腹膜透析とは、自分自身の腹膜を利用した透析方法で、血液透析に比べて日常生活の制限が少ないことが特徴です。
腹膜透析は、自己管理できるかがとても重要なポイントになりますので、看護師は退院後にもきちんと腹膜透析を患者自身で行えるように援助していく必要があります。
腹膜透析の基礎知識や合併症、看護目標、看護計画のポイントをまとめました。今後、腹膜透析の患者の看護をする時の参考にしてください。
1、腹膜透析とは
腹膜透析とは、自分自身の腹膜を透析の装置として利用する透析の方法です。腹膜は、胃や腸を覆っている薄い膜のことです。腹膜には毛細血管が張り巡らされています。
出典:腹膜透析 東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター 腎臓内科
糖など浸透圧物質を多く含んだ透析液を腹膜内に溜めておくと、腹膜の毛細血管から水分や老廃物、尿毒素、電解質が腹膜を通って透析液に移動しますので、血液透析を行ったのと同じような効果を得ることができるのです。
腹膜透析にはCAPD(持続携帯式腹膜透析)とAPD(自動腹膜透析)の2種類があります。CAPDは朝、昼、夕、寝る前の4回程度、透析液のバッグの交換が必要で、バッグの交換には1回30分程度かかります。
APDは寝ている間に機械が自動的に透析をしてくれるもので、日中はバッグ交換を行わなくても良いというメリットがあります。
血液透析ではなく、腹膜透析を選択するメリットは次のようなものがあります。
・在宅での透析が可能
・医療職者ではなく患者本人や家族で行える
・毎日緩やかに透析をすることで体への負担が少ない
・血液透析と比べて食事制限が比較的緩やか
・外来通院は月に1~2回でOK
・バッグ交換は職場や学校でも可能なので、生活スタイルに合わせた治療ができる
・旅行に行くことも可能
・貧血が改善しやすい
・腎臓の機能を長く残せる
腹膜透析にはこれらのメリットがありますが、腹膜透析は腹腔内にカテーテルを入れ込む手術を行わなければならないこと、腹膜透析は5~7年程度しか行えず、その後は血液透析や腎移植などの次の治療を行わなければいけないことなどがデメリットとして挙げられます。
2、腹膜透析の合併症
腹膜透析では腹膜炎、カテーテル出口部感染・皮下トンネル感染、非嚢性腹膜硬化症(EPS)の3つがあります。
■腹膜炎
腹膜透析では腹腔内にカテーテルを入れていますので、腹膜に感染が起こりやすいため注意が必要です。腹膜炎が起こる原因には次のようなものがあります。
・透析バッグ交換時の不潔操作
・カテーテルの出口部からの感染
・カテーテルの破損や接続部の緩み
・腸内感染からの腹膜炎
腹膜炎が起こると、バッグ交換時の排液が濁り、発熱や腹痛、悪心、嘔吐、下痢、便秘などの症状が現れます。
腹膜炎が進行すると全身に感染が広がり、敗血症ショックを起こすリスクがありますし、たとえ腹膜炎が治癒したとしても、炎症が起こったことで腹膜がダメージを受けて、腹膜の機能が低下したり、腹膜透析を実施できる期間が短くなってしまうこともあります。
■カテーテル出口部感染・皮下トンネル感染
腹膜透析を行うために、カテーテルを埋め込んでいますが、カテーテルの管理がきちんとできていないと、カテーテルの出口や皮下トンネル部に感染が起こります。
出典:腎不全 | 病気について | 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス
感染の初期はカテーテルの出口部に疼痛や発赤、腫脹、びらんなどの症状が現れ、放っておくと皮下トンネルにまで感染が広がり、炎症を起こします。この状態を放っておくと、さらに感染が進み、腹膜炎を起こす原因にもなります。
カテーテルの出口部の感染は、出口部の汚染やテープ・消毒液のかぶれ、切り傷やかき傷が原因になります。
■非嚢性腹膜硬化症(EPS)
非嚢性腹膜硬化症は、腹膜全体が厚く硬くなってしまう合併症で、長期間腹膜透析を続けたこと、重篤な腹膜炎の発症、生体適合性が悪い透析液の使用など腹膜に負担をかけ続けたことで、腹膜が劣化して起こります。
非嚢性腹膜硬化症が起こると、イレウスが起こり、さらに腸が癒着して腸閉塞が起こることがあります。
3、腹膜透析の看護問題
腹膜透析の看護問題は、主に「腹膜透析を導入することへの不安」と「腹膜炎などの感染症を起こす可能性がある」、「腹膜透析を正しく行うことができない」の3つがあります。
■腹膜透析を導入することへの不安
腹膜透析は血液透析に比べて日常生活の制限はありません。それでもCAPDは1日4回程度の腹膜透析を行う必要があり、会社や学校でもバッグの交換を行わなくてはいけません。
さらに腹膜透析は、カテーテルがお腹から出ている状態になりますので、ボディイメージも変容します。
そのため、腹膜透析を導入すること対して、不安を抱いている患者が多いのです。
■腹膜炎などの感染症を起こす可能性がある
先ほども説明しましたが、腹膜透析はカテーテル出口部感染・皮下トンネル感染のリスクが常にありますし、それを放っておくことで、腹膜炎を起こすことがあります。腹膜炎を起こすと、腹膜の機能が低下したり、非嚢性腹膜硬化症を発症することもあります。
特に、腹膜透析は医療職者ではなく患者やその家族が行いますので、感染するリスクがさらに高くなります。
そのため、看護師は看護問題として感染リスクが高いことを挙げ、適切な看護計画を立案する必要があるのです。
■腹膜透析を正しく行うことができない
腹膜透析の手技は難しいものではありません。正しく理解し、腹膜透析の必要性を理解していれば、腹膜透析を正しく行うことができます。
ただ、仕事が忙しい、面倒臭いなどの理由で、決められた回数を行えないことがあります。また、腹膜透析は血液透析に比べると、食事制限は厳しくないですが、それを誤解して食事制限をしなくて良いと誤解する人もいるのです。
腹膜透析を正しく行えなければ、腎不全はどんどん悪化して、血液透析を導入しなければいけないので、看護師は看護計画を立てて援助しなければいけないのです。
4、腹膜透析の看護計画
腹膜透析の患者の看護計画を先ほど挙げた看護問題に沿って立案していきましょう。
■腹膜透析を導入することへの不安に対する看護計画
看護目標 | 腹膜透析の必要性を理解し、受け入れることができる |
観察項目(OP) | ・患者の職業、学歴、家族、経済状況
・性格 ・疾患に対する知識 ・腹膜透析に対する知識 ・腹膜透析導入への不安の訴え内容 ・既往歴、病歴、検査データ |
ケア項目(TP) | ・不安の訴えを傾聴する
・社会資源(身体障害者手帳、障害年金、介護保険制度等)を紹介する |
教育項目(EP) | ・透析の必要性を説明する
・患者の生活状況に合わせて、日常生活を送るポイントを説明する ・実際に腹膜透析を受けてる人と話す機会を作る ・家族と一緒に説明を受けてもらい、家族の協力を得る ・腹膜透析を受けることで、日常生活内でできることとできないことを明確にする ・個々の理解度に合わせて、何度も納得いくまで説明を行う |
患者によっては自分からは不安を訴えないことがありますので、看護師は患者の訴えだけに注目するのではなく、表情などを観察したり、家族から話を聞いて、患者の腹膜透析導入への不安を具体的に把握する必要があります。
■腹膜炎などの感染症を起こす可能性に対する看護計画
看護目標 | 腹膜炎を起こさない |
観察項目(OP) | ・バイタルサイン
・血液データ ・腹膜透析の実施状況(清潔操作ができているか) ・家族の協力の有無 ・患者の理解力 ・カテーテル出口の皮膚の状態 |
ケア項目(TP) | ・不安の傾聴 |
教育項目(EP) | ・腹膜透析の原理や特徴を説明する
・腹膜炎を発症することでのリスクを説明する ・バッグ交換時の必要物品や手技、清潔操作の徹底を指導する ・カテーテルケア(消毒)を指導する ・カテーテルの固定法を指導し、引っ張ったり曲げたりしないように説明する ・皮膚に優しく痒みやかぶれが起こらないテープや消毒薬を使う ・カテーテル出口部に赤みが痛みが出たら、すぐに病院を受診するように説明する ・カテーテル出口部にひっかき傷などを作らないように説明する |
感染を起こさないためには、患者自身の清潔操作の徹底と、感染リスクの理解が必要になります。看護師は、入院中の清潔操作の状況を観察して、家族の協力を得ながら、清潔操作を徹底させるようにしなければいけません。
■腹膜透析を正しく行うことができないに対する看護計画
看護目標 | 腹膜透析を適切に実施することができる |
観察項目(OP) | ・バイタルサイン
・血液データ ・患者の年齢・職業 ・腹膜透析の実施状況(清潔操作ができているか) ・家族の協力の有無 ・患者の理解力 ・退院後の職場や学校の環境 ・自己管理能力 |
ケア項目(TP) | ・不安の傾聴
・社会資源の紹介 |
教育項目(EP) | ・腹膜透析の必要性を説明する
・毎日体重や血圧を測定する ・除水量を記録する ・患者に食事制限の必要性や食事制限のポイントを説明する ・家族に食事制限について理解を得て、協力を要請する ・栄養指導を受けてもらう ・職場環境によっては、職務内容の調整や異動などが必要であることを説明する |
まとめ
腹膜透析の基礎知識や腹膜透析などの合併症、看護問題、看護計画をまとめました。腹膜透析は血液透析に比べて、日常生活の制限が少なく、患者の生活スタイルに合わせながらの治療が可能な透析方法です。
ただ、患者の理解や治療への意欲、家族の協力が必要不可欠な治療法になりますので、看護師は患者の観察をしながら、退院後に適切な腹膜透析を続けられるように援助していきましょう。