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骨粗鬆症の看護|治療における各種療法と骨折予防のための指導

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骨粗鬆症

骨粗鬆症の多くは生活習慣が関与しているため、その場で治療が終わればそれで終わりというわけにはいきません。看護しているうちから食事内容や適切な運動について正しい知識と実践方法を伝え、患者に治療終了後も骨粗鬆症にならない生活を継続してもらえるように指導することが重要です。

本記事では、骨粗鬆症の基本的な知識や、治療法・治療薬、看護目標、生活指導、看護研究についてまとめました。骨粗鬆症を繰り返させないように、患者への適切な指導を行いましょう。

 

1、骨粗鬆症とは

骨粗鬆症は骨の中の隙間が多くなって骨が脆くなる症状で、多くは加齢に伴い発症します。骨粗鬆症になると骨折をしやすくなり、また運動機能低下に繋がり、日常生活を困難にします。国内での罹患者は1,300万人近くにのぼります。

 

1-1、骨粗鬆症の骨について

骨は、外側を構成する硬くて緻密な「皮質骨」と、内側を構成する網目状でスポンジのように見える「海綿骨」から成り立っています。骨粗鬆症の骨は、この海綿骨の網目の隙間が多くなる病気で、骨の強度が低下し、骨折しやすくなります。

海綿骨と皮質骨健常骨と骨粗鬆症の椎骨

出典:女性の病気特集 骨粗鬆症 意気健康(学校法人日本医科大学)

 

2、骨粗鬆症の原因

骨粗鬆症は、骨を作る働き(骨形成)と骨を壊す働き(骨吸収)のバランスが崩れることが原因です。

骨は日々「骨芽細胞」によって作られ、「破骨細胞」によって壊されることを繰り返し、新陳代謝を行っています。これを「骨のリモデリング」と呼び、一般には1年間に20~30%の骨が新陳代謝により入れ替わります。

骨の量は成長期とともに増加し、18歳でピークを迎えたあと、40歳を過ぎた頃から減少が始まり、高齢になるほど減少していくことが分かっています。

骨粗鬆症では何らかの原因で骨が作られる量よりも骨が壊される量の方が多くなってしまい、骨量が普通以上に減少してしまう状態にあります。

 

3、骨粗鬆症の治療

骨粗鬆症の治療は、骨密度を維持するための食事療法、骨に刺激を与えるための運動療法、そして薬物療法にて行います。

 

■食事療法

食事療法は基本的には十分なビタミンD及びカルシウムの摂取です。看護する時は患者の食事内容、食事摂取量、身長・体重・BMIによる栄養状態の確認などを行います。

 

■運動療法

運動療法においては無理のない範囲で軽い運動を行います。骨粗鬆症患者は骨が弱くなっているので、骨に過度の負荷をかけるとそれが原因で骨折してしまいます。あくまで骨に刺激を与えることを目的に、患者の体格や骨密度を確認しながら適切な運動を実施してもらいます。

 

■薬物療法

薬物療法で用いる薬物は副作用が強いものが多いので、看護時に注意深く観察する必要があります。骨粗鬆症治療薬として治療効果の高いビスホスホネート系製剤は、継続して服用した患者が歯科の外科的処置を行うと顎の骨が壊死することが知られ、また消化器系に障害が発症する場合があります。

注射剤のテリパラチドは血中尿酸値上昇、頭痛、悪心、食欲不振などの副作用があります。あまりに副作用が強いようであれば、使用する薬物の見直しが必要になりますので、看護の際には患者の様子を注意深く観察することが重要です。疼痛がある場合は疼痛を和らげる指導、治療も行います。

 

4、骨粗鬆症の内服薬と注射剤

骨粗鬆症の薬物療法には、骨を作る骨芽細胞に働きかけて骨の形成を促進するタイプの薬と、骨を壊す破骨細胞に働きかけて骨の破壊を抑制するタイプの薬の2種類が使用されます。主に内服薬が使用されますが、寝たきりなどで内服が困難な患者には注射剤を使用します。

 

4-1、骨粗鬆症の内服薬

骨粗鬆症の内服薬としては、ビスホスホネート、ラロキシフェン、ビタミンD3製剤が用いられます。

 

■ビスホスホネート

ビスホスホネートは破骨細胞の活動を阻害する強力な骨吸収抑制剤であり、大腿骨頸部骨折の抑制や既存骨折のある骨粗鬆症に有効です。

 

■ラロキシフェン

ラロキシフェンは選択的エストロゲン受容体調節薬であり、閉経後の骨粗鬆症治療薬として第一選択に挙がる骨吸収阻害剤です。ラロキシフェンは大腿骨頸部骨折に対する抑制作用は弱いものの、脂質代謝改善、乳がん発症抑制、服用時間に制限がない、などビスホスホネートにはない利点があります。

 

■ビタミンD3製剤

ビタミンD3製剤は腸管からのカルシウム吸収を促進させる作用を持ち、カルシウムと天然型ビタミンDとの併用で骨粗鬆症治療に効果を示します。ビタミンDは筋力低下による転倒を防止する効果も報告されており、ビタミンDは筋力向上に働いている可能性が示唆されています1)

 

ビスホスホネートとラロキシフェンの比較≫

  ビスホスホネート ラロキシフェン
長所 ・   大腿骨頸部骨折抑制作用

・   既存骨折のある骨粗鬆症に有効

・   脂質代謝改善作用

・   乳癌発症抑制

・   服用時間に制限無し

短所 ・   消化器系副作用の発症

・   早朝内服

・   大腿骨頸部骨折抑制作用弱い?

・   血栓症、血栓性静脈炎、下肢痙攣のリスク

・   更年期障害(ほてり)の増強?

選択 既存骨折あり

主に骨折予防に期待

既存骨折なし

骨以外の作用にも期待

引用:骨粗鬆症治療薬の選択 日産婦誌58巻9号 2006年

 

4-2、骨粗鬆症の注射剤

骨粗鬆症の注射剤として適応があるデノスマブ、アレンドロン酸ナトリウム水和物、テリパラチドをご紹介します。

 

■デノスマブ

デノスマブは破骨細胞の形成・機能・生存に対して重大な役割を持つタンパク質(RANKリガンド)を標的とするヒト型モノクローナル抗体です。

 

■アレンドロン酸ナトリウム水和物

アレンドロン酸ナトリウム水和物はビスホスホネート製剤に分類される薬剤で、破骨細胞の活動を阻害して骨の吸収を抑制します。

 

■テリパラチド

テリパラチドはヒト副甲状腺ホルモン製剤であり、骨の形成を促進する働きを有しています。

骨粗鬆症に用いられる注射剤

出典:骨粗鬆症に用いられる注射剤について 鹿児島市医報 2013年

 

5、骨粗鬆症の看護目標

骨粗鬆症の看護目標は、骨粗鬆症の合併症である骨折の予防と治療を行い、骨格の健康を維持して日常生活の活動性を維持させることです。骨折してしまった場合は疼痛のケアも必要となります。

骨粗鬆症骨折は変形治癒してしまうと慢性の疼痛を発生させる要因になります。さらに骨折の変形治癒は骨格の障害となり、疼痛とは関係なくQOLを低下させることが明らかになっています2)

 

6、骨折防止のための生活指導

生活習慣病が起因している骨粗鬆症患者に対しては、生活習慣の見直しや注意点について詳細に指導を行います。

まず、毎日の食事で良質のカルシウムを十分量摂取することの重要性やリン、ナトリウム、カフェインなどカルシウムの吸収を阻害する成分の摂取を控えることを指導します。また、運動することで骨が刺激され、カルシウムの骨への吸着が促進されることを納得してもらい、定期的な運動を自律的にしてもらうようにします。

骨粗鬆症患者は骨折しやすいので、日常動作で骨折の危険がある行動は見直してもらいます。骨粗鬆症患者で発生しやすいのは、転んだ拍子にお尻をぶつけて太腿の付け根を骨折する「大腿骨頸部骨折」、転んだ拍子に手を付いて手首を折る「橈骨遠位部骨折」、重いものを持ち上げて腰の骨を折る「椎体骨折」などです。

骨粗鬆症と骨折

出典:骨粗鬆症と骨折 岐阜大学医学部 整形外科

 

転びさえしなれば「大腿骨頸部骨折」や「橈骨遠位部骨折」は滅多に起きないので、転ぶ危険のある雨天時の外出や足元が見えない状態(お盆を持っているなど)での移動などをしないように指導します。

「椎体骨折」を防ぐため、物を持ち上げる時は腰からでは無く膝を落として持ち上げるなどボディ・メカニクスに則した腰骨に負荷の少ない物の持ち方を教えるとともに、重いものは持ち上げないように指導します。

すでに骨折をしてしまった患者に対しては、骨折部位の疼痛を抑えるために疼痛の軽減を助ける寝具の使用や工夫、コルセットの使用などを薦めます。

「大腿骨頸部骨折」や「橈骨遠位部骨折」の患者の場合は痛みから身体の動作が制限され、運動不足になって便秘になることがありますので、その場合は便秘を解消・予防するための食品や、痛みの発生させずに可能な運動方法などを指導します。

 

7、骨粗鬆症の看護研究

骨粗鬆症の患者には治療の間、食事・運動・日常生活について医師や看護師などから改善指導が行われます。しかし、実際に日常生活で指導内容が生かされているかどうかは患者の自主性に任せるしかありません。

ここでは、骨粗鬆症患者の指導内容がどの程度日常生活で生かされているのか調査した研究3)をご紹介します。

当研究は骨粗鬆症で外来通院している患者にアンケート調査を行ったもので、骨粗鬆症教室の受講者73名(A群)と実受講者54名(B群)で比較しています。アンケート内容は「食事」「運動」「日常生活」についてで、50代、60代、70代の年代別に分析されています。

その結果、「食事」についてはA群の乳製品・小魚などカルシウムの多い食品を意識的に摂取している人数がB群に比べて有意に多いことが判明しました。「運動」については、B群が「スポーツジムに通う」「リュックサックを背負う」などの項目でA群に比べて人数が有意に多いという結果でした。「日常生活」については、A群が「約束の時間に余裕を持って行く」「道路の端を歩く」などの項目でB群よりも人数が有意に多いという結果でした。

下図は、「食事」「運動」「日常生活」の指導内容を自分の生活に生かしていた人数の割合を年代別に示したグラフです。

骨粗鬆症と骨折

出典:骨租擬症患者における教育後の継続性についての検討 上西祥子 他 1999年

 

調査の結果から、食事は指導が生かされていたものの、運動については指導が生かされていないことが判明しました。一方で、運動については下表のような結果も出ています。

骨租擬症患者における教育後の継続性についての検討

出典:骨租擬症患者における教育後の継続性についての検討 上西祥子 他 1999年

 

表を見ると、運動歴がある人は運動を継続している割合が高いことが分かります。食事のように食べる内容を変更するだけで実践できるものと違い、運動は気力と体力が必要なために実践の敷居が高いことが推測できます。

 

まとめ

骨粗鬆症は特に高齢の女性に発症しやすい病気で、骨折やその後の変形治癒による骨格の歪みなどで運動機能障害や疼痛を発生させ、QOLを低下させるやっかいな病気です。

原因は骨吸収と骨形成のバランスが崩れて骨密度が低下することにありますが、生活習慣病として発症するケースも多く、食生活や運動などを改善しないと予後不良となってしまいます。

治療する時は「食事」「運動」「薬物療法」を併用しますが、看護の時に食事量、適切な運動、薬物による副作用の有無などを細かく指導・観察することが求められます。

 

参考文献

1)Bischoff H, et al. Effects of vitamin D and calcium supplementation on falls : A randomized controlled trial. J Bone Miner Res 2003 ; 18 : 343―351

2)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会, 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版, ライフサイエンス出版, 2011年: p52

3)上西祥子:骨租擬症患者における教育後の継続性についての検討, 大阪市立大学看護短期大学部紀要, 1, P18~23, 1999.


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