麻酔には局所麻酔、浸潤麻酔、腰椎麻酔、全身麻酔など様々な方法がありますが、その目的は単に手術中に眠らせたり、痛みをなくしたりすることだけではありません。
手術によって生じる身体的・精神的ストレスから患者を守り、手術が円滑に行えるようにすることで、より安全に手術を受けることができるのです。
麻酔の方法は、全身状態や手術の内容により異なりますが、ここでは腰痛麻酔にスポットを当てて説明していきます。腰椎麻酔の特徴を理解し、実際の看護に生かせるように学習していきましょう。
1、腰椎麻酔とは
腰椎麻酔とは下半身麻酔のことで、脊髄くも膜下麻酔または脊椎麻酔とも呼ばれています。大腿や膝、足、膀胱、子宮、肛門、虫垂など下半身の手術に対し用いられます。
下半身だけに麻酔がかかるため、意識は保たれます。
1-1腰椎麻酔のメリットとデメリット
腰椎麻酔は、意識が保たれた状態で行われるため、呼吸・循環の管理が行いやすく、手技も比較的簡単です。全身麻酔に比べると麻酔薬の投与量や合併症のリスクが少なく、十分な無痛と筋弛緩を得ることができます。また、必要物品も少なく、薬品も安価なものが多いため経済面でのメリットもあります。
デメリットとしては、手術範囲が横隔膜以下に限られること、麻酔高が高くなると呼吸抑制が起こる可能性があること、長時間の手術には不向きで神経学的な合併症出現リスクがあることが挙げられます。
2、腰椎麻酔の方法と手順
脊椎のくも膜下腔に、注射針を穿刺して麻酔薬を注入します。脊髄神経の前根と後根を麻痺させることにより麻酔効果を得ることができます。実際に腰椎麻酔がどのような手順で行われるか説明します。
①患者を即臥位にします。両膝を抱えるような姿勢をとり、顔は臍のあたりを覗き込むような体
位をとります。患者の背部をなるべくベッドの端によせ、実施者が処置をしやすい位置で体位を
保持します。
②穿刺部を確認し、マーキングします。穿刺部位となるL2~L4の棘突起にマジック等でしるしを
つけます。
③穿刺部位を消毒しドレーピングします。消毒は穿刺部位を中心に広く行うようにします。
④穿刺部位へ局所麻酔を行ったのち、くも膜下腔への穿刺を行います。穿刺針がくも膜下腔に
達すると、無色透明の脊髄液の流出が確認できます。
⑤脊髄液の流出を確認したのち、薬剤を注入していきます。麻酔の効果を判定するとともに、
麻酔高の確認を行います。予定麻酔高を得るために、頭低位や頭高位など、体位で調整して
いきます。
⑥麻酔高が十分で全身状態に問題がないことを確認し、手術準備に移ります。
3、腰椎麻酔の合併症
腰椎麻酔では、血圧低下、頭痛、吐気・嘔吐、尿閉、脊髄神経麻痺などの合併症が起こる可能性があります。
■血圧低下
交感神経を遮断し、骨格筋が弛緩されることにより、末梢に血液が停滞しやすくなるため、静脈環流が減少し、末梢血管抵抗が減少することにより血圧低下が起こります。
■頭痛
穿刺孔からの髄液漏出に伴い脳圧が低下し頭痛が引き起こされます。
■吐気・嘔吐
麻酔薬による呼吸抑制や血圧低下による低酸素などにより吐気・嘔吐が出現することがあります。
■尿閉
麻酔により仙骨部の副交感神経が遮断されることにより、一時的に尿閉が起こったり、穿刺時の神経損傷により、排尿・排便障害が引き起こされることがあります。
■脊髄神経麻痺(馬尾症候群)
穿刺時の機械的刺激などにより脊髄神経根馬尾が圧迫され、膀胱直腸神経や会陰部から下肢の知覚や運動神経の障害が起こることがあります。
4、腰椎麻酔の観察のポイント
腰椎麻酔は意識のある状態で行われます。呼吸や循環などの一般状態の観察に加え、神経障害などの合併症の有無に注意して観察していきましょう。また、意識のある中での処置や手術は、患者に大きな不安を与える可能性があるため、患者の精神的状態についての観察も必要となります。
まとめ
腰椎麻酔は、全身麻酔に比べて簡便で、患者に与える身体的ダメージも少なく、術中・術後の管理がしやすいとされていますが、腰椎麻酔に伴う合併症のリスクはゼロではありません。腰椎麻酔によるリスクをあらかじめ把握した上で、患者の不安や精神的ストレスを最小限にとどめ、合併症の早期発見、予防ができるようしっかりと患者の状態を観察し、患者に合ったケアの提供をめざしていきましょう。