にアルコールを常用し依存形成された状態のことをアルコール依存症といいます。国際疾病分類(ICD10)では、「精神作用物質(アルコール、アヘン、大麻)使用による精神及び行動の障害」に分類され、以下の6項目のうち、3項目以上が過去1年間のある期間に存在した場合にアルコール依存症と診断されます。

 

・飲酒することへの強い願望または強迫感

・飲酒の開始と終了時期、飲酒量を制御できない

・飲酒をやめたり、飲酒量を減らしたときの離脱症候群の出現、離脱症状を軽減するための飲酒

・耐性による飲酒量の増大

・飲酒以外の楽しみや興味の喪失、飲酒時間と酔いざまし時間の増大

・飲酒に関連する疾患やトラブルなど有害な結果が生じていることを無視した飲酒の継続

 

アルコール依存症になると、精神依存と身体的依存状態になり、常に飲酒していたいという願望が生まれ、体内アルコール濃度が下がると離脱症状を起こし、それを抑えるためにまた飲酒することを繰り返してしまうようになります。

 

2、アルコール依存症の治療

アルコール依存症の治療は、断酒が原則です。何十年断酒していたとしても、ほんの一口の飲酒で依存状態に戻ってしまうこともあるので大変危険だからです。また、治療過程によって治療内容も変わるので、患者が今どの段階にあるのかということを考えながら治療を行っていきます。

導入機 ・アルコール関連障害(肝障害、家庭内不和、精神症状など)に対処。

・本人の病気への理解、治療への動機づけを得る。

解毒期 ・1~2週間入院し、離脱症状栄養障害に対する治療を得る。
積極的治療期 ・アルコール関連障害の治療。

・精神依存への対処(集団精神療法自助グループへの参加、抗酒薬の投与、作業療法

継続的治療期 断酒の継続とストレス対処行動の獲得。

・家族関係の回復、生活の安定化を目指す。

出典:医療情報科学研究所|看護師国家試験のためのなぜ?どうして?チェキラ第6版|メディックメディア(580 平成27年7月10日)

 

中心となるのは集団精神療法で、患者が主体となって自分の飲酒経験の振り返りや経験の共有を図り、再度アルコールに手を出してしまわないよう本人を支援していきます。また、退院後も患者がアルコールに手を出さないように、本人を支える家族の力も大切であることを看護師は伝えていかなければいけません。アルコール依存症の治療は外来通院でもできますが、入院治療し、アルコールを断つことによって症状は急速に良くなることが多いため、現在は入院治療が主流です。治療で使われる主な薬剤としては、抗酒薬、抗不安薬、抗精神病薬などがあります。

 

・抗酒薬(シアナミド、ジスルフィラム):服用すると少量の飲酒で悪酔いするため飲酒をあきらめる効果がある

・抗不安薬(ジアゼパム):離脱症状を抑えることができる

・抗精神病薬(ハロペリドール):意識消失、幻覚の出現がある場合に適応

 

3、アルコール依存症に起こりやすい離脱症状とは

離脱症状とは、反復使用によって身体依存が形成された後、その薬物使用を中断することによって出現する特定の病的症状をいい、症状の出現時期により早期離脱症候群と後期離脱症候群に分けられます。

アルコール依存症に起こりやすい離脱症状

出典:川野雅資:精神看護学Ⅱ:ヌーヴェルヒロカワ(342図Ⅺ-2アルコール離脱症候群の時間的経過 平成22年2月26日)

 

3-1、早期離脱症候群

飲酒中断後7時間ごろより始まり、20時間ごろをピークに出現し、48時間から72時間(2~3日)ほど続きます。症状として、発汗、寝汗、心悸亢進、頻脈、血圧上昇などの自律神経症状、消化器症状(吐き気、食欲不振、下痢)などの症状が出現し、それらについで、手指や身体の振戦、けいれん発作も出現します。精神症状としては、イライラ感、不安、焦燥感、抑うつ、不眠、悪夢などの症状に次いで、一過性の幻覚や錯覚、抑うつ状態や希死念慮が現れることも珍しくありません。

 

3-2、後期離脱症候群

早期離脱症候群に次いで起こり、飲酒中断後46時間から72時間ごろに出現し、3~4日続く症状です。発熱、発汗、頻脈などの自律神経系亢進症状とともに、粗大な振戦、精神運動興奮、意識障害、幻覚などを呈する振戦せん妄が出現し始めます。幻覚に多いと言われているのが、多数の小動物や小人、虫が壁や床をうごめいているものが見える幻覚で、それらが体を這い上がってくるような感覚をともなうこともあります。幻覚は夜間や暗い部屋の中で増強し、明るい部屋では軽減するという特徴もあるため時間帯により患者の状態をよく把握しなければいけません。振戦せん妄が現れる時期は、脱水や低栄養状態、電解質異常、低血糖などの合併症から死に至る場合もあるため、身体状態の管理が重要です。

 

4、アルコール依存症の看護問題と看護計画

アルコール依存症の患者の看護計画は、患者がどの依存状態にあるのかで区別して考えると良いです。強い依存状態、依存から少し離れた状態、自立に向かう状態の3つに分け、計画立案、評価を行います。

 

4-1、強い依存状態

この状態の患者は、見捨てられ不安が強く、その不安を依存行動によって充足しようとします。自立する思いはないため他者に決定をゆだねる傾向にあります。

 

■依存:見捨てられ不安、低い自己評価に関連した

看護目標:患者が感情を行動や言葉で医療者に表現することができる

観察項目:

・表情、言動

・患者が認知している現実

・他患者、家族との対人関係、依存行動

・患者の自己評価

 

ケアプラン:

・患者を見捨てず一人の成熟した人間として受け入れることのメッセージを送る

・一貫した態度で接する

・行動の裏にある感情を表出できるように関わる

・病棟のルールの中で患者ができることを一緒に考える

 

指導項目:

・感情を患者が受け入れられる方法で表現することを提案する

・感情がどのように表現されているか観察したことを伝え、感情と行動の関連性を患者が考えることができるよう援助する

 

4-2、依存から少し離れた状態

この状態の患者は、患者―看護師間において見捨てられ不安を持っており、感情を表出できます。自立したいという思いはあるので自己決定を部分的に行うことができます。

 

■依存:日常生活のスキル、生活変化や危機に対する対処行動が不十分であることに関連した

看護目標:生活変化や危機に対処するスキルが培われる

観察項目:

・表情、言動

・患者が認知している現実

・他患者との対人関係

・レクリエーションの参加状況

 

ケアプラン:

・現在の能力でできそうな活動を患者と計画する

・うまくいかなかったことも、努力したことを認める

・依存的行動には応じない

・計画を達成できた場合、肯定的なフィードバックを送る

・欲求充足の望ましい行動を一緒に考える

 

指導項目:

・集団への参加を促し、他患者と感情を共有できる機会を提供する

・苦手な場面のロールプレイングを行う

 

4-3、自立に向かう状態

■依存:つい頼ってしまう感情を処理できないことに関連した

看護目標:今後の生活への具体的な感情や行動が表出できる

観察項目:

・様々な場面での患者の表情、言動

・患者が認知している現実

・今後の生活に対する不安

・今後の生活に対する目標

・レクリエーションの参加状況と他患者との関係

 

ケアプラン:

・今後の生活の具体的な計画を一緒に考える

・今後の生活の準備を患者が自力で行うことを支持する

・患者の行動の振り返りを行う

・今後の生活で起こり得ることを予測し、どのように対処していくか一緒に考える

 

指導項目:

・今後の生活で起こり得る場面をロールプレイングで練習する

・活用できる社会資源を紹介する

 

まとめ

適量は健康に良いといわれているお酒も、量を間違えれば依存症に陥る怖い飲み物に変わります。症状が良くなっても、「ちょっとだけならいいかな。」と手を出してしまうと依存状態に逆戻りしてしまうため、患者が退院後に二度と依存状態に戻らないよう、家族と協力しサポートしていきましょう。

 

参考文献

川野雅資:精神看護学Ⅱ:ヌーヴェルヒロカワ(342-347 平成22年2月26日)

吉松和哉、小泉典章、川野雅資:精神看護学Ⅰ:ヌーヴェルヒロカワ(5-6 平成22年2月20日)

医療情報科学研究所|看護師国家試験のためのなぜ?どうして?チェキラ第6版|メディックメディア(580-583 平成27年7月10日)


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