疼痛で苦しむ患者の痛みは、看護側からすると程度が分からず、ケアの仕方に困る場合があります。本記事では疼痛について、その発生メカニズム、治療方法、疼痛の看護計画、骨折時の看護、疼痛の評価スケールについて解説します。疼痛の看護にお役立てください。
1、疼痛とは
疼痛とは、読んで字のごとく「ずきずきと疼くような痛み」のことです。風邪をひいて頭が痛い、膝を打って痛い、理由は分からないけど足の神経が痛い、なども全て疼痛に含まれます。
国際疼痛学会によれば
「痛みとは、実際に組織損傷がおこったか、あるいは組織損傷の可能性があるとき、またはこのような損傷を表す言葉によって述べられる不快な感覚・情動体験である」
と定められています。
少し分かりにくいですが、重要なのは痛みが「感覚・情動体験」であり、他人に理解できるものでは無く、「主観的なもの」であるという点です。
2、疼痛の原因と種類
疼痛には大きく分けて、「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「心因性疼痛」の3種類あります。
■侵害受容性疼痛
一つ目は体に備わった感覚器・受容器が刺激されて痛みを感じる「侵害受容性疼痛」です。侵害受容性疼痛は、針で指を刺した時のような機械的刺激、火などによる熱刺激、氷などによる冷刺激、塩酸など薬品による化学的刺激などで起ります。
■神経障害性疼痛
二つ目は、体の感覚器・受容器が受け取った刺激を信号として脳まで伝える神経が途中で損傷していたり、機能異常がある場合に起きる「神経障害性疼痛」です。神経障害性疼痛には、神経が圧迫されて起きる頚椎症性神経根症、坐骨神経痛、水泡・帯状疱疹ウィルスが引き起こす疱疹後神経痛、糖尿病性神経痛などがあります。
神経障害性疼痛は「焼けるような」「ピリッと電気が走るような」といった表現がされる痛み方をします。その特徴として、小さな刺激でも猛烈な痛みを感じる「痛覚過敏」、風に当たっただけで痛みが誘発される「アロディニア」などが見られます。
■心因性疼痛
三つ目は、体の感覚器・受容器への刺激も、神経の異常もない状態で発生する「心因性疼痛」です。心因性疼痛は心理的ストレスや疲れなどが「痛み」という形で現れるものです。もともと侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛がある患者がその痛みによるストレスから心因性疼痛を発症してしまうこともあり、薬物療法と心理療法の併用など多面的なアプローチが求められます。
3、疼痛の治療
疼痛の治療は「薬物療法」「神経ブロック療法」を中心とし、場合によっては低周波電気治療や心理学的療法などを行うこともあります。
■薬物療法
薬物療法では、頭痛・筋肉痛・打撲・けがなどの多くの侵害受容性疼痛に対して非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンを用います。非ステロイド性抗炎症薬が効きにくい癌性疼痛や神経障害性疼痛などには麻薬系鎮痛薬のオピオイドを用います。さらに、それでも鎮痛効果が認められない場合は鎮痛補助薬を用います。
鎮痛補助薬には非ステロイド性抗炎症薬やオピオイドと併用することで鎮痛効果を示す抗うつ薬・抗てんかん薬・ステロイドなどがあります。
■神経ブロック療法
神経ブロック療法は、痛みを伝える神経付近に薬剤を注入し、痛みのシグナルをブロックして痛みを感じさせなくする治療法です。
■その他の治療法
その他の治療法には、筋膜性疼痛に対して有効な低周波電気治療、関節痛・慢性疼痛に対して有効なレーザー・近赤外線照射、関節が硬くなり筋肉が緊張することで悪化する慢性疼痛に対して有効なリハビリテーション、心因性疼痛に対して有効な心理学的療法、癌性疼痛に対して有効な放射線治療法などがあります。
4、疼痛における看護目標
疼痛の治療は、以下の3つの目標を達成し、鎮痛効果を継続して平常な日常生活を送れるようにすることが最終目標です。
第一目標:痛みに妨げられない夜間の睡眠時間が確保できる。
第二目標:日中の安静時に痛みがない状態で過ごせる。
第三目標:体動時の痛みが消失する。
引用:第三章:痛みの治療・ケアの目標を設定 苦痛緩和 日本看護協会
5、疼痛の看護計画
疼痛には前述のように様々な種類があり、種類ごとに適切な看護計画は異なります。しかしながら基本的な部分は同じです。ここでは疼痛看護の基本ともいえる急性疼痛の看護計画をご紹介します。
■急性疼痛の観察項目(O-P)
・ バイタルサイン
・ 疼痛を呈する箇所、程度・持続時間 ・ 創部の発赤、腫脹、熱感の有無と程度。(感染症の可能性) ・ ドレーンの挿入位置、固定方法、流出量。(ドレナージ不良の可能性) ・ 不安有無と程度、睡眠状態。 |
■急性疼痛のケア項目(T-P)
・ 疼痛増悪を防ぐために、早急に対処を行う
・ 安楽な体位の確保・体位変換 ・ マッサージ、温罨法・冷罨法・湿布薬貼付の実施 ・ 精神的安楽への援助(コミュニケーション・気分転換など) |
5-1、疼痛の看護ケア
疼痛の看護ケアで注意すべきは「痛みは本人にしか分からない」という点です。傷があったり本人の訴えがあれば分かりやすいのですが、患者によっては疼痛がある部位が外からは分からず、また訴えがない場合もあります。患者の表情や体の使い方などを観察し、不自然な箇所があれば丁寧に話を聞いて疼痛の状況を把握することに努めます。
疼痛は身体的苦痛ですが、継続すると精神的苦痛となって抑うつや最悪の場合は希死念慮(自殺願望)などに発展する場合もあります。見逃しがないように注意して看護をしましょう。
6、骨折時の疼痛看護
骨折時の疼痛はRICE処置で緩和することができます。RICEとは、Rest(安静)、Ice(冷やす)、Compression(圧迫)、Elevation(拳上)の頭文字を取った言葉です。骨折すると、骨の中を通っていた血管や骨周りのやわらかい組織(筋肉、皮膚、脂肪など)の中を通っている血管が破れて出血し、皮膚の下で血が溜まって腫れた状態となり、疼痛が発生します。RICEを実施すると、痛みや腫れを軽減できます。
出典:RICE(ライス)応急処置について 埼玉県柔道整復師会
■Rest(安静)
骨折したところを動かさないようにします。
■Ice(冷やす)
溶けかかった氷などを使い、患部を両サイドから包むように冷やします。患部の上に乗せて圧迫すると疼痛の原因になるので、横から包むようにします。始めの48時間は出血が止まらない急性期で、その後少しずつ腫れは引いていきます。冷やし過ぎて凍傷にならないように注意します。
■Compression(圧迫)
圧迫といっても無理に患部を押さえつけるわけではありません。患部を動かさないようにするために固定するように圧迫します。ポイントは無理に動かさないことです。締めすぎて血行を阻害し、二次的なけがを負わせないように注意します。
■Elevation(拳上)
患部を心臓より高い位置に保ちます。患部の下に大き目の台を起き、患部を上に乗せるようにします。
7、疼痛の評価スケール
現在のところ疼痛の大きさを客観的かつ的確に評価する方法は確立されていません。しかし、主観的な痛みを線、言葉、数字で表現する評価スケールとしてVAS(Visual Analogue Scale)、NRS(Numerical Rating Scale)、VRS(Verbal Rating Scale)などが用いられています。
■VAS(Visual Analogue Scale)
VASは100mmの直線上に痛みの程度を患者に印をしてもらい、疼痛の程度を数値化する方法です。VASでは30mm以上の痛みを中度の痛みとしています。VASは一人の患者を経時的に観察していくのに適した手法であり、患者間の比較においての信頼度は低いです。
■NRS(Numerical Rating Scale)
NRSは0から10までの11段階の数字を用いて疼痛の程度を数値化する方法です。最大の痛みを10とし、現在の痛みの程度を質問します。0は痛みなし、1~3は軽度の痛み、4~6は中度の痛み、7~10は強い痛みとなります。問題点としては、数字と痛みを関連づけられない小児や意識レベル低下者では評価できないこと、個性や環境に影響されること、数字の好みが反映されてしまうことなどです。
■VRS(Verbal Rating Scale)
VRSは痛みを段階的に表現する言葉を直線状に記載し、患者に選択させる方法です。使われる言葉によって選択肢が固定される点に限界があります。
まとめ
疼痛の看護では患者の「痛み」について「共感した態度」で接することが大切です。疼痛は主観的なものであり、場合によっては身体的に全く問題ない状態でも感じる心因性の疼痛もあります。
また、不安やストレスは疼痛を増悪させる要因なので、患者の話をよく聞き、治療に対する不安を和らげ、疼痛にともなうストレスの解消についても場合によっては指導が必要です。
看護による疼痛ケアに加え、患者自身で疼痛をコントロールできるように患者・家族・関係医療従事者とよく相談し、全周囲的な看護を心がけましょう。