掻痒感は苦痛を感じますし、なかなか眠れないなどQOLを大きく低下させるものです。でも、掻痒感はポイントを押さえた看護ケアをすることで、薬剤を用いなくても軽減させることができます。
掻痒感の原因や看護計画、看護ケアのポイントをまとめましたので、これから掻痒感のある患者の受け持ちをする時の看護に活かしてください。
1、掻痒感(そうようかん)とは
掻痒感(そうようかん)とは、かゆみのことです。皮膚をこすりたくなる、掻きたくなるような不快な感覚のことですね。
掻痒感を感じると、その掻痒感をなんとかしたくて、皮膚を掻いてしまいます。そうすると、皮膚を傷つけてしまって、さらに掻痒感が強くなるという悪循環に陥ることもありますし、皮膚を傷つけてしまうことで痛みが出たり、炎症が悪化することもあります。
掻痒感はQOLを大きく低下させるものですから、看護介入をすることで、掻痒感を軽減させる必要があります。
2、掻痒感の原因
掻痒感の原因は、末梢性掻痒と中枢性掻痒、神経障害性掻痒、心因性掻痒の4つに大別できます。
■末梢性掻痒
出典:皮脂欠乏性湿疹 (ひしけつぼうせいしっしん) 病名から探す| 社会福祉法人 恩賜財団 済生会
末梢性掻痒は皮膚に限局して現れるかゆみのことで、皮膚にある肥満細胞からヒスタミンが分泌されることで起こります。
アトピー性皮膚炎や蕁麻疹、接触性皮膚炎などが末梢性掻痒の代表的な疾患です。
また、疾患以外でも皮膚が乾燥したり、オムツで皮膚が湿潤することでも、掻痒感が起こります。加齢などが原因で、皮膚表面にある皮脂膜や角質層のうるおい成分である細胞間脂質や天然保湿因子などが減少すると、皮膚が乾燥します。
皮膚が乾燥すると、皮膚表面のバリア機能が低下しますので、ホコリやアレルゲンなどですぐに掻痒感が出てしまうのです。また、ルートを固定するテープや衣類の擦れなどでも掻痒感が出ます。
オムツをしている患者は皮膚が蒸れて浸軟することで、皮膚のバリア機能が低下しますので、オムツの擦れや排せつ物の刺激で掻痒感が出ることもあるのです。
■中枢性掻痒
中枢性掻痒は、肝臓での解毒機能の低下や腎臓での排泄障害が原因となり、内因性オピオイドがメディエータとなって、皮膚の真皮深層にある知覚神経を刺激して掻痒感が出てくるものです。
中枢性掻痒を引き起こす原因には、慢性腎障害や肝硬変、硬膜外腔・くも膜下腔オピオイド投与などがあります。
■神経障害掻痒
疾患によって神経障害が起こり、掻痒感が生じることもあります。神経障害掻痒は帯状疱疹、多発性硬化症、脳血管障害などが原因で起こります。
■心因性掻痒
精神的な問題が原因で、掻痒感が現れることもあります。この心因性掻痒を引き起こす疾患は、寄生虫症妄想や嗜好的掻破行動、うつ病、ストレスなどがあります。
寄生虫症妄想とは、寄生虫に感染している、昆虫やダニ、シラミが皮膚についていると思い込んでしまう病気のことです。寄生虫が皮膚についていると思い込むことで、寄生虫がついていて皮膚がかゆいと脳が勘違いしてしまうのです。
3、掻痒感の看護計画
掻痒感があると、皮膚の損傷リスクがあるだけでなく、QOLを大幅低下させるものですので、積極的に看護介入をして、掻痒感の軽減に努めなければいけません。
■看護問題
#1掻痒感による苦痛
#2皮膚の損傷による二次感染を起こす可能性
■#1掻痒感による苦痛
観察項目
OP |
・バイタルサイン
・掻痒感の有無、程度 ・痒みの部位 ・発疹の有無、大きさ、形、色 ・睡眠や日常生活のへの影響 |
ケア項目
TP |
・皮膚の保清
・皮膚の保護 ・皮膚の保湿 ・リネン類や衣服を清潔に保つ ・環境の調整 ・気分転換を図る ・冷罨法 |
教育項目
EP |
・できるだけ掻かないように説明する
・手指を清潔に保つように指導する ・皮膚の保清・保湿方法を指導する |
■#2皮膚の損傷による二次感染を起こす可能性
観察項目
OP |
・バイタルサイン
・皮膚の感染兆候の有無 ・血液データ(炎症所見) ・皮膚損傷の有無 ・掻痒感の有無、程度 ・掻痒感のある部位 ・全身の皮膚の状態 |
ケア項目
TP |
・皮膚の保清
・皮膚の保護 ・皮膚の保湿 ・リネン類や衣服を清潔に保つ ・環境の調整 ・感染源からの隔離 |
教育項目
EP |
・できるだけ掻かないように説明する
・手指を清潔に保つように指導する ・皮膚の保清・保湿方法を指導する ・皮膚の異常が見られたら、すぐに知らせるように説明する |
3-1、掻痒感の看護ケアのポイント
掻痒感がある患者への看護ケアは、皮膚の保清と保護、保湿の3つが基本です。そして、この3つに加えて、患者への指導も大切になります。
①皮膚の保清
皮膚を清潔に保つことで、掻痒感を軽減させることができます。皮膚の保清をして、皮膚の表面からホコリやアレルゲン、化学物質など掻痒感の原因となるものを除去するのです。
皮膚の保清は入浴が基本です。入浴時は低刺激性の石鹸を使うようにしましょう。一般的な石鹸はアルカリ性ですが、アルカリ性の石鹸は洗浄力が強いので、皮膚表面の不要物を取り除くことができるのですが、皮脂膜まで洗い流してしまいます。
皮脂膜は皮膚の潤いを守るものですので、その皮脂膜を洗い流してしまうと、皮膚が乾燥し、さらに掻痒感が強くなることがあります。そのため、掻痒感がある時は低刺激性の石鹸を使うようにしましょう。
また、石鹸はしっかり泡立てて洗うようにして、お湯の温度はややぬるめの38~40℃にすると、皮膚に負担をかけることなく、清潔を保つことができます。
②皮膚の保護
掻痒感がある時は、皮膚を外部の刺激から保護するようにしましょう。皮膚を傷つけないように、爪は短く切っておくこと、ルート固定のテープは皮膚に刺激が少ないものを使うこと、テープをはがす時は専用のリムーバーを使うことなどを心がけてください。
また、リネン類や病衣は清潔を保つようにしてください。また、化学繊維の下着は、皮膚への刺激になることがありますので、木綿やガーゼなどの素材を選ぶと良いでしょう。
③皮膚の保湿
掻痒感は皮膚が乾燥することで、悪化しますので、皮膚の保湿はしっかりと行いましょう。保湿剤にはワセリンやヘパリン類似物質、オリーブオイル、尿素軟膏など様々なタイプがありますが、医師が処方したもの、または皮膚への刺激が少ないワセリンなどを用いて、皮膚にまんべんなく、愛護的に塗布するようにしてください。
特に、入浴後は皮膚が乾燥しやすいので、必ず保湿剤を塗布しましょう。そうすることで、掻痒感を軽減・予防することができます。
④掻かないように指導する
掻痒感のある患者は、どうしても掻きむしってしまうことがあるので、掻いてしまった時のリスクなどを説明して、掻かないように指導しましょう。
小児は指導しても掻いてしまうことが多いですが、大人であれば、きちんと説明することで、ある程度掻くことを予防できます。
痒みが強くてストレスになる時は、冷罨法が効果的です。掻痒感がある部位を冷やすことで、その部位の血流を減らして、痒みを一時的に緩和することができます。
ただ、冷やしすぎると低体温になってしまったり、血流障害が起こったり、冷罨法を中止した後に一気に血流が増えて、かゆみが増悪したように感じられることがありますので、冷罨法をする時も、きちんと患者に説明してから行うようにしましょう。
まとめ
掻痒感があると、患者が苦痛に感じて睡眠の質が低下するなどQOLに大きな影響がありますし、掻き壊してしまうことで皮膚が損傷し、感染リスクが上がりますので、看護計画を立てて、掻痒感を軽減できるようなケアを行いましょう。
掻痒感は看護ケアのポイントを押さえて、丁寧にケアをすれば、薬剤を用いなくても軽減することが可能ですので、掻痒感の原因をしっかりアセスメントして、看護ケアを行いましょう。