近年、看護や介護のストレスから、患者を見舞う家族が体調を崩してしまうケースが増加傾向です。しかも、その影響から、患者も家族も次第に社会から孤立してしまうという『看護・介護問題』が叫ばれ、改善が求められています。
病気や怪我が原因で、病院に通院もしくは入院する患者をケアするのはもちろん、その家族をケアすることも、現在の医療シーンでは重要な役割であり、その専門家の存在が大きくクローズアップされています。
そこで今回は、プロフェッショナルな立場から、患者、そして家族の方に対して支援やサポートを行う「家族支援専門看護師」の役割と活動、資格取得方法等についてご紹介します。
1、家族支援専門看護師とは
家族支援専門看護師とは、日本看護協会が定める専門看護師制度の中で特定された、家族支援分野の専門知識や技術を持つ看護師のことを指します。
専門看護師と、いわゆる看護師と呼ばれている認定看護師の違いはというと、認定看護師が現場の看護を実施するのに対し専門看護師は看護ケア全体を最適にする役割を担っているという点です。
専門看護師は11個に細分化され、そのうちの一つが今回ご紹介する「家族支援専門看護師」です。家族支援専門看護師は、2008年に認定された最も新しい分野の資格で、患者の回復を促進するために、患者を含む家族のセルフケア機能を高めることが主業務です。家族が主体的に看護支援や問題解決ができるように、身体的、精神的、社会的な支援に努めることが求められます。
■現在11種類とされる専門看護師
① がん看護専門看護師
② 精神看護専門看護師 ③ 地域看護専門看護師 ④ 老人看護専門看護師 ⑤ 小児看護専門看護師 ⑥ 母性看護専門看護師 ⑦ 慢性疾患看護専門看護師 ⑧ 急性期重症患者看護専門看護師 ⑨ 感染症看護専門看護師 ⑩ 家族支援専門看護師 ⑪ 在宅看護専門看護師 |
ちなみに、上記11項目すべてに共通しているのが、実践、相談、調整、倫理調整、教育、研究の6つの役割です。家族支援専門看護師は、この役割に沿いながら、より良い家族看護を可能にする支援や、患者を見舞う方のセルフケア能力を高めるために支援します。
家族のあり方が多様化している現代において、この家族支援専門看護師の役割はとても重要になると言われ、これからの医療に必要不可欠な分野だと考えられています。
2、家族支援専門看護師になるには
家族支援専門看護師を含む11個の専門看護師制度は、日本看護系大学協議会と連携し、運営されています。
日本看護系大学協議会は、教育課程の特定、教育課程の認定・認定更新などを行います。専門看護師制度は、専門看護分野の特定、認定審査・認定更新審査等を行い、専門看護師になるためには、以下の条件(①・②・③)を満たした上で、専門看護師認定審査に合格(④)する必要があります。
① 日本国の看護師免許(看護師・保健師・助産師のいずれか)を有すること
② 看護系大学院修士課程修了者で日本看護系大学協議会が定める専門看護師教育課程基準の所定の単位(総計26単位または38単位)を取得していること ③ 実務研修が通算5年以上あり、うち3年間以上は専門看護分野の実務研修であること ④ 認定審査(書類審査・筆記試験) ⑤ 専門看護師認定証交付・登録 ⑥ 5年ごとに更新 (看護実践の実績、研修実績、研究業績等書類審査) |
2-1、家族支援専門看護師 大学院
家族支援専門看護師を目指す過程には、家族支援分野の設置された大学院での修士課程を修了する必要があります。
具体的には、日本看護系大学協議会が定める専門看護分野の教育基準カリキュラムで決められた時間数、教科目を履修します。家族看護専攻教育課程には、専攻分野共通科目、専攻分野専門科目、実習科目があります。
専攻分野共通科目では、保健医療福祉制度の中での家族看護の役割と位置づけや、家族の健康と生活、家族への看護実践展開、家族看護援助の方法などを学びます。
家族支援看護の教育目標は、患者・家族と看護者の信頼関係の形成や、家族の健康に対するアセスメントや看護過程の展開、医療機関内における家族の代弁者としての役割があります。それに、家族看護の領域で必要となる他職種とのコーディネーションやコンサルテーションを行うことができるなどがあります。各大学院の専門課程では、26単位、あるいは36単位を受講することが必須となっています。
専門看護師の資格を取得するためには、このように大学院での修士課程修了し、実務経験を積んだ上で専門看護師認定審査に合格しなければいけません。
3、家族支援専門看護師の役割
全ての専門看護師に共通する役割は、以下の6つに分かれています。
家族支援専門看護師の役割はこれらの役割に沿いながら、医師や看護者に対し家族の代弁を行い、患者本人とその家族に対するケアを行います。
身体的ケア、精神的ケアなどの家族支援を行うことで、疾病や障害に対して家族で対応できるような意思決定能力やセルフケア能力を高めていくことが、家族支援専門看護師に求められる重要な役割となります。
- 個人、家族及び集団に対して卓越した看護を実践する(実践)
- 看護者を含むケア提供者に対しコンサルテーションを行う(相談)
- 必要なケアが円滑に行われるために、保健医療福祉に携わる人々の間のコーディネーションを行う(調整)
- 個人、家族及び集団の権利を守るために、倫理的な問題や葛藤の解決をはかる(倫理調整)
- 看護者に対しケアを向上させるため教育的役割を果たす(教育)
- 専門知識及び技術の向上並びに開発をはかるために実践の場における研究活動を行う(研究)
参照元:公益社団法人 日本看護協会HP より抜粋
4、家族支援専門看護師の活動
専門知識や技術が求められる家族支援専門看護師は、日本看護学会の定める以下の5つの活動内容を指針とし、看護ケア全体の質を向上させることに努めています。
まず、家族というものを系統的に捉えながら家族の健康のアセスメントを行います。患者とその家族の関係を形作る知識や技術、家族に看護の考え方や方法を教える技術などを駆使して活動支援をしています。
その他にも、患者の症状や治療法などを理解し、医師や看護者に対し、家族の代弁を行いながら家族看護に介入し活動していきます。看護の実践よりも看護ケア全体を把握しながらコーディネーションやコンサルテーションを行い、全体調整の役割や看護研究という立場として、患者と家族への支援を行います。
- 家族看護の対象である家族を系統的に捉え、専門的な知識に基づいて看護活動を展開
- 家族の健康をアセスメントする能力と技術
- 家族-看護者との関係を形成する能力と技術
- 家族に対して看護過程を展開する能力と技術、家族を援助する専門的な技術
- 家族の代弁者としての能力と技術などを修得
- 家族看護の領域に関して研究の企画推進者となる
- 家族看護の領域に関わる他職種とのコーディネーターの役割
- 家族看護の領域でのコンサルテーションを行う
- 新しい援助技術を開発し、変革者となる
参照元:平成24年度版専門看護師教育課程基準専門看護師教育課程審査要項:日本看護系大学協議会より抜粋
まとめ
これまで、看護師の仕事は患者本人の治療を重視して行われる事が一般的でした。しかし、近年では高齢化社会の進行や、在宅医療の需要拡大などもあり、患者だけではなく家族の支援の重要性が見直されています。
家族支援専門看護師は、悩みを抱える家族に対して、”支援やアドバイスを行うプロフェッショナル”という立場で、身体的ケア、精神的ケア、両面からサポートを行っています。
2008年に制定された比較的新しい分野で、資格保持者は全国的に見てもまだ少ない現状ですが、大規模病院を中心に少しずつ医療業界で認知されるようになっています。家族支援について考え直す病院や、家族相談室の設置を検討する病院が年々増加しています。
また、新設を検討している病院が既存スタッフの中から指名して、専門看護師取得を促す事例も増加しており、家族支援専門看護師の重要性は今後さらに認められ、ますます増加の一途をたどると考えられています。