ネブライザーは薬物を直接気管支に到達させるための機器です。喘息発作時の使用だけでなく、気管支炎などの呼吸器疾患の治療や去痰のため、手術後の排痰目的でも使われます。ですから、ネブライザーは呼吸器内科だけでなく、一般内科~外科まで、広い診療科で使用されている医療機器といえます。ネブライザーは様々なメーカーのものがあるため、細かい動作についてはマニュアルによります。ですが、機器の基本的な構造や看護援助・注意点は同じです。ネブライザーの基礎について理解し、知っておいてもらいたい注意点をまとめていますので、使用の際の参考にして下さい。
1、ネブライザーとは
ネブライザーは薬剤の吸入療法に使われる器具のことです。薬剤が上気道や気管支、肺胞まで到達するには薬剤がμm単位のエアロゾル(気体に浮遊する微粒子)となる必要があります。ネブライザーを使うことで薬剤は1~15μmのエアロゾルとなり、患者の気道に直接到達します。肺から吸収された薬剤は初回通過効果を受けることなく直接全身循環の血中へ移行するため、効果も高く即効性もみられます。薬剤の到達部位はエアロゾルのサイズによって変わります。①上気道(鼻、口腔、咽、咽頭、気管)は5μm以上の粒子②気管支は2~5μmの粒子、③主気管支のさらに奥、細気管支~肺胞へ到達するには0.8~2μmのサイズの粒子であることが必要です。
出典:メディカルイラスト図鑑
2、ネブライザーの種類
ネブライザーの種類により噴霧されるエアロゾルのサイズが違います。ネブライザーの種類は大きく分けると以下の3種類です。
■超音波ネブライザー
超音波振動子の振動を利用して薬を霧状にします。エアロゾル粒子は1~5μmと小さく、肺胞レベルに到達しやすいとされています。
■ジェット式ネブライザー
圧縮した空気(ジェット気流)で薬を霧状にします。
■メッシュ式ネブライザー
振動などによって薬をメッシュの穴から押し出すことで霧状にします
3、ネブライザー使用の目的
超音波ネブライザーは呼吸器疾患の患者に対し、痰などの粘稠度が高く自己排痰できない際の痰除去目的や、手術後の排痰目的で使用されます。ジェット式ネブライザーは喘息などの気管攣縮発作に対処するため、気管支拡張剤を使用するときに多く用いられます。メッシュ式ネブライザーは在宅で使用できるよう、医療者でない人でも取り扱える機器が発売されています。以後の項目では、医療現場で用いられることのある超音波式ネブライザーについてまとめています。
4、ネブライザーで使用される薬剤
超音波ネブライザーでは主に滅菌蒸留水、生理食塩水が主に使用されます。去痰薬などの薬剤も使用することはありますが、エアロゾル化させる際の超音波振動子の振動により薬物の構造が破壊されるという指摘がされています。
滅菌蒸留水
生理食塩水 |
痰の除去、排痰目的に使用します。気管への細菌感染を防ぐため、不純物が混入していない滅菌精製水や生理食塩水を使用します。 | |
去痰薬 |
効果 | 痰を薄めて、粘稠性のないものに改善して排痰、喀出しやすくします。痰を線毛によって輸送されやすい状態に再構成します。 |
作用機序 | 痰の成分である酸性糖タンパクを溶解・低分子化して、気道粘膜溶解作用と呼吸容易作用を示します。また、気管腺の分泌を促進して痰を希釈して去痰作用を出します。線毛運動亢進作用により気道壁を潤滑にして痰の喀出を促します。 | |
注意点 | 薬効により気管支分泌物が増加するので、自己排痰できない場合は吸引や体位ドレナージで痰の回収を適宜行い、痰による窒息や誤嚥を防いていく必要があります。 |
以下のβ刺激薬は超音波式ネブライザーでも使用することもありますが、喘息の小発作時にジェットネブライザーで使用することが多い薬剤です。
β刺激薬 |
効果 | 気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患の維持療法に用いられる。発作時は様々な投与方法で発作を止めるために使用されます。 |
作用機序 | 気管支平滑筋拡張、脱顆粒抑制、気管支粘膜線毛運動促進の3つの作用により抗喘息効果を示します。その中でも主な作用は気管支平滑筋拡張作用です。 | |
副作用
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以下に副作用をあげていますがこれに加えて、β刺激薬の場合はα、βどの受容体に作用するかで各器官に出現する副作用症状が違います。
① 循環器症状:高血圧、頻脈、動機、心悸亢進 ② 神経症状:振戦、不眠、不安 ③ 代謝症状:高血糖、低カリウム血症、高カリウム血症 ④ 消化器症状:胃部不快感、便秘 |
5、ネブライザーの使い方と注意点
使用時の注意点としては2点あります。
■感染予防のためネブライザーは使いまわしをせず、清潔な状態で1人につき1台使用すること。
■肺胞レベルまで到達したエアロゾル粒子により、肺胞でのガス交換が障害されて呼吸苦が生じることがあるため、ネブライザー使用中は患者の呼吸状態の観察を注意深く行うこと。
使用方法 | 看護計画・ケアポイント |
①必要物品を準備する
超音波ネブライザー、手袋、滅菌蒸留水、ネブライザー用マウスピース(もしくはマスク)、吸気ホース。
②ネブライザー本体に物品をセットします。薬 液カップとカップスタンドを外して、作用槽に滅菌蒸留水をいれます。
③薬液カップ、カップスタンドを取り付け、作 用槽フタをしっかり取り付けます。(固定方法はメーカー機種によります)吸気ホースをとりつけます。
④吸入に使用する薬剤を準備します。
⑤ネブライザーの薬液カップに薬剤を注入しま す。(作用槽の補液孔から注入します。)
⑥ベッドサイドにネブライザー、必要物品を持 っていき、患者が吸入しやすいようベッド回りのセッティングを行います。
⑦噴霧量、風量を設定して、タイマーをセットします。
⑧吸気ホースにマウスピースをセットします。
⑨本体の電源をONにし、霧化して薬液が噴霧されているのを確認します。
⑩患者にマウスピースをくわえてもらいます。
⑪吸入終了後、ネブライザーを片付けます。
⑫使用した部品は、機器のマニュアルと病院の業務手順にしたがい、洗浄・消毒・滅菌を行います。 |
①物品は前回使用後、洗浄・消毒・乾燥を終え
た清潔なものかを確認してから設置しましょう。 ※吸気ホースやマウスピースはディスポーザブルタイプのものを使用する病院もあります。
②水の量は、メーカーにより違います。作用槽 の中に水位を示すラインがあったり、作用槽内のフロートが浮くまで入れるといった手順になっています。
③吸気ホースを通って薬剤が患者に吸入される ため、物品のセット時や持ち運び時に吸気ホースが不潔にならないよう注意が必要です。
④指示された薬剤名、投与方法、用法、用量、患 者名の確認をします。
⑥効果的に吸入を行うために、上半身を挙上して深呼吸をしやすい体位になってもらいます。イスに座ってもらうか、ベッドを40°~60°挙上してファーラー位になってもらいましょう。自己で姿勢保持が難しい患者はクッションなどを使用してポジショニングを行います。
⑦噴霧量が多いと咳き込んだり、呼吸苦が出ることがあるので調整が必要です。
⑩薬剤を吸入してもらうため、マウスピースは軽くくわえて深呼吸をするように吸い込んでもらいます。口から薬剤を吸って、鼻からゆっくり息を吐きだしてもらうように指導します。 吸入時、咳嗽があり痰が出そうであれば、その都度排痰してもらいましょう。 霧化した薬液が口にたまるようなら、飲み込まず口から出してもらいます。
⑪吸入が終了後は、聴診を行い、呼吸状態や痰の観察をして吸入前後での患者の状態変化のアセスメントをして下さい。
⑫1日数回使用する場合は、24時間毎に機器毎に交換することが望ましいとされています。 |
まとめ
ネブライザーは慣れれば準備・操作が難しくない医療機器です。ですが、呼吸器官に薬剤や水分が直接吸入されるため安易に取り扱えば、感染リスクや薬剤の副作用を引き起こしてしまう危険があります。ここでまとめた内容をもとに、安全・確実に患者がネブライザーを使用できるよう、ぜひ援助の参考にして下さい。