悪性腫瘍や先天性疾患など理由は様々ですが、ストマ(ストーマ)を造設することで患者さんはボディイメージの変化やライフスタイルの変化を余儀なくされてしまいます。また、ストマ造設を納得したうえで造設しなければ、その後の社会生活に大きな影響が出てしまいます。看護師は、ストマ造設の患者さんたちがそのような身体的な変化に適応し、以前と同じように社会生活に戻れるよう、看護技術面だけでなく心理面でもケアをして関わっていく必要があります。今回、ストマのもっとも基本的な知識をまとめていますので、ぜひストマの患者さんの看護に関わる際の参考にして下さい。
1、ストマ(ストーマ)とは
ストマとは消化管や尿路を人為的に対外に造設した排泄孔です。便や尿を肛門や尿道から出せなくなってしまった場合に、腹壁を通して腸管や尿管を体表面に開口して排泄させる方法です。消化管の場合を消化管ストマ、尿路の場合は尿路ストマといいます。この記事では消化管ストマについて述べていきます。
2、ストマの種類
ストマを作らなくてはいけなくなる疾患には様々なものがあります。ストマ造設が必要になる疾患は結腸や直腸がんなどの悪性腫瘍から、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患やイレウスなど、原因となる疾患によってどの種類のストマが必要になるかが変わってきます。
消化管ストマは造設する部位によって回腸ストマと結腸ストマに分けられます。結腸ストマはさらに以下のように種類があります。食事を摂ってから排便まではおよそ48~72時間が必要です。摂取物は胃から各消化管を通過して大腸に至ります。盲腸までは水様便の状態ですが、大腸を通過する際、大腸で少しずつ水分が吸収されS状結腸にたどりつくころには固形便となります。ですから、大腸のどの部分にストマが造設されるかで便の状態や量、食事摂取から排泄されるまでの時間が異なってきます。
造設部位 | ストマ種類 | 便の性状 | 便の量 |
回腸 | 回腸ストマ | 水様便
↓ 固形 |
多い
↓ 少ない |
結腸 |
上行結腸ストマ
横行結腸ストマ 下行結腸ストマ S状結腸ストマ |
造設期間によるストマの違い | |
一時的ストマ | ストマ閉鎖術が予定されている場合のストマのことです。 |
永久的ストマ | ストマの閉鎖術施行の予定はありません。 |
ストマ型式 | ||
単孔式ストマ | ストマの多くがこのタイプです。1本の消化管を途中で切断して、その端を腹壁から引き出して作られたストマのことです。 | |
双孔式ストマ | この双孔式ストマは、腸管切除の必要がない一時的ストマを造設する場合に多くつくられます。便が出る人工肛門と、便は出ず粘液を出すための孔の2つの穴があります。 | |
ループ型ストマ |
消化管の一部をループ状に体表に引き出して、腸管壁の一部を切り開き、反転させて造設したストマです。双孔式なので、2つの穴が並んでいますが、正面から見ると円形に近く見えます。 | |
二連銃式ストマ |
途中で切断した消化管の端を、それぞれ体表に出して造設されたストマです。名前のように、銃口が2つ並んでいるように見えるストマです。現在はこちらのストマよりも、ループ型ストマの造設が一般的です。 |
3、ストマの合併症
ストマの合併症は、ストマ造設後の手術直後から起こってくる早期合併症と、退院後に生じてくる晩期合併症の2種類にわけられます。早期合併症はそのほとんどが縫合された皮膚粘膜接合部が完成するまでの過程で生じます。ストマ造設後の術後の回復を順調にすすめるために、また患者さんの社会復帰を遅らせないためにも合併症の早期発見をし、合併症が進む前に最適な看護援助を行っていくことが看護師には求められます。
■早期合併症と晩期合併症
合併症の部位 | 早期合併症 | 晩期合併症 |
ストマの形状 | 巨大、陥没、過小、漿膜炎 | 脱出、瘻孔形成、重責、狭窄、萎縮、陥凹 |
ストマの粘膜 | 浮腫、壊死、循環障害、充血、うっ血
出血、貧血 |
萎縮、貧血、びらん、潰瘍、硬結、腫瘍 |
ストマの皮膚縁 | ストマの離開、膿瘍、出血、脱出、哆開(縫合した創部が開いてしまうこと) | 粘膜皮膚移植、外傷、浸軟、肥厚、狭窄 |
ストマの周囲皮膚 | 皮膚周囲のびらん、潰瘍、膿瘍 | 静脈瘤、ストマ周囲の皮膚障害、感染 |
各観察項目は、ストマのどの部位のどの位置にあるか、どのような状態かをはっきり明記して記録しておくことが重要です。そのためには、ストマの各部位の名称を覚えておく必要があります。また、障害が起こっている部位は「ストマ基部6時方向にびらんあり」などの表記を使って、位置もしっかり明記しておきましょう。
4、ストマ造設術のスケジュールと看護師の役割
ストマ造設までのスケジュールは以下のような流れで行われます。(各病院によって細かい部分の違いやスケジュールの前後が多少はあります)
実施内容 | 看護師の関わり | |
手術前日までに 行われること |
術前オリエンテーション |
ストマ造設について、患者さんは医師より説明を受けます。その説明を受けたあと、看護師は患者さんがストマについてどのように受け止めているか、どの程度理解できたのか情報収集することが必要です。患者さんがストマの必要性やストマとはどういうものかについてしっかり理解できていなかったり、そもそもストマ造設そのものに納得していない場合、ストマ造設後のボディイメージ変化の受け入れができなかったり、セルフケア手技の習得拒否、社会復帰が遅れてしまうといったことも起こってしまうからです。患者さんの心理状況をアセスメントしたうえで、ストマ造設についての理解をしっかり促していくことが大切です。また、ストマ造設を受け入れて納得している場合でも、ストマを見たことがない患者さんにとっては退院後の生活がどんなものかイメージしにくいはずです。ストマになった時の排泄方法やストマケアの方法の情報を提供し、実際に使う装具などを実際に見てもらい、術後の自分の体の排泄機能、生活がどう変化するか具体的に理解できるよう関わっていきましょう。 |
ストマサイトマーキング |
ストマサイトマーキングとは、術前にストマの造設位置を選定してその部位にマーキングしておくことをいいます。ストマサイトマーキングは以下の目的があります。
・合併症を起こしにくくなる。 ・患者さんの生活を想定してセルフケアがしやすい位置にマーキングすることで、患者さんが自己管理しやすい位置にストマを造設できる ・しわになりにくい、安定した皮膚表面を選択しておくことで、ストマ造設後に装具の装着がしやすい部位を選択できる ・実際にストマを造設する位置にマーキングを行うことで、患者さんが自分のボディイメージの変化 やストマについて具体的イメージをすることができます。 |
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手術当日 |
ストマ造設 |
手術終了後、造設したストマに装具を装着します。装具は術直後、ストマの状態に合ったものを選択し装着することになります。 |
手術後 1日目以降 |
離床開始 ストマ装具の交換
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手術後1日目以降、離床が開始されます。ストマや周囲の皮膚状態を観察しながら、術直後に装着した装具の交換を行います。術直後からしばらくの間は、静脈還流が障害されることによりストマに浮腫が生じています。徐々に浮腫は軽減していくので、退院までには浮腫がとれてサイズが縮小します。
ですから、ストマ装具の決定は、浮腫が消失した後、ストマサイズや皮膚状態、ライフスタイルを考慮したうえで、退院までに患者にあった装具を決定することになります。 |
手術後 2日目以降 |
ストマ袋から 排泄物破棄の実施 |
排泄物が出てきているようであれば、患者さん自身か今後ケアを行う家族(もしくは他の援助者)にストマ袋から排泄物を破棄する方法を習得していってもらいます。また、実際に装具を触ってもらったり、看護師が装具交換しているのを見学してもらいながら、少しずつ装具交換の知識と手技を覚えていってもらうよう指導を行います。 |
手術後
7~10日目 |
この期間の間にストマ粘膜と皮膚の縫合部分の抜糸が行われます。 | |
退院までに 行う指導 |
ストマ装具交換の 手技習得 日常生活についての 注意点を説明する |
患者さんかその家族(もしくは他の援助者)がストマ装具の定期交換の手技を習得できるよう指導します。退院してからの日常生活をふまえて、注意する点や食生活の指導も行います。シャワー浴や入浴なども体験してもらい、退院してから困らないように具体的な生活場面を考えながら指導を行います。
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4-1、退院してからの注意点や指導内容
①食事について
ストマ造設後の食事制限はありませんが、排便コントロールは大切となるため、以下の食事指導を行います。
・下痢や便秘の時に摂取した方が良い食べ物、摂取しない方が良い食べ物
・ガスを発生しやすい食べ物 ・ガスの発生を抑える食べ物 ・便やガスの臭いを強くしてしまう食べ物 ・便やガスの臭いを抑える効果をもつ食べ物 |
②入浴について
ストマを造設していても装具をはずして入浴することができます。体の内圧の方が水圧より高いため、ストマ内にお湯が入ってくることがないためです。ただ、肛門には肛門括約筋があり、排便を抑えることができますが、ストマにはその括約筋がないため入浴中でも便が出てきてしまうことがあります。ですから、心配な時は透明なゼリーやプリンのカップをストマ部分にかぶせて抑えながら入る方法もあります。
③仕事や学校などの社会生活
社会生活に制限なく、今までと同じように生活できます。ただ上記にも書いてあるように、排便が出るのを調整することはできないため、便やガスでストマ袋がいっぱいになってしまった場合はその都度、席をはずして破棄に行けるように、学校の先生や職場の上司に協力を得ておくようにしてもらいましょう。
まとめ
病棟においてはストマ造設後の創部のケア、ストマの装具決定や手技の指導、合併症を起こしてしまったストマのケアなど看護師に求められる看護ケアはまだまだたくさんあります。上記で説明したのはそれらの基本となる知識です。しっかり理解をしたうえでさらに必要な指導技術やストマケア方法を学んでいって下さい。
参考文献
片山育子他 はじめてのストーマケア メディカ出版(2012年)
山本由利子 ストーマケアBASIC メディカ出版(2008年)