看護師として病棟で働いている、エンゼルケアをすることがありますが、人生の最期を迎えた人へケアをするのは、とても責任重大なことですし、その患者にしてあげられる最後のケアになります。
エンゼルケアの基礎知識や目的、必要物品、方法・手順、注意点をまとめました。もう一度、エンゼルケアを見直してみましょう。
1、エンゼルケア(死後処置)とは
エンゼルケア(死後処置)とは、患者の死後にその人らしい容貌や装いにして、人生の最期にふさわしい外見に整えるケアのことを言います。エンゼルケアのことをエンゼルメイクと呼ぶこともあります。
患者は長い闘病の末に亡くなることも多く、生前とは外見が異なるケースも少なくありません。また、着衣が汚れていたり、点滴や気管挿管などたくさんの挿入物が入っていることもあります。
看護師はエンゼルケアをして、生前のその人らしい容姿に整えることで、人間としての尊厳を守ることができるのです。
2、エンゼルケアの目的
エンゼルケアの目的は、患者の尊厳を守る、家族の心のケア、感染予防の3つがあります。
■患者の尊厳を守る
先ほども説明しましたが、闘病の末に病院で亡くなる患者には、点滴やドレーンなどが挿入されています。長い間入浴できなかったなどの事情で、身体や着衣が汚れていることもあります。
人生最期にそのような姿で旅立たなくてはいけないのは、人間としての尊厳を守ることができません。人生の最期をその人らしくいられるように、看護師はエンゼルケアをするのです。
■家族の心のケア
闘病生活が長い人は頬がこけていたり、黄疸が出ているなど、入院前とは違う容貌になっています。そのような姿のを見るのは、家族にとってはとても辛いことであり、家族にとっての患者の最後の姿の思い出が、入院前とはかけ離れた外見だった場合、死をなかなか受け入れることができません。
そのため、看護師はエンゼルケアによって、その人らしい外見に整えることで、家族の心のケアをすることができるのです。
また、家族と一緒に清拭をする、着替えをするなどエンゼルケアを家族と一緒にすることで、家族が「最後に自分たちでケアをしてあげられた」と患者の死を受け入れるきっかけとなり、グリーフケアにもつながるのです。
■感染予防
入院していた患者は鼻腔や口腔、挿入物が入っていた部位などからの体液や血液が漏出して、家族や葬儀業者に付着し、感染させる可能性があります。
看護師はスタンダードプリコーションに基づいて、感染を防ぐためにエンゼルケアをしなければいけません。
3、エンゼルケアの看護
看護師がエンゼルケアをする時には、家族を待たせることなく、素早く行う必要がありますので、エンゼルケアの必要物品と方法・手順を確認しておきましょう。
病院によって、エンゼルケアの必要物品や手順は異なると思いますが、ここでは標準的なエンゼルケアの看護を説明していきます。
3-1、必要物品
エンゼルケアの必要物品は以下のようなものになります。
目的 | 必要物品 |
感染防御 | ・ディスポーサブル手袋、プラスチックエプロン、マスク |
創傷処置 | ・青梅綿、脱脂綿、ドレッシング材、ガーゼ、テープ、防水シート、割り箸、絆創膏 |
整容 | ・浴衣、シーツ、カミソリ、メイクセット、T字帯、ヘアブラシ、タオル、お湯、消毒液 |
家族によっては、浴衣ではなく、生前に患者が好んで着ていたもの、仕事の制服などを着せることを希望しますので、希望があれば可能な限り希望に応じるようにしてください。
3-2、エンゼルケアの方法・手順
エンゼルケアの方法や手順を確認しておきましょう。
①死亡確認後、家族との時間を作る
医師によって死亡確認が行われたら、すぐにエンゼルケアを始めるわけではありません。家族と患者だけで過ごすお別れの時間を作ります。
この時に人工呼吸器など外れる医療機器は外し、点滴の滴下は止めましょう。また、お別れの時間は10~15分を目安にして、退室時は「15分くらいしたら、また参ります。ナースステーションにおりますので、何かありましたら声をかけてください。」と一言添えておきましょう。
この間に、看護師はエンゼルケアのための必要物品やエンゼルケアを行うための個室を用意しておきます。
②挿入物の抜去
お別れの時間の後は、家族にいったん退室してもらって、エンゼルケアを始めます。まずは、挿入物を抜去しましょう。
点滴を抜去した後は、ガーゼ等でしっかり圧迫固定をしましょう。必要であれば、ドレッシング材を貼付します。褥創などの創傷がある場合は、新しいドレッシング材に交換しておきましょう。
また、胸腔ドレーンや気管切開のカニューレは、医師に抜去してもらい、挿入部はナートしてもらってください。
③排泄物の処理
腹部を圧迫して、尿や便を出します。胃の内容物がある場合には、側臥位にして、胃を圧迫し、内容物を吐かせましょう。口腔内や鼻腔内を吸引しておいてください。
④口腔ケア
口腔は臭気が出やすく、死後硬直前になると開口しやすいので、早めに口腔ケアを行いましょう。歯ブラシやガーゼ、スポンジ等を使って、手早く口腔ケアを行います。義歯がある人は、口腔ケアの後にきちんと装着させてください。
⑤全身清拭・陰部洗浄
全身清拭と陰部洗浄を行います。この時に肛門や鼻腔に脱脂綿(青梅綿)を詰めることもありますが、最近はあまり綿を詰めないようにしている病院が増えています。
これは、綿を詰めるよりも冷却したほうが排泄物や体液の漏出に効果があること、綿を詰めても栓の代わりにはならないことが分かったからです。
鼻出血が止まらないなどの場合は、綿を詰めることもありますが、家族に一言添えておくと良いでしょう。
病院によっては体液漏出防止用のゼリーを用いているところもありますので、必要に応じて使用するようにして下さい。
⑥着替え
病院で用意した浴衣、または家族が用意した服に着替えさせます。日本の文化では遺体の浴衣は左前に着せますので、注意しましょう。左前とは、着ている人(ご遺体)の左手が懐にすんなり入る形です。
また、エンゼルケアでの帯は縦結びにするのが一般的です。
⑦整容
髪型を整え、メイクを行います。男性はひげを剃るようにしましょう。また、メイクの前に乳液等でしっかり保湿をしておくと、顔色が良く見えます。
メイクはどのように行うか、家族に一言相談すると良いと思います。男性でも顔色が悪い時には、薄くファンデーションを塗りますが、男性にメイクをすることに抵抗を感じる家族もいます。
また、女性の場合は、生前に好みのメイクがあるなど、こだわりを持っていることがありますので、家族に相談すると、トラブルなく家族の心のケアにもつながります。
⑧合掌
胸の上で手を組ませ、左の親指が体につくようにして合掌させます。この時、紐や合掌バンドなどを使って固定させるのが一般的ですが、近年はより自然な形でお見送りをするために固定はしないところも増えています。
⑨シーツをかける
最後に、顔に白布をかけ、体をシーツで覆います。
4、エンゼルケアの注意点
■家族の希望を最優先に
エンゼルケアは家族の希望を最優先にして、行いましょう。着せるものやメイクなどは、家族の要望にできるだけ応えるようにしましょう。
また、エンゼルケアへの参加を希望される場合は、挿入物の抜去や創傷の処置をした後に、清拭から参加してもらうようにしてください。整容からの参加でも良いと思います。
特定の宗教がある場合は、宗教の決まりごとに配慮したエンゼルケアを行う必要がありますので、事前に家族と打ち合わせをしておくようにしてください。
■黄疸が強い場合にはひと声かける
黄疸が強く出ている場合には、家族に一声かけましょう。黄疸は死後24~36時間程度で濁黄色から濁った青~緑の色に変わってきますので、死亡直後と翌日以降では大きく印象が変わります。
家族がビックリしないように、そのように皮膚の色が変わること、エンゼルケアでは厚めにカバーすることを伝えておくと良いでしょう。
黄疸は普通のファンデーションではカバーしにくいのですが、イエロー系の下地をつけてから、ファンデーションを塗ると、自然にカバーすることができます。
■瞼が開いたままの場合は、アイプチの化粧品で
瞼が開いたままで、なかなか閉じない場合には、ティッシュを瞼に挟んで閉じるなどの方法がありますが、異物を遺体に挟むのはあまり良いことではありませんし、家族が抵抗を感じることもあります。
そのため、瞼を閉じる時には、アイプチをする時の化粧品の糊を使うと、自然に瞼を閉じることができます。病棟に1つ置いておくように、師長に相談すると良いでしょう。
まとめ
エンゼルケアの看護の基礎知識や目的、必要物品や方法・手順、注意点をまとめました。エンゼルケアは、看護師が患者に最後にしてあげられるケアになりますので、丁寧に心を込めて行いましょう。